「ラブレター?」
「ええ。とても情熱的な内容で、一度食事でもどうかと」
「えー!つまりデートのお誘いという事ですか!?」
放課後の生徒会活動。生徒会室には光夜、白銀、かぐや、藤原がいた。かぐやと藤原は今日の担当の仕事は少なかったのか、今は二人で談笑をしている。男子二人は全く興味がない素振りをしていたがその話をしっかりと聞いていた。
「(ふ、四宮にラブレター?馬鹿な男もいるようだな。普段この俺を見て過ごしている四宮だぞ。俺と比較すればその辺の男など喋る雑草にしか映らん事に気づかんのか。四宮が相手にするはずがないだろう)」
白銀は全く余裕綽綽といった表情だった。
「(かぐ姉にラブレターか。可哀想だけどフラれるなー。かぐ姉に恋愛なんて全く結びつかないし多分そもそも恋愛した事ないんじゃないかな?)」
「デートするつもりなんですか?!」
「勿論です。」
「「!」」
あまりの衝撃に白銀は握っていたペンをへし折り、光夜は思考が完全に止まった。
「(血迷ったか四宮!そんなよく分からない奴の誘いにホイホイ乗るなんて!)」
「勇気を振り絞ってこんなに情熱的な恋文をくれる方です。きっと好きになってしまうに違いありません。」
「(馬鹿な!そんな事が許されていいはずがない!何とかして四宮を止めなければ!)」
白銀はへし折ったペンをテープで固定した。動揺もあるが簡易的にでも修正は完了した。白銀の反撃が始まる。
「本当に行っちゃうんですか?」
「ええ。楽しみです。」
一見ただの女子同士の恋愛話のように見えた。しかし実際には...
「(行く訳ないでしょうが。この子、脳に花でも沸いてるのかしら。誰が好き好んで慈善活動などするものですか)」
かぐやとて喋る雑草とデートに行く趣味などない。これは光夜に対してそういう意識をさせるための策略である。
「(さて、光夜はどういう反応をするでしょうか)」
かぐやは光夜の様子を覗き見る。しかし白銀とは異なり光夜は動揺してないように思える。叩いてるキーボードは一切の澱みがなく、むしろ普段よりもタイピングは早いようにも思える。
「(...やはり光夜は私がデートに行ったとしても何とも思わないのでしょうか...)」
かぐやがそう、内心では落ち込んでいるところであった。
「四宮。生徒会長として不純異性行為は許せないぞ。」
「(え?なんで会長が?しかしここで言いくるめられてはせっかくの策略が台無しに。それに会長に言いくるめられる様など光夜には見せられません!)」
「大袈裟ですね会長。たかが食事に行くだけです。それだけで何か問題になるとでも?」
「判断するのは教師だ。お前がどうしても行くというなら俺が教師に伝えておいてやろう」
「(教師チクリ?!まさか会長がそこまでして止めてくるなんて!...あら?どうして会長はそこまでして私を止めたいのでしょう?...なるほどなるほど、会長は私の事が好きだという事ですか。予想外のところで思わぬ収穫を得ましたわね。会長を屈服させるためにはいい材料となるでしょう。フフフ、お可愛い事)」
白銀、予期せぬところで自身の気持ちがかぐやにバレてしまった瞬間であった。
「(でしたらここは会長の悶絶する様を目に収めましょうか)」
「構いません。それが真実の恋であるなら退学も厭いません!私は彼に身も心も委ねたいのです!」
白銀に大ダメージ!
