ビビッドカラーエイジ結成時の話です。

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第1話

 季節は秋。木々の葉は色を変え始め、吹く風も心地よい良く晴れたある日の昼下がり。事務所の会議室には三人のアイドルとその担当プロデューサーが集まっていた。そのうちの一人、高森藍子は告げられた言葉に驚き思わず尋ね返していた。

「……私たちのユニット、ですか?」

「ああ。前に組んでいたユニット、その再結成企画だ」

 問いに対するプロデューサーの答えに、三人の少女は互いに顔を見合わせて。

「……ほ、本当ですか、プロデューサー!?」

 二つにまとめられた髪を揺らして声を上げたのは今井加奈だった。プロデューサーはその勢いに思わず後ずさり、そんな二人を藍子は微笑みつつ眺める。その後ろでは、もう一人の少女――藤原肇がプロデューサーの発表を聞いた時の姿勢のまま固まっていた。

「ちょ、加奈、落ち着いてくれよ。ほら、これが資料!」

「あっ、ごめんなさい。でもびっくりしちゃって……」

 プロデューサーは興奮しきりの加奈を落ち着かせ、三人に資料を配る。その一枚目には『ユニット16復活プロジェクト(仮)』という、そのままなタイトルが書かれていた。

「企画内容は読んで字のごとく、だな。さっき言ったとおり、三人がデビューしたての頃組んでいたユニット、『ユニット16』を復活させようってわけだ」

 説明を聞きつつ、肇が自分の資料をめくると、そこには胸躍る言葉がいくつも書かれていた。

「『人気急上昇中アイドル』、『中長期的なスパン』、『お披露目は単独ミニライブ』……!」

「そ。社で独自に行っている注目度調査があるだろう? その最新版で、みんなへの注目度が高くなっているのが確認されてな。藍子や肇は以前から安定していたが、その上で人気が高まっている。加奈もここにきて一気に注目度が上がった」

 資料中のグラフを見れば、いずれも線が右上へと伸びているのが一目でわかった。ふと、藍子が加奈の方を見れば、その横顔に隠し切れない喜びが露になっているのが見て取れた。

「では、その波に乗ろう、というのが今回の……」

「ああ。注目度急上昇中のアイドル達がかつてのユニットを再結成――となれば間違いなく話題になる。それは同時に、三人が次のステップに向かう上での推進剤にもなるしな」

「なるほど……。三人でユニット活動ができるというのは私にとっても嬉しいことですし、異存はありません」

 肇が答えると、加奈と藍子も頷く。元々プライベートでも交流がある三人であり、また自分たちがアイドルとして認められているが故のユニットの企画である。反対したり断ったりする理由はどこにもなかった。

「よし、じゃあ企画を進めていくのは決まりってことで」

「はい! よろしくお願いします!」

「前よりももっと、素敵なユニットにしたいですね」

「私にとっては初めて参加したユニット……その復活。きっと成功させてみせます……!」

 三者三葉の決意表明に、プロデューサーは満足そうに笑みを浮かべ。

「よろしい。じゃあ早速、新生ユニットの初仕事をお願いしようかな」

 そしてすぐにその笑みを、意地の悪そうなそれへと変えた。

「初仕事ですか?」

 不安げな様子で、おずおずと聞き返す加奈にプロデューサーは大げさなほど大きく頷いた。

「ああ。ユニットにとって極めて重要な……それこそ、今後の活動を左右するほどの仕事だ」

「ええっ!? ど、どうしよう肇ちゃん、藍子ちゃん」

「……プロデューサーさん、あまり加奈ちゃんをいじめないでください」

「加奈ちゃん、素直なんですから。あんまりひどいと、怒っちゃいますよ?」

 ニヤニヤと笑うプロデューサーを諫める様で、しかし藍子と肇の声に険はなかった。プロデューサーが加奈をいじるのは事務所でよくみられる光景だったからである。やられる加奈としてはたまったものではなかったが。

