今作時点ではかぐやは幼稚園年長の5歳。そして光夜は4月2日生まれなので学年は違えど同じ5歳です。この段階ではかぐやはまだ氷のかぐや様は形成されていません。
幼少期かつ親しい人間とみなした相手といる時のかぐやは大人になった時のかぐや(アホ)に近いものだと考えてます。
またこの前後には雲鷹に預けられていると思いますがある理由によって本邸で暮らしています。早坂と出会ったのもこれよりもうちょっと後という設定です(大した伏線ではないけど)
「しゃ、社長! 今日はそこまで差し詰まったものは...」
そこは東京に置かれた伏見の本部。まだ一学期が終了した訳ではなく学校もまだあったが光夜はここに足を運んでいた。
「まだ社長は高校生なんですから。学生らしく......は難しいかもしれませんが。平時は私達だけでまわせますし」
「ありがとう石川さん。でも夏休み入って数日はちょっと予定が入ってね。その分を前倒しでやらないといけないんだ。勿論何か緊急性の高い案件だったら帰ってくるけどね」
石川と呼ばれた男、二十代という若さながら光夜の仕事面での補佐、並びに多方面に展開している事業の管理の責任者でもあるこの男は主の学生らしからぬ生活が心配であった。
「それに自分で望んでやってる事だからさ」
光夜は度々怠惰な男であると評されるがそれは生来の気質ではない。育った環境が自然とそうさせてしまったのだ。彼がまだ四宮光夜であった時は今とは正反対で彼は怠惰とは程遠い好奇心旺盛な少年であった。
「して、その予定とは?」
石川は職務に戻り、書類を片付けながら尋ねる。
「夏休み入ってすぐにね、生徒会のみんなで旅行に行くんだ」
特に隠す必要もない光夜はその問いに答える。
「生徒会......というと姉君も?」
「勿論、姉さんもだよ」
『伏見』の中でも上役に近い石川は当然光夜の旧姓も会社設立の経緯についても知っている。
「で、行き先は?」
「青森県の恐山」
「恐山?!」
当然の事ながら聞き返してしまう。少なくとも学生旅行の行き先としてマイナーな場所である事に間違いはない。藤原が提案し、光夜が乗っかった事で決定したこの行程。光夜と藤原の二人旅など認められないかぐやは当然参加を表明し、また当時かぐやの事が好きであった白銀も便乗した。後にこの話を聞いた石上は行き先にこそドン引きしていたが生徒会メンバーで思い出を作りたいという理由で参加する事となった。
「(でもかぐ姉すごく張り切ってたなぁ)」
かぐやは怖いものが嫌いなので恐山にはあまり行きたくなかったがしかし光夜がこう考えたのにも理由がある。どう考えても藤原に旅行の計画は任せられないと考えた光夜は、言い出しっぺな事もあり計画も準備も自分で行うつもりだった。しかし何も言ってないのにかぐやから「宿の手配は私に任せて頂戴」と。光夜はこれを......
「(なんだかんだでかぐ姉も楽しみにしてくれているんだね!)」
と好意的に捉えた。尚、厳密に言えば外れているがかぐやが楽しみにしている事自体は当たっている。
「(あ、あともう一人女子を誘って、とも言われてたね)」
言うまでもなくこれもかぐやの策略である。光夜の女友達、交友関係を完全に把握するためという目的
「(って言っても旅行に誘える女子なんて二人しかいないよね...)」
早坂は近侍という立場が生徒会メンバーにバレないようにするため選択肢からは外れる。尤も、光夜とかぐやを守るために尾行という形で参加するのだが。
つまり光夜に残された選択肢は伊井野ミコか四条眞妃しかない。
「(伊井野は却下だな。あいつ、異性で旅行とか聞いたら鼓膜が破ける勢いでキーキー騒ぎそうだし)」
後日...
