次元を旅する謎の案内人と、騎士見習いの少年が行く。
様々な次元と世界を、見て、聞いて、感じて、経験する。


少年は、修行のために。
案内人は、誰かのために。


一緒に見よう。
遊戯王OCGとして生まれていた、様々な次元を。世界を。物語を。



※pixivにも投稿しています。

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短編の練習でもあり、遊戯王OCGのイラストからストーリーを妄想して書くのはずっとやってみたかったやつ〜。
モンスターチョイスは完全に自分の趣味です。そして自分の趣味は基本的にマイナー気味です。
なので、モンスターイラストはぜひ検索して想像しながら見てね!


1.プランキッズ・ハウス

動物達もほとんど昼寝するくらい静かな森だったのだが、今日はやけに音がする。パキパキと、地面に落ちた木の枝が折られる音。ガサガサと、草木が揺れる音。

 

「お〜い! どこまで歩くんだよ〜!」

 

そして、泣きそうになっているような雰囲気が漂う少年の声と、ガチャガチャという金属が擦り合うような音。そして、大きな草の茂みから現れたのは、紺色の鎧と大楯 剣を持った、年齢に見合わない大層な重装備な少年。

 

「まずは、どこか休めるのような場所が見つかるまでだな」

 

その少年の問いに振り向いて答えたのは、その少年の先を歩いていた…黒いフードと丈の長いローブを纏った、黒の”人型”。なぜ人型という表現になるかと言えば、それが人間であるかどうかも定かではないからだ。

その体の肌は一切外に晒されておらず、辛うじて手袋をはめた人間の手を持っていることはわかるが、まるで足が存在しないかのように音のない足取りで移動し、そして肝心の顔は真っ暗な闇に包まれている。フードの影では説明がつかないほど、真っ暗な。

そのため、騎士の少年はこの人物を”人間”とは思っていなかった。

 

「ひょっとして疲れたか? 開闢?」

「っ! そうは言ってないだろ! 俺はぜんっぜん平気だからな!」

 

(本人は気づいていないだろうが)兜に葉っぱを載せつつ、剣を振り回して勇ましく叫ぶ少年騎士…”開闢”を一瞥すると、黒の人物はゆっくりと正面に向き直って、歩みを進めた。

ちょっと強がっていた開闢は、ムッと唇を歪めると、その黒の人型に続いて歩みを再開する。

これも修行なんだ、と半ば無理矢理自分を納得させながら。

 

*********

 

「…おっと」

 

黒の人物が、森の木の向こう側を除くと…妙にひらけた場所を発見した。

そして、そこはただひらけているだけではなく…

 

「い…家か? 家があるのかっ!?」

 

後ろから追ってきた開闢が、さらに草葉をいろんなところに引っ付け、げっそりした顔で彼に追いついていた。そして、目の前に聳え立つなかなかに大きな家が彼にとっては安息の地にも見えていた。

あまりの安堵感に、その家が妙に歪んだおかしな形であることも気にならなかった。

希望に目を輝かせ始めた様子の開闢の様子をチラリをうかがった黒の人物は、一つ頷いて呟く。

 

「ふむ…ちょうどいい。ここで一泊できないかどうか、尋ねてみるとしよう」

「……も、もしできないって言われたら」

「また歩くしかないだろうな」

 

それを聞いた瞬間、ガックリって音が聞こえてきそうなくらい落胆の表情を見せる開闢。そんな開闢から視線を外し、家に近づいて扉をノックする黒の人物。その音に反応して、ブルドッグの唸り声が家の側から聞こえてくる。どうやらこの家では犬が飼われているようだ。

 

「ハ〜イ! ハイハイ! ちょっと待ってくださーい!」

 

すぐに、扉の向こうから返事はきた。ついでに、やたらドタバタした足音やら硬いものが落ちる音も一緒に。

 

「…ハイ! お待たせしましたっ! …何かゴヨウでしょうか!?」

 