「いやあ、悪い悪い。でも、重要な仕事なのは本当だぞ?」

 謝りつつ「しかし藍子が怒るところは見てみたい気もするな……」などとつぶやくプロデューサーは、その間にも資料をめくり最後のページを示した。

「三人には、新ユニットの名前を決めてほしいんだ」

 

 

 

 

 ユニット名の変更理由は、実に単純だった。

 これまで三人は都合三度ユニットを組んでいた。いずれも短期的なもので、結成のたびにその名前も『ユニット16』から『Age16』へと少しずつ変わっていたのだが、そこで共通していたのは彼女たちの共通点――年齢を表す「16」という数字が入っていることだった。そしてこの数字がユニット名変更の原因だったのである。

 プロデューサー曰く、「肇、藍子。君たち今歳いくつ?」、と。

「すっかり忘れてました。私たち、もう17歳になっていたんでした」

 自分の年齢を失念していたことに藍子は苦笑する。そんな彼女の言葉の通り、藍子と肇の年齢はかつて三人でユニットを組んだデビュー当初――4月の頭――から一つ重なり、17歳になっていた。当然、来年の三月には加奈も17歳になる。16という数字をユニット名に使うのは不自然でしかなかった。

「だからといって『ユニット17』や『Age17』とするのも芸がない……というプロデューサーの意見ももっともですし。ここで名前を一新するのは、良い考えかもしれませんね」

「それに、こういうのってワクワクします! 自分の手で何かを作る感じっていうのかな?」

 会議室からプロデューサーが去り、残された三人は早速ユニット名を考えるべく話を始めていた。午後のスケジュールが開いていたのは、このための時間を作るためだったのだろうと藍子は推測する。

「でも、ユニットの名前を付けるのって初めてだから、ちょっと悩んじゃいますね」

「確かに、何のヒントもなく考えるのは難しいかもしれませんね。

 ……それでは、他のユニットの名前を参考にするのはどうでしょう。何かヒントが見つかるかも……」

「それ、いいですね! じゃあ、藍子ちゃんは何か印象的なユニット名ってありますか?」

 肇の提案に乗っかる形で加奈が問いかける。藍子はしばし考えたのち、

「うーん、やっぱり私にとっては、ポジティブパッション、かなあ」

 と答えた。

「藍子ちゃんに未央ちゃん、茜ちゃん。三人の元気の良さが表れていて……良い名前ですよね。何か由来はあるんですか?」

「由来かぁ。どうなんでしょう? やっぱり未央ちゃんも茜ちゃんも元気で前向きですから、そういう共通点が名前に繋がっているんじゃないかな」

「藍子ちゃんも元気で前向きですもんね! 共通点……メモメモ……」

 藍子の言葉に同意しつつ、加奈はメモ帳――ではなくホワイトボードに「元気」、「共通点」などと書き込んでいく。その間に、今度は藍子が肇に対して印象的なユニット名が何かないか問いかけていた。

「そうですね……トライアドプリムスは、格好の良い名前だと思います。私ではなかなか考え付かないでしょうし……」

「凛ちゃんに奈緒さん、加蓮さんの三人ユニット。クールでかっこいいです! 名前の由来は、確か――ありました! ラテン語で「最高の三人」とか、「最高の三和音」っていう意味らしいです」

