「と、とにかく!一緒に勉強しますよ!光夜。」
「え、なんで?」
「来週からテストでしょう...。まさか光夜、今までテスト勉強は?」
「そりゃあ教科書一通り読んだりはしてるけど今のかぐ姉みたいにガッツリはしてないよ。」
伏見光夜は怠惰である、という事は有名な話である。
「それで光夜、いつもは何位くらいなの?」
「大体五位くらいかな。その辺をウロウロしている。」
ほぼ勉強をしない状態でこの秀知院で一桁の順位。これは非常にすごい事であるのだがかぐやにはお気に召さなかったようである。
「光夜。一位であるのなら勉強量については何も言いません。ですが自分より上の存在がいるのに努力を怠る事は愚か者のする事です。私の弟としてせめて今回のテストは一位を取りなさい。」
四宮かぐやは中等部進学から学年一位の座を一度も譲った事がない。そしてそれは本人の才能もさる事ながらかぐやが努力を続けてきた事の何よりの証なのである。
「...分かったよ。」
そしてやはり基本方針として伏見光夜は姉に逆らえないのである。
──────
伊井野ミコは風紀委員である。裁判官を親に持ち、悪を憎む彼女は風紀委員として校則を破る生徒を取り締まり続けてきた。
取り締まる側の人間はそれ以外の人間から嫌われがちである。しかし彼らが表立って伊井野に反抗できなかったのは、そして伊井野がどれだけ他人から拒絶されても自分を強く持つことができていた一番の生命線は...テストでの学年一位だった。
しかし伊井野は生まれて初めて自分の右隣に他人の名前が刻まれる結果を目の当たりにした。
「こら!学校に不要なものは持ってこない!」
「げ、伊井野だ。」
しかしテストの結果は残念なものであっても伊井野ミコは風紀委員である。自分の気分によって職務を放棄するなど、それこそ伊井野が嫌うもの。彼女は今日も変わらず取り締まりを開始した。
「おい待て酒巻。よう伊井野、今回のテスト1位じゃなかったみてぇじゃねーか。こんな事するより勉強してた方がいいんじゃねーか。」
「へー、そうだったのか。俺らは学年で1番優秀な学年1位の言う事しか聞かねぇからよ!」
いつもならそんな言葉など無視して取り締まりをする伊井野だが今回は違った。学年1位というものは自分の行為に説得力を持たせる以上に伊井野の自信の根源となっていたのだから。
「ッ!」
結果として言い返す事などできず俯くしかなかった。
「じゃあ自分の言う事なら聞くのかい?」
──────
「お、お前は?!」
「伏見光夜だ。そこのお前、学年1位の言う事しか聞かないんなら自分の言う事は聞くんだよな?」
「は?いや何言ってん…」
「お前バカッ!知らねぇのか!?こいつは元四宮で苗字代わりのあのアンタッチャブルだ!親父からもこいつだけは敵対したらダメだって言われてんだ!」
「(思い切り聞こえてるんだよなー、あとアンタッチャブルは恥ずかしいからやめてくれ)」
光夜は思わぬ反撃に内心少しむず痒い思いをしていた。
「伊井野が悪いところをしたとすれば、それはこいつが校則の要求範囲を超えた取り締まりをした時だけだ。だが自分はそんな話は聞いたことがない。」
今回はどうなんだ?と光夜が尋ねるが、しかし彼らにも校則を破っている自覚があったのだろう、そして光夜に対して強くは出れない事からあぶら汗を浮かべるしかなかった。
「校則の範囲で取り締まってるにも限らず、それに反発を覚えるなら、抗議の先は伊井野じゃない。生徒会や教職員だ。それでも伊井野に反発し続けるならそれは何て言うか知ってるか?逆ギレって言うんだよ。」
そこまで言われて男子生徒2人は最早他にとれる選択などなかった。
「「ご、ごめんなさい伊井野さん…。」」
そしてこの事は間接的に、伊井野ミコのバックには伏見光夜がいるという噂に繋がり、伊井野は以前のように嫌がらせを受ける事はなくなった。
「ふ、伏見!…そ、その…ありがとう…。」
「別に伊井野のために助けた訳じゃない。ただあの現場を見逃して自己嫌悪したくなかっただけだ。だからお前は勝手に助かっただけだ。礼はいい。」
それは光夜の意図したところとは違うが、見返りを求めない優しさとして伊井野の胸を貫いた。
「次は!私が学年1位をとるんだから!」
今度は自分が光夜を助けられるように、と。伊井野の目標に光夜にテストで勝つ事が加わった。
──────
そしてその目標は次の中間テストで早くも達成される事になる。伊井野は1位。光夜は5位だった。しかし伊井野の顔には喜びはない。
「伏見!あんたまた手を抜いたでしょ!」
「ん?ああ伊井野か。自分に勝つ!ってあれだけ言ってたが有言実行ってすごいなー。学年1位おめでとー」
「私は!私はあんたの全力に勝ちたかったの!手抜きのあんたに勝っても嬉しい訳がないじゃない!次は…次は全力を出しなさいよ!」
しかしかぐやからの命令が最初のテストっきりなかったため、光夜に全力を出す必要はなく、高等部進学まで伊井野が1位を獲り続けた。
「なんでそこまで勝ちたいのかなー」
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