戦闘シーンってすっごい難しい……戦闘の流れは変えませんが、随時更新してより良い文章にしたいものです。
紅蓮の炎、全てをなぎ払うような紅蓮の閃光が、彼らの目に入った。
木原数多とステイル=マグヌスの間を遮るように現れたソレは、木原数多の放った射撃を容易く掻き消した。如何に学園都市製の消火器といえど、摂氏3000度の炎の巨人を消火する機能は無い。それどころか、通常の水なら水蒸気爆発によりここら一帯が吹き飛ぶ可能性すらあった。それがなかったのは魔術の特性か学園都市の技術の賜物なのかはわからないが、木原数多の思考はそこには無かった。
「……おいおい、なんなんだこりゃ」
(いままでの炎とは違う。火力もそうだがこいつは明確な形を持ってやがる。なにかしらの芯を燃やし続けているようだが、それが何故この温度で、この形を保っていやがるんだ? 念動力者の介入か? いや、それならそれを直接俺にぶち当てりゃいいだけだ。さらに言うなら、この火力で最初から来れば、俺に一撃食らわせることも容易いはず……なんでわざわざ人型の巨人を燃やして、それを防御に回してやがる……?)
考えるほどに解せない展開である。先ほどはステイルの思考を読みきり、その裏をかいた木原数多だが、魔術という存在を知らない以上、この炎の巨人を解析することは難しい。攻撃を止め、炎の巨人を眺める木原数多。対して、ステイル=マグヌスの表情は険しかった。
(まさか、魔術師でもない相手にこれを出すことに……いや、これは2度目だったかな。)
(とはいえ油断はできない。目の前の相手は僕を”炎使い”と認識した上での装備で来た。ということは、あの特異な右手の少年との一戦は見られていると考えたほうが良い。つまり)
対策済みの可能性がある、という思考に至るのは半ば必然であった。あの戦いでは見せていない蜃気楼すらもその場で看破されたのだ。十中八九、なんらかの手を打ってくるはず。だがその対策がどのようなものかを、ステイルは想像することができなかった。
実際には対策など存在しなかった。上条当麻とステイルの一戦は、あらゆる監視網(
(もしあの火力が直接攻撃に使えない、すぐに展開することができない類のものだとすると、だ。その条件はあの長ったらしい符号……呪文みてぇなものがキーってことか。あとは)
工場全体に散らばった奇妙なカード。
(さっきはアレからも炎が出てきたんだったな……蜃気楼にも必要なアイテムだった。こんだけ大量に撒いといて、全部が全部さっきの蜃気楼のために撒いたダミーってこたぁねぇよな)
少ない情報からの分析を試みる。
(うかつには手を出せない。
(とりあえずあの変なカードを撃っとくか? ……いや、数的に無理があるか。それに撃たれて即消えるようならあんなもんそもそも使わねぇ。てことは)
誰が止めたわけでもない、数秒の空白。
先に動いたのは木原数多だった。
木原数多の取った行動はシンプルだった。炎の巨人を迂回しステイルの側面に回りこみ、そしてその銃口を向ける。ただしその一連の動作が、通常の3倍以上の速度で行われた。
(どんな手品か知らねぇが)
「がら空きだァ!!」
本体への直接攻撃。それが木原数多の出した結論だ。
「くっ……!」
もちろんそれは、想定の範囲内である。ステイルが恐れたのは、ステイルの知らない科学技術でもっての
『
「ちっ……」
(まさかとは思ったが、アレが動くのかよ。それもかなり正確な動き……あの発火能力者以外に、遠隔操作型の
あるいは。目の前の能力者が発火能力者ではないのか。という思考を木原数多は一瞬思いつき、そして否定する。これだけの火力が、なにか別の能力の副次効果でしかないなど悪い冗談のようなものだ。超能力者の第1位はともかく、第2位なら可能かもしれないが、資料でみた写真と目の前の男はまったく似ても似つかない。ならば、精神系能力者による思考の移植……あるいは薬品、あるいは機械といった、なにかしら外部からの手を加えて、
確かにそういう技術は存在する。門外漢だが、そういった研究をしている『木原』を、木原数多は知っている。だが、そういった研究は未だ実用圏内ではなく、試験段階のものではなかったか。別に、隅から隅まで研究の進捗を把握しているわけではないが、この技術は誰彼構わず振るえるような代物ではない。次に、
つまり、目の前の男は、誰かしら『木原』の息がかかっている可能性が高い。あくまでも可能性、だがその可能性は、木原数多を激昂させるには十分な事実だった。
「ふざっけんじゃねェぞ!!」
木原数多は吼えた。足を止めて、無駄だとわかっている射撃を木原数多は繰り返す。だがその全てが、『
狙いが
その目標は、壊れにくそうな木原の外れ者。
『木原』において実験は、「実験体を壊すことで、その限界を研究することが第一歩」と言われている。その結果壊されてしまった『木原』だって存在するし、それが間違いだと思ったことは木原数多自身、考えたことすら一切無い。
科学の悪用、目的のためなら手段は選ばず。それが木原一族である。だが今回の場合、実験体は木原統一ではなく目の前の、炎の巨人を操る男。
木原統一という個人は、とりわけて必要な素材ではない。
いくらでも替えが利く、実験におけるただの部品。
欠陥品と称される
それ以下の、火を点ければ捨てられるマッチ棒のような存在。それが今回の木原統一という標的の存在価値だった。
(……それ以外だと、後は俺の反応を見るためってのがあんのかァ!?)
