怠惰の天才は満たされたい   作:マイケルみつお

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あけましておめでとうございます(遅い)。新年初めての更新です。(今話執筆開始日はまだ三箇日だったのに......)
皆さんはもうかぐや様の映画観に行かれましたか?デフォルメかぐや達のところに伊井野が乱入するところがギャグシーンでは一番笑いました。

さて、今話では6話のかぐやがなぜ光夜に「誰かもう一人、知り合いの女性を誘って」と言ったのか、光夜の女性関係を把握するのもそうですがメインの理由についての伏線が回収されます。かぐやは初めからこの作戦を遂行するために恐山旅行に同行する事を決めていました。

宿の名前はフィクションですが、外観等はお高い旅館の紹介記事を参考にさせて頂きました。


20話 四宮かぐやは運ばせたい

結局イタコの口寄せはできなかった。光夜達が並んでいたイタコの腰が治る気配は全くなく、またこれから他のイタコの列に並ぼうと思えばいつ自分達の番になるかも予想もできないから。それに次のイタコも腰をやらかす可能性も0ではない。だってお年寄りだもの。敬わないと。

光夜達はまだ見ていなかったところを観光してから恐山を後にした。誰一人として話題にも出さなかったために「入るとしても後だね」と言った温泉に入る事もなく。

藤原家の使用人、影島が運転する車に一同は乗り込み山を降りていく。

 

「そういえば、これからどこに行くんですか?」

 

全体の工程を知らない石上が尋ねる。

 

「取り敢えず一回宿()に向かおうかな? って思ってます。皆さん、荷物もあるでしょうし。勿論昼ご飯とか食べてからですけどね。その上でまだ元気とかだったらどこか観光に出かけましょう!」

 

その話を聞いていた(この中では唯一の一般庶民である)白銀は「宿」という言葉に強く反応した。

 

「(俺は正直この高級リムジンに乗っているというだけで傷をつけたらどうしよう!? とか思ってるくらいなんだが......宿、か......)」

 

「......どんな宿なんだ?」

「(俺達は学生旅行をしに来たんだよな!?)」

 

白銀は宿のランクが高くない事を願う。

 

「宿に関しては自分じゃなくて姉さんが押さえてくれたので」

 

「(終わった......)」

 

白銀は絶望した。光夜も金持ちの部類に入るが幼少期に親が常識的な金銭感覚を覚えさせた事、そして四宮の苗字を捨てた時は父、蛍庵の遺産で生活に困る事はなかったものの決して裕福とは言えない暮らしを送っていた事から、ここにいるかぐや、眞妃、藤原に比べれば光夜の金銭感覚は白銀に近い。

現に彼が提案した「学生旅行」は白銀が考える「学生旅行」とかけ離れたものではなかった。最終的に助かったとはいえ藤原千花(高級リムジン)までは白銀の抱く「学生旅行」の歯車は正常に作動していた。

 

「そこまで身構えないで下さい会長。私もこの旅行が「学生旅行」だという事は分かっています。普段家の用事で使うような場所は選んでいません。所謂普通の宿ですのでそんなに心配なされないで下さい」

 

「(四宮が言うなら......)」

 

と白銀はひとまず緊張を解く。

 

 

 

 

「......これが普通......?」

 

だが四宮の人間にとっての「普通」とは、庶民にとっての高級以上であり信用してはならないのである。

 

──────

影島に送られて辿り着いた先は......荘厳な日本家屋の門構えをした旅館。敷地が広すぎるからかここからでは全体を臨む事すら難しい。

 

「これが普通......?」

 

この光景を目にしてもかぐや、光夜、眞妃、千花が驚いた様子は見えない。白銀は「自分がおかしいのか!?」と錯覚すらしてしまう。

 

「安心して下さい会長。あの人達がおかしいだけです」

 

動揺こそしなかったがこの宿が「普通」ランクでは絶対にない事、石上は分かっていた。

 

宿の名前は「黒石庵」。その広大な敷地面積を活かして客室は全室離れを実現している。建物は巨大な日本家屋の古民家をリフォームしたようなもので、まるで一つの豪邸を貸し切っているような感覚だ。この巨大な敷地が一つの集落のようである。

 

「ではチェックインに向かいましょうか」

 

動揺で膝を振るわせる白銀を置いて一同は入口から最も近い、受付がある棟へと向かった。

 

