「早坂ー!」
「何ですかかぐや様。それからあまり大きな声を出すと光夜様に聞こえますよ」
「うぐっ」
従者の指摘を受け、押し黙るかぐや。が、廊下がバタバタとする音は聞こえない。
「(光夜には聞こえなかったみたいね)」
ホッとかぐやは息をつく。これからする話は光夜についての話であり、彼がいては話にならないからである。
「(最近、光夜の周りに仲のいい女狐が増えたわ。四条の娘に昨日の中学生)」
かぐやはその中学生が白銀の妹である事を知らない。
「早坂。もうあまり猶予はないの。光夜に異性として認識されるためにはどうすればいいのかしら」
「普通に告白したらいいと思いますけど」
「それじゃダメなの! もし失敗したら今の関係さえ壊れてしまうかもしれないのよ!」
「(そして今告白しても関係が壊れてしまう未来しか想像できない!)」
かぐやは決意を固めた後で色々と頑張ったもののまだ全然自分が異性として見られていない事を自覚していた。
「そういえばかぐや様。なんだかんだ言って光夜様と二人でデートした事ないんじゃないですか?」
「えっ...い、いやそのデートなんてまだ早いんじゃ」
「じゃあ私から光夜様を誘ってきますね」
「待って早坂!」
誘うにしても乙女のプライドがある。
「...私から...言ってきます」
「かぐや様...」
早坂は自らの主人の成長に感激していた。
「光夜、ちょっといいかしら」
ノックをし、返事が返ってきたため光夜の部屋に入るかぐや。顔は何もないよう平静を保ってはいるが手は抑えられない緊張で震えていた。
「明日、何か予定はあるかしら? なければ行きたい場所があ...あるのだけど」
途中から緊張で頭が真っ白になるが、事前に何十回もシミュレーションを繰り返した事で反射的に最後まで言葉にする事に成功する。後は光夜の返事を待つだけだ。
「あー...ごめんかぐ姉。その日はちょっと用事あるんだよ...ごめん」
かぐやの決死の覚悟の誘いは失敗に終わってしまった。
「ちょっとその...痴情の絡れで」
「えっ...」
かぐやは石化を受けたかの如く固まってしまった。
──────
「あ、すみませんお待たせしました眞妃さん」
今日は以前約束した事を果たす日であった。だから光夜は最愛の姉の誘いも渋々断ったのだ。
「(先約は大事だしね)」
光夜は白銀を連れて待ち合わせの喫茶店に入店、先に席に座っていた眞妃と合流した。
「あ、こちら知ってると思うけど生徒会長の白銀御行先輩。そして彼女が四条眞妃先輩です」
「光夜。彼とはクラスが一緒だから知ってるわよ」
「あ、そうだったんですね。それはすみません。えっと今日は...恋愛百戦錬磨の御行先輩に恋愛で悩んでいる眞妃先輩の事を聞いてもらって、何かアドバイスを頂けないかと」
光夜と眞妃が楽しく話す中...
