忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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というわけで、いい加減戦争の話を進めます


第85話 遊撃隊隊長①

影との一日を終え、俺は遂に戦地へ駆り出される羽目になった。まぁ、旅人の件とか、稲妻の現状を考えると、遅すぎるくらいだったが。

 

さて、現状、俺は遊撃隊の隊長としての任務を、天領奉行から与えられた。奇しくも、前に西風騎士団とモンドを護るために遊撃小隊の隊長となった時のようだ。あの時はすぐに失踪した、として別の人間に代替わりしたが。失踪した俺…いや、先代の遊撃小隊隊長はファデュイに殺された、とか何とか噂されているようだが。

 

そう言えば天領奉行と勘定奉行の当主…いや、元当主達は売国奴として幽閉され、そのうち秘密裏に処刑されるそうだ。天領奉行当主の九条家と、勘定奉行の当主である柊家はどちらも危うい立場に立たされつつも、それぞれ息子、娘が跡を継いだようだ。そして俺への侘びとして遊撃隊の隊長という地位を与えてくれた。確か名前は…九条鎌治と言ったはずだ。彼は好青年で、勘定奉行の現当主、柊千里とも親交があり、元当主とは異なり、偏見も持たない。まぁ、経験は足りないだろうが。

 

その九条鎌治だが、将軍と打ち合ったそうだ。九条家の誇りを示すために将軍こと、影と打ち合ったそうだ。それなりに怪我をしたようだが、九条家が未だに天領奉行当主として政務を行っていることからわかるように、余程頑張ったのだろう。まぁ、そこに至るまでは色々あったようだが。

 

「改めまして…此の度は父がご迷惑をおかけいたしました…!誠に…誠に申し訳ございませんでした!!」

 

「私からも…お祖父様がしてしまったことをお許しください、とは言えません…ですが、それでも謝罪をさせていただきます!誠に申し訳ございませんでした!」

 

そんな九条鎌治と、同席していたらしい柊千里から、謝罪されたのだから、謝罪を受け取らぬはずもない。一応、その分まで稲妻に貢献しろ、と笑顔で告げてやった。彼、彼女らが裏切っていないとも限らないので、まぁ言外に『稲妻を同じように裏切っていることが少しでも露呈したら…わかるよな?』という意を込めている。何度も首を縦に振っていたから、きっと大丈夫だろう。

 

さて、遊撃隊隊長としての地位が与えられたため、勿論、俺には部下がつく。まぁ、と言っても四人程度だ。遊撃隊にしては人数が少ない、と思うかも知れないが、自国民ではない兵士に持たせる兵士の人数としては妥当だろう。影は何故かもっと俺の下に人をつけてやりたいようだったが。

 

城下町郊外にある天幕内に案内された俺は中で跪いている四人の男女がいることに気がつく。

 

「では、我等はこれにて」

 

「ああ、案内ご苦労」

 

案内をしてくれた天領奉行の武士が下がっていった。さて、と俺は中にいる四人を見やる。と、いうか事前に聞いていたとはいえ、女性がいることには驚きだな。

 

そう思って彼女を見ていると、睨まれた。

 

「…何か?」

 

「特に何も。女性でありながら武士になるためにはかなりの努力が必要だったはずだが?」

 

武士になるのには、それなりに修練が必要だ。だが、男性と女性とでは、圧倒的に力で差がついてしまう。それを補うのにも、限度があるのだ。にも関わらず武士になれた…それは、並々ならぬ努力があったからだろう。それを踏まえての発言だったのだが、フイッとそっぽを向かれてしまった。見た目に反して、まだ精神は子供なようだ。

 

因みに、名前は黒川というらしい。

 

次は見た目が細めの男性だ。彼は奥之院という名前だ。なんだか強そうだが、完全に名前詐欺だ。

 

「ぼ、僕は…」

 

「なるほど…お前は随分と線が細いな。だが、武士になった。それだけでも並々ならぬ努力が伺える」

 

「は、はぁ…」

 

ポカーンとはしているが、顔が少し赤い。合っているらしい。ご飯も食べているのだろうし、きっとそういう体質なんだろう。それでも武士になれるだけの努力を積んだ、となれば…彼はきっと剣の腕は良さそうだ。

 

次。眼鏡をしている男性で、武士としてはありふれているようだ。名前は只野というらしい。

 

「武士としてはお前が普通だな。だが、その手に出来ている血豆…なるほど、努力するところはしっかりしているわけだ」

 

「……はっ」

 

なるほど、まじめくん、といったところだな。

 

最後。見た目からしてゴリゴリのマッチョ。名前は細部。さっきから名前負けしすぎだよな。

 

「お前は…体格からして恵まれているようだが、なるほど、剣の腕はさほど、といったところか…加えて、性格も横暴…問題児か」

 

「…ッチ。俺はお前のことを上司として認めた覚えはねぇぞ」

 

「細部…!」

 

まじめくん…もとい、只野が細部を諌める。だが、それを黙って聞くようなら、問題児などと書類に書かれたりはしないだろう。

 

「うるせえ!外野は黙ってやがれ!お前らも本当は不愉快だろ?こんなスカした野郎が上司やっててよ!」

 

スカした野郎…とかよく知ってるな。しかし、黒川も首肯いている辺り、余程誰かの下につくのが嫌らしい。まぁ、事前に渡された書類に書いてあった情報を復唱しただけなので、何も知らないが。

 

「ふむ…なら、実力があればいいのか?」

 

「…あ゛?」

 

