「あなたの前に動物用の檻があります! その中に猫は何匹いますか?」
唐突に藤原千花はそう尋ねる。生徒会室にいるのは光夜とかぐやと藤原のみ。石上は生徒会に残る事を白銀に伝えていたが、光夜とかぐやには決して聞かれないようにするために生徒会室とは離れた場所で会話している。
「いきなりどうしたんだい千花?」
「心理テストですよ光夜君! 図書館から借りてきたんです! この質問に答えるだけで光夜君の深層心理がくっきりと分かるんですよ!」
心理テスト、それはバーナム効果を基にするものだが娯楽として、話題としては非常に楽しめるものである。
「それで? 何匹でしたか?」
かぐやは二人に背を向けながらもその会話の一言一句を聞き逃さないように耳を澄ませていた。光夜は特に何も考えずに素直に答える。
「うーん...三匹くらいかな?」
「普通すぎて面白くない回答ですね。その数はあなたが欲しい子どもの数みたいです。九匹とか多かったら面白かったんですけどねー」
「いや、九人とか多すぎて流石にそんな人はいないよ千花」
白銀、この場にいないのは賢い選択である。光夜は結婚の事など考えた事もなく、その回答が自分の本心に合致しているのかを確かめる手段はなかった。
「(三人! 上の子は男の子がいいわね! 次の子は女の子が! X染色体とY染色体の特性の違いを利用すれば難しい話ではないわ!)」
かぐやは一人、妄想の世界へと旅立った。その顔がにやけてとんでもない事になっているが、二人に背を向けていたので顔を見られる事はなかった。
「じゃあ次の問題いきますよー!
貴方は今、薄暗い道を歩いています。その時、後ろから肩を叩かれました。その人は誰ですか?」
「薄暗い道...一体何を暗示しているのでしょう?」
かぐやは何も分からないような発言をしたが...
「(きましたね! 47ページ目の2問目! その答えは...好きな人を暗示している!)」
嘘である! かぐやは藤原の事を本人以上に理解している。図書館にこの本が入荷する前からこうなる事を予想しており、既にかぐやはこの本を完全に暗記している。
「(この問いで私が光夜と答えれば! きっと光夜は私の事を意識するはずだわ!)」
毎度の事ながらこれもかぐやの仕込みである。かぐやの目的は光夜に自分が異性だと意識させる事。今回の心理テストもそのために利用しようと考えている。好きな人、という問いで自分の名前を言われれば嫌でも光夜は自分の事を意識するだろうと彼女は考えた。
「私は──」
「姉さんかな。千花、姉さんが見えたよ」
が、かぐやは答える前に光夜に先を越されてしまう。
「(え!? それってやっぱり光夜は私の事...!)」
「私も...」
光夜の回答に頬を染めながらも、私も光夜でしたよと答えるつもりだったができなかった。そう、彼女は気づいてしまったのだ。
「(これってまるで告白みたいじゃない!)」
策士策に溺れる。心理テストの答えを知らなくてもかぐやは間違いなく光夜と答えただろう。そしてその答えを知らなければ何も恥ずかしがる事なくかぐやは思惑通り答える事ができた。
だが、かぐやは既に答えを知っている。覚悟を決めたとはいえやはり、かぐやはかぐやなのである。
「わ、私は藤原さんでしたよ...」
答えを知っていたためにかぐやは自滅した。
「答えはあなたが好きな人です!」
「(まあ合ってるね)」
光夜は好きな人、を恋愛ではなく親愛であると解釈した。かぐやの狙いはついに完全に失敗したのである。
──────
「では次の問題です! 私も答えたいのでネットで探しますね!」
これによってかぐやのアドバンテージは完全に消滅した。だが先ほど答えを知ったが故に失敗したかぐやはどこか安堵の表情を浮かべていた。
「じゃあいきますよ!
無人島にヤシの木が一本あります。そのヤシの木の下には何個の実が落ちていますか?」
「(まるで答えが読めない! ...素直に答えるしかないですね...)」
「私は実は何も落ちてなかったですね」
「あ! かぐやさんもですか? 私も0個でした!」
かぐやと藤原の答えは一致した。残る回答者は光夜だけである。
「うーん...自分は一個かな。一個だけ落ちてた」
光夜だけがかぐやと藤原とは回答が異なった。
「じゃあ答えを見てみますね〜! えっと答えは...あなたの過去の恋愛回数のようです! 光夜君〜既に初恋は済ませているようですね〜」
ニマリと笑った顔で藤原は光夜を見た。藤原は初恋をまだした事がないため0個。そしてかぐやは初恋はしているが当然それは現在の恋。過去の恋愛ではないため藤原と同じく0個。では光夜は一体何なのか?
「(え...。そんな...光夜は一体誰を...)」
かぐやは絶望という表情を見せた。
「いや、全く身に覚えがないんだけど。そもそも人を好きになった事ないし。所詮どこまでいったところで心理テストだからね。あまり真に受けないでよ」
藤原に揶揄われても光夜は何一つ動揺しないでそう答えた。彼が嘘をついてる様子はなかった。
「ま、それもそうですね〜。じゃあ次の問題いきますよ!」
その後も心理テストは続いて、かぐやも策略なしに楽しんだ。
......心理テストは当たっている。
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