「あ、眞妃さん。ちょっといいですか?」
「光夜じゃない。どうしたの? 突然」
昼休み。いつものように中庭でイチャイチャする柏木と田沼翼の様子を物陰に隠れ、涙を浮かべながら監......観察していた眞妃を光夜は捕まえる。
「夏休みに入ってすぐに生徒会の皆で旅行に行くんですが......眞妃さんも来ませんか?」
「ふぅん。私を誘うのね。殊勝な心がけじゃない。で、どこに行くの?」
「恐山です」
「行くわけないじゃない!」
かぐやと同様、怖いのが苦手な眞妃は条件反射で反対する。
「...ちょっと待って光夜。生徒会のメンバーって......おばさまも行くの?」
「勿論です」
「(え、待って。おばさまは行くのに怖いから私は行かないって......それっておばさまに負けたみたいになるじゃない!)」
尚、かぐやは恐山自体は依然として怖いと思っており、できる事なら行き先変わらないかなぁと未だに本気で思っている。
「(生徒会メンバーって事は御行も来てるのよね? 光夜もいるし。夏休み入ったら相談とか気軽にできないわよね...)」
そこまで考えた上でふと、眞妃はイチャラブを繰り広げている柏木と田沼翼の方を見た。いつまでも未練たらしく見続けているが自分の想いが報われる事はきっとないのだと。同じ
そして眞妃と柏木は親友。それは想い人を取られたとて変わらない事。つまり眞妃は田沼翼との交際を半ば諦めた後でも自分の好きな人と親友がイチャイチャするところを近くで見なければならない。
今、眞妃が最も欲しているのは......
──悟り──
「ねえ光夜。恐山って修行場よね?」
「え? そうですけど」
「行くわ」
「えっ?」
「だから! 恐山行ってやる! って言ってるのよ!」
半ばヤケクソだった眞妃だが......しかしこれで光夜はかぐやからの指令を達成する事ができた。
──────
「ようやく明日だね」
眞妃の参加も取り付け、そして残り少ない一学期を過ごしていき、ついに終業式も終えた。既にかぐやは明日からの行程のために眠りについているが光夜はまだ寝つけていない。遠足の前日の小学生のような微かな不安と、そして高揚感が今の光夜を支配している。
石上のように生徒会メンバーで出かけたいという理由だけでない。かぐやのように好きな人と旅行を楽しみたいという訳でもない。行き先が恐山でなくてもいいと考えた二人とは違う。しかし藤原のように軽い気持ちで恐山に行きたい訳でもない。
恐山。そこは死者と語り合える場所。
人間には理解もできないその奇跡に対して、「常識的に考えてあり得ない」とオカルト扱いして嘘だと断じる人もいる。が、光夜はそれに分類される人種ではなかった。常識など全く当てにならないと思っているからである。
太陽が地球の周りを回っている事が常識であるとされた時代もあったし、夫に先立たれた未亡人が夫を焼く火の中に飛び込む事が常識であり素晴らしいとされた地域もある。そう、常識とは時代や地域によって全く異なり、固定された意味や価値を持たないという事は歴史によって証明されている。
だから光夜は常識によって物事を否定しない。仮に嘘だとしてもそれは自分の目で直接見て判断すればいいだけの事。光夜にはそれをするだけの能力が備わっている。
それに我々がこの世界の理を完全に理解できている訳がない。ならば、我々の今の常識が追いつかないほどの現実が存在していたとしても何もおかしくはない。世界というのは広いのだ。
