怠惰の天才は満たされたい   作:マイケルみつお

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今話は「かぐや様は告らせたい」の原作とは少し外れるかもしれませんが終盤の展開に必要な話ですのでご勘弁を......。
次話からはまた原作に戻れるかと思います。

Twitterにも書きましたが、キリがいいところまでストックが溜まってから一挙更新するというスタイルに変更しました。ただ今話は前話の続きだという事に気づき、一足早く更新してみる事にしました。

今月、資格試験の一次試験があって遅れていますが......これに落ちたらまた更新できそうです。試験合格できるように頑張りますので応援よろしくお願いします()


24話 似非四宮は見せられない

生徒会の構成員(メンバー)は「伏見光夜」を、穏健な性格で個性的な生徒会構成員(メンバー)の緩衝材を石上と並んで果たしており、かぐやの悪口さえ言わなければ極めて人畜無害な存在だと認識している。

 

だが経済界の人間が知る「伏見光夜」は違う。彼らにとって「伏見光夜」とは、あの四宮の苗字を冠していた人間であり、ほんの数年で無名から今や四大財閥に最も近い存在にまで成り上がった存在だ。

今に至るまでに、光夜は「伏見」を潰そうとしてきた企業を全て返り討ちにしてきた。(いづれ)も当時伏見より格上だったにも関わらず。

「伏見光夜」とはまさしく、経済界の人間にとっては触れてはならない恐怖の対象だった。

 

しかしいつものあの穏やかな光夜にそのような事が本当にできるのか? と思う人もいるかもしれない。

 

「現在の戦況はこれで全部だな?」

 

「はい」

 

「相手もまだ小手調べの段階だろう。......容赦はいらん、潰せ」

 

光夜の目は、かつて石上優を救った時に教師に向けた冷たさ──否、それより数十倍の冷たさを放っていた。生徒会の時とはまさに別人。

 

しかしどちらかが光夜の演技という訳ではない。

 

生徒会の構成員(メンバー)の前で猫を被っている訳でも、「伏見」として振る舞う中で自らの純粋な心を守るために意識して仮面(ペルソナ)を被った訳でもない。

これこそが光夜が幼少の頃から身につけていた二面性。言うならばかぐやのように後天的に身につけた仮面(ペルソナ)ではなく先天的に併せ持っていた仮面(ペルソナ)

 

「これは今日明日で帰れるような代物じゃないな......。早坂、ご苦労だった。もう戻ってもらって構わない」

 

「......承知致しました」

 

早坂にも言いたい事は当然あるが、この状態の光夜とは完全なる主従関係。恭しく礼をしてから四宮家別邸に戻っていった。

 

──────

「相手は......これまたとんでもない相手だな」

 

今回、伏見傘下の企業に対して攻撃を仕掛けてきたのは「常盤」集団(グループ)。これまでの企業闘争も常に格上が相手ではあったが今回は話が違う。

 

常盤集団(グループ)は四宮、四条には及ばないものの──四大財閥の一つだ。

 

「四宮、四条に比べて経済力では劣るが──各方面に強い繋がりを持っている集団(グループ)だな。人脈という点だけで言えば四宮、四条を上回る巨大な集団(グループ)だ」

 

故に各方面から協力を取り付けた場合下手をすれば瞬間的には四宮や四条を上回る可能性すらある。

 

「当主は確か......」

 

常盤家の当主の顔を光夜は思い出していく。

 

「典型的な秀才だったはず。華々しい学歴を誇っており、膨大な知識を持っている。しかし俊敏な動きに弱く予想外の事情に対応する事が難しい」

 

「ですが当主がそうでも周りの参謀がその部分を補う事は十分に可能でしょうな」

 

「そうだな」

 

流石に相手は巨大組織。作戦を間違えればこちらは一瞬で崩壊してしまう。光夜はかつてないほどに冷静に考えを張り巡らせる。

 

「こちらに対して攻撃を仕掛けてきた者の特定は終わったか? 小手調べの段階だからまだ本丸には程遠い存在とは思うが」

 

常盤集団(グループ)がいかに人脈情報網(ネットワーク)に長けた財閥と言えど、その全てと親密な関係を築いている訳ではない。当然、その関係にも軽重は存在する。

 

「はい。まだ常盤集団(グループ)に入ったばかりの企業でした。規模も弱小。社長の仰るように捨て駒でしょうね」

 

そして今回伏見に攻撃を仕掛けてきた常盤の捨て駒は──まだ常盤の傘下に加わって間もない企業達だ。しかも義ではなく利によって従った者達。

当然常盤の下っ端であるため情報を抜き取られる心配もない。伏見に吸収されたとしても全く問題ない文字通りの捨て駒だ。

しかしそれは逆説的に言えばその企業を処分したとしても戦略上何の意味もないという事。潰したとしても光夜に特筆するほどの利点(メリット)はなくただ悪評だけが残る可能性がある。その上で光夜が下した決断は──

 

「そうか。だが攻撃を仕掛けてきたからな。容赦はいらん。潰せ」

 