「そんな意味だったんですね。でも加奈ちゃん、よく知ってましたね」

 手元のメモ帳を見ながらとはいえ、加奈がラテン語の意味を知っていることに、藍子は驚いた。そんな藍子の様子に、加奈は照れ臭そうに笑う。

「実は前に、凛ちゃんから聞いたことがあって。ユニットの名前が、自分たちのテーマなんだって言ってました」

「凛さんと、仲が良いのですね」

「うん。この前も都会の駅って迷いやすいよねーって、話をしたり……って、それは置いておいて」

 加奈は再びホワイトボードに向かい、そこに「トライアドプリムス」、「かっこいい」、「ユニットのテーマ」と書き込んだ。

「それじゃあ、加奈ちゃんはどう?」

「ポジティブパッションにトライアドプリムスが出たら、やっぱりピンクチェックスクールかなぁ」

 書き終えるのを待っての藍子からの問いに、加奈はすぐに答えた。

「卯月ちゃん、美穂ちゃん、響子ちゃんの、とってもキュートなユニットですね」

「ユニット名は……共通点ともテーマとも違うように思えますね」

 肇の感想に、藍子もうなずくことで同意を示した。

「卯月ちゃん、女の子らしくて可愛い、そして学校の友達みたいに仲の良いユニットにしたいって言っていました。肇ちゃんの言うとおり共通点でもテーマでもなくて、目標って感じかな?」

「目標かぁ。これもメモしなくちゃ!」

 三度、加奈はホワイトボードに書き込みを加えた。そこには「ユニットの目標」、「クラスメイトみたいに仲良く」という文字が残る。

「共通点、テーマ、目標……。こうしてみると、ユニット名にも色々な意味や思いが込められているのだということがわかりますね」

 肇がホワイトボードの文字を眺めながらつぶやくと、加奈もそうですね、と同意を返した。

「みんな自分たちのこと、ちゃんと考えて、話し合って、知って。そうやってユニットの名前に意味を見つけたんですよね、きっと」

「じゃあ私たちも、しっかり話し合って自分たちのこと、知っていかないと」

 最後の言葉に肇と加奈が藍子へと視線を向ける。そこには、ファンや仲間達から「ゆるふわ」と呼ばれる雰囲気をまとった、後光がさしているかのような微笑みがあった。

「前にしたみたいに、ね?」

 

 

 

 

 

「この紅茶おいしいです!」

「ふふっ、ありがとう加奈ちゃん。この前雪乃さんに教えてもらって、私もお気に入りなんです。ちょっと、贅沢なんですけどね」

「雪乃さんとは、以前私もお茶をご一緒しました。とてもよいティーセットも見せていただいて……」

 会議室から休憩室に場所を移し、三人は小休憩をとっていた。普段多くのアイドルが利用している場所だったが、三人がやってきたときには誰もいなかった。

 テーブルの上にはクッキーの入った皿に紅茶のはいったティーポット。どの食器もアイドル達が思い思いに持ち寄ったものばかりである。肇にとっては残念なことに、今回使っているのは雪乃の私物ではなかったが。

「ふぅ。なんだかリラックスできますね。おいしいお茶と、藍子ちゃんのゆるふわのおかげ、かな?」

「ええ……本当に」

 加奈と肇の言葉に、藍子は顔を赤らめ首を横に振った。

「二人とも、褒めすぎだよ? でも、喜んでくれたのなら嬉しいな」

 加奈はそんな藍子の姿を見て、しばし固まったのち。

「肇ちゃん。藍子ちゃんって天使なのかな」

 そう、真顔で口にした。加奈の唐突な発言に、藍子は紅茶を吹き出しそうになる。

「いきなり何言っているの、加奈ちゃん!?」

「そうですよ、加奈ちゃん。藍子ちゃんが天使だなんて……そんな当たり前のこと、どうして今更言い出したんですか?」

「あっ、そうだよね。わたしったらつい……」

「肇ちゃんも!? 加奈ちゃんはからかっているの分かるけど、肇ちゃんは本気かどうかわからないよ!」

 肇と加奈が笑い、藍子が頬を膨らます。そんなやり取りは、これまでにも何度も行われてきたものだった。その始まりに、肇は思いをめぐらす。

「……でも、藍子ちゃんも覚えていたんですね。最初にこうしてお茶したときのこと」

「えっ、それは、もちろんです。初めてのステージの前日にホテルのお部屋で、でしたよね」

 静かにカップを置くと、加奈も視線を宙へと向けた。

「あの時も藍子ちゃんが誘ってくれたんですよね。みんなすごく緊張していて」

「ほんの半年前のことなのに、なんだか懐かしいですね」

 半年前――三人がユニットとして初めて舞台に上がった時のこと。それはアメリカでのライブツアーだった。二回の公演のうち片方だけ、しかも一曲のみの出演だったが、それにしても新人アイドルが出るにはあまりにも大きすぎるステージだった。