光夜には語り合いたい死者が存在する。それは......既に亡くなった両親だ。幼い時に亡くなった父には亡くなった真相を聞きたいし、母にはもう自分を心配する必要はないという事を伝えて安心させたい。
──────
──11年前。四宮本邸にて──
「それで? 家が燃えたという事で
鋭い目つきを来訪者に向けるのは四宮家総帥の四宮雁庵。
「ご、ごめんね? やっぱり迷惑だったかな?」
その視線には慣れており何も動じる事なく返すのは四宮
「いや...迷惑ではない。またこの家に住むがいい」
蛍庵の代の兄弟は雁庵と蛍庵しかおらず蛍庵も次期当主候補であった。が、四宮蛍庵は四宮の人間らしくない人物であった。自らに雁庵ほどの能力がない事を認めており、また非情さを兼ね備えていないために四宮総帥を受け継ぐ事はできないと理解していた。故に当主候補を自ら辞退した。兄弟で無益な骨肉の争いを避けるために。
が、それでも四宮家中では蛍庵を推す声も存在した。能力が雁庵に及ばないと言っても十分すぎる実力は備えていたし、非情さがないという事は自分達が切り捨てられないという事だから。それを察知した蛍庵は最低でも雁庵が当主を相続し、確固たる地位を構築するまでは家を出るという決心をした。
家を出てから数年が経ち、隣に座っている四宮
「で、そっちは......光夜か」
「そうだったね。兄さんは光夜とは初めて会うのか」
雁庵は光夜に視線を移すと途端に物凄い眼力で光夜を見た。光夜はその視線を向けられ驚くも......しかし目を逸らさずに雁庵の視線を受け止めた。
「(儂の視線に気づいておらぬ訳ではない。その上儂の視線に耐えるか。いや、そんな事よりも...)」
四宮雁庵という男は多忙を極める。針月が光夜を出産した時も日本国の首相との食事会で向かう事ができなかった。そして雁庵が家族のために高確率で時間を割く事ができる機会は一月の元日と八月のお盆の時のみ。が、光夜が狙い澄ましたかのように体調を崩したり雁庵の急用などで光夜が5歳となった今まで雁庵は甥と顔を合わせる機会がなかった。
「まあいい。光夜は確かもう誕生日を迎えて5歳だったな。まだ誕生日は迎えてないから歳は同じだが一つ学年が上の従姉がおる。年の近い親戚同士、話でもして来なさい」
とても自分の娘の事を語る父の姿には思えなかったがしかし光夜は一礼し、従者に連れられて会った事のない親戚の部屋へと向かう。
──────
四宮かぐやは愛を知らない。母の記憶はなく、父と話した記憶もない。本邸には自分と年の近い子どももいない。ただ毎日を自室にて過ごすだけ。そんな時、家の使用人がやって来る。
「失礼します。かぐや様、今お時間大丈夫でしょうか?」
その声に答え、かぐやは自室の扉を開ける。
「(あら?)」
よく見る本邸の使用人の隣に立っていたのは......よく鏡で見る自分の顔に瓜二つの少年。
「彼は雁庵様の弟君、蛍庵様のご子息の光夜様です。ですのでかぐや様からすれば従弟という事になります。お年も近いですのでもし時間がよろしければ雁庵様と蛍庵様のお話が終わるまででも光夜様とお話して頂ければと──」
「勿論いいわっ! さっ光夜! 入りなさいっ!」
使用人の言葉を最後まで聞く間もなくかぐやは光夜を自室へと招き入れた。
「その......かぐや...様?」
「様付けなんてしないでいいわよ! 私達従姉弟って言ってたし...姉弟のようなものじゃない!」
元来人見知りで初対面の相手を自分の心の中に迎え入れるなんて事はしないかぐやであったが......