「だとしたら、
自分の子は天才だと思った。
教えた事は全て吸収するその頭脳。周りのどの子供より賢い姿を見て、父親として鼻が高いと微塵も思わなかった、といえば真っ赤な嘘である。
そして驕らなかった。周囲より優れていても、未だ目指すべき上がある。そのうちの一人が自分の父親だと言ってくれた。純粋なまでに知識を吸収し、そして自分を慕ってくれる息子という存在。
そんな存在に、木原数多は明確な愛情を見せたことはない。愛情、というものの存在を木原数多は信じるどころか考えたことすらなかった。自分を継いでくれるような、自分のいた痕跡のような天才児の存在を、木原数多は好意的に見ていたことだけは確かだった。
ある日、自分の息子が『木原』に当てはまらない事に気がついた。待てども待てども、その性質が発現しないのだ。
どこまでも合理的に実験を行い、どこまでも理性的に科学に向き合う性格。
特に科学を悪用しようなんてことは考えない。
どれほどの知識を有しても、所詮はそれ止まり。きちんと知識を与えればその分伸びるが、それ以上は決してない。
科学を愛してはいるが科学には愛されていない。
8歳を過ぎた頃、本人もおそらくだがソレを自覚し始めたようだ。だからと言ってどうすればいいとか、明確な対処方法は存在しない。
日進月歩、学園都市で日夜進む科学技術を、木原統一はがむしゃらに学んだ。
悪用、と言うには木原の尺度では生易しい程度だが、それなりの悪意ある実験に取り組んでみた。
誰よりも先へ、と常に新しいことに挑戦するも、そのどれもがことごとく失敗に終わった。
それは、ただの悪あがきだった。
そして10歳を過ぎた頃、木原統一は悪あがきをやめた。
正確には止めさせられたというのが適当かもしれない。素養なき木原につぎ込む資金など存在しないのだ。
そして荒れに荒れた。父親に当たり身内に当たり周囲に当たり散らすその姿は、見るに堪えないものだった。
そんな木原統一を、周囲は意に介さなかった。白い目で見られるというレベルではない。木原以外の有象無象、気にかける価値すらこの少年には存在しない。
木原一族と言えなくなった存在を、木原数多は見ていた。後継として、科学者として、『木原』としての価値が無くなった息子に対する感情は、揺らぐことはなかった。
怒涛の連続射撃も、ステイルの顔色を変化させることはない。それどころか一種の安堵を感じていた。
(苦し紛れの攻撃……それ以外になにかしらの目的がある可能性は否定できないが、もし違うのなら)
「いくぞ、『
相手の高水圧射撃も、『
炎の巨人の出現により、この場における攻守は逆転していた。
「
先ほどまでとは違い、防御にまわる必要はない。ステイルの手から炎の一撃が放たれ、それを木原数多は射撃で打ち落とす。
その直後、木原数多の身体を横からはたくように『
(こいつ、射撃の硬直を……!?)
直撃すればどうなるかなど論じるまでも無い。あの炎の巨人の温度は手元の計器で測定済みである。対火服など意味を成さない。防御など論外。
間一髪、身体を伏せる事でその攻撃を回避する。もし当たっていればどうなるのか。それを体現するかのように、なぎ払いの射線上にあった金属の柱はバターのように削り取られた。
まるでハエを叩くかのように、更なる追撃が木原数多を襲う。真上からの振り下ろすような一撃に対し、
不自然な体勢からの急加速。木原数多の身体が悲鳴を上げた。
「
炎の巨人の一撃をかわした瞬間に来るのは、その主の一撃。
(単純に手数は倍以上、向こうは逃げも隠れもする必要がねぇってか……!)
