ファインモーションが駆け落ちしたらどうなるか。

そんな読者さんの素朴な疑問を形にしてみました。

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ファインモーション「そうだトレーナー! 一緒に駆け落ちしてみない?」

「……え?」

 

 ラーメン屋のカウンターの横から突如として放たれた言葉に思考が停止する。

 

 今、このお姫様は何ておっしゃられたのだろうか。駆け落ち? KAKEOCHI?

 聞き間違いかな? うん。聞き間違いであってほしいなぁ。

 

「もー、聞いてるのトレーナー? 私と駆け落ちしてみたくない?」

 

「え、あ、うんキイテタキイテタ。ここのラーメン美味しいネー」

 

「うんうん!♪ 魚介の出汁が効いててとてもー……って誤魔化さないでよぉ!」

 

 いや誤魔化しますよ。何とんでもない発言してるのこのお姫様。大問題発言だよどう聞いても。王家の誇りとかそこら辺どこ行ったの?

 あと後ろの席に座ってる隊長さんからとてつもない何かを感じるんだけど誰か助けてくれ本当に。

 

「駆け落ちって素敵じゃない? 身分に縛られて叶わぬ恋を嘆きながらも、それでも諦めず全てを捨て去って2人で生きる。ドラマというモノで初めて見たのだけれど、私すっごく感動したの」

 

「えっとファインモーション殿下姫様? おっしゃってる意味をお分かりになってござるか?」

 

 あかん。なんか敬語とか色々混ざって日本語として機能してない。

 

「勿論だよ! それに駆け落ちするなら相手はキミしか考えられないし……だからこうしてお誘いしてるの!」

 

「お、おうおう?」

 

 貴女今大分爆弾発言しませんでした?

 混乱しすぎて返事がオットセイみたいになっちまったんだが。

 

 だっておかしいだろ。

 いつも通りラーメン食いに来ただけなのに何で急にローマの休日みたいなこと始まるんだよ。

 

 てか今まで自分の立場とかちゃんと考えて発言してたのに、何でこんな急にはっちゃけてるのこの子。

 

「ふー、ご馳走様! 美味しかったー♪」

 

 その後、何事もなかったように食べ終わり店を出ると、クルリとターンして隊長に向かってファインが告げる。

 

「という訳で隊長。私ファインモーションは今からトレーナーと駆け落ちしたいと思います。ではご機嫌よう♪」

 

「え!? ちょっ!?」

 

 キラリと目を光らせ俺の手を握り引っ張ってくる。いやファインさんや。そんな言い分をこの人が認めるわけが――。

 

「……これは困りましたね。ふと気付いたら殿下とトレーナーがいなくなっていました。急いで探さないといけませんね。あぁでも何処に行けば良いのやら」

 

「た、隊長さん!?」

 

 何故!? 何その棒読み!?貴女そういうキャラじゃありませんよね!?

 

「ふふ♪ じゃ、トレーナー行こっか♪」

 

「え……えぇ……」

 

 手を握るどころか指まで絡められ、所謂恋人繋ぎで街へと引き摺られていく。ウマ娘の力に敵うはずもなく潔く諦めるしかなかった。

 何なのだこれは。どうすれば良いのだ。

 

――

 

「あっ、シャカール!」

 

「ン? おぉファインにトレーナーじゃねぇか。何だぁァ? 仲良くお手手繋いでデートかァ?」

 

 街を歩いていると偶然エアシャカールに出くわした。手にはジュースを持っていて、手を繋いでいる此方をニヤニヤと面白そうに見てきている。

 

「ううん、違うよシャカール。これはデートじゃないの!」

 

「あン? どう見てもデートじゃねェか。じゃあなんだってンだ?」

 

「ふふーん。実はね! 今トレーナーと駆け落ちしてるところなの!」

 

「ぶふォっ!?」

 

 飲んでたジュースを盛大に噴き出すシャカール。

 大丈夫だシャカール。君の反応は正しい。

 

 ひとしきりむせた後、勢い良く此方に詰め寄ってくる。

 

「ゲホッ! お、お前なァ……駆け落ちの意味分かって……ン?」

 

 シャカールは抗議のようにファインに目を向けるが、それを見て直ぐに何かを悟ったように態度が変わる。

 ファインの表情は、こちらからは見えない。

 

「あー……まァ本気なら頑張れよファイン」

 

「うん! ありがとシャカール! さ、行こトレーナー!」

 

「お、おう?」

 

 すれ違いざまにシャカールにコツンと肘を小突かれる。俺に何かを伝えるように。

 

 ……うん、分かってるさ。

 

 ファインモーションというウマ娘は確かに天然っぽいところはあるが、決して頭が悪い訳じゃない。

 

 寧ろ間違いなく賢い部類に入る。

 

 そんな子が意味もなく駆け落ちなんて発言をする訳がなくて、この行動にも何か理由があるのだろう。

 

 それに後ろを向けば、やっぱり隊長は着いてきている。意図があってのことなのは間違いない。

 