「じゃあかぐや......さん」
「光夜は意外と頑固者なのねっ! まあいいわ!じゃあそうね......私のベッドにでも座ってくれる?お話しましょ?」
かぐやの部屋は勉強机に椅子、ベッドとシンプルなレイアウトであり、既にかぐやが椅子に腰掛けているため他人が腰を下ろせるスペースは一つしかなかった。
「あっ、でもそうだとちょっと距離が遠くなるわね。そうだわっ!私も隣に座る!」
自宅では布団が使われており、ベッドをジロジロと観察しながら腰掛ける光夜の隣にかぐやはちょこんと座る。視線がベッドの方を向いていた光夜はいきなり至近距離でかぐやと顔を合わせる事となり、女の子に対して免疫がない光夜は顔を赤くしてしまう。
「あらあら顔を赤くしちゃってっ!光夜ったらおかわいいことっ!」
揶揄われた事に気づいた光夜はやり返そうと......しかし自分の免疫能力では何もできないと悟り、せめてもの抵抗としてかぐやに背を向ける事しかできなかった。
「(あら?)」
しかし後ろを見てしまったせいで耳まで赤くなってる事がかぐやにバレてしまう。
「(もう少し揶揄いたかったけど......それをしたら光夜も困るわね)」
数年後には氷のかぐや様と呼ばれ、他人に対しての高い攻撃力と一度弱みを握ったらとことん追い詰める残虐性を併せ持つようになる四宮かぐやであるが、この時はまだ年相応の女の子であった。
「光夜。後ろを向いてたら話せないわ」
そしてこのかぐやの猶予が光夜に冷静さを取り戻させる時間を与えた。通っていた幼稚園でも男の子としか話さない光夜は単純に女の子への免疫がなかっただけ。この一瞬でかぐやに一目惚れした訳ではない光夜は冷静さを取り戻した。
「ごめん、かぐやさん。初対面の相手でちょっと緊張しててね」
「姉弟じゃないっ!緊張する事なんてないのよ!」
それからも四宮の人間らしくない、取り留めもない年相応の話が続いた。それは一般的に何気ない日常の一コマへと風化するような大したものではなかったがかぐやにとっては初めて他人と日常を共有できた瞬間であり、この時交わした言葉の一言一句は今でも全てかぐやの胸に刻まれている。
──────
その日から四宮蛍庵、針月、そして光夜が四宮本邸に住み始める事になったが......程なくして光夜の天才ぶりが家中に知れ渡るようになる。将棋、チェスを教われば程なくして光夜にルールを教えた使用人を負かしてしまった。子どもだからと手加減して負けてしまった事を受け、今度は本気で臨んだ使用人だったが......またも負けてしまった。
そしてその後、雁庵の長男であり光夜からすれば従兄にあたる四宮黄光すら負かされてしまった。たかが将棋と思うかもしれないが、しかしルールを理解したばかりの幼稚園児が四宮次期当主候補筆頭に頭脳戦で勝利した事が問題なのだ。将棋に加えて光夜はパズルやスポーツにおいても秀でた成績を残した。
家中の中でも「もしこの子が成長したらどんな子になるのか...」と期待する者すら現れた。
四宮蛍庵は年の離れた雁庵の実弟ではあったが雁庵の後は雁庵の三兄弟の誰かが(高確率で長男の黄光)相続すると誰もが考えていた。しかし雁庵の血が繋がった甥である光夜の能力が知れ渡った事でこの構図に変化が生じ始めていた。
四宮三兄弟は無能ではなかったが(一名除く)現当主に比べて見劣りするのは間違いない。そしてそれを雁庵と同等かそれ以上に相続できる可能性がある人物が......現れてしまった。四宮三兄弟が光夜に相続させないための謀を巡らせる事は......火を見るより明らかであった。
そして光夜が将棋で黄光を負かしてから一年も経たぬ内に......光夜の父である蛍庵が死亡した。雁庵の仕事を手伝う際の交通事故とされたが、ここは陰謀が張り巡らされてる四宮本家である。むしろ誰かに暗殺されたと考える方が自然だ。......が、証拠などありはしない。仮に四宮三兄弟による暗殺だったとしても四宮の下手人が証拠など残す訳が無い。
そして本家内で光夜の母である針月に対する計画的で組織的ないじめが始まった。しかし幼い光夜は母が苦しんでいる事とその原因が分からなかった。無論分かったとしても何も経験がない光夜が四宮三兄弟を政治力で出し抜ける訳が無い。将来に光る才能という希望があったとしても。
