「皆さん揃いましたね! それじゃあ出発しましょ〜!」
恐山に行くべく東京駅に集合した生徒会メンバープラス眞妃は予約していた切符を受け取るために窓口へと向かった。青森県の下北半島に行くために一行は東京駅からまず青森県の八戸駅まで東北新幹線で向かう。四宮、四条、伏見の人間が集まっているから新幹線や飛行機を貸し切る事など容易だがあくまで「学生旅行」を楽しみたいという考えから庶民と同じ選択を採った。
八戸駅に至る東北新幹線は全席指定席である。自由席はない。したがってその車両の座席の数を乗客が上回れば座席に座れなくなる時さえある。その場合は立ち乗り乗車券というものが配られるが八戸までのおよそ三時間にも及ぶ行程を立ち移動ではかなりの負担だ。そのために事前に切符を予約していた。
光夜達は3人席の座席を二列購入し、改札を通り車内に乗り込んだところで足が止まった。
「(私の切符と、それから光夜の切符をさっき盗み見たら私と光夜の座席が離れてるじゃない!)」
そう考えたかぐやが全員の切符を回収したからである。普段であれば自分達のグループが座る場所が決まっているのであれば躊躇わずに座る面々だがかぐやの雰囲気がどこかしら怖く、座るのを躊躇ってしまう。
「(この中で私だけ生徒会じゃないのよね......。藤原は同じクラスだけどあまり話した事はないし石上とは初対面だし......。光夜か御行が近くだったら気が楽ね)」
「何突っ立ってるの? 光夜、御行。そこ座りなさい」
「じゃあ光夜、そこ座りなさい?」
「「......」」
かぐやと眞妃は同時に発言し、そしてお互いを見る。
「(何? 分家の人間の分際で私に楯突く気? ......まさか? 眞妃さんは光夜の事が?! 絶対に譲りません!)」
「(おば様......? あ、そっか。光夜の隣に座りたいのね? 失恋した身とすればおば様を応援してあげたいけど......なんかここで譲って負けたようになるのは嫌だわ!)」
「「((絶対に譲らない!!))」」
ここに非常にしょうもない理由による恋愛頭脳戦が開幕した。
四宮かぐや......(光夜の隣を強く希望。眞妃や藤原といった女性陣が光夜の隣に座るのは絶対に阻止したい)
四条眞姫......(できる事なら光夜か白銀の隣を希望。だがそれ以上にかぐやに負けたくない)
白銀御行......(気まずいためかぐやの隣は避けたい)
石上優......(別に誰でもいいけどできる事なら気が知れた光夜か白銀が隣だと嬉しい。かぐやの隣は怖いので避けたい)
伏見光夜......(昨夜夜更かししたのでちょっと車内で眠りたい)
藤原千花......(駅弁食べたい)
──────
「そういえばおば様、光夜を隣に指名するって何か裏でもあるのかしら?」
「光夜とは姉弟です。隣に座るのに何もおかしい事はないでしょう? 眞妃さんこそ光夜や会長を隣の席に指名するとは......。同じクラスの誰でしたっけ? 彼が聴けば誤解するのではないかしら?」
四宮家と四条家が防犯の目的で光夜達が座る車両の切符を買い占めていたが、しかしその事が原因で両家の御令嬢が弁舌で争う事になるとは流石に予想できなかったらしい。
「......」
そして石上優も彼女達の争いを見てある事に気づいた。
「(この先輩もちょっと怖い! 四宮先輩みたいに怖い人だ!)」
石上優......(別に誰でもいいけどできる事なら気が知れた光夜か白銀が隣だと嬉しい。かぐや
こういう場面で第一に頼れる光夜はあまりの眠気からか先程から船を漕いでいて役に立たない。白銀と石上には恐怖の二人に介入する覚悟はない。だとすれば残すはあと一人。
「喧嘩はダメですよ! かぐやさん、眞妃さん! どうして言い争ってるのか聞き逃しちゃいましたけどそれならゲームで決めましょう! NGワードゲームです!」
NGワードゲーム。それは指定したワードを言わないように、そして他者に対しては言わせるようにする頭脳バトルである。藤原が作ったくじによって誰が誰のNGワードを書くのかが決められた。
光夜→白銀
「(御行先輩はかなり頭がいいからなぁ。多分御行先輩が言いそうな事を書いても当たらない気がする。一見言わないような事を書いて油断をつくやり方でいこう)」
白銀→眞妃
「(さっきのやり取り......四条がちょっと怖かった。それにあいつの失恋は俺のせいのようなものだし......。勝負においてわざと手を抜くのは俺のやり方に反するが......あいつが言いそうにない事を書くか......)」
眞妃→藤原
「(正直藤原の言いそうな事って分からないのよね......)」
藤原→石上
「(石上君の言いそうな事はよく分かってるんだYO〜!ゲームも楽しみたいけど早く弁当食べたいんだYO〜!石上君が私に対して思っている事を書けばきっと瞬殺なんだYO!)」
石上→かぐや
「(もし四宮先輩を負かせたら一体どうなるのか......想像しただけで寒気が......)」
かぐや→光夜
「(光夜には悪いですが負けられません)」