 でもファインが話す気がないのならこちらか聞く意味はない。今はただ、この子の望むままに駆け落ち(仮)をするだけだ。

 

 さて、何処に行きましょうかねお姫様。

 

――

 

「うわー、可愛い♪」

 

 水族館で魚たちを眺めながらファインは楽しそうに声を上げる。

 駆け落ちと言ってもひとえに何処にいけば良いのかもわからないので、余っていたチケットを使ってここに来ている次第だった。

 

 言い出しっぺのファインもどうするか決めてなかったようで、勢いそのままな姿勢に内心苦笑する。

 

「ふふ。駆け落ちってたのしーね。いつものお出かけと違ってすっごくドキドキしちゃう」

 

 でもねお姫様。

 お願いだからそれを公共の場でおっしゃらないで頂きたい。

 周りの視線が痛いから。本当に痛いから。

 別の意味でこっちもドキドキしちゃうからね?

 

――

 

「トレーナー様。少しよろしいですか?」

 

 ファインがお手洗いに行ったタイミングで隊長がこちらに声をかけてくる。少し申し訳なさそうにしている感じで、言いたいことは何となくわかった。

 

「ファインの気が済むまでで大丈夫ですかね?」

 

「……流石ですね。事情は殿下がお話されない以上、私からも何かお伝えすることは出来ません。ただ」

 

 貴方で良かったと心から思います。

 そう言って、また隊長は離れていった。

 

 俺で良かった、か。

 

「お待たせトレーナー! 次は何処行こっか?」

 

 楽しそうに笑うファインを見て、俺は思考を奥に仕舞い彼女の手を再び取った。

 

――

 

 星がとても綺麗だった。

 トレーナーの手を取りやってきた展望台。

 

 キラキラと輝いていて、手を伸ばせば掴めそうなほど近くに感じる。

 でも実際に手を伸ばしてみてもそこに届くことはなくて、やっぱり掴めないんだなって思ってしまう。

 

「理由は聞かないのトレーナー?」

 

 小さく声に出してみると、君が話したくないなら聞かない、と返してくれる。

 あぁもう100点満点だよトレーナー。

 

 言いたくないもの。こんな理由。

 

――

 

『殿下に縁談のお話が来ているとの事です』

 

 昨日隊長に言われた一言は、私を奈落の底に突き落とすようなものだった。相手はお父さまと古くから縁のある家の人。王族である以上変な話ではないし、断ることは難しいだろう。

 

 その話を聞いて、真っ先に頭に浮かんだのはトレーナーの顔だった。息苦しくなるくらい、会いたいと思った。すぐにお話ししたいと、どうしようもないくらい願ってしまった。

 

 そんな時だった。

 前にみんなで見たドラマを思い出したのは。

 

 身分の違う2人が恋に落ち、叶わぬモノと知りながらも全てを投げ出して逃避行をするお話。

 見ている時は自分には縁のないお話だと思っていたけれど、いざこの時を迎えると私の行動は早かった。

 

 隊長に駆け落ちのことを伝えると、最初は驚いた様子だったけど目を瞑りますとすぐに言ってくれた。

 

 昔の私からは考えられないような、何も考えてない行きあったりばったりの作戦。

 この行動が意味することはとっくにわかってる。お父さまにバレようものなら、すぐに国に連れ帰られるだろう。

 

 でもいずれ来てしまう永遠のお別れを前にしたら、今この1日を私は手にしたくなった。

 もしかしたらお父さまも私の行動を見て考えを改めてくれるかもしれないと、一縷の望みをかけて……。

 

 ううん、分かってる。

 そんな事はあり得ないって。

 きっとお父さまは縁談を進めるだろう。

 

 こんなのお子様のお遊びでしかない。

 本当の駆け落ちなんて出来るわけがない。私が出来ないことをトレーナーだって分かってる。

 だけど何も言わずに着いてきてくれた。そんな貴方だから私は――。

 

「ねぇトレーナー? 最後に行きたいところがあるのだけれど、エスコートしてくださる?」

 

 踏み出す勇気を与えてくれた貴方だから、私はこの言葉を言えるのです。

 

――

 

 良いのか??

 この状況は本当に良いのか隊長!?