やたらバタバタしながら出てきたこの家の主…それは、人間ではなかった。全身が紫色に彩られた人型ロボット、という感じだった。顔の部分には巨大なツインテールのようなものがぶら下がっており、その先にも手がついていることから、四本の複腕ということが見てとれる。

見方によってはうさぎにも見えるその姿を見て、開闢はできれば普通に人間であってほしかったとちょっと気を落とした。ちなみに黒の人物は、扉が開く前から微かに響くモーター音を聞きつけ、大体正体の目星はつけていた。

 

「実は、我々は宿を持たない流浪の旅人でね。もしよろしければ一泊を提供してもらえればと思ったのだが」

「あー、なるほど! それはお困りですね! よろしければこちらの家にお泊

まりになってください! …こんな家でよければ、ですが!」

 

朗らかな口調で、扉を開いて二人を受け入れる紫のロボット。一切肌が見えない人型と、明らかに似つかわしくない鎧と武器を持った子供の二人組でも、全然怪しむ様子もない。

開闢はようやく休めることが確定したというのに、その表情には微妙に心配そうだ。なぜなら、その紫色のロボットが付け加えた最後の言葉が妙に引っかかったからだ。

 

「お、おい! なんか…あるのか、この家!?」

「あるというかー…いるんですよね、ハタ迷惑な奴らが! お客さんも、嫌

だったらすぐに出て行っても大丈夫ですからねー!」

 

不穏なことを言い残しながら、家の奥に消えていくロボット。いや具体的に言ってくれ!と文句を垂れそうになった開闢だったが、彼の体力ではそんな文句を垂れる元気もなかった。スルリと入っていく黒の人物に、体を引きずりなから自分も家に足を踏み入れる。

 

*********

 

「ふぃーっ!」

 

完全に気が抜けた声を出しながら、ソファーに体を投げ出す開闢。

剣も盾も辛うじて手に握ってはいるが力は全く入ってはおらず、体はだらりとソファーに横になっている。騎士として毅然と振る舞うために普段からしている心がけも、疲れと気の緩みから全く頭から消え去っていた。

一方、黒の人物は相変わらず音をさせない振る舞いでゆっくりと椅子に腰掛ける。と、その時に紫のロボットが二人分のカップをお盆に載せて持ってきた。

 

「いやー、お客さまなんて久しぶり! ただ、あまりおもてなしできず申し訳ない! アタシはまたこれから作業があるのでドタバタしちゃうと思いますが、ゆっくりしていってくださいな!」

「作業…何か仕事でも?」

「仕事というか、後始末ですね! まあ仕事には間違いないですケド! 実は、先日の事件でこのハウスは色んなところが壊れているんですよ! 昨日までで必要最低限は修理しましたが、完璧に直しておかないとご主人様に申し訳が立ちません!」

「へ? ご主人…って、この家の主人ってアンタじゃないのか?」

 

黒の人物の問いに答えるロボットだが、その言葉にまたもや気になる部分を見つけて、ダラリとしながらも声を投げかける開闢。

 

「とんでもない! 私はご主人様から留守をお願いされた家政婦ですっ! ご主人様はいつ戻られるか不明ですが、アタシはこの家とワンちゃんのお世話を全うしないといけないのですが…プランキッズ達のせいで、もうメチャクチャになっちゃって! アタシの回路はおかしくなっちゃいそうです!」

 

頭から煙をプンプンだすかの如く、事情を語った紫ロボット。その「プランキッズ」とやらがまたもや気になり始め、ダラリとしながらもまた質問のため口を開こうとした開闢だが、その前に黒の人物が立ち上がった。

 

「それは大変だな…一泊のお礼と言ってはなんだが、何か手伝えることがあれば、力を貸そう」

「へ? いやいやいや、大丈夫ですよー! お客様を働かせなんてしたら、ご主人様に怒られちゃいます!」

「そのお客が手伝いたいと申し出ているんだ。そう話せば、主人も悪くは言わないと思うが? それに、もしその主人がしばらく戻らないのであれば、知らないで済むことだ。そうではないか?」

