あ、前回書くの忘れましたが、本名の読み方一応書きますと…。
黒川 菫→くろかわ すみれ
奥之院 鋼樹→おくのいん こうき
只野 清→ただの きよ
細部 音近→ほそべ おとちか
只野の名前で異変を察知した人は偉い!私は精一杯褒めるぞ!!(わかりにくいのでわからなくていいです。というか全く気にしなくていいです)
追記 : タイトル詐欺も甚だしい!!です。
三年前まで、只野家は稲妻国内でも有数の良家であった。将軍に直接お目通りをすることも多く、天領奉行内の重役にも所属しており、稲妻国内への貢献度はかなり多かった。
私、只野清は只野家の跡取りとして育てられた。あらゆる事を完璧にこなすよう厳命され、現に私は生まれて物心がついてからすぐに品行方正、清廉潔白に育ってきた。
しかし、冒頭の三年前まで、との言葉が示す通り、私はあらゆることを両親の願う通りにしてきたつもりだった。
で、あるのに。
「おまっ…ケホッ…お前がァ…只野家を…継ぐなど…ガハッ…間違っているだろうがァ!」
私には兄がいた。だが兄は私とは正反対の性格だった。品行崩壊、佞悪醜穢…だが、優しい兄だった。その兄が、只野家の子という身分を利用し、稲妻の武士達の布陣をファデュイに提供し、稲妻城まであろうことか誘導しこんなことになってしまっている。その兄は、今私の目の前で血塗れになりながら俺に向かって手を伸ばしていた。
周囲はファデュイと武士達、そして民間人の死体ばかりだ。
「…兄上、何故このようなことを…」
私がようやく、絞り出せた声はそれだった。兄は血走った目でこちらを睨むと、鬼のような形相で言った。
「お前が…お前さえ…いなけれ…ばぁ!!」
兄の言葉は要領を得ず、具体的な理由はわからないが、抽象的な理由はわかる。どうやら、私が跡取りとして育てられていたのが気に食わなかったらしい。だが、兄は一つ、勘違いをしていた。
「兄上…兄上、私は!」
「……」
私は言いかけて、気が付いた。先程から喚き散らしていた兄の声が止んでいる。私の耳を疑ったが、兄を見ても動く気配がない。恐る恐る近寄って兄の様子を確認してみると、目を開き、苦しみにその表情を歪めたまま硬直していた。
「…嘘…ですよね…兄上!返事して下さい!!」
私は兄の、いや、兄だった魂の抜け殻の顔を覗き込み、体を揺する。
その日、私の兄は死んだ。その日に伝えられなかった、自分の気持ちを忘れるように、私はただ、上の命令に従うだけの道具のようになった。
家の取り潰し、そして首謀者の死亡が確認されており、命を狙われていたこともあって私は天領奉行に未だに置いてもらえていた。
そんな時だった。稲妻城にて警備の任務についていた際、楽しそうに話す声が聞こえた。稲妻城にいて聞こえてくるのは戦地の状況がどうだの、ファデュイの動向はどうだの、誰が戦死しただの、そういった話ばかりだった。それは兄が死ぬ前からも変わらないが、兄が死んでからは一層そういう話に興味を無くしていた。
だからだろうか、久し振りに楽しそうに話す声が聞こえてきたことに、興味を持ったのは。
天守閣へと続く廊下を、二人の人物が歩いていくのを見かける。
「…アレは将軍様?それと…」
一人は我等が敬愛し、信仰する対象である将軍様だった。だがもう一人、膝の丈まである黒衣に身を包んだ長身で銀髪の男が隣りにいた。将軍様はその男を見て嬉しそうに笑っていた。あまりの事態に自分の脳がショートするのを感じた。私はそれだけ確認すると、正門へ向かった。そこには冷や汗を一様に浮かべている武士達がいた。
「すみません、先程、将軍様ともう一方をお見掛けしたのですが、もう一方についてなにか知りませんか?」
私は一人捕まえるとそう聞いた。幸運にも、捕まえた武士は優しい方だったようで、親切にも教えてくれた。
「あ、ああ…あの方は詳しくは聞いていないが何処かの国からの応援で来たらしいんだ。騒ぎを聞きつけたファデュイの軍勢と戦っていたんだが、たった一人で相手をして全滅させていてな…将軍様と随分親しいご様子だったが…っと、俺が知っているのはこのくらいだ。余り役に立てずにすまないな」
「いえ、充分な情報です。ありがとうございます」
私はそう一言だけ言うと、踵を返した。なるほど、将軍様が信頼なされているお方ならこちらで無駄に詮索する必要もなさそうだ。私はそう考え、城内の警備に戻るのだった。
次の日、その、将軍様と親しいという方が天領奉行と勘定奉行の不正を暴き、内部改革を行ったらしいことがわかった。幾ら将軍様と親しいからと言って内部に干渉しすぎだろう、と思ったが、内部の改革のご決断は将軍様しかできないはず。となれば将軍様が許可を出したのだろう、と考え、このことについて深く考えるのをやめた。
しかし、頭も回り、戦闘もこなせる。将軍様のお知り合いというだけあってとんでもない存在のようである。
「…その方の下で色々と学んでみたいものですね。まぁ、叶うわけもないでしょうが」