「(あ、それアカン奴や...。前回は咄嗟に思いついた壁ダァン! で何とか乗り切ったが今度は同級生相手に乗り越えないといけないのか...)」
身から出た錆。そして白銀は壁ダァンがきっかけで失恋したという嫌な記憶も思い出してしまった。
「私が好きな翼くんと渚は確かに付き合ったけど...でも学生時代の恋愛なんてすぐ終わるわ! 最後に彼が私の隣にいてくれたら...それでいいのよ...」
後半、耐えきれずに涙目になったが眞妃は最後まで言い切った。
「翼くんとは結構いい感じだったの。このままいけばあと少しで告白されたのよ!」
尚、翼氏は最初から柏木神狙いだったのでこの指摘は外れている。
「なのに! 彼にあんな事を伝えたやつのせいでっ!」
光夜、この時点で朧げながら何かを察した。
「あんな事?」
「壁ダァン! とかいう変な技よ!」
「!?」
「二人が付き合ったのはまだかん...見守るとしてもそいつだけは許せないわ! 光夜! 白銀! 一緒にそれが誰か探してくれるわよね?!」
二人はそのあまりの衝撃に眞妃が監視と言いかけた事にツッコミを入れる事すらできずにいた。
「「......」」
光夜、白銀。共に押し黙るしかない。
「急に捲し立ててごめんなさい。そもそも二人に説明なしで壁ダァン! なんて言っても分からなかったわね。まあ所謂壁ドンのパクリだけど」
「「えっ」」
「(え...御行先輩...あれパクリだったの?)」
「(え...あれ既にあったの? 俺の発明じゃなかったの?)」
眞妃の話を聞いた二人はそれぞれ異なった理由であったが驚嘆していた。が、白銀にはそれよりも大きな課題がこの瞬間、新たに増えた。
「(俺の発言で四条が...。だとしても今馬鹿正直に俺がやったと言ったら...)」
四条は四宮の親戚である。何の拠り所もないような庶民の白銀など如何様にもされるだろう。
「(それに俺をれ...恋愛マスターとして見てくれている光夜の期待を裏切る訳にもいかない)」
そもそも自らの嘘を素直に打ち明ければいいのだが...白銀の思考はそちらには向かなかったようである。こうして三者がそれぞれの思惑を胸の内に抱きながら話は更に進んでいった。
「そういや白銀も恋愛した事あるの?」
「当たり前だろ。俺は振られた事がない」
「(さっきちょっと疑っちゃったけどやっぱり御行先輩は恋愛マスターだね!)」
白銀の発言は嘘ではない。彼は数日前まで四宮かぐやに対して恋をしており、また告白した事もないため振られた事もないのも事実である。
深い尊敬も抱いている事によって白銀に対してチョロい光夜は、その発言を何も疑いもせずに受け入れた。白銀、光夜の期待を裏切る訳にはいかないというミッション、クリア。
「さっきも言ったけど高校生の恋愛なんてお遊びよね? すぐに別れるよね?」
「大半はそうだろうな。まだ未熟な学生の間は相手をよく見る事ができない。付き合う内に相手の嫌な部分はどうしたって見えるだろう。その時にどう思うか、だろうな」
尚、この情報は白銀父が頼んでもないのに妹の圭もいる夕食時に話した事をそのまま言っているだけである。
「(ありがとう親父!)」
白銀は人生で初めて、下らない父親の妄言に感謝した。
──────
一通りの話し合いも終了し、三人は解散した。が...
「...なんで光夜じゃなくて俺だけ...」
一旦別れた後、白銀は眞妃に誘われ二人でまた別のカフェに入ったのである。白銀の心中は穏やかでない。
「(やばいやばいやばい! もしかして壁ダァン! の事か?! 気づかれたか?! そうか...この後黒塗りの高級車とかに連れ込まれるんだろうな...。親父...圭ちゃん...元気でな)」
白銀は死期を悟り、己の終焉を受け入れた。
「ちょっと、何つっ立ってるのよ。後ろの人の迷惑にもなってるわ。早く座りなさい」
「えっ、あ、ああ。すまない...」
が、予想に反して眞妃が怒ってるようには見えない白銀であった。
「(考えてみれば俺をどうにかするのならこんな人目がつく場所に誘う必要はないな)」
「で、どうしたんだ?」
テーブルに腰掛け、そして注文した飲み物が届いてから白銀は話を切り出した。
「あんた、光夜が恋愛マスターだ、って言ってたけど本当は違うんでしょ?」
「!?」
「(バレた?! なぜだ?! 俺は何もヘマはしていない!)」
白銀は自分の事を客観的に見ることができていない。
「(おい! 四条はクラスメイトなんだぞ! 俺が恋愛の経験値もない状態で恋愛マスターを自称して同級生の恋愛相談を受けていたなんて知れたら...クラス全員から...)」
お可愛い事
「(四宮に言われるよりダメージデカすぎんだろ!)」
白銀、絶望のあまり顔が真っ青となる。
「ちょ、ちょっと待って! 別にだからって私どうこうしようとかそんな事思ってないし!」
眞妃は白銀の顔面の色変わりから持たれた誤解を解消した。その言葉を受け、白銀の顔色に血色が戻ってくる。
「...ちなみにどこで気づいたんだ?」
「...失恋した人には同じ失恋者を嗅ぎ分ける能力が身についているのよ」
眞妃は虚空を見つめながらそう言った。
「で、白銀は一体誰が好きだったの? 私だけ知られるのもおかしいから教えなさいよ」
「断る」
眞妃は自分と同じ失恋者である事から先ほどまでより白銀に対して多少親近感を抱いていた。自分と同じ失恋者ならば相手が誰かも知りたいのは当然の事である。
「(と言っても白銀とは学校でも話さないしあいつが誰と親しいとかも分からないわね...)」
今日、光夜に紹介されるまで彼と彼女の間には一切の接点がなかった。故に眞妃が出せる答えの選択肢と言えば...