「あー…イヤ。それはそうですが……ムムム」

 

黒の人物の提案に、腕を組んで悩み始める紫色のロボット。だがやがて諦めたかのように、「それじゃあ、手伝ってもらいましょう!」と、どこか吹っ切れたような感じで宣言した。

そして二人は立ち上がり、部屋の隅に置いてあった工具セットの箱を手に取る。ロボットの方も「こっちに来てください!」と言いながら誘導するように歩き出した。

 

*********

 

「ここなんです、ここ! ここだけがまだ手をつけられていなくて…」

 

黒の人物と、疲労困憊ながもやっぱり気になってコソコソついてきた開闢がそこで見たのは、家の裏手側と思しき場所。だが、そこは結構悲惨な状態になっていた。あたりにはいたる所に木材が散らばり、いくつか部屋があったと思しき名残が見えるくらいだ。もちろん、木材だけではなく釘やら機械やらなんやらの残骸も散らばっていた。

 

「コツコツ壊れた家の修理をしていたんですが、裏手側は後回しにしていたんですよ! なのでまだまだこのアリサマです!なので、こちらの修復を手伝ってくれるとすっごく助かるんですよー!」

「なるほど、了解した」

 

頷く黒の人物。一方、後ろからついてきていた開闢は一瞬露骨に面倒臭そうな顔をしていたが、そんな彼の頭を兜の上からポンと黒の人物が叩く。

 

「我ら二人でやれば、今日一日でもいいところまで手伝えるはずだ」

「え?いやちょっと待て!俺はやるとは言ってな」

 

抗議しかけた開闢の口を、黒の人物が手で塞いだ。モゴモゴ抵抗する開闢に対し、黒の人物は彼の耳元に顔を近づけてこう囁いた。

 

「騎士たるもの、民が困っているのを知らん顔するのはどうなんだろうな?」

「っ……」

 

黒の人物の言葉に、目をパチクリさせて固まる開闢。確かに騎士として、自分の行動には責任を持たなければいけない。

 

「わかったよ……でも、俺はこういうのやったことないぞ」

「だろうな。ただ、我は一応の経験はある。ある程度は我が指示するから、その通りに手伝ってくれ」

「…了解」

 

渋々ながらも了承し、持ってきていた大楯と剣を背中にしまう開闢。それを確認してから、黒の人物は紫ロボットへと向き直った。

 

「さあ、早速始めようか。まずはどこからだ?」

「そうですねー……とりあえず、あの壁からお願いします!」

 

*********

 

「はあーあ…せっかく一休みできるかと思ったのになあー…」

 

ブツブツと呟きながら、開闢は自慢の剣を振るい、森の中で木を切っていた。

家の修理を黒の人物によって手伝うハメになった開闢であったが、自分に言いつけられた任務は、木材の調達であった。おそらく木材が足りないであろうと推測した黒の人物による判断である。

自分の持つ剣は、もっと悪いモンスターを倒すためとか、人々を守る戦いのためとか、カッコいい使い方をすることを夢見ていたが、まさか木こりの真似をすることになるとは。

 

「……まあでも、これも立派な仕事だよな。うん、そうだそうだ」

「ふむ、意外に素振りはしっかりできているようだな」

「うわぁ!? な、なんだお前かよ! 驚かせるな!」

 

突然背後から聞こえてきた声に驚き、飛び上がる開闢。そんな開闢を見て、黒の人物は「ふむ、驚かせたつもりはないのだがな」と返す。

 

「しかし、ちゃんとやれているようで何よりだ。その調子なら、明日までには家の修理も終わりそうだな」

「お、おう! 任せておけって!」

 