「(これが......受付......? これだけでその辺のホテル越してんだろ......!)」

 

白銀は依然として動揺を全身で表現していた。

 

「予約したのは私ですから。チェックインに行ってきますね。皆さんはここで休まれて下さい。客室は......2人部屋を三室予約しています。私が向かってる間、部屋割りを決めていてはもらえませんか?」

 

そう言い残すとかぐやはフロントの方に向かっていった。

 

 

 

 

「さて、どうしようか......」

 

かぐやに残された一同は頭を抱えていた。三人部屋二室であれば当然男女で区切り、早くに決着がついただろう。簡単に結論は出るはずだった。

しかし一同は男女三人ずつの六人。つまり二人部屋三室という事は......どこか一室は必然的に男女でペアを組むという事になる。

 

「(男の子と同じ部屋だなんて! お父様に怒られてしまいます!)」

 

藤原は顔を赤くしながらも女部屋を希望した。

 

「(男子と一緒だなんて破廉恥じゃない! 昔なら光夜と一緒なら大丈夫だったけど今はお互い成長してるし......もし、御行と同じ部屋だったら......)」

 

眞妃はつい、「もし男子(特に御行)と同じ部屋だったら......」という事を想像してしまい、藤原と同じく顔を赤くしてしまった。尚、彼女の想像に石上は登場しなかった。

 

女性陣がこう考える一方、男性陣はというと......

 

「(四宮先輩と四条先輩は論外だ。怖すぎて眠れる訳が無い。あの人達と同室になるくらいなら野宿の方が圧倒的にマシだ。少なくとも精神的平穏は守られる。藤原先輩は中身はアレだけど外面だけはいいから別の意味で怖い。それに......光夜や会長と一緒の方が僕はいいな)」

 

石上は女性陣のように顔を赤くさせるのではなくその逆、顔を青くさせて男子部屋を希望した。

 

「(四宮は言うまでもなく......藤原もだ。女性陣の中で唯一四条なら気を遣う事もないし......いや! 俺は何を考えているんだ! 失恋してすぐに他の相手に恋慕するなんて最低すぎるぞ! それに......あいつ(眞妃)にも失礼だ)」

 

白銀も石上と同様男子部屋を希望する。となれば残る選択肢は一つしかない。

 

「そういえば光夜君はかぐやさんといつも一緒に暮らしているんですよね?」

 

「そりゃあ姉弟だからね」

 

光夜のその返答によって実質的に部屋割りは決定した。

 

「じゃあ男女の部屋は光夜君とかぐやさんですかね? 何か異議がある人とかいますか?」

 

藤原が尋ねるが......しかし異議を唱える事は誰もいない。ここまで来ると事情を知る白銀、石上、眞妃は()()()()()策略の匂いを感じ取ったが......だからといって藤原の提案に首を横に振る事はできなかった。

 

「じゃあ残りは同性同士で組みましょ〜! 眞妃さん! よろしくお願いしますね〜!」

 

「え、ええ......」

 

藤原と眞妃にこれまで接点はなかったが、藤原のコミュ力があれば問題ないだろう。

 

 

 

 

「(計画通りにいったようね!)」

 

そして藤原達の様子を遠くから眺めていたかぐやは自らの策略が成功した事を悟り、唇を弧状に歪ませた。白銀達の予想した通り、言うまでもなく全てかぐやの策略である。

かぐやの目的、それは言うまでもなく光夜に「異性」として認識される事。様々な作戦を立案したが、まずは同じ客室に宿泊する事が大前提。かぐやは光夜と同じ客室に二人きりで宿泊するために策謀を張り巡らせた。

 

当初、同行が決定していたメンバーはかぐや、藤原、光夜、白銀、石上であった。この女子二人、男子三人だと光夜と二人部屋になるのは難しい。まず人数が奇数であるという事。そして分けたとしても高確率で同性の藤原と組む事になるという事。そこでかぐやは男女の人数を同じにして偶数とするべく、光夜に対して「誰かもう一人、知り合いの女性を誘って」と持ちかけた。言うまでもなく光夜の女性関係を精査する目的もあった。

こうして追加されたのが四条眞妃。かぐやはよく知る彼女が光夜に選ばれた事に一瞬憎悪しかけたものの、自分が知らない人が来た場合よりかはマシだと考え憎悪を収める。

 