 

 シャーッとシャワーの音が今いる場所にも聴こえてくる。

 

「ふんふふーん♪」

 

 その音と重なるようにファインの鼻歌も耳に入ってくる。

 

 場所は我が家。

 現在はファインがシャワーを浴びている。

 何なのだこれは。どうすれば以下略。

 

「今日はトレーナーのお家に泊まりたいの!♪」

 

 展望台から降りる時、ファインの放った一言は余りにも強烈に頭に打ち込まれた。

 

 『何を言ってるんだ』『いや待て普通に駄目だろう』『本気かファイン』『泊まる意味を分かって言ってるのか?』辺りを同時に言いそうになり舌を噛んだのはここに記しておく。

 

 咄嗟に隊長の方を見ると何故かSP全員で大きく丸を作っていた。まるで行けと言わん限りに。あんたら本当にそれで良いのか。

 

「ねぇトレーナー。このシャワーってどうやって温度変えるのかしら?」

 

「ドワァァァァ!?」

 

 裸で出てきたかと思い必死に手で視界を隠すが、ファインはイタズラ成功と言わんばかりに笑っている。

 服は勿論身に着けていた。

 

「し、心臓に悪い冗談はやめてくれ……」

 

「ふふごめんなさい♪ ついやってみたくなっちゃって♪」

 

 ファインはポフっと俺の隣に座ると、少し潤んだ目で此方を見てくる。

 

「ねぇトレーナー。この後は何をしましょうか?」

 

「……あとは寝るだけだよファイン」

 

「本当に?」

 

 暗に言っている。この続きを。でもその答えは一つしかない。

 

「そりゃ俺はトレーナーで君はウマ娘だからな」

 

「理由じゃなくてキミの気持ちが聞きたいの」

 

 初めて出会った頃の言葉をそのままに返される。参ったな。逃げ場がない。

 

 ならもう腹を括るしかないか。

 

――

 

 心臓がかつてないほどに煩く響いてる。

 トレーナーの家まで来て今、彼は私の隣に座っている。

 

 意味を知らない訳じゃない。

 その覚悟もあってここにいる。

 

 だけど彼は何もしてこない。

 何もしないと暗に言う。

 

 だから聞く。理由じゃなくてその気持ちを。

 

「俺はファインモーションって言うウマ娘のことをとても魅力的に思ってる。叶うことならそうなりたいのかもしれない」

 

 小さく彼は言ってくれる。

 

「でも今ここで君に何かしたらそれは男として最低な事だと思ってる。弱みにつけ込んでるだけだからね」

 

 弱み、かぁ。

 うん、そうだね。

 そうなっちゃうかもしれない。

 

 なら私にはもう何も打つ手がない。困ったなぁ。ここまで頑張ったのに。

 

「なんか、嬉しそうだねファイン」

 

「え?」

 

 嬉しそう? あれ? そうなのかな?

 ムニムニと自分の頬を触ってみると、確かに口角は上がっていた。

 

 てことはそうなのかもしれない。

 おかしいなぁ。

 

 でも確かに、胸の中には温かいそれがある。

 だからきっと、これで良いのだろう。

 

 こんな彼だからこそ、私は惹かれたのだから。

 

「……今日はありがとう、トレーナー」

 

(……そしてさようなら、私の好きな人)

 

 涙を堪えて、私は心の中で小さく別れを告げた。

 これできっと、悔いはないから。

 

――

 

 結局泊まることはなく、隊長に迎えに来てもらった。その帰りの車でお父さまに通信を繋ぐ。縁談の話を確認する為に。

 

「あぁその話か。それなら来た瞬間に断っているが?」

 

「「え?」」

 

 私と運転席の隊長の声が綺麗にハモる。

 

「娘の気持ちに気づかないほど私は鈍感な親に見えるのだろうか?」

 

 少し不満げにするお父さまに、混乱が更に加速する。隊長もこの事は知らされていなかったらしい。

 

「な、ならお父さま……」

 

「お前のやりたいようにやるが良いファイン。努力をして勝利を得たように、想い人の心もな」

 

 自嘲気味に笑いながら後押しをしてくれている。

 

「まさか諦めたとは言うまいな? 聡明なる我が娘よ」

 

「いいえ……いいえ! 大丈夫ですお父さま! 隊長、すぐに車を戻してください」

 

「ふふ。殿下の御心のままに」

 

 やれやれと言った形で父はこめかみに手を当てる。

 

「強い想いを抱いているのは分かっていたが、よもや駆け落ちの真似事までするとは思いもよらなんだ。だが、それもまたお前の示した一つの覚悟なのだろうな」

 

 そう言うとお父さまは通信を閉じてしまう。

 伝える事は伝えたと言わんばかりに。

 

「驚きました。まさか最初の段階で断られていたなんて」

 

「えぇ。でも最後の会話でわかりました。きっとお父さまは私を試されていたのです」

 

 縁談程度で諦める想いなら、最初からないに等しい。そう言われてるのだと、今なら分かる。

 

「ねぇ隊長? 戻ってきた私を見たら、トレーナーは何て言うと思いますか?」

 

「どうでしょうね。私には想像もつきません」

 

「私もです。ですから会いたいです。一分一秒でも早く」

 

 声には出さなかったけど、隊長は笑っているようだった。

 私もそうだ。きっと今はレース前のように笑っているのでしょう。

 

 ねぇ、トレーナー。

 やっぱり私はずっと貴方と一緒にいたいみたいです。諦める事はできそうにありません。

 

 ですから待っていて欲しいです。

 

 私がこの想いを伝えるまで。

 

 まぁ、それはこの後すぐなのですけどね♪

 

Fin.


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