褒められて悪い気はしない開闢は、元気に返事をしつつ胸を張ってアピールする。

 

「元気そうで何よりだ。…ふむ、それくらいならあと2本ほど切れば充分だろう。我は先にこの切り終わった木を持っていくから、後2本切ったらそれを持って家に戻ってきてくれ」

「へーい…」

 

開闢の返事を聞いた黒の人物は、開闢が用意した木をまとめて肩に担ぐと、家の方に戻っていった。その体のどこにそんな力があるのかと、開闢はちょっと驚いた。

 

*********

 

そして約三十分後、黒の人物から言われた残りの二本分の木材をこしらえると、開闢は達成感を感じながら額の汗を拭った。

 

「よし、これで全部だな! じゃあ、後は戻るだけだ!」

 

フンスと息を吐いて、木材をヒョイと肩に担ぐ開闢。それなりの重さではあるが、これくらいであればかつて城にいた時の特訓で経験済みだ。ただ、疲労が積み重なっているためにちょっとだけフラついている。ただ、それほど疲れていてもサボって休むことはせずすぐに運んで届けようとするあたり、彼の真面目さが見てとれる。

微妙にふらつきながらも、材木を持って森の中を歩いていくうちに、やがて目的地であるさっきの家が見えてきた。そこに向けて一歩踏み出そうとした時

 

「ん?」

 

むにゅ、と足に妙に柔らかい感触。何かを踏んづけたようだ。まさか芋虫でも踏みつけたのかとちょっとゾッとした開闢であるが、実際に見てみると…

 

「な、なんだこりゃ…?」

 

開闢が見つけたのは、小人のような生き物であった。全体的に黄色の体色に、服のようなものも着ている。特徴的なのは髪の代わりについている岩のような頭だ。

無意識に手を伸ばして捕まえようとした開闢だが、その生き物はピギャーというような鳴き声を残して恐るべきスピードで家の方に逃げていった。

 

「な…なんだったん…だ?」

 

あんまりにも一瞬の出来事で、すぐに謎の小人を見失ってしまい、そのまま立ちすくむことしかできない開闢。だが、次の瞬間。

 

 

「クルーッ!!!」

「なっ!?」

 

 

*********

 

全くの突然だった。

背後から何か大きな鳴き声がしたことで、開闢は材木を取り落としながらも咄嗟に振り向いて後ずさった。

そこにいたのは、開闢と同じくらいの大きさのニワトリがこちらに敵意の視線を向けて吠えていたのだ。羽を広げれば、開闢よりもずっと威圧感のある大きさだ。足はなく、白の身体中には赤、青、緑のオーラのようなものが纏ったまま空中に浮いている。

 

「こ、こいつっ! モンスターかっ!?」

 

素早く背中の剣と盾を構える開闢。その瞬間にニワトリのモンスターが襲いかかってくる。

 

「くっ……!」

 

反射的に、剣を横なぎにはらう開闢。だが、その剣はニワトリの嘴でガッチリととらえられる。なんとか力づくで振り払おうとするが、振り払うどころか逆にどんどんと力で押されてきてしまい、思わず開闢の足が一歩下がる。

このままでは押し負ける。そこで開闢は逆に剣を引いてニワトリの頭部が近づいた瞬間に、逆の手の大楯を使ってニワトリへ打撃を加える。かつて師匠から教わったシールドバッシュの動き。咄嗟の動きのために練習通りとはならなかったが、ニワトリを怯ませることには成功したようだ。

 

「今だ!」

 

チャンスを逃さず、開闢は解放された剣で一気に斬りかかる。開闢の渾身の一閃が当たった場所は、ニワトリの右翼の部分。その羽の一部を斬り裂くことに成功した。

 

「クルゥウウッ……!」

 

痛みによって、苦い声をあげるニワトリのモンスター。そしてその瞬間に、開闢は見た。自身が斬った羽の一部が、赤、青、緑の小人のような生き物に分離して散らばったのを。

 