理性において何も分からなかった光夜だが小学校に上がり、成長するにつれて本能的に自分の実力を隠すようになった。十で神童十五で才子二十過ぎれば只の人という諺があまりに有名だが、結論づけると家中の人間も四宮光夜もそういう類いのものかと納得する人間も現れ始め、相続問題は解決した。
が、四宮三兄弟(次男を除く)は光夜が意図的に実力を隠しているところまでは見抜けなかったが自分達の脅威たり得る存在とは認めていた。はっきりと脅威になるかは分からないが、その可能性が微々たるものでも存在する限りは潰す。それが彼らの選択であった。
そして光夜が小学校高学年になる頃には......光夜の母は壊されていた。
──────
「だから! もっと気合いを入れなさいって言ってるの! この世界は弱いものは食い尽くされるしかないの!」
針月は最早四宮で生きていける状態になく、光夜を連れて四宮を出た。光夜も姓を母のものに変えて四宮との絶縁を示した。母は......もう以前の母ではなかった。針月は一歳年上の姉を持つ二人姉妹であったが父は家族に暴力を振るい、母も別の男と夜を過ごすようになり家に帰ってくる頻度がどんどん減るようになるような育児放棄。中学を卒業した時に姉に連れられ家を出た。
姉は中学を卒業したと同時に夜の街で働くようになった。自分の生活費まで稼いでくれた姉に針月は頭が上がらなかった。自分も中学を卒業したら姉のように働こうと考えたが......しかし全力で止められてしまった。ならばその分の恩返しを、今度は自分が姉を助けるためにと針月は我武者羅に勉学に勤しんだ。姉が夜の街で働くためには教養が必要なようで、そこでも針月は姉を支える事ができていた。
針月も働くようになり姉妹はお互いに支え合いながら、質素ながらも充実した日々を送っていた。そして針月は蛍庵と出会い結婚した。
針月の能力は非常に高く、弱者はただ踏み潰されるのみという四宮の現実を前に強引なやり方を使ってでも光夜にあらゆる方面の能力を仕込んだ。が、あまりにその厳しさは限度を超えていた。あの光夜ですら耐えられなくなり幾度となく母親から逃げようとした。針月の精神は既に四宮家でボロボロになっていたのだ。
光夜が秀知院の中等部に進学した時、母が病に倒れた。父の遺産があったため生活に困る事はなかったのが不幸中の幸いであったが。この頃になると光夜はもう餓鬼ではなく、幼少期の思い出を冷静に分析する事ができていた。なぜ母が虐げられていたのか、その原因についても。そして光夜には両親以外にも四宮家で大切な人間ができた。
──姉である四宮かぐやである──
が、思い返せば彼女も本家では冷遇されているように思えた。無論母ほどではないが。母が元々四宮家の人間でなかったため家を抜け出す事で四宮の濁流から抜け出す事ができたが姉であるかぐやはどうなのか? 逃げ道などあるのか? 四宮家当主の血を確かにひく存在であるかぐやは四宮三兄弟にただ道具として使われるのでないか......?
その考えに至った時、光夜に採るべき道が開けた。
「(かぐ姉が四宮家で何かあった時に逃げれる場所を。そしてそれは四宮家からの干渉を防げるほどの強力なものでなければならない)」
──────
伏見光夜が四宮光夜であった時、家中でその能力が評判だった時。日本を動かすと言っても過言ではない財閥の四宮家であるためその情報は富裕層を中心に広まっていた。自分が思うより四宮光夜の名前は売れていたのだ。当然、名前が売れれば光夜に会いに行く人間も増え......人脈も広がった。光夜は事業を開始する前からアドバンテージを得ていた。
人間が平等で公平な存在であるという話は嘘である。一見、万人に対して平等に見える『時間』ですら平等ではない。何か事業を興す時も、準備のための資金集めから始めなければならない人もいれば資金、環境、従業員までが全て揃った状態でスタートできるような人もいる。
光夜は他者とは違い圧倒的な人脈というアドバンテージを得ていた。
「光夜君......今は伏見光夜君だったね」