「私にとって海外に行くのも初めてでしたし、それにユニットでの活動も初めてで……正直なところ、不安でいっぱいでした。そんな不安や緊張を藍子ちゃんが無くしてくれたんです」

「それこそ、褒めすぎ、ですよ。私もとっても緊張してましたから、せめていつものようにお茶でも飲んで、心を落ち着けようと思って」

 リハーサルを終え、ホテルの部屋に戻った肇は、すぐに扉をノックされた。最初は誰なのか分からず戸惑ったが、扉の向こうから聞こえてきた声は藍子のものだった。

 招かれたのは藍子の部屋。そこにはすでに加奈もいて――

「それまでも、レッスンの合間にお話ししていましたけど。……でも、あの時初めてお仕事以外のこともたくさんお話しできて。あと、どんなアイドルを目指すのか、というようなことも……」

「思い出すと、ちょっと恥ずかしいなぁ。私、変なこと言ってなかったですよね?」

「とんでもないです。むしろあの時、私はこの三人でユニットを組めたこと。それに私にとって初めてのユニットが『ユニット16』だったことを運命だって……そう、感じたんです」

 肇はまた、カップに口をつける。種類や味は違っていても、感じる温かさはあの時とまるで変わらず優しかった。

 と、その時。

「ありました!」

「? 加奈ちゃん?」

 途中から何かを探している様子だった加奈が、カバンから取り出したメモ帳、その一ページを開きつつ声を上げた。驚く二人にかまわず、加奈はそのページをテーブルの上に広げる。

「ホテルで話した内容、わたしもとってもすごいって思ってメモしていたんです。二人のアイドルとしての目標がどんなだったのか、忘れたくなくて!」

 はたして、そのページには確かに、肇と藍子が当時語ったアイドルとしての目標が記されていた。

 

 『肇さん――誰に見せても恥じることのないような、私を見つける』

 『藍子さん――みんなを優しい気持ちにさせるようなアイドルになりたい』

 

「わたしはあの時、まだ自分が目指す目標とか、アイドルとしての理想とかが無くて。だからちゃんと、そういうことを考えている二人が、本当にすごいって思ったんです」

 語る加奈の横顔には、当時の思い――自分が考えもつかないことを思っていた二人への純粋な尊敬――がそのまま表れているように藍子には見えた。だが、そんな言葉の中に、藍子は決して認めることのできない内容があることも聞き逃していなかった。

「それはちょっと違うよ、加奈ちゃん」

「……藍子ちゃん?」

「加奈ちゃんは自分には理想が無かったって言っていますけど、ちゃんとあの時話してくれたじゃないですか。……『可愛くなりたい』。そう言ったこと、私も肇ちゃんも覚えていますよ」

「へ? それは、でも――」

 自分自身の発言ゆえに、メモに残されていなかった加奈の思い。それは加奈自身にとってはとても目標といえるようなものではなく、しかしほかの二人にとっては全く異なっていた。

「私も、そう思います。……以前の私は、いつも無難な方を選んでしまうつまらない……自分というものがない人間でした。それではだめだと本格的に思ったのは、祖父から跡を継ぐよう言われてからでした。

藍子ちゃんも最初、自分に個性があるとは思っていなくて。それがプロデューサーと出会うことで、自分にできることを考えるようになったと話してくれました」

 肇の視線は、カップの表面から加奈の方へと向けられていた。澄んだ瞳の中に、加奈の驚いたような顔が映る。

「でも加奈ちゃんは、自分が普通だと思っていても、それでも可愛くなりたいと思い続けていた。私たちが最近になって向き合ったところに、ずっと向き合い続けてきた。そんなところを、私は……多分藍子ちゃんも、すごいと思ったんです」