「え? な、なんだ今の!?」

 

突然の事態に驚く開闢。だが、それを気にしている暇はない。怒り狂ってさらに激しい鳴き声を響かせたニワトリが、一直線に飛行しつつ突撃してきたからだ。

なんとか反応が間に合い、その突撃を盾でガードする開闢だが、勢いには叶わず後方へ押し飛ばされ、木に背中を強打してしまう。

 

「ぐ…あっ……!」

 

衝撃で肺の中の空気が全て吐き出され、苦しげに咳き込む開闢。そんな開に向かって、ニワトリは再び突進してくる。

 

「くそぉ……!」

 

今度は大楯を構えつつ、横にステップを踏むことでギリギリ回避に成功する開。しかし、完全には避けきれずに腕にかすってしまった。幸い、鎧に当たったことで体は無事だったが、自慢の鎧には微かに傷が。

 

「よくも…やったな! 上等だ! この"開闢の騎士"、必ずお前を討伐してやる!」

 

剣と盾を構え、改めて目の前のニワトリのモンスターを前に名乗りを上げる開闢。対峙するニワトリのモンスターは、また大きく鳴き声を上げて突進のために構えてみせる……が。

 

「ガウウウウ…ウー、ワンワン!!」

「へ?」

 

突然犬の鳴き声がしたかと思えば、ニワトリの背後から飛びかかる何かの影。その影に飛びつかれたニワトリは、「クケー!」と大声を出して飛びずさった。

 

「ガルルル…!!」

 

ニワトリに飛びかかったものの正体は、ブルドッグだった。開闢の記憶では、確かあの家の隣の犬小屋にいたペットのはずだ。それがどうしてここに?

 

「バカッ! おい、そこのワンコ!すぐ逃げろ!やられるぞ!」

 

自分がこうも苦戦するモンスターに、犬一匹が抵抗しても敵うわけがない。慌てて開闢が叫ぶが、しかしブルドックは逃げるどころか、むしろ闘志を燃やしたようにニワトリに威嚇の鳴き声を上げている。

 

「ガウウウ……ワオーンッ!!!」

「グ、グルル……?」

 

その鳴き声を間近で聞いたニワトリは、先ほどまでの威勢はどこへいったのか、まるで怯えたかのように後ずさりし始める。

 

「え、え、え」

 

あれだけ好戦的だったニワトリのモンスターはジリジリと後退していき、そして…

 

「クッ…クルー!!」

 

鳴き叫んだかと思えば、その体は一斉に砕け散った。代わりに、空中に散らばったのは、赤、青、緑の様々な色の小人のような生き物。開闢が踏みつけた小人や、羽を切った時に飛び散った小人と同じだ。

ニワトリに化けていたらしいその小人たちは、また奇妙な鳴き声を上げながら一斉に家に向かって逃げていき…やがて、さっきの戦闘の後が嘘のように、静寂が訪れた。

 

「な…なんだったんだ今の…」

 

両膝をついてだらりと脱力しながら、気落ちしたように呟く開闢。そんな彼を尻目に、ブルドッグはフンと鼻を鳴らすと、自らの住処である小屋へと戻っていった。

 

*********

 

「なんと! プランキッズ達がそんなイタズラを!? それは大変申し訳ない! どうか、アタシの方から謝らせてくださいっ!」

 

地に頭をつけんばかりの勢いで、何度も何度も頭を下げる紫のロボット。一方の黒の人物は、金槌で木の板を固定しながらも、ロボットを手で制して落ち着かせる。

 

「そんなに大袈裟にしなくてもいい。彼は無事だし、外傷もないからな。それより…プランキッズというのか、ここに住まう生き物達は」

 

そう尋ねる黒の人物が顔の部分を部屋の隅に向ける。そこでは確かに何か小さなものがチョロチョロと動いているように見えた。

それを見て紫のロボットは機械ながらも大きなため息をついた。

 