視界の端で、炎の巨人が腕を振りかぶるのが見える。あの男の一撃を消火器で迎撃する余裕は無い。かわすしかない、と両者の攻撃が当たらない方向に飛んだ木原数多の選択は間違いとは言えなかった。
たとえ目の前に、炎の海が広がっていようとも。
『
ルーンの起爆による脱出ルートの封鎖。木原数多には逃げ場は無かった。
耐火服を通して、熱が身体に伝わってくる。焼け死ぬ前に木原数多は、持てる全てを総動員して周囲の炎を鎮火させた。
(耐火スプレーは品切れ……足もそう長くは持たねぇ……ってことは)
短期決戦しかない。そう判断した木原数多はステイルに向かって走り出した。
『
足が悲鳴を上げるが、そんなことに構っている余裕は無い。目の前には既に詠唱を終えたステイルが炎を放とうと待ち構えていた。迎撃射撃で足を止めれば、背後の炎の巨人の餌食となる。避ければその後の攻撃は炎の巨人によるガードが間に合うので仕切り直しとなり、この特攻は意味を成さない。
目の前に広がる火炎に対し、木原数多は銃口を向けた。だが足を止めなかった。木原数多は迎撃、そして回避という選択肢を捨てたのだ。
銃口から霧状射撃が噴出したが、ステイルの火炎を完全に消火するような能力は無い。結果として、半減した威力の火炎を木原数多は真正面から受けることになる。
熱を帯びた空気が迫ってくる。木原数多は息を止めた。
目をやられれば終わりである。木原数多は目を腕で覆った。
先ほどとは比べ物にならないような熱が、木原数多の全身を襲った。
常人ならパニックを起こし、その場で転げまわるような状況である。
だが木原数多は今、熱による痛みを感じてはいなかった。
炎の中から飛び出し、ステイルの目の前に姿を現す。
服は所々溶けて火傷した皮膚が露出している。間違いなく重傷である。
だがそんなことも意に介さず、木原数多は目の前の男を睨みつける。
「誰のガキに手ェ出してんのか……」
ステイルの顔に驚愕の色が走る。まさか、あの温度の火炎の中を、走り抜けてくるとは考えもしなかった。
「わかってんのかこのクソ野郎がァ!!」
怒りに燃えた男の、発条包帯で強化された脚力が乗った蹴りが、ステイルの身体に突き刺さった。
「ぐ……ッ!」
膝をつく木原数多。炎への特攻、発条包帯を利用した身体の酷使。身体へのダメージは限界に近い。だがそれと引き換えに放った一撃は、まさしく必殺の威力を秘めていたはずだった。
「ッ……」
ステイルはまだ立っていた。その顔には苦悶の表情を浮かべているが、戦闘不能の状態とは程遠いように見える。
別段、彼が何かをしたわけではない。蹴りを両腕でガードこそしていたが、その一撃が本来の威力を発揮していた場合、ガードの有無に関係なくステイルは昏倒していたはずだった。
(ここにきて……時間切れかよ……)
発条包帯による強化の限界。ここまで無理をしてきたツケが、よりにもよってこの瞬間に訪れたのだ。弱体化したその一撃は、ステイルの右腕に鈍い痛みを残すだけで終わってしまった。
(折れて……はいない。せいぜい骨にヒビが入った程度かな)
炎を突破しての物理的な一撃。その光景に、見覚えが無くもないステイルだった。
勝敗は決した。木原数多にはもう、『
「
『
「なっ……!?」
工場跡地、その入り口に、彼女は立っていた。
Index-Librorum-Prohibitorum 通称、禁書目録
魔術師から逃げていたはずの彼女が、自分からステイルの下へ足を運んでいた。
「やっぱり……あの人払いは、ここに誰かを誘い込むための罠だったんだね」
魔術師の存在を感知したインデックスは当初、自分に狙いをひきつけつつ撒く予定だった。だが、展開された人払いを見て、狙いが自分ではないことに気づいたのだ。自分ではない、上条当麻でもない第三者。人払いによる誘導が効いてしまう一般人が襲われていると知って、インデックスは居ても立ってもいられなくなり、この場に姿を現してしまった。
「くっ……
「
木原数多へと放った炎が、見当違いの方向へと向かい、天井の付近の梁に直撃する。
「今のうちに逃げて!」
(彼女の強制詠唱を打ち破る術は……あるにはあるが今はダメだ。それに、魔術がことごとく妨害される現状であの男が攻撃してきたら、防ぐ術がない……!)
木原数多は満身創痍だが、動けないわけではない。修道服の童女の乱入により、今はかなり混乱している状態だが、手元の消火器の銃口をステイルに向け、引き金を引くことぐらいはできるのだ。
ならば、ステイルの行動は一つしかない。禁書目録に走り出しながらステイルは何か呪文を唱える。
ボッ、という音とともに、建物内に貼られたルーンのカードに火がついた。入り口に走りこむステイルが唱えたのは、ルーンの一斉起爆を起こすものだったのだ。
次の瞬間、莫大な音の渦が炸裂した。一つ一つの爆発の規模は小さいものの、壁、床、天井、柱。至る所に貼られたルーンの同時爆発は、その建物を倒壊させるには十分な一撃だった。
木原数多「丸焦げなんだが」
木原幻生「替えならあるぞい」ニッコリ
超電磁砲最新刊を読んで、「あれ、今後の展開変えなきゃ……」ってなったのがすごい痛かった……上条さん人間やめてましたね。幻生さんも人間やめちゃったらしいですが、今後本編、外電にどう関わってくるのかが私、気になります。
拙い文章ですので、バシバシ指摘お願いしますです。