新幹線の中、絶対に負けたくない四宮かぐや、四条眞妃と絶対に勝ちたくない白銀御行、石上優の4人によってNGワードゲームが繰り広げられていた。先に敗退した伏見光夜は既に眠りに入っており藤原千花は弁当を一心不乱に貪っている。
「石上の得意科目って何だ?」
「得意科目って言ってもここにいる皆さんを前にして言えるほどではないですけどね......強いて言えば数学ですかね。そういえば会長って何か得意なスポーツとかあります?」
「お、俺か? バ、バレーとかかな......?」
会話に参加していなくても話を聞いていた藤原は何を思い出したのか顔を青くした。
一見すれば白銀のNGワードはスポーツ、石上のNGワードは教科に関するものだと推察される。お互いが敗退を望んでいるという事を知っていればヒントを教えあったと考える事が自然であろう。しかし......
「(光夜と藤原が敗退した今、単独で四宮と四条の相手はしたくない! 石上、俺は絶対にお前に負けなければならない!)」
「(光夜と藤原先輩が敗退した今、もし会長が先に敗退したら僕が四宮先輩と四条先輩の相手をしなければならない事に......絶対に負け逃げさせませんよ!)」
藤原千花が消えた事で二人に協力しあう意思は消滅し、現に今、それぞれが
「(会長も石上君も相手にNGワードを悟らせないようにして追い詰めていくつもりなのでしょうね。ですが私は負けません)」
かぐやは勘違いをした。
「そういえば石上君、前回のテスト凄く成績を上げましたね。赤点ギリギリだったのに」
テストの話題を持ってくるかぐや。前回のテストでは白銀と、そして眞妃に負けた出来事であったのだがあの後、光夜にひたすら慰められ(早坂に平身低頭で光夜が頼まれた)、既に吹っ切れている。
「流石に留年されたら困るので私が教えようとも思っていたんですよ」
「そ、そうなんですね......」
「(光夜に教えてもらって本当に良かった......)」
石上は「もし四宮先輩に教えてもらっていたら......」という事をつい想像してしまい内心冷や汗をかいた。
「まったく......人に教えるならせめて一位を取ってからにするべきでしょうに......」
かぐやは爆睡して、会話など全く聴こえていないであろう光夜を見た。
「一回テストで一位を取ったものの、継続する事が難しいというのに......」
尚、かぐやは光夜が一位を取った理由が「自分がそう言ったから」である事には気づいていない。かぐやが毎回「一位を取りなさい」と言えばその通りになる事をかぐやは知らなかった。
尤も、かぐやは白銀御行や四条眞妃という人間がいる事によって常に一位を狙う事ができないためこの誤解は解けない方がいいのかもしれないが。
「そういえば光夜はどうやって勉強をさせたんだ?」
前回学年一位を陥落させてしまった白銀は依然として勉強へのやる気を失っていた。石上は客観的に見ても勉強に対してやる気を持っている人間ではない。そんな石上相手にやる気を持たせた光夜の手法に白銀は興味を示した。
「えっと、今度光夜の会社がサービスを開始するゲームがあるんですけど、光夜の講義を受けたらこのベータテストの権利をくれると......」
「......」
しかし白銀にとって、それは残念ながら何の役にも立たない情報であった。
「まあ動機はどうであれ、それで勉強のやる気が出たんならいいんじゃない? おば様達の話によれば石上も成績上げたんでしょ?」
「......はい」
苦手意識を持った眞妃から話しかけられた事で一瞬言葉に詰まったが、石上は何とか言葉を返す事に成功した。
「石上君は光夜の事についてどう思ってるのかしら。今は光夜も寝ていますし教えてくれませんか?」
「(......ッ!)」
白銀は何かに気づいた。即座に話題を変えようと言葉を探す。しかし時、既に遅し......
「光夜とは同い年ですけど......それでも凄い奴だなって......面と向かっては言えませんけど
話に参加できないでいたが二箱目のお弁当を完食した藤原はしっかりとその会話に集中していた。石上の言葉を聞き逃す事はなかった。
「ドーンだYO!」
その言葉を聞いて石上は自らのNGワードを見てみる。そこには確かに『尊敬』と書かれていた。
「(ぃよっしゃぁぁぁぁぁぁっっ!!!!)」
大喜びする石上。
「(やるわねおば様......)」
光夜の時と併せて2キルを達成したかぐやに対して素直に内心で称賛を送る眞妃。
「(私より遅かったですが、それでも引っかかってくれて良かったです!)」
自分が指定したNGワードに見事石上が引っかかった事に喜ぶ藤原。
「(さて、次は眞妃さんと会長、どちらに狙いを絞りますかね)」
もう既に心を入れ替えて次の標的を狙うかぐや。
「(Zzz......)」
爆睡する光夜。そして......