「…なんですって?」

 

彼らは、要は『スカした野郎』が上司になったのが気に食わないんであって、スカした野郎じゃないことを証明すれば良いわけだろう。じゃあ、彼等の言う『スカした野郎』とは何か。それは、実力のないクソ野郎のことだ。逆に言えば、実力さえあれば問題ない、とも言える。

 

「模擬戦でも軽くしようじゃないか。勿論、寸止めのやつな?」

 

一応、怪我をされても困るので、勝負がついたら止めてもらうつもりだった。勿論、審判はまじめ…只野君に任せようと思う。だが、俺の考えよりも、二人は余程俺に苛立っているようだった。

 

「おいおい、まさかとは思うが、逃げんのかよ?怪我するのが怖えからって寸止めか?」

 

「同感ね。この程度のことも怖いなら、隊長なんてやめなさいよ」

 

あー、なんというか、根っからの馬鹿なのかも知れないと思い始めている。只野も、俺の真意に気が付いているのか、溜息を吐いていた。仕方がない…こうなればとことん…折る。増長しきってしまった自信を、こう…ポッキリとな。後のことなんて知らないし、それで俺を超えるために強くなってくれれば万々歳だ。

 

「逃げる?ッハハ、面白い冗談だな。まさか、本気でやったらお前達を殺してしまうかも知れない…その可能性を考えてのことだったんだが…どうやら見当違いかな?」

 

「ああ見当違いだ!」

 

「そうよ!私が…私達があんた如きに殺されるわけがないわ!」

 

「ああ、すまない…決して、俺よりも実力が圧倒的にないお前達を舐めているとか、全然そんなことはないぞ?うん、全然、全く、これっぽっちも!」

 

煽る煽る。こういう時は煽りに煽ってしまうほうが良い。その方が実力を出してくれるだろうしな。案の定、二人は怒りで声も出ないようだった。顔も真っ赤だし、何よりプルプルと震えている。

 

「ほんじゃま、外に行こうか。只野、審判よろしく。俺は殺さずに止めるつもりだからな」

 

「はっ、ご随意に、アガレス様」

 

ナチュラルに俺の名前を読んだことから察するに、これは俺のこと知ってるな。どっかで俺のことを見かけたとか、噂で聞いたとか、まぁそんなんだろうが。

 

天幕の外に出て少し歩き、開けた場所に到着した。俺は木刀を持っているが、相手の二人は真剣だ。この場合、木刀で真剣を受けるわけにもいかないので、全て避けねばならない。まぁまぁのハンデ、と言ったところか。

 

俺が手に持つ木刀を見て、二人の怒りは頂点に達したようだが、喚き散らすようなことはしないようだ。ま、あれでも成人だろうし、それなりに社会経験も積んでいるのだろう。と、なんの関係もないことを考えながら只野に視線を投げかけた。隣には奥之院もいる。俺と相対する二人とを交互に見て震えている。

 

「そんで、どっちから来てくれるんだ?」

 

「私から行くわ…こいつ、いけ好かないもの…」

 

ふむ、黒川からか。

 

「あんた、戦ったこともないんでしょう?見た目からして弱そうだもの」

 

弱い、か。

 

「あながち、間違ってはいないな…」

 

「でしょう?なら…」

 

「そうさ、俺は弱いよ。護りたいもの一つ、自分を犠牲にしなければ護り切れなかった、弱い男さ」

 

俺から出る雰囲気に呑まれたのか、息を呑む黒川。だが、すぐにキッと俺を睨みつけると、恨めしそうに言った。

 

「な、何よ…私は絶対、戦争で武勲を立てて出世しなくちゃいけないの!!戦争なんて、そのための道具でしかないのよ!!」

 

スン…と、俺の表情から感情が抜け落ちるのを感じた。ただならぬ俺の雰囲気を感じ取ったのか、黒川は一歩後退った。

 

今までに俺が参加した、或いはしてしまった戦争はそれなりにあるが、やはり一番凄惨で悲劇が多かったのは魔神戦争だろう。あれ以上に惨たらしく、悲劇に満ちた戦争を、俺は知らないし、今後起こそうとも思わない。それほどまでに、混迷とした時代だったのだ。あの時代は。

 

「…言ったな、お前は…『戦争なんて、道具だ』と」

 

「ッ…ええ、そうよ…!」

 

「自惚れるな」

 

自分でも、驚くほど低い声が出たな、なんて他人事のように思う。どれだけ俺が心の奥底で戦争というものを忌避しているのかが、なんとなくわかった気がした。

 

「戦争…それは、ある意味では人間の歴史そのものを意味する。人間の歴史は、戦争無くしては語るに尽くせないからな」

 

だが、と俺は続ける。

 

「このテイワットでは『戦争』という言葉だけが一人歩きをして、そこで起こってしまった悲劇の数々は語られないし、忘れ去られる」

 

───俺と、同じように。

 

「永き時を生きる神とは違い、人間は代替わりを重ねるごとにその思いは変質してしまう。だから、戦争は起きてしまう。と、まぁ…いつまでも能書きを垂れていても仕方がないだろう」

 

俺は木刀を捨て、抜刀する。

 

「気が変わった。如何に自分の考えが傲慢で、愚かしいか…それを叩き込んでやる」

 

「ッ…えぇ、やれるものならやってみなさいよ!」

 

俺は、ある意味では正気を取り戻したらしい黒川へ向けて、その刀を突きつけるのだった。




しっかりと、戦闘パートへの布石を…よしっ
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