──────
NGワードゲームが始まった。
「じゃあ黙ってても進まないし
「ドーンだYO!」
「(ごめんなさい光夜)」
NGワードとはいわば相手の事をどれだけ理解しているかが問われている。このゲームにおいてかぐやの存在は光夜にとって天敵でしかなかった。始まった瞬間、藤原コールが鳴り、光夜は瞬殺された。
「結構本気で頑張ったけど......あ、本当だ『みんな』って書いてる。じゃあ終わったら教えてくれないかな?」
いつまでも通路に突っ立ってる訳にはいかない。とりあえず適当に着席したが(最早そのままでも良いとも思うが)、言い当てられた側はその後の会話には参加できないというルールだったので光夜は眠りに入った。
「おば様は最近何か趣味とかないのかしら?」
「(趣味......。私のNGワードを書いたのは石上君でしたね。私とかけ離れた事が書いてあるでしょうから答えるとしても私と容易に結びつけられるものにするべきでしょうね)」
「そうですね......弓道などは嗜んでおります。そういえば眞妃さんは東北にはこれまで行った事は?」
「(確か私のは御行が書いていたわね......。御行は頭がいいし私が言いそうな事を書いてるでしょうね。ただ御行とはまだ知り合って間もないからその間に交わした会話で予想できるわ。ただ今のおば様の問答じゃどんな事について書かれているか分からないわ......。危険だけどもうちょっと様子を見るべきね)」
「家の関係で勿論来た事はあるわ。......尤も恐山は今回が初めてだけど」
顔色動かさずに二人は会話を続けるが、しかしお互いが相手の情報を一つでも多く見過ごさないよう気を配っているのは明らかであった。しかし幼い頃から交渉術や社交界を体験してきた二人の心を汲み取る事は難しい。ならば別の相手から情報を入手しようと二人は矛先を別の相手に向ける。
「石上君、先ほどから黙ってますけどこのゲームで沈黙はダメですよ」
かぐやは矛先を石上に
「御行もさっきから黙ったままじゃない」
眞妃は矛先を白銀に向けた。
NGワードゲームとはつまり相手を誘導し、そして自分が言いそうな言葉を避ける事が勝負の肝である。しかし白銀と石上は......
「(俺のを書いたのは光夜だったな......。あいつは俺の事をよく知っている。俺がよく言いそうな事を書いてるだろう)」
白銀、不正解。
「(僕のは確か藤原先輩だったな。あの人予想できないんだよな。予測はできるけどそれを遥かに超える時もあるし......)」
白銀と違って石上は方向性を大きく間違えるという事はしなかったがしかし、二人の思惑は一致していた。
「「((すぐにでも敗退したい!!))」」
「俺も
「僕も普段なら
白銀も石上も日頃自分が言いそうな言葉を選んだが......しかし藤原コールは聴こえてこなかった。そんな二人の様子を見てかぐやは考えた。
「(会長も石上君も頭がいいですからね。普通なら自分が普段言いそうな事は避けるでしょうがおそらく藤原さんの反応などを見ているんでしょうね。少々考えすぎな気もしますが)」
考えすぎなのはかぐやの方である。石上が自分に対して強く出れない事は予想できたかぐやだが、白銀と石上が敗北を望んでいる事までは辿り着けなかったようである。
「
「
引き続き狙って言葉を発するがしかし、藤原コールは依然として鳴らなかった。
「
「(御行と石上、やるわね)」
「藤原さん。その紙を見てみなさい」
藤原が持っていた紙を見てみると、そこには確かに「どうして」と書かれていた。
「ヴェェェんっ! どぼじでぇぇぇぇ!!」
「(会長と石上君は自分の言葉を確認しながらも藤原さんに対して罠を仕掛けていたのでしょうね)」
誤解である。白銀と石上はそのような事など全く考えていない。ただ純粋に自らの負けを願った結果である。そして藤原の離脱は白銀と石上を更に焦らせた。
「(藤原が離脱するとなるともう俺のワードが何かを予測する事ができない!)」
白銀と石上はある種、かぐやと眞妃よりも難易度の高いゲームをしていた。一つのワードを避けて会話するのと一つのワードを特定するのでは明らかに難易度は異なる。そしてかぐやと眞妃は彼らに簡単に手がかりを残してくれるような人物ではなかった。
目的は違うとはいえ、指定されたワードを特定するという事はその勝負に絶対に負けない事を意味するのだから。白銀と石上がそのワードに対して情報を得るには藤原という手段しか残されていなかった。が、このゲームでは敗退者は議論に加わることができない。苦々しげに白銀と石上は藤原を見る事しかできなかった。
「負けたのは悔しいですけど......おべんと! おべんと!」
藤原は先程まで凄く悔しがっていたようだが気分を入れ替えたようで、車内販売のワゴンのお姉さんから事前に調べていた弁当を購入し......
「おいひぃ〜!!」
美味そうに食べ始めた。
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