「ええ。この家に住む妖精…みたいなものです。厳密には、アタシのご主人様が開発した生物なんです。イタズラ好きで、ご主人様ならともかくアタシの言うことなんか聞きやしないもんですから、もう大変で大変で」

 

機械ながらも、悲壮な雰囲気を漂わせて項垂れる紫のロボット。どうも相当苦労させられてきたようだ。

 

「生み出された生物…か。話を聞く限りでは、どうもこのプランキッズという妖精達は害を成すばかりに聞こえるが…君の主人は一体なぜ、このような生物を生み出したのだろうな?」

 

板を止める作業が終わり、次に木材の形を整えるべく鋸を握りつつ黒の人物は疑問を呈す。そして即座に補助のために木材を抑えにかかる紫のロボットがその疑問に答える。

 

「もちろん、ただイタズラするだけの生き物なら、ご主人様はそんなものを生み出したりしません!実は、彼らはこの家のライフラインを司る生き物なんです!」

「…ほう?」

 

その言葉を聞いて、黒の人物は珍しく心の底から興味を示すような声色になった。ただ、それでも鋸を動かす手は正確かつ止まらない。

 

「赤のプランキッズ・ランプはこの家の熱源を、青のプランキッズ・ドロップは水源を、緑のプランキッズ・パルスは電源を司っているんです! 彼らがいればこの家のエネルギーは全て供給できるという、生きたライフライン! それがご主人様の生み出した研究成果なんです! かくいうアタシも、プランキッズ・パルスが生み出した電力で動いている身なんですからねー」

「なるほど…。しかし、そうだとすると…開闢が話したような彼らの変身能力は、副次的なものかな?」

「そうだと思います。そんな力があるとは、アタシもご主人様から聞かされてないですし…それに、ご主人様が生み出したものとはまた違うプランキッズも見かけるようになりましたし…ひょっとしたら彼らは、ご主人様やアタシにも想像のつかない”進化”をしているのかもしれません…ね!」

「ふむ…」

 

ピタリ、と黒の人物は作業をする手が止まった。その話を聞いて、何か思うところがあったのか、手に握っていた鋸を地面に置いた。

 

「すまないが、ちょっと中断しても構わないか? 部屋で休ませておいた開闢の様子を見に行きたいからな」

「あ、どーぞどーぞ!ここまででも本当に大変助かりましたから!むしろ今

日はもう休んでいただいても結構ですよー!あとでご飯とかもお作りしてお持ちいたしますので!!」

 

相変わらずなんか大袈裟な身振りで、紫のロボットは家の中に戻っていく黒の人物を見送った。

 

*********

 

黒の人物が家の中に戻ると、開闢がソファーでぐでーっとしていた。

完全に剣と盾を床に投げ出してまるで液体のようにダラリと脱力している。

 

「ゔあ〜〜〜〜……」

 

かと思いきや、突然唸り声を上げてソファーに顔をうずめだす開闢。それを見た黒の人物は、相変わらず足音のしない動きで近くにまでよる。

 

「どうした?どこか痛むのか?」

「あうわぁ!?」

 

声をかけられたことで相当驚いたのか、ソファーから転げ落ちる開闢。床に落ちている剣にその体が刺さらなかったのは大変幸運だったと言える。

 

「大丈夫か? ソファーから落ちるとは、やはり相当疲れが…」

「ビックリしただけだよ! ったく、いつもいつもこっそり近づきやがって!」

 

文句を言いながらも開闢はまたよじ登ってどさっとソファーの上で横になって転がった。ブスッとした顔でまたソファーに顔をうずめだす開闢に、黒の人物はサラリと質問をする。

 

「それはすまない。ところでもう一度聞くが、どこか怪我でもしているのか?」

「へ?」

「何か唸り声を上げていたのでな。外傷はないように思えたが、もしどこか怪我をしているのなら、ロボットに話して治療道具がないかどうか…」

「ちげーよ! そういうのじゃなくて…その…」

 