 肇の言葉に、加奈は息をのんだ。自分の、あこがれとすら言えないような淡い思いが、まさかそんな風に受け取られているとは予想もしていなかったのである。

「だからこそ思ったんです。私たちはみんな、それぞれ形は違うけれど自分という色を見つけるためにアイドルになったのだと。それが、そろって16歳で、そうして集まってユニットになることができた。あの時、あのお茶会で二人の目標を聞いて、私はそのことに気づいて……だから、運命だと思ったんです」

 そこまで話したところで、肇はようやく、言葉に熱が入っていることに気付いた。気付いて、とてつもない恥ずかしさを感じた。一瞬で顔が真っ赤に染まる。

「……ごめんなさい。ちょっと、しゃべりすぎてしまいました……」

「ううん。肇ちゃんがわたし達とのユニットを大事に思っているのが聞けて、それに私の話したことをそんな風に受け取ってくれていたのも知れて、とっても嬉しいです!」

 加奈の本音も、肇の顔をさらに俯かせるだけだった。そんな肇の姿もまた可愛らしいと感じていた藍子は、そこであることに気づいた。

「それじゃないですか? 肇ちゃん、加奈ちゃん!」

「……それ?」

「はい! 私たちの共通点で、目標で、テーマ。――自分だけの色を見つけること。その色で輝いて、ファンの皆さんの声に応えること。肇ちゃんが運命だと思っていてくれたこと、ユニットの名前に込めるのにぴったりだって思うんです」

 藍子の言葉に、加奈は瞬きを何度か繰り返し、肇はまだ赤色が残る顔をあげた。そして。

「藍子ちゃんも肇ちゃんもすごいです! ユニットのことすぐわかっちゃうんですね!」

 加奈は先ほどまでの驚きも合わせて興奮したように腕を振り、

「私の思いが、二人にも受け入れてもらえて、しかもユニットの名前に生かせるのなら……恥ずかしい思いをしたのも無駄ではなかった、ということでしょうか」

 肇はようやくペースを取り戻したのか、表情に笑みが生まれた。

 そんな、それぞれの賛同を受けて藍子もまた笑顔を返す。

「それじゃあ、改めて考えてみましょう。私たちのユニット名!」

「はいっ、頑張りましょう!」

「……私も、頑張ります」

 藍子が作った空気の下、肇が思いを語り、加奈が残していた記憶を示し。そうして三人に共通した思いが、新たなユニットの名前として形を得る――。

 

 

 

 

 

「『ビビッドカラーエイジ』、か」

 翌日、場所は前日と同じ会議室。プロデューサーは三人が提示したユニット名を、噛みしめるように声に出した。

 『ビビッドカラーエイジ』――原色の世代。それが、三人が考え出したユニット名だった。

「はい。三人がそれぞれに自分だけの色を見つけて、それが混ざり合ってたくさんの新しい色になる。そしてその色で、ファンの皆さんの日々を彩りたい。皆さんの思いを受け止めたい。……そんな、私たち三人の共通点と目標と、テーマを込めた名前です」

 肇の説明に、プロデューサーはなるほど、と頷きを返した。原色とは、その組み合わせによってさまざまな色を生み出すことのできる色のことをいう。定義によってまちまちだが、三色だとされることが多い。自分らしさを色に見立てれば、三人のユニット名に使う言葉としてふさわしいと彼にも感じられた。

「一つ聞きたいんだが、いいか?」

 プロデューサーは三人が無言で先を促しているのを確認すると、再び口を開く。

「ビビッドカラーの方は今の説明で分かった。でも、どうしてエイジを後につけたんだ? ガールズでも何でも、他に使える言葉もあっただろ」

 その、プロデューサーとしては当然の問いに、三人はそろって待ってました、と言わんばかりの笑みを浮かべた。

「それをつけようって言ってくれたのは、加奈ちゃんなんです」

「加奈が?」

 プロデューサーの視線が向けられると、加奈は跳ねるように立ち上がった。

「さっき肇ちゃんが説明してくれたことは、わたしたちにとって大切なことだと思います。でもそれだけじゃなくて、わたしたちが同じ年齢だったことも、やっぱり大事にしたいなと思って」