「ど、どの程度に?」

 

迷わず処断を選択した。その決断に石川は一瞬言葉を詰まらせる。

 

「決まっているだろ。徹底的にだ」

 

「し、しかし。向こうも本心から向こうに従っている訳でもありませんし、好きで我々を攻撃してきた訳でもありません」

 

石川の言う事は正論だ。戦略上必要のない処分を下せば後に残るのは恐怖のみ。恐怖は他者との距離を開かせる。それは四宮四条のように単独で十分な力を持たない伏見にとっては致命的だ。

常盤の情報を得る事ができずとも勢力の小さい伏見からしてみれば取り込んで勢力をより大きくする事もできるはずだ。

石川はこの選択は伏見に対して百害を与えて一利も残さないと考えていた。

 

「見せしめだ。石川、覚悟を決めろ。これは戦争だ。それに相手の大きさを考えろ。少しでも隙を見せればこちらが潰されるぞ」

 

しかし光夜の考えは違う。今回の相手はこれまでと違う。明日の()()が怪しい時に空想で彩られた十年先を語る余裕など今の伏見にはない。

 

「わ、分かりました」

 

光夜にそこまで言われれば石川も首を縦に振るしかない。石川は知っているのだ、光夜が自分と意見が違うからと他者の意見を聞かない暗君ではないという事を。彼が企業闘争において無類の強さを誇るという事を。

 

──────

常盤グループの強みは先にも述べたが人脈情報網(ネットワーク)だ。独善的で独裁的な他財閥とは違って常盤集団(グループ)は(一見)外交的で、各方面の有力者とも友好で深い関係を築いている。それによって常盤集団(グループ)は自前以上の戦力の動員を可能とする。

単独では四宮四条に遠く及ばない常盤が同じ財閥の中でも一目置かれているのはこのためだ。情報網(ネットワーク)こそが常盤にとっては最強の武器。

しかしだからこそ敢えて光夜はその情報網(ネットワーク)に挑戦する。常盤集団(グループ)情報網(ネットワーク)を機能不全に追い込めば光夜の追い風となるから。執拗な徹底処断も当然常盤の情報網(ネットワーク)に風穴を開ける事を期待して。

 

事実、常盤集団(グループ)が小手調べに送り込んだ企業が徹底的に潰された事によって常盤の攻撃は緩やかになった。第二陣の攻撃の要請が死刑宣告を意味するようになったから。

常盤集団(グループ)は(外形的には)上下関係ではなく横の繋がりによって情報網(ネットワーク)を形成している。今回の伏見への攻撃も命令ではなくあくまで要請の形を採っている。

命令ではなく要請という形の上で、自分達が粉砕する事も厭わず常盤のために奉公しようとする者などほぼいない。

常盤集団(グループ)にとって人脈情報網(ネットワーク)は強みでもあり、弱点でもある。

 

光夜はその弱点を敵を徹底的に潰すという外道な手段で突いた。

 

 

 

 

「予想通り、攻撃が弱まったな。よし、間者を送り込め」

 

常盤集団(グループ)情報網(ネットワーク)は現在綻びを見せていた。常盤の協力者達はいつ自分が死刑宣告を下されるか疑心暗鬼に陥っていたから。財閥たる常盤に近づく事は間違いなく自分達の利益となるがそれは自分達が玉砕してまで望む利益ではない。

この状況の中、常盤は協力者達を監視する事はできない。

 

仮に光夜の予想が外れて常盤が協力者の周りを警戒し、間者の存在に気づいて光夜の工作が失敗したとしても問題ない。この疑心暗鬼の中、監視行為を断行すれば協力者の心は離れていくだろうから。それは情報網(ネットワーク)の更なる崩壊を意味する。

 

どちらに転んでも伏見の得。光夜はそこまで読んだ上で、以前、かぐやに恋文(ラブレター)を送った者の身辺調査を行わせた草の者を送り込んだ。

 

──────

光夜が即座に常盤の下っ端を始末し、常盤に対して間者を送り込んでから数週間が経った。その間、表面的な諍いはすっかり鳴りを潜めていて、両者は初激以降、表立っての攻勢に移る事ができないでいた。

常盤集団(グループ)の武器たる情報網(ネットワーク)は伏見によって完全な機能不全を引き起こしていて伏見に対して攻撃を仕掛けられる状況になく......

