この作品を全ての書き手と読み手へ贈ります。
自らの覚悟と共に。

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エタ作品世界に完結を。

「大罪人よ。何か弁解はあるか」

 

 気付いたら、荘厳で美しい神殿のような場所にいた。

 巨大な純白の柱が無数に並び立っているが不気味さは感じず、神聖な印象を受ける。

 そして、目の前には白い髪と赤い目が特徴的な少女が、純白の服に身を包み、法壇のような物に座っていた。手には木槌…確かガベルと言うのだったか…を持っている。

 あれ?そもそも私は死んだはず、だよな…?

 となると、ここは天国か地獄?

 いや、目の前の少女の言葉を考慮すれば…

 

「弁解と言われましても…「大罪」というものに覚えはないのですが…」

 

 …これは死後の魂を振り分ける「裁判」なのだろう。そして彼女は恐らく。人間の視点で、既存の言葉に当て嵌めるならば、「神」や「天使」または「閻魔大王」に連なる存在なのだろう。

 「天国」と「地獄」という単純な仕分けなのか、幾つもの「地獄」がある仕様なのか、「転生」に直結するのか、という詳しい事は分からないけれども。

 そして、今は私の人生には「大罪」があったという話のようだ。

 自分で言うのもなんだが、私は品行方正で遵法精神に溢れた青年だった。特に誇れる取り柄もなかったが、罪だけは犯したことは無かったはずだ。

 なので、「大罪」やら「弁明」と言われてもピンとこない。

 

「自覚も無し、か。ならば教えてやろう。お主が犯したのは、人類史上においても最大級の罪である」

 

 え?まじで?

 そんなに大きな罪があるの、私は?

 殺人やら強盗やら一般的に「罪」とされる事は絶対にしてないよ?

 

「お主、エタったじゃろ?」

「………はい?」

 

 …ん?今なんて?

 なんか、この超常存在の口が、およそ似つかわしくない言葉を紡いだ気がしたのだけれど。

 私の聞き間違いか?

 

「お主は!お主が創り、投稿していた作品を完結させぬままに放置し!ついには続きを書くこともなく人生を終えたであろう!」

 

 ありゃ、聞き間違いじゃなかったっぽい。

 どうやら、私の「大罪」とは「エタり罪」のようだ。

 「エタる」という言葉は、「永遠」を意味する「eternal」が語源とされ、「永遠に完結を迎えない作品」を指すのだったか。

 確かに、私は小説家を目指し、創作小説を小説投稿サイトにUPしていた時期がある。

 けれど、その作品は未完結で更新を止めた。私がこうして死んだ以上、天地がひっくり返っても更新されることは無い。仮に死んでいなくても、絶対に更新はしなかっただろうけれども。

 だって、あの作品は――

 

「あんな作品を…あの程度の駄作をエタらせたことが、そんな「大罪」なのですか?」

「自らを!自らの創り出したモノを卑下するのを止めよ!その性根、姿勢こそがお主の抱える最大の罪に他ならん!」

 

 何を言っているのか。

 確かに。私の作品をそこそこの人数が読んでくれていて、最初は嬉しかった。寄せられる感想に狂喜乱舞したさ。批判的なコメントでさえ嬉しかった。誰かが読んでくれること、何かの声を寄せてくれること、それだけが嬉しくて。

 けれど、書籍化なんて夢のまた夢で。

 いつしかスランプのような状態に陥り、面白い話が書けなくなって。話の内容に比例して寄せられる感想が落ち込み、辛辣な感想も増えて。

 そこに追い打ちをかけるように、作品の根幹に関わる設定の破綻・矛盾…いわゆる設定崩壊を見つけてしまった。当然、書き直す意欲が湧くことも無く、最終的には「エタる」ことになったのだ。

 だらだらと言い訳しているが、結局のところ、私は夢破れた憐れな敗北者に過ぎない。

 言うなれば、アレはエタるべくしてエタった駄作だったというだけ。それを――

 

「お主の作品をどれだけの人間が楽しみにしていたと思っておる?そして、そうした多くの人々が更新されなくなった事実にどれだけ落胆したと心得るか?」

 

 ――それを罪だと、貴女は言うのか。

 なんだろう。この気持ちは。自分の中から何か強い感情が溢れてくる。

 自らを「罪人」と言われた怒り?違う。

 自らが「大罪」を犯した悲しみ?違う。

 これは負の感情ではない。もっと別の暖かな――

 ――違う!

 アレは間違いなく失敗だった!駄作だった!

 馬鹿な夢を追いかけた憐れな人間の惨めな歩みだった!