怪我をしていることは大声で否定した開闢だったが、さっきの唸り声の理由となると急に口ごもり始めた。突然モゴモゴしだす開闢を見て、黒の人物は体を曲げて彼の高さに視線を合わせる。

 

「…話したくないなら別にいいが、一人で悩んでウジウジしているようでは、強くはなれないと思うが」

「ゔぅ〜……」

 

何かを察した黒の人物だが、その言葉を聞いてまた唸り始める開闢。しばらくソファーの上でモゾモゾみじろぎしていたが…やがて、掠れた声で一言。

 

「…悔しいんだよ!」

「悔しい?」

 

首を傾げる黒の人物に、開闢は突然ガバリと起き上がって捲し立てる。

 

「あのニワトリのモンスターのことだよ! 俺、必死で戦ったけどなかなか手強くてさ!それでも勝てるとは思ったし、絶対に勝ってやるって思って戦おうとしたんだよ! なのに…あんな犬っコロが吠えただけで逃げるとか想像できねえよっ!」

「……」

「なんだよ…俺とは戦うくせに、犬を見たら逃げるって…。あのモンスターにとっちゃ、俺って犬以下なのか…?」

「…なるほど」

 

黒の人物は事情を把握してうなずいた。要するに、彼は自分が必死に戦っていた相手が犬が吠えたというだけで逃走したという事実に虚しさを感じているわけだ。あまりにしょうもない幕引きと、あのモンスターにとって自分の実力が犬以下だと判断されたのではないかという懸念による悔しさが。

 

「気持ちはわかった。だが、我はそれで悩むほどのことではないと思う。あのブルドッグと例の生き物…プランキッズ達の関係は我々には分からないのだからな。ひょっとしたら実力の問題ではなく、ただ単にプランキッズ達が犬を苦手としていたからかもしれないだろう」

「そりゃー…そうかもしれないけどよ…」

「まあ確かに、お前の実力がモンスターを難なく倒せるほどあれば、こう思い悩む必要はなかったかもな」

「ぐはっ!」

 

フォローの言葉をかけられたかと思いきや、上げて落とすがごとく実力不足を指摘されて、開闢は妙な声をあげてまたソファーの上でゴロリと転がった。

 

「ちくしょう! そんなこと俺が一番分かってんだよ! だから…」

「だから、次元を渡るこの旅に志願したのだろう? 同じ騎士見習いの彼…”宵闇”に勝つために……だろ?」

「……!」

 

黒の人物に言われ、開闢の動きが止まる。黒の人物には見せないその表情がどこか…懐かしさと感じているような、複雑な表情になった。

 

「その若さで、君に実力がないのは当たり前だ。実力なんてものは、一朝一夕では身につかない。だが、その一朝一夕の経験が、君の実力を形作るものになる。先のモンスターの戦いも、そうだ。経験に無駄なものはない」

「……」

 

顔を背けていた開闢が、ゴロリと体を回転させて向き直る。ソファーの上で横になりつつ、顔を黒の人物に向ける。ただし、当の黒の人物の顔は相変わらず真っ黒で何も分からない。

 

「これから、まだまだ色んなところを旅する。悩むのは、この旅が終わってからでも遅くはないだろう」

「…わかったよ」

 

納得したような納得してないような、半ば拗ねたような口調で答えると、ゆっくりとソファーから起き上がった。

 

「そんで…今ここにいていいのか?まだ家の修理やってたんじゃないのか?」

「もちろん途中だ。我は開闢の様子を見るために抜けてきた。君が無事なようなら、我はもう戻る」

「そうか。なら、俺も手伝う」

「……?」

 

床の剣と盾を背中にしまって、体の鎧の具合を確かめる開闢の様子に、黒の人物は首を傾げる。

 