「(まずい!このままでは本当に四宮が行ってしまう!ここを止めるにはもう...)」
「だったらもし俺が仮に告白したら、仮にだぞ。その男の事は忘れるのか?」
「(え?!こんなところで告白ですか?!まさか会長が苦し紛れにそんな事までしてくるとは...。少し追い詰めすぎたかしら...。他に何もなければここでこっぴどく振って会長を屈服させて差し上げる絶好のチャンスでしたが...。会長は光夜とも仲がいいです。そんな事したら光夜から嫌われてしまう!...それに集団の中でそういった振った振られたの話があれば空気は最悪なものになるでしょう...。光夜との場所を憂鬱なものにはさせられません!さて...どうしましょうか?)」
「会長の告白はひとまず置いておいて」
「こ、告白とかそんなんじゃないぞ!」
「では別にそれでいいですが。そろそろ彼との待ち合わせの時間になります。どんな事があっても先約を無視するのはあまりよろしくないでしょう。それでは私はこれで」
そう言ってかぐやは生徒会室を後にする。白銀は全てを絶望した表情になる。
「かぐやさん!」
しかし白銀と違い、藤原は生徒会室の外にまでかぐやを追いかけた。
「わたしかぐやさんがだれかのものなるなんていやぁー、どこにもいっちゃいやー、ヴェェェェン」
「ちょっと!藤原さん?!」
既に生徒会室は出ている。それに大声で泣き叫ぶ藤原に多くの人が何事かと集まるのは目に見えている。
「分かりました。私はどこにも行きませんよ藤原さん。」
「ヴェェ、ボんドに...?」
「はい本当です。ですのでもう泣かないでください。」
そう言ってかぐやは藤原を宥めていた。そもそもかぐやに先約などいないのだ。ただラブレターを受け取っただけで約束などできるはずもない。しかしその事があまりの衝撃だったのか誰も気づく事ができなかったのだ。一方、その頃生徒会室は...。
「(し、四宮がデートに...)」
白銀はかぐやへの気持ちが既に悟られている事にまだ気づいてない。そして...
「(か...かぐ姉...)」
かぐやは光夜が全く動揺してないと考えていたがそんな事はない。むしろ隣の白銀より動揺度合いは高い。既に思考と行動が全く結びついておらず、その根拠としてパソコンには
「(かぐ姉に恋文を送った奴を調べなければ)」
かぐやが生徒会室を出ていくと光夜のその動揺は鳴りを潜めた。いや、動揺は依然としてしているのだが、思考と行動がようやく結びつくようになったのだ。動揺しているところに実際にかぐやがその場へと向かってしまうという更に大きな動揺を受けたことで。そんなショック療法のような、信じられないような方法で光夜は自分の意思に基づいた行動を取り戻した。
伏見光夜は実業家である。四宮家から出て行った後、それまでに築いた人脈も何もかもを駆使して会社を大きくしてきた。何かに特化したスペシャリストではなくジェネラリスト。幅広い分野で活動を始めた。
しかし時を重ねていくにつれて各分野でも大きく躍進していく。ジェネラリストであるにも関わらず、既にそれらのレベルはスペシャリストの域に至っていた。ここまで五年も経っていない。
伏見を所詮若造の弱小勢力と侮って攻撃を仕掛けた企業は大企業も含めて全て返り討ちを受け、それらを吸収しつつ成長していったのだ。光夜は同じ業界で既存勢力があったとしても攻撃を仕掛けられなければ何もしなかった事から手を出してはいけない、敵対してはならないという意味で『アンタッチャブル』と呼ばれるようになった。
四宮と並ぶまでの規模はないがその圧倒的な成長速度、そして企業闘争での無双の如き振る舞い。上流階級で伏見を注目しない者など皆無である。
伏見の持つ勢力には探偵事務所も、情報、諜報機関もある。かぐやにラブレターを送った人間を特定して、彼を一から調べ上げる事など光夜からしたら赤子の手を捻るように簡単である。
──────
放課後、生徒会活動も終わって帰宅も完了する。かぐやもその例外に漏れず自室にてのんびりと過ごしていた。すると
「な、何事?!」
ドタドタと廊下を走る音が響く。そしてその音は...こちらに向かっていた。
「かぐ姉!」
「光夜?!」
その音の正体であり、かぐやの自室にへと入ってきたのは光夜であった。
「何事ですか...光夜様?!」
「かぐ姉をデートに誘った人!かぐ姉の事何も分かってない!あの人今までにも...!」
部屋にはかぐやだけではなく早坂もいたのだが呼び名がかぐ姉である事、そしてハイテンションで捲し立てる。
「...だから...、あの人と付き合わないで!」
かぐやも早坂も目を丸くする。
「先ほど、ラブレターを下さった方には丁重にお断りをしてきました。」
「え?...えぇっ!?」
自分の思い違いに、そして自分が今何をやったのか。光夜は客観的に見ることができた。
「あ...ああっ!」
気づいたようである。
「そ、それでは姉さん。おやすみなさい。...早坂も今日の夕飯はいらないので。」
光夜は顔を真っ赤にしてからかぐやの部屋から逃げていく。
「かぐや様。」
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
本日の勝敗、かぐやの勝利
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