「(石上ィィィィ!!)」
石上に対して羨望の視線を向ける白銀。
残すはかぐや、眞妃、白銀の3人となり結果、白銀は到着駅の八戸駅まで敗退する事ができなかった。
光夜→白銀 (簡単)
「(御行先輩はかなり頭がいいからなぁ。多分御行先輩が言いそうな事を書いても当たらない気がする。一見言わないような事を書いて油断をつくやり方でいこう)」
白銀→眞妃 (九州)
「(さっきのやり取り......四条がちょっと怖かった。それにあいつの失恋は俺のせいのようなものだし......。勝負においてわざと手を抜くのは俺のやり方に反するが......あいつが言いそうにない事を書くか......)」
眞妃→藤原 (どうして)
「(正直藤原の言いそうな事って分からないのよね......)」
藤原→石上 (尊敬)
「(石上君の言いそうな事はよく分かってるんだYO〜! ゲームも楽しみたいけど早く弁当食べたいんだYO〜! 石上君が私に対して思っている事を書けばきっと瞬殺なんだYO!)」
石上→かぐや (映画)
「(もし四宮先輩を負かせたら一体どうなるのか......想像しただけで寒気が......)」
かぐや→光夜 (みんな)
「(光夜には悪いですが負けられません)」
──────
東北新幹線が八戸駅に到着し、一同は新幹線を降車した。
「御行先輩......大丈夫ですか......?」
白銀は屍のようであった。
八戸駅で在来線に乗り換える。一同は八戸駅から下北駅に向かうために電車に乗り込んだ。
都内では見る事がない一両しかない鉄道に一同は驚きながらも座席を探した。昔ながらの4人一塊のボックスシート。......光夜達一同は6人。つまり2人は別の席に移らなければならないという事でまた新幹線のように争──
「お、俺と石上はこっちに座るから」
「光夜と先輩達はそっちでお願いします」
もう悲劇を繰り返す事を白銀と石上は望んでいなかった。光夜達とは通路を挟んだ場所に彼らは座った。かぐやの望みは光夜の隣に座る事と眞妃、藤原が光夜の近くに座らない事である。白銀と石上の行動によって争いがなくなる訳ではないが、しかし二人が争いに巻き込まれる事もなくなった。
二人は勝利条件を満たしたのだ。
窓の外を見る。まず気づく事は東京とは生えている木が違うという事。緯度が高いからか、日頃見慣れない針葉樹林に囲まれた線路を走っていて窓の外を見るだけでも飽きる事はない。
「(冬は雪が凄いんだろうなぁ)」
今は夏。雪などないがしかし冬の光景を想像する光夜であった。
下北駅に着いた。ここからバスで30分向かえばようやく恐山に到着する。早朝早くに東京を出発したはずなのにもう正午に近い時間帯だ。光夜は新幹線の中で寝ていたため長い時間が経った事にあまり実感は持てないが。
「やっぱり便数は少ないね」
東京では見る事がないくらいに時刻表はスカスカである。
「帰りの便の事を考えれば恐山には1時間か4時間の滞在ですね」
出発前から計画していた事であったがやはり時刻表を見た時の驚きは大きかったようである。4時間滞在は長いのかもしれないが、しかし一人ではなくみんなで来ている。退屈さなど感じないだろう。
「(眞妃さんはそもそも悟る事が目的らしいし......)」
様々な考えがあったがしかし光夜達はバスに乗り込んだ。例に漏れず、白銀と石上は即座に二人席を確保し仮に争いが起こっても傍観する態勢を整えた。
恐山まであと30分。
恐山にバスで行く際は時刻表から恐山に1時間滞在か4時間滞在かを選べると思いますが大半の観光目的の人は4時間は無理だと思います。1時間でもお土産や食事を後回しにすれば十分回れます。尤も。2時間半程度のレンタカーが理想だと思いますが。
来年からの生徒会長
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伊井野ミコ