「あれ? 姉さんは?」
一連の
「ああ。四宮なら何か体調を崩したとかで帰ったぞ」
その事を聞いて光夜の行動は早かった。白銀は元々光夜の告白について聞きたかったが、最早そんな気力など残ってはいなかった。
──────
「早坂ー」
「はーい、よしよし」
(それにしても光夜様に好きな人がいるとは……ちょっと意外ですね)
「早坂。こうなったら会長に痛い目を見てもらわないと気が済まないわ! って聞いてるの?! 早坂!」
「あー、ちょっと聞いてません」
(光夜様からですね。内容は……。これ告白が成功した後のメールじゃないと思うんですよね……)
早坂は光夜が振られる事など考えてはいなかった。一時は敵対した関係。色んな視点で彼を見た事で早坂は誰よりも客観的に光夜を見る事ができていた。
(やっぱりあの人が告白する様子も、そして振られるのも想像つかないんですよね……。多分かぐや様が言った、告白しに行くってのが勘違い)
早坂、あの場にいなかったにも関わらず誰よりも早く真実の扉に手をかける。
「かぐ姉! 体調崩したって大丈夫?!」
光夜、颯爽帰宅。
「……。告白しに行って彼女はどうしたの?」
「あ、もしかして生徒会室の話聞いてた? いやぁ、田沼先輩と御行先輩の話聞いてたら胸が高鳴って壁ダァンしに行ったんだけど生徒会室出て、そういえば好きな人いなかったって気づいたんだー」
かぐや、目が点となるがその間にも脳は働き現状を理解しようと努める。結果、自分が思い違いをしていた事に気がつく。
「大丈夫よ! もう治ったわ! 今日はいつもより早く帰ったし少しお話しましょう!」
かぐやの機嫌はピークに達した。
──────
(四宮の機嫌が明らかにいい……)
昨日はあれだけ悪かったのに1日で一体何があったのか……。白銀の頭はそれだけに支配されていた。実際は今ここにはいない
「ひ、ひゃぁぁぁ! 淫れてます! この国は淫れてます!」
藤原が広げた雑誌、それは生徒が学校に持ってきたものでいかがわしいとして没収されたものである。
「高校生までで初体験を済ませたアンケートで34%ですか」
「嘘です! みんなそんなにしてる訳がありません!」
「セレクションバイアスってやつだな。こういう雑誌を読んでいる奴が投票するからだ」
かぐやの声に反応するように藤原と白銀があり得ないとその投票結果を否定する。34%。つまりその数字だけで言えばこの生徒会室に集う3人の内、1人はそういう経験があってもおかしくないという事を示しているに他ならないからである。
「別に妥当ではありませんか? むしろ低すぎだと思います」
しかしかぐやだけは2人と反応が明らかに違った。
「その……かぐやさんはそういったものが……」
おそるおそる藤原が尋ねる。四宮かぐやは日本屈指の財閥の娘である。そういった経験など無論……
「はい。だいぶ前に」
あった。
──────
「風紀委員の書類提出なら一人で行けるだろ……。わざわざ呼び出して」
「しょうがないじゃない! 生徒会室は行った事ないし! 少し緊張するのよ!」
未成年の告白よろしく、ピンク色に染まった生徒会室に光夜がいなかったのは伊井野に呼び出されたからである。彼女は風紀委員に属しており、本日はその書類を生徒会室に持っていかなければならない。しかし彼女は生徒会室に行ったことなどなく、こうして光夜に協力を求めているのである。
「あ、ちょっと電話だ。……長くなりそうだな。伊井野、生徒会室には千花もいるから大丈夫なんじゃないか?」
「え! 今日藤原先輩いるの?」
「確か今日はTG部の日じゃなかったと思うし。伊井野一人でも行けるやろ。先行っててくれ」
(藤原先輩がいるなら大丈夫ね!)
藤原がいるという情報を得て、伊井野の心に勇気の灯火がついた。彼女は生徒会室の扉に手をかける。
「ですから、私は光夜と初体験を済ませましたね」
──────
話は数分前に遡る。
「か、かぐやさん経験した事あるんですか?」
「さっきも言いましたけどそうですね」
「私も彼氏作った方がいいのかな……」
(あはは……四宮はそうなのか……昨日から俺のSAN値が……)
「幼い頃にもしましたし、昨日もしましたね」
「え。かぐやさん、昨日どこかに泊まったんですか?」
「いえ。普通に家に。来客も来てませんよ」
「それじゃあ……」
「はい。昨日は光夜と。幼い頃にもしましたね懐かしいです。ですから、私は光夜と初体験を済ませましたね」
そこで冒頭へと戻る。ガチャリと扉は開かれ伊井野が生徒会室へと足を踏み入れる。
(初体験って! それじゃあ伏見は……)
伊井野ミコは机に広げられている雑誌の表紙と先程の会話だけで何の話をしているか分かってしまった。
(四宮の機嫌がいいのは昨日それをしたからなのか……じゃあ四宮の好きな人は……)
最早生徒会室は光夜とかぐやがそういう関係であるという事で阿鼻叫喚であった。
「ええ、昨日光夜のほっぺにしました」
(そんな特殊プレイを!)