「…体の方は、大丈夫なのかな?それに、君はあまり手伝いを好んではいないのでは…」

「今はもう体も元気だ! それに、俺だって情けないとこばかりじゃなくて…少しは役に立ちたいんだ。こんな理由じゃ、ダメか?」

「……」

「おい! なんか言えよ! なんか恥ずかしいだろ!!」

「何も恥ずかしがることはないだろう。…まあいい。ならばお言葉に甘えるとしよう。君がいれば、今日中に修復は終わりそうだ」

そういって、黒の人物は今も紫のロボットが作業をしているであろう家の裏側に向かう。そしてそれに開闢は続いて歩いていきつつ元気に叫ぶ。

「任せろ!今日中と言わず、夕方までには終わらせてやるよ!」

 

*********

 

「ふぃ〜〜〜〜……」

 

作業が一段落ついたのか、紫のロボットが額を拭う仕草をする。

 

「なんとか終わった〜。いやあ、まさか日が落ちる前に終わるなんて、嬉しい計算外ですー! 本当に助かりましたよー! もう、お客さま方には頭が上がらないです!」

 

紫のロボットは、今度は本当に頭を地につけてお礼の意思を示した。そのオーバーなリアクションに、開闢はちょっと慌てる。

 

「いやいや、これくらいは当然だからな! 今日は泊めてもらうって約束までしてもらってるし、それに…」

「騎士たるもの、民が困っているのを放っては置けないから、だな」

「こ、こらっ!俺のセリフを途中でとることないだろ!」

 

黒の人物に先を越されたことで、慌ててツッコミを入れる開闢。一方、紫のロボットは頭を上げて、機械でありながらも朗らかな様子を見せる。

 

「いや〜これだけのお手伝い、一泊だけではご恩に報いきれません! お客様さえ良ければ、何泊でもしていってください!精一杯おもてなしさせていただきますからっ!」

「ふむ…ありがたい申し出だが、一泊だけで遠慮しておこう。我々は、色んな世界と次元を見て回る必要があるのでな。長い間一所に留まる時間はないのだ」

 

丁重に断る黒の人物を見て、紫のロボットはちょっとガッカリしたように紫のツインテール部分がブラリと揺れる。

 

「残念です…。それでは、せめてご出立の時まで全力のもてなしが必要ですね! それでは早速夕ご飯の準備をしますから!お客様達はどうぞ家に戻ってゆっくり……おっと!」

 

夕飯の準備をするために大慌てで戻ろうとしたロボットだったが、何かを思い出したかのようにすぐさま二人の方に向き直った。

 

「アタシったら大変です! ご恩のあるお客様のお名前をお聞きしていませんでした! これほどお手伝い頂いたというのに、お名前を記憶回路に残せないようでは、家政婦として失格です! すみませんっ!もしよろしければ、お名前を頂いてもよろしいでしょうかっ!?」

「…確かに、ここに至るまで我らは名乗りをしていなかった。これはこちらも失礼だったな」

 

それを受けて、改めて黒の人物は紫のロボットに向き直る。もちろん開闢も、ゴホンと喉の調子を整えてから

 

 

「我は”異次元の案内人”。次元を旅するものであると同時に、依頼を受けて活動するフリーランスの渡航者でもある」

「俺は、王より称号を賜りし”開闢の騎士”! …まだ見習いだけど! それでも俺は、最高の騎士の称号である”カオス・ソルジャー”になるため、この旅をしている!」

 

 

「次に来るときは、プランキッズとかいうモンスター達なんてイチコロにするくらい、俺は強くなってるからな!」

「…あ、あの〜…確かに彼らはちょっとアレですが、イチコロにされるのはちょっと困りマス…」

 

 

そんなカッコよくも困るような宣言の最中、家中に散らばっていたプランキッズがその様子をコッソリと見ていたことは、黒の人物…もとい、案内人を除けば誰もいなかった。

 


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