貴方は転生者である。
この世に生を受けて幼少期を母親と過ごし、中学生までを母の再婚相手の家族と一緒に生活した記憶がある。
しかしそれと同時に貴方には自分が違う世界で歩んできた人生の記憶がある。
俗に言う前世の記憶とは少し違い、貴方は自身のことを明らかに別世界の存在であると認識している。それはそれぞれの記憶における男女の扱いの違いであったり、技術的な面での発展具合であったり、歴史の流れであったりを根拠としている。
貴方は転生者である。
貴方は今、大きな人生の分岐点に立たされている。
「無差別殺人だって」「犯人自殺したんでしょう?」「背中をざっくり。致命傷だったらしい」
耳に届くのはそんな遠慮のない言葉ばかり。貴方は唯一の肉親であった母の遺影を抱え、ただただ麻痺した感情の行き場を探しぼんやりと弔問客を眺めることしか出来ない。
隣には母の再婚相手とその連れ子。貴方の義理の妹と父親が重苦しい空気を纏って立っている。
今日は母の葬儀の日だった。
葬儀や火葬、遺品の整理と遺産の分配が恙無く行われ、貴方は家に帰ってきた。
否。貴方は仮の宿に帰ってきた。
母親の遺産は法的な措置に則って貴方と義父との間で折半された。義妹が父親を誹る言葉が聞こえた気もするが、貴方はそれをどこか遠くの事のように聞いていた。
大切なことは二つ。
貴方は義父との縁組を近い将来解消される事となった。妻を愛してはいてもその連れ子までこれまでと同じように愛することは出来ないからと。貴方はこれまで通り義父の所持する家で生活を送る事が出来なくなった。
義父が受け取った遺産は貴方が高校を卒業するまでの生活費として使う、そう告げられた。心無いと言われても仕方がないが、私のできるあの人への最大限の譲歩はこれなのだと。貴方をすぐ様放り出してしまわないのが、私の最後の優しさであると。
貴方はあと2年と少しで社会の波に飛び込むことが決まったのである。
貴方は家族を喪った。
そればかりか家族と家庭、ふたつのものを唐突に失ったのである。
貴方は悲観しつつもその特異な生い立ちによる精神年齢の高さから、これからを生き抜く為に行動を起こさなくてはならないと決意した。
泣いてうじうじとしている事は、どうしても出来なかったのだ。確かな悲しみをしこりの様に感じながら、貴方は手始めに私用のものとは別に新しい携帯電話の契約をした。
電話帳とメールが使える程度の安いシンプルな携帯電話である。入学の祝いだと母に買ってもらった多機能なそれとは正反対の無機質なそれが貴方の新しい武器であった。
その他にイヤーカフや安物のネックレス。毛染め薬などを買い込んで、貴方はひとつの覚悟を決めた。
貴方はこの世界の貞操観念が自分の持つそれとあまりにもかけ離れていることを知っている。
「ねぇおネーサン。今俺の方見てたよね?」
この世界における男子高校生の価値を貴方は十全に理解し、それがどれほどの値段がつくのかを知っている。
「ホ別本番はなし。3万って言いたいとこだけど、お金ないなら1万でもいいよ?」
どうかな?と言いながら貴方は自分より少し背の低いOL風の女性に声をかけた。ここは飲み屋街を少し外れた通りの公園であり、貴方は私服である。
貴方は貞操観念のおかしな世界を生きるために、売春をして当座の資金を貯めることにした。
貴方は貞操観念の違いを理解している。
視点はこのなんとも言えない三人称視点と主人公以外の視点の交互で投稿していきます。