 それに、と。加奈はわずかに間を開けて。

「これまでのユニット名は、プロデューサーにつけてもらった大切な名前だとみんなが思っていたから。だから新しいユニット名にも、前のユニット名の何かを残したいって。三人で話し合ったんです」

 それを聞いて、プロデューサーは視線をほかの二人にも向けた。その先では藍子が微笑み、肇が小さくうなずいている。それを見て、プロデューサーは三人がそれぞれ、別の形ではあるが自分に語り掛けているように感じた。

 この名前は三人で作り上げたのではなく、プロデューサーを含めた四人で作ったものなのだ、と。

「これは、どうも……まいったな。ここまでいい名前を持ってこられるとは思わなかったよ」

 思わず、うつむく。大人として、ここで少女たちに見せてはいけないものが瞳から出てきそうになり、プロデューサーは自分が実は涙もろいのではないかと疑ってしまった。

 だが、このまま泣いてしまうわけにはいかないとの思いで、プロデューサーは何とか涙をひっこめた。子供にやられっぱなしというわけにもいかないという大人げない思いが、彼を支えていたのである。

 そうしてプロデューサーは不敵な――と自分では思う――笑みを浮かべて、担当アイドルに向かい合った。

「分かった。新ユニット名は『ビビッドカラーエイジ』でいこう!」

 その声を聴くや、三人のアイドルがわっ、と歓声を上げた。自分たちの思いを受け取ってもらえたことへの素直な喜びが、そこには満ちている。

 だからこそ、また別の刺激を用意することをプロデューサーは忘れていなかった。順風満帆なだけでは緊張感は保てない。明確な目標があってこそ、日々の活動にも張り合いが出る――というのが彼の考えだった。

 そこにはほんの少しだけ、先ほど不意打ちを受けたことに対する仕返しの意味も、込められていたのだが。

「さあ、これだけ挑戦的な名前を付けたんだ。これからは今まで以上に忙しく頑張ってもらわないとなぁ?」

「? プロデューサー?」

「挑戦的、というのは……」

「どういう意味ですか?」

 三人が、それまでの喜びから一転、不思議な何かを見るようにプロデューサーに問いかけた。それを見て、やはり無自覚だったのかと、青年は苦笑する。

「君たち。エイジの意味は分かるよね? ……はい、加奈さん」

「えっと、年齢、ですよね?」

「それもある。だがそれ以外に年代とか、あとは世代という意味もあるんだ」

 そこまで聞いて、肇と藍子が何かに気づいたようにあっ、と声を上げた。一方加奈はまだ分かっていないのか、首をかしげている。

「じゃあ加奈、二問目だ。うちの事務所でトップクラスの人気を誇る、「世代」の名を持つユニットといえば?」

「? それはもちろん、『ニュージェネレーション』、です、よ…………ああっ!」

 そこでようやく、加奈も気づいた。自分たちがつけたユニット名が何を意味するのか。そしてプロデューサーが何を考えているのかを。

「いやあ、これは大変だぞ? 『世代と世代の対決、ニュージェネレーションvsビビッドカラーエイジ!!』。こりゃしばらくは仕事がわんさか入るなー」

 ニヤニヤと笑いながら三人を見れば、表情に先ほどまでの余裕はまるでなかった。しめしめ、とプロデューサーは思う。

 ――大人を無自覚に泣かそうとした罰だ。

 そんな子供っぽい感情と、そしてまた別の思いを胸に、彼は会議室の扉を開ける。

「ちょ、ちょっと待ってくださいプロデューサー!」

「私達、その心の準備が!」

「……どうしましょう、挑戦状だなんて、そんなこと考えも……」

 追いかけてくる三人に、プロデューサーは振り向くことなく、ただ思う。

 三人にはトップアイドルになってもらうのだから、ニュージェネレーションにだって負けるなよ、と。

 新たな舞台に進む四人の姿は、どこまでも希望に満ちていた。


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