「(先日の女子中学生を誘うとも思いましたが......光夜が選んだのは眞妃さん。現状では眞妃さんを一番警戒するべきね)」

 

尚、かぐやは以前光夜と話していた中学生が白銀の妹である事を知らなかった。もし圭を光夜が連れてきた場合、全ての作戦が水泡に帰していた可能性もあった。

 

そんな事は知らないかぐやは男女三名ずつで三部屋とった場合、男女の部屋は自分と光夜のペアになると確信していた。この中に交際しているカップルはいないから。

 

「(眞妃さんは当然ですが人の姿をした家畜の藤原さんも一応の慎みはあるでしょう)」

 

彼女達が自ら進んで異性と組むとは思えなかったし、白銀や石上に対しても同様である。

かぐやは全てを確信した上で、敢えて部屋決め会議に参加しない事によって作為の匂いを消し去ったのだ。

 

 

 

 

「では......私と光夜は向こうのようです。会長と石上君の部屋と眞妃さんと藤原さんの部屋は......あちらのようですね。会長、これ地図です」

 

チェックインから帰ってきたかぐやが地図を持って先導していた。受付棟を出てしばらく歩いて突き当たりに辿り着くと......かぐやがそう言った。

かぐや達の部屋はこの角を右に、そして白銀達と眞妃達の部屋はこの角を左折すると到着するようだ。

 

「やけに遠いのねおば様」

 

「人気宿ですからね。私が予約した時は既にその三室しか空いていませんでした」

 

嘘である。かぐやがそんなミスを犯す訳が無い。日程が決まった瞬間に策を実行するために宿を予約した。現に白銀達の部屋と眞妃達の部屋は隣だ。

しかし彼女達の部屋とかぐやと光夜の部屋は集落の中でもお互い対角線の位置で、最も離れている。かぐやの「邪魔を許さない」という強い意志が感じられる。

 

「(せっかくのチャンスなのに藤原さんに邪魔される訳にはいきません)」

 

かぐやの中での藤原の評価は低かった。

 

 

 

 

「お、大きいね......」

 

白銀達と別れて姉弟で歩き、客室に辿り着いた。光夜達が辿り着いたのはこれまで歩きながら見てきた客室よりも......明らかに大きかった。そして周りに他の客室も見当たらない。明らかにかぐや達の客室だけが異常だった。

 

「(光夜と泊まるのです。当たり前です)」

 

白銀、眞妃達の客室とは違ってVIPルームだった。

 

──────

「ひ、広い......」

 

普通に6人全員一室に泊まる事も可能な程の広さ。だってVIPルームだもの。

 

「(部屋も一つじゃない。これなら)」

 

「ねえかぐ姉、自分達も昔みたいに小さい訳じゃないから──」

「ベッドはこの部屋に二台だけみたいね。布団はないみたいよ」

「(しっかり仕事はしてくれたようね)」

 

元々この部屋はベッドではなく布団であったがかぐやが大枚をはたいてベッドを二台、同じ客室に用意させ、そして布団を撤去させた。重いベッドを運ばされた可哀想な男のスタッフは哀れ、ギックリ腰になったらしい。

ついでに言うならばかぐや達のVIPルーム以外の、白銀達の部屋でも3人は余裕で収容できるが......かぐやが布団を2枚残して撤去させた。こちらの担当は楽だったらしい。

光夜と同じ客室で過ごす事、そして同じ部屋で眠る事が決定した。これがサタン柏木であればダブルベッドを用意させていたとこだが......そこまでは頭が回らなかったらしい。

しかし同じ部屋で眠るなんて事、随分と久しくやっていない。これだけでも非日常を演出する事はできるだろう。

 

「(ひとまずここまでは予定通りね! それなら!)」

 

かぐやの作戦は次のステップに入る。

 

「じゃあ光夜、次は──」

「まだ体力も有り余ってるし御行先輩達とどこか出かけようよ!」

 

「えっ? ちょっと?」

 

伏見光夜は影島の車の中でこう言っていた。「その上でまだ元気とかだったらどこか観光に出かけましょう!」と。イタコに自らの両親を口寄せしてもらえなかった彼はまだ体力が有り余っていた。

 

多大な費用と時間と労力を使ったかぐやの作戦は早くも崩れかけていた。




恐山編は次回で終了の予定です。

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