伊井野は間違った解釈をした。
「姉弟でそんな事をしたらダメでしょう!」
「私と光夜は従姉弟の関係です。法律上結婚もできるので何もおかしくはありませんよ」
「それでも!」
(ていうかなんであいつは今日、飄々としてたのよ! 大人の階段上ったのよ! もっと何かあるんじゃないの?!)
伊井野がそう考えていた時であった。
「すみません、遅くなりました」
渦中の種がやってきた。
──────
(え、何? この雰囲気。かぐ姉はなんか上機嫌だし御行先輩は死んでるし、千花は目を合わせてくれないし伊井野は殺人鬼のような目で見てくる)
「伏見が昨日致した事についてよ」
「すまん。まるで意味が分からん」
「伏見と! 四宮先輩が昨日致した事よ!」
(かぐ姉と昨日した事?)
光夜は昨日の事を思い出す。
〜回想中〜
「それじゃあ本当に誰にも告白しに行かなかったのね?!」
「だからそう言ってるでしょ。今好きな人とかいないし」
(本当に私の勘違いだったのね。何だか恥ずかしいわ!)
ベッドに座っていたかぐやは考え事をしていたのもあり、立ち上がる時にバランスを崩してしまう。
「かぐ姉危ない!」
このままでは床に頭をぶつけてしまう。光夜はそれを防ぐため動く。そして......かぐやは光夜に頭突きをしてしまう形となり、かぐやの唇は光夜の頬に凄い勢いでぶつかった。
「痛てて、かぐ姉が無事でよかったよ」
当然光夜は何が起こったのか、そしてかぐやが先ほどから一言も発しないのか分からない。
「じゃあ念のためにも氷もらってくるよ」
後ろを振り返り、かぐやのその紅潮しきった頬を見てないからである。
〜回想終了〜
「昨日何かあったっけ?」
「何であんたが知らないのよ! 隠そうっとしたってそうはいかないからね!」
光夜は本当に知らないのだがそれは伊井野からしてみれば誤魔化しているようにしか見えなかった。
「まあ光夜が気づいてないのも無理はありませんね」
(睡眠○!)
伊井野はまたも酷い勘違いをした。光夜が部屋に入ってから幸か不幸か、何についての話をしているのか、肝心な単語は一切出てこず光夜とそれ以外で大きなすれ違いが起こっているのだ。
伊井野は顔を真っ赤にして怒り、かぐやは先ほどからテレテレとしていて話にならない。白銀は死んだ目をしておりまともに話ができる可能性は顔を赤くしているが一人しかない。
「ねえ千花、ところでさっきから何の話をしてるの?」
藤原の耳元で光夜は尋ねる。下手に聞けばキーキー吠える犬がまた更に喚く事になると光夜は考えた。
「え! 私に言わせるんですか! そ、その......光夜君とかぐやさんがその......男女の営み的なものをしてるとかぐやさんが言ってて.」
「は!? してる訳ないでしょ!」
「でもかぐやさんがそうだって!」
(いやいや姉弟だから! そんなのしないって! ......っていうかそもそもかぐ姉ってあんまり性事情なんて知らないんじゃ?)
光夜は四宮家の教育事情を知っている。もっとも光夜は四宮家を出てからはそういった内容についても人並みの知識は付け足し、かぐやは知らないが石上の調査をする過程で同級生のそういう動画を見た事もある。
「姉さん。一応聞いておくけど初体験って何の事だが知ってる?」
「光夜! こんな人目があるとこで何を言わせるんですか!」
(あなたは恥ずかしくないの?!)
「......キ、キッスの事でしょ?」
その瞬間、この場にいたかぐや以外の全員が事の真相と自らが間違っていた事実を自覚した。
「光夜君。私が説明してきます」
「御行先輩、伊井野。生徒会室から出ましょう。姉さんの名誉のために」
その後、生徒会室で絶叫が聞かれたとか聞かれなかったとか。
「ところで伊井野。途中、何か誤解してたよな? 一体どんな誤解をしたんだ?」
「ッ!」
本日の勝敗、伊井野の敗北
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