「白銀、生徒会長よね。まさか叔母さまとか? まああり得ないでしょうけど」
眞妃の想定した返ってくる答えは「お前、何言ってるんだよ」という笑いながらの否定であったが...
「......」
「えっ...嘘でしょ?」
俯く事しかできない白銀の姿を見て、全く適当に出した答えが正解である事を眞妃は悟った。
──────
「でも御行もかなり難しい恋したわね。多分私より難易度激ムズよ」
そこまで本気で聞き出すつもりはなかったが眞妃は白銀が好きだった人を知ってしまった。そして知れば知るほど今の置かれた立場があまりにも自分と似ている。こんな苦しみは自分しか味わってないだろうと思っていたところにできた初めての仲間。彼女が白銀を下の名前で呼ぶには十分だった。
「四宮の姫...あ、叔母さまの事ね。四宮の姫は弟好きって結構有名な話よ。光夜の方は聞かないけど」
少なくとも四宮とその親戚の間では有名な話であった。四宮内部の事を知らず、光夜が一方的に追放されたと思っている眞妃ですら知っている情報なのだから。
「で、御行はどうするの? まだ叔母さまと光夜は付き合ってないしまだ手遅れだなんて事はないはずだけど」
眞妃と白銀の違いはそこにある。眞妃の場合は既に意中の相手が別の女性と交際に至っているのに対し、白銀は違う。尤も、かぐやが自分の事を好きではないという事。それから勘違いではあるが一度フラれてもいる。かぐやとの交際可能性が天文学的に低い確率である事は疑いようもないだろう。それに...
「最近考えて...分からなくなったんだ」
白銀は壁ダァン! 騒動、そして羞恥淫騒動の後、自分の気持ちについてずっと考え込んでいた。妹の圭に気持ち悪いと言われるほどには。
「俺はこの学校で何か一つでも誇れるものを作りたかった。そしてそれは俺の場合...勉学だった。当時の学年一位はアイツで...当然四宮は俺の目標になった。...強く憧れた」
彼女のようになりたい。自分もあのような人間に近づきたいと白銀は本気で思い、赤子が親の仕草から学ぶように、武芸者が達人の技を盗むように、かぐやの事を見続けていた。そしていつしかその気持ちが初恋なのではないかと気づいた。だが...
「あれが本当に恋だったのかも分からない...」
話し始めたのは去年の生徒会から。決して短くない時間だ。しかし2年生に進級して光夜が生徒会に加わって、かぐやはよく笑うようになった。
「知らなかった...。俺は四宮のあんな表情なんて今までに見た事もなかった」
それは思春期の、しかし年相応の悩みと言っていいものだった。白銀も普段学校では虚勢を張っている。多少の無理をしたとしても。しかし眞妃の前ではなぜか本心から自らの言葉を紡ぐ事ができている。眞妃が白銀に親近感を抱いているのと同じように白銀もまた、眞妃の事を仲間だと思っていた。
中3の時点で既に氷のかぐや様が溶かされてる事によって白銀はかぐやの氷時代を知りません。よって原作のような運命的な出会いはしていません。
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来年からの生徒会長
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