一方の伏見も常盤に対して攻撃を仕掛けられないでいた。闘争が始まってからの場の雰囲気は完全に伏見が制していたとしても、圧倒的な戦力差が現実問題として立ちはだかる。常盤は四宮四条には及ばないとしても四大財閥の一角。いくら協力者の情報網(ネットワーク)がなくとも単体で伏見の戦力を軽く凌ぐ。

どちらも攻撃を仕掛けられない状況。戦況は完全に停滞する。

 

そんな中でも光夜は秘密裏に工作を進めていた。光夜の予想通り、常盤は情報網(ネットワーク)のこれ以上の崩壊を恐れて協力者の監視をする事ができないでいた。

 

「社長。嵯峨集団(グループ)の調略、相成りました」

 

「分かった」

 

嵯峨集団(グループ)。それは古くから常盤の中核を成す側近中の側近であったが、今回の伏見との闘争において当主の方針に不満と不信感を抱いた者達。

最初は伏見の誘いに首を横に振っていたが常盤の未来を思いやるとついに首を縦に振った。

 

 

 

 

嵯峨集団(グループ)を皮切りに、降伏した企業の全てを「伏見」が受け入れた事によって戦況は大きく左右した。ついこの間攻撃した相手を全て受け入れるなんて冷静に考えればおかしい。しかし人は追い詰められた時、その苦しみから逃れるためであればどんなに怪しい嘘だろうと簡単に飛びつく。

常盤の人脈情報網(ネットワーク)は今や壊滅に追い込まれていた。情報網(ネットワーク)がなければこの闘争の先の常盤はない。そう考えたのだろうか、この闘争は突然終結へと向かう。

 

「社長。常盤集団(グループ)から和睦の提案が届きました」

 

「降伏ではなく和睦、か」

 

戦況は確実に「伏見」が制しており、常盤の武器である人脈情報網(ネットワーク)も甚大な被害を受けている。それなのに降伏ではなく和睦。それはつまり......

 

「(これ以上やるのならどんな犠牲を払っても純粋な物量で押し切るという事か)」

 

どれだけ「伏見」が優勢だと言っても単純な物量では四大財閥の常盤には到底敵わない。常盤と伏見がぶつかれば常盤は甚大な被害を受けるかもしれないが伏見は消滅する恐れすらある。

 

「(そういう意味を暗に示した強気の物言いだな)」

 

しかし何度も言うが伏見は単独の力で常盤に勝つ事はできない。常盤にそういった意図がなかったとしても力関係(パワーバランス)が現に存在する以上、簡単に伏見は動く事ができない。常盤が情報網(ネットワーク)を使ってこない場合、情報網(ネットワーク)の弱点を突く事もできない。

 

「ここらが潮時だな。石川。常盤の提案を受け入れる」

 

こうして一月にも及んだ伏見と常盤の闘争は、伏見が優勢のまま集結した。

 

──────

「石川。嵯峨集団(グループ)に続いて我々に降ってきた者達はほとぼりが冷めた頃に処分しておけ」

 

「......え? しかし彼らは我々の味方になった者達であって......」

 

常盤との和睦が成った後、光夜と石川は会社にいた。伏見存亡の危機は取り敢えず乗り切ったという事で光夜の顔にはいささか安堵の色が見える。既に光夜は()()を呼び、彼女が到着するまでの時間を使って闘争の後処理を行っていた。

彼が最初に命じた事、それは常盤から降ってきて伏見の味方になったはずの者の処断。石川は動揺を隠す事ができなかった。

 

「嵯峨集団(グループ)は我々が調略を仕掛け、幾度の交渉の後にその誘いを受けたのだ。

だが彼らは違う。こちらから調略を仕掛けた嵯峨と違って彼らは自ずから降ってきたのだ。恩のある常盤を裏切って」

 

そこには大きな違いが存在する。同じ裏切りだとしても意味は異なる。

 

「一度裏切った奴は必ずまた裏切る。我々の組織は少数精鋭で成り立っており、戦況が悪くなったからといって誰からも誘われていないというのに周りに同調して降ってくる者など──伏見には不要だ」

 

──────

「いつもすまないな早坂」

 

「いえ、これも私の仕事ですので」

 

常盤との闘争も後処理も済ませた光夜は、かぐやの待つ四宮家別邸に帰らず会社に早坂を呼びつけていた。

 

「......今はどれくらいだ?」

 

「全然ですね。まだ2割ほどです」

 

「......そうか」

 

光夜は「伏見光夜」の顔になった時は毎回、早坂を呼んでいる。自分の中の「伏見光夜」を捨てるために。捨てられたかどうか自分では分からないため早坂に確認して貰っている。

この闘争が始まった時、早坂も連れて行ったのはこのためだ。一度「伏見光夜」の顔になってしまえばそれがどんなに短時間だろうが光夜は早坂を呼ぶ。

 

ちなみにこれは業務扱いのため早坂に給料は出る。早坂は普段よりも楽で給料が出るこの時間を実は楽しみにしていたりもする。

 

しかしながら一体なぜ光夜はこんな事をしているのか? 決まっている。

 

「かぐ姉にはこんな醜い姿、見せられないからね」

 

ボソリと漏らした光夜の言葉を受けて、早坂は今四宮家別邸にいるであろうかぐやに対して思いを馳せる。

 

「(かぐや様。これ、特別扱いですよ)」




日本史に明るい方なら分かるかもしれませんが、今話の裏切り云々のエピソードのモデルは戦国時代の穴山信君と小山田信茂の逸話です。
皆さんも将来裏切る時は手回しをきちんとしておくといいですよ。

光夜は頭四宮になっていますが本場の四宮の外道度には遠く及びません。似非四宮とはそういう意味です。

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