光夜が対面したのは橋本と言い、一代で零細IT企業を大企業にまで成長させた男である。光夜と対面した際、その実力の片鱗を見抜いた切れ物でもある。四宮は巨大すぎる勢力だ。同じ土俵で争っても新興勢力に勝ち目はないだろう。しかし四宮家が歴史ある伝統を大切にしている事からIT業界など新規事業に関しては他分野よりも弱い。
光夜はまずその部分から手をつけようと考えた。今、光夜が欲しいのは有能な人材である。ただ、人脈があり有名だとは言え、現状ただの中学生である光夜に協力する人間など少ない。目の前の橋本でさえ従業員を貸し出すなんて真似などするはずがない。
「(発想を逆転させるんだ。比較的いらないと言われている人材なら獲得できるはず)」
だとしても無能な人材は必要としていない。無能ではなくしかし会社から窓際にさせられてる人材......性格に難があったり協調性がなかったりなど個としては優秀だが組織の一員としては機能しないような人材。
「橋本さん。もしよければ彼をうちで雇いたいのですが」
「彼? 確かに実務能力は高いけど......うん、いいよ! その代わりこれから何かあったらよろしくね!」
「ありがとうございます」
会社とすれば厄介者払いができて四宮家から『怠惰の天才』と呼ばれた者と誼を結ぶ事ができる。......断る理由もなく橋本は首を縦に振った。光夜はあちこちの企業を渡り歩いて同様の交渉を行っていき......人材を集めた。その中には将来彼の側近を務める石川も含まれる。
こうして光夜は協調性がなかったり気難しかったりと問題は抱えているがしかし一芸には秀でていたりする優秀な人材を手に入れる事ができた。
「儂は自分の仕事に妥協はできん!」
自分の仕事に誇りを持つ職人気質が強すぎる前田という社員は、元の企業では周囲と自分の熱量に差を感じ、周りの人間に怒鳴り散らかして厄介者扱いをされてきたが『伏見』では基本一人で職務に対して集中してもらい、チームを組むとしても同じ熱量を持った人間と組ませる事で彼に仕事に全集中できる環境を整えた。
「今日は何だかやる気出ないんだよね〜」
やる気がある時は無双の如き働きを見せるがやる気がない時はサボり魔へと変貌し、周囲にも悪影響を与える村田という社員に対してはできる限りやる気が出るよう環境の設備に尽力し、やる気が湧かない時には職務に就かなくても良いようにした(当然他の社員にはバレないよう細心の注意を払った)。いつやる気スイッチが抜けるか分からないため緊急性が高い職務や恒常的な職務には就かせられないが、やる気スイッチがオンの時に難解な単発の職務を完璧に遂行するなどして会社の成長に多大な貢献を果たした。
村田と違い、常にやる気がなく隙有らば楽しようとする前原に対しては、職務をどうすればより楽できるか、効率的にできるかといったシステムを考えさせ、少ない人員ながらも最大限のパフォーマンスを発揮できる事ができる『伏見』の基礎を築いた。
不良品はほんの少し扱い方を変えるだけで化け、そしてその扱い方を光夜は熟知していた。中学生がつくった『伏見』は各界から有能ながら窓際に追いやられた人材を集めては大きくなり、そして企業闘争に打ち勝って相手企業を吸収したりするなどして途轍もない成長を遂げた。が、その成長を光夜は母に見せる事ができなかった。
「母さんには結局この『伏見』の姿を見せられなかったな......」
母の一回忌を前に光夜はそう漏らした。
「今なら分かるんだ。四宮を出てから......母さんは凄く厳しくて......人が変わったみたいだったけど全部息子である自分のためだったんだ......」
何度も逃げ出しそうになったり母に対して怒りを覚えた日も少なくなかったが母が亡くなってからようやく気づいた。気づくのがあまりに遅すぎて礼を言うのも手遅れだったが。
「だからこそ、父さんに聞きたい。父さんの真実を。母さんに伝えたい。ありがとうって」
光夜は一人、明日の工程に思いを馳せていた。
光夜の両親の詳しい深堀りについてはまた後で。
眞妃先輩と爺描くの楽しい()
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