「───本当なのですか?」
「本当だ。天領奉行、いや九条家は現在、苦境に立たされている。そのため、下級武士の何名かに暇を出し、戦地送りにすることが決まった。お前も、勿論その一員だ」
私は天領奉行所でそのような説明を上司から受けた。どうやら、天領奉行の現状は私が考えているものよりもかなり悪かったようで、私を含めた何名かの下級武士達が集められ、上司の話を聞いていた。
「この件に関して、鎌治様より伝言を預かっている。『このような形で暇を出すことになってしまって申し訳ない。出来るだけ好待遇での配属を約束するので、どうか稲妻、ひいては将軍様へのご奉公を続けて欲しい』と仰っていた。俺としても、手塩にかけ育てたお前達に暇を出すことになってしまって誠に不本意だ」
少しだけ上司は自身の気持ちを吐露すると、表情を引き締めながら一人一人に配属場所を伝えていった。三人ほど、新設された遊撃隊へ配属されることになっているようだった。それ以外は大体聞いたことのある場所だったので、少し不安に思っていると、私もその遊撃隊へ配属されることになった。私が最後だったため、その場は解散となった。肩を落として還る者達を無視し、私は上司の下を訪れていた。
「ん?只野か。どうした?」
「すみません、新設された遊撃隊の情報を詳しくお聞きしたいと思いまして」
これからは警備兵ではなく、戦場に立つ武士として生きていくことになるため、自分の配属する場所がどのような場所で、どのような者が上司なのか、それを知っておく必要があったのだ。上司…いや、元上司は、一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに教えてくれた。
「ああ、なんでも、将軍様と鎌治様直々に遊撃隊の隊長の任を任されたらしく、名前はアガレス、と言うらしい。俺も鎌治様に詳しく聞いてみたが、『寛容なお方』と評していた。どうにも胡散臭いのは、将軍様ともお知り合い、って点だな」
その話を聞いて私は自身の心臓の鼓動が早まるのを感じた。気になっていた方の部隊に配属される、ということは、実戦形式で色々と学べる、ということだ。
「色々とお話をありがとうございました。それでは、私はこれにて…」
「ああ…お前にも苦労をかけるが…そっちでも頑張れ。死ぬなよ」
私は踵を返していたが、立ち止まり、振り返ると「はい」と返事をして天領奉行所を去るのだった。
支度をしてすぐに遊撃隊に当てられた前線の天幕に入る。どうやら、私が一番最初のようだった。天幕内は戦場に近いとは言え、かなり静まり返っていた。すぐに二人入ってきて騒がしくなったため注意したが。
少しして全員揃い、もう少し時間が経ってからその人物は天幕内へと足を踏み入れてきた。
「ああ、案内ご苦労」
案内の武士をそう言って労った彼は少し微笑みながら天幕内へと入ってきた。だが、私達が跪いているのを見て一瞬面食らったように止まった。その隙に彼の容姿を食い入るように見つめる。
将軍様のように整った容姿、吸い込まれそうなほどに紅い瞳。透き通るような白い肌と銀髪。控えめに言ってもこの世のものとは思えないような立ち居振る舞いだった。
驚いたことに、その後彼は突然隊員を褒め始めたが、細部という男の時だけは貶すような発言をした。勿論、細部という男の短気さは天領奉行内でも有名な話だったので、細部は激昂、釣られたように黒川も彼に食いついた。
「ふむ、なら実力があればいいのか?」
そう言って彼は細部の変装、企み、その全てを暴いて捻じ伏せてしまった。加えて奥之院が黒川のことを気にかけていることを察してか、隊長は私と共に上役の天幕へ行くようだった。
この人は、いやこの方はやっぱり、色々と視点を広く持っているみたいだ。
───この方なら、私がこんな格好でも、許してくれるだろうか?受け入れてくれるだろうか?いつ、私が『男』ではなく、『女』だと気が付くだろうか?兄に言えなかったこの事実を言っても、軽蔑しないでくれるだろうか?
そんなことを考えながら彼の後ろを歩くのだった。隊長の背中は、何処か頼もしく感じた。
すみません、今週テストなんですよねぇ…昨日はその関係でちょっと余裕がありませんでした。多分明日の更新ないと思います。あるかも知れないですけど。
前書きの答えは、只野が女性、ということですね。補足説明をさせていただきますと、只野家では男児が誕生していましたが、性格が最悪だったため、女児だが性格のいい只野ちゃんを男児として育てて跡取りにする、ということになっていたんですよ。勿論、お兄さんは自分が家督を継ぐ気満々なわけですから、この事を知った瞬間、アレだけ憤慨したんですよね。『男の俺じゃなくて女のアイツに家督を継がせる気なのか!』というわけです。男尊女卑反対!
さて、只野ちゃんはお兄さんがそのことを知らないと思いこんでいたわけなんですね。尤もそのことを確かめる術はなくなってしまったわけですが。
というわけでした。