 

「それが…「人類史上においても最大級の罪」だと言うのですか?殺人よりも重いとは思えませんが」

「それはお主たちの価値基準、社会体制、法制度に則った考えであろう。お主らの物差(ものさし)で我らを語ろうとするでない」

 

 自らの胸の奥に沸く正体不明の…どこか懐かしい感情から目を逸らし、私は精一杯の反論を行う。

 すると、良く分からない答えが返ってくる。

 

「どういうこと、ですか?」

「一切の命を奪うことなく生きていくことなど、不可能とまでは言わないが、あまりにも難度の高いことであろう。食事は他の命を糧とする行為。自らの血を吸う虫を潰すのも命を奪う行為じゃな」

 

 ……正論かもしれない。

 ベジタリアンだって植物の命を奪っている。

 もっと言えば、生きて呼吸をしているだけで、私たちの肉体に備わった優秀な免疫機能は、空気中の細菌やら微生物を「殺す」だろう。

 真の意味で何の命も奪わないというのは、産まれる前に死んでしまった命だけかもしれないな。

 

「命とは奪うもの。そして、我等の視点においては人間の命も虫の命も植物の命も全ては当価値。ならば、たかだか数名の命を奪った程度では大罪とまでは言えぬのじゃよ」

 

 そして、もしも人間だけを特別視せず、総ての命を平等に見る視点があったとしたら。その視点からすれば、「殺人」という罪が重要視されないのかもしれない。

 

「あくまで我らの判断基準において、ではあるがの。お主らの社会体制がどう判断するか、お主ら個々人が如何な感情を抱くかは別の話じゃ」

 

 確かに、その通りなのだろう。

 あくまで「罪」を「罪」とするのは、私たち人間の抱く「感情」であり、築いた「社会」であり、教えられた「倫理」・「道徳」であり、定めた「法」でしかない。

 その「罪」を罰するのもまた、同じ人の手によって為されるべきなのだろう。

 ならば、目の前の存在…存在たちにとっての「罪」とは何なのだろうか。

 

「されどな、確かに命とは奪うものじゃが、生きるとは生み出すことでもあるのじゃ。生の価値とは、奪ったものに見合うだけの何かを生み出したかどうかで決まるのであろうよ。少なくとも我らは、そう考えておる」

 

 なるほど。

 生きて何かを為すこと。「命の輝き」こそが彼女たちの尊ぶものなのか。

 

「そんな中でお主は何をした?」

 

 あぁ、そういうことであれば。

 

「お主が書いた物語は、たとえ僅かな人数であろうとも、誰かに笑顔を与え、夢や希望を与えたかもしれぬ。お主の作品によって生きる活力を得た者もいたかもしれぬな」

 

 疑いようもない。

 私の為したことは――

 

「お主はそんな想いを踏みにじったのじゃよ。それは「罪」であろう?」

 

 ――「罪」だ。

 けれど、何だろう、この気持ちは。

 さっき必死に目を逸らした感情が…とっくの昔に錆びついた感情が溢れ出てくる。

 

「私に…私に何が出来るんですか」

「その言葉を待っておったのじゃ。大罪人よ」

 

 この感情は、投稿を始めて直ぐの頃。

 ブクマ数が「0」から「1」に変わった時の。

 初めての感想が送られた時の。

 評価点数を始めて付けてもらった時の。

 その時に抱いた感情だ。

 たった1人でも読んでくれる人がいる。応援してくれる人がいる。評価してくれる人がいる。そういう悦び。

 人気とか、評判とか、ランキングとか、そういう何もかもを抜きにした純粋無垢な喜びの感情だ。

 私が作品をエタらせたことが、「大罪」であるのならば。

 それだけの価値が、アレにはあったということ。

 少なくとも、目の前の存在はそう考えていて。

 そしてきっと。かつて応援してくれていた…もしかしたら今も更新を待ち続けているかもしれない誰かも、「罪深い」ことだと考えてくれるのだろう。

 それは嬉しい事だ。嘘偽りなく、嬉しい事だ。

 だから。

 死んでしまった身だけれど。

 何かが出来るのならばしたい。償いをしたい。

 

「お主は、今から作品世界に転生し、かの作品を完結させよ」

「作品世界?転生?…そもそも完結と言っても、あの作品は設定破綻があって」

 

 作品世界に転生…そういう内容の小説は読んだことがあるので、一応の理解はできる。

 だが、そもそもの話、私の作品には重大なプロット上の矛盾、「設定破綻」が存在しているのだ。完結など不可能で…。

 

「じゃから、お主がそれを何とかするんじゃよ。暗躍して、全ての破綻に辻褄を合わせるのじゃ。存在する全ての矛盾を潰せ」

「あ、なるほど…」

「大罪人よ!この旅路の終わり、作品世界の完結をもってお主への「罰」とする!さぁ、贖罪を為せ!」

「…はい!」

 

 続きを待ち望む誰かのために。

 設定崩壊したエタ作品世界を成立させる旅路が始まった。

 


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