日本とは違う異世界、神聖エルダント帝国に作られた日本式の校舎には、エルフやドワーフ、貴賤の垣根は取り払われて、一つの教室で日本のオタク文化を熱心に学ぶ子供たちの姿があった。そして、俺こそが日本政府よりオタク文化の伝道師として白羽の矢が刺さった、加納慎一だ。
「今日の授業は、二次創作についてだ。みんなも知っているとおり、本校の目的は娯楽の少ないこの世界でみんなが今学んでいるオタク文化を理解することによって文化を継承し、卒業生から創作活動を始める者を適性に応じて支援する枠組みを作ることです。そして、喜ばしいことにこちらの想定よりも早く二次創作を自発的に始めた生徒がちらほらと現れるようになったので、みんなで二次創作について学ぶ機会を作ろうと思ったわけです。ここまでで分からないことなど質問がある人は、挙手をしてください。……はい、どうぞ」
「二次創作ってなんですか」
「ではまず、『二次』と『創作』に言葉を分けましょう。創作には、新しく作るという意味があります。そして、二次には、二番目という意味があります。二次創作の類語には一次創作、三次創作とありまして、一次創作はそれを作る際に参考にした物が無い、独創から生まれた作品のことを指します。同じ意味で言葉を変えると、これを『原作』と呼びますね。つまり二次創作とは、原作の設定を参考にして生まれた作品のことを指します。よくある誤用として、二次元や三次元と混ざって使用する人がいますが、三次創作は二次創作を参考にした物を指すので注意してください。例を挙げると、この小説がまさに三次創作となりますね。そして、登場人物が知るはずもない作者の事情などを語らせることをメタネタと呼び、嫌いな人はとことん嫌いな諸刃の剣なので、創作に興味のある人は覚えておきましょう」
「はーーい」
「とまぁ、そんな二次創作なわけだが、もっとも大切な絶対のルールが一つある。それは何か分かるか?グループで話し合ってくれ」
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「熱量、かな?」
「大好き!!って気持ち」
「原作との整合性、好きなキャラが勝手に殺されちゃたまらんでしょ」
「……理論武装」ボソッ
「うんうん、みんなよく考えたいい答えだな。先生の用意した答えに迫っているものもあるが、それも包括した答えが『原作のリスペクト』だ」
「それは、ギャル言葉の『まじリスペクトなんですけどっ』の、リスペクトですか?」
「そうだ。今年のトレンドをよく勉強しているな、偉いぞー」
「でゅふっ……えっへへへ」
「リスペクトの精神、つまりは本来なら聖書の如き原作に蛇足な解釈で汚してしまうような書くことすら畏れ多い行為をいつも見逃していただいてありがとうございます。原作者様の文章と比べればこんな駄文ではございますが、卑しくも閉じコンで楽しまさせていただきます。という、二次創作をする際に好ましい心の持ち方だ!」
「そこまで卑屈にならんでええわッ!」スパーーン
横で控えていた古賀沼さんの、全力をもって俺の頭へと振りかぶったハリセンが美しい弧を描き、小気味良く音を立てた。
「このように、ツッコミキャラを一人は用意しておくと、強制的に話にオチがつくので便利です。さらに発展した話で、小説は緩急がとても重要になるのですが、オチがついた前後は読者が油断するので、ここに伏線を仕込むとより効果的になるぞ」
一息ついてから腕時計をちらりと確認して、俺は授業の進行を優先することにした。
「リスペクトとは、原作者とそのファンの方を不快にさせない配慮の気持ちが大切ということだな。ここで言う配慮とは、原作キャラの個性を守ることのウェイトが高いな。分かりやすい例を出すと、竜騎士07さんは話し言葉でキャラの個性を書き分けるのが上手で『おっはよ~ぅ』と『おっはよー』の違いだけで、同じキャラを書いたつもりでもピントの合い方が全く違うだろう?これが一人称の『私』と『僕』ぐらいの大きな違いだったら原作ファンの逆鱗にもなりうるので、特に注意が必要になるわけだな。……時間が余ったので、ちょっとしたテクニックの一つ、さっき少しだけ触れた緩急の話をします」
A「寝ている間に、お腹を開いて内臓を交換しました」
B「!?」
A「なーーんちゃって!冗談です。てへっ☆」
B「焦ったわコノヤロウ」
「このような一連のやりとりがあったとします。これだけだとAのお茶目で話が終わりますが、その前後にBが腹痛を気にする描写や怒りっぽくなっている自分に驚いているBの描写を入れると、ここに違う視点が生まれます。人は内臓が変わると分泌されるホルモン量が変わり、血の巡りも変わってきます。つまり、Aの冗談が真実の可能性が示唆されていることになります。こうして前提が変わってくることを話の大筋で活かせると、より面白い話になりますよね。ただし、分かりやすく伏線を回収しないと誰にも気づいてもらえず、ただの自己満足で終わるので注意しましょう。本日の授業はここで終わりです。起立、礼」
「「「ありがとうございました」」」
「ありがとうございます」
〇〇を教えるスネイプ先生シリーズの形式が天才的で、オマージy……こほん、パクりたくなったのでヤった。(人工的な光は遠く砂漠の夜の空に煌めく星屑のように澄んだ瞳)