貴方は貞操観念のおかしな世界にいる▼   作:菊池 徳野

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いただいた評価が遂に0~10まで埋まりました。当然評価していただいたことも嬉しいのですが、謎の達成感を感じております。


貴方はバイトを辞められない▼

貴方はバイト戦士である。

それは本業にも日雇いにも言えた話であるが、お金をいただく以上貴方は仕事に手抜きをしたことは無かった。

 

夏休みという半休業期間を終え、心身共にリフレッシュした貴方は綺麗に焼けた日焼け跡を売り物にして、この日の為にと買っておいたユニフォームや体操着を新たなコンテンツとして売り出していた。

 

商魂逞しい貴方は初期投資がそれなりにする以上、いつもよりも口も手も回してサービス精神旺盛にちょっとアレなシチュエーションプレイにも対応してみせた。

件の部活のユニフォームもこの期間に二度と着れない程カピカピになった。元より着るつもりは無かったとはいえ惨い話である。

 

焼けた首元や腕と体幹に近づくにつれて白くなる肌のコントラストはかなりのお客様に好意的に受け入れられ、値段を変えずとも利益が上がる程に様々なリクエストが殺到した。

よく考えてみれば既にひと月以上お預けを食らっていた飢餓状態の獣達が耐えられるはずも無かったのである。貴方はそれを期間限定物に惹かれる心理と誤解していたがその事を理解することはついぞ無かった。

そして過剰な運営からの供給に狂ったオタクの様にはっちゃけた客の内何人かは切られる事にもなった。諸行無常である。

 

そうしてプレイに使ってしまい2度は着る気が起きなくなった、使い物にならないと判断された服の数々は、量販店で買った安物のチェキを使って顔の写っていない衣装を着た自撮り写真を何枚か撮って、新たな資金源として社会の闇へと流れて行った。結局諸経費は買ったチェキと労力くらいのものである。

アングラなリサイクル業の闇は深い。

 

 

 

 

夏休みが明けて数日が経ち、バイト先の店長からお店を再開するという通知を受けて貴方はいつもの様に午後の家事を義妹に任せて日曜バイトに繰り出した。

お気に入りの曲をイヤホンから聞きながら独り電車に揺られる。男性専用車両なるものもあったが、ちょっとおぞまし過ぎたので貴方は一般車両をよく利用していた。

特に日曜のバイトは昼食の時間とも帰宅の時間とも被っていなかったので、日曜であっても電車は座れる程度には空いていた。

 

元々は夜間の避難場所として始めたバイトであったが、お金に余裕が出来てなお、それ以上の価値ある場所となっていた。

 

元々学生を雇う夜間のバイト自体それほど存在しない。

それは夜間は特に何かトラブルが起きた時未成年を雇うと店側の迷惑になるうえ、そうした雇用契約は推奨されるものでは無いという事が主な理由である。その為貴方は採用してくれた雇い先に恩義を感じている。

それに美味しい賄いの出るバイトというのもある。

 

貴方にとって気の休まる場所というのは案外少ない。

 

家や学校は勿論のこと本業の最中など以ての外である。知り合いも家族も本職の客からも視線を気にせずに済む時間というのはとても稀なのだ。

前者は売春バレがあるし、後者は身バレが怖い。

 

そんな理由があって身バレの心配が少ない日曜のバイトを貴方は存外気に入っている。

 

 

 

 

「で?その女の子どうしたのよ?」

「別に何も無いですよ。話し掛けても来ないままどっか行っちゃったし。」

 

貴方は出された賄いを突きながら目の前でにやにやと笑う女性に胡乱気な視線を返して、できるだけ事実のみを口にする。話題にされて貴方の頭の中に思い出されるのは縁日で青い顔を浮かべていたクラスメイトの顔よりも人畜無害そうな委員長の顔である。

 

「そういうのって逆に意識しちゃって恋が始まったりするもんなんじゃないの?」

「そんなこと未成年に聞かないでくださいよ。それにそういうのは2回目の勇気を出せた人にだけ来るもんです。」

 

少なくとも態々自分から振った相手を自分の方から構って上げられるほど貴方は幼くなかったし、何より合理主義であった。客であれ同級生であれ、自分から夢を売るような発言はしないようにしている。変に愛想を振り撒いて問題を抱えるのはゴメンであった。

 

「えー、つまんないの。アサヒちゃんなら入れ食いじゃないの?」

「…本業の方もありますから。後仕事以外でちゃん付けやめてください。」

「そんなの気にしちゃダメでしょ!恋なんて何時でもできるものじゃないんだから!」

 

目の前で妙に熱が入っている女の姿から貴方は視線を外し、やけに良い魚の身と野菜クズというアンバランスな食材を使ったパスタを腹に収める作業に戻ることにした。聞こえてくる女の演説は右から左である。

 

貴方はカフェで給仕のバイトをしている。

カフェとは言うが日があるうちは閑古鳥が鳴き、夜は酒を出す大人の社交場という雰囲気の方が合っている名ばかりのものだ。店長曰く祖母から譲り受けた店の名前を変える気になれなかったとの事だが、学校に提出する書類に居酒屋と書かなくて済んだ貴方にとっては都合がいい以上のことは無い。

 

店長――目の前で演説を繰り広げる女のことである――は同性愛者であるらしかった。前世の記憶で考えると全くもって違和感がない可愛らしい女性であったが、来店して彼女と接する客の表情は少し苦い。

男性恐怖症という事も無いようなので働けているが、貴方は言葉にしないものの常に勿体ないなぁと彼女を見て思っていたりする。

 

ただそんなこの世界では生きづらそうな彼女だが、彼女の作る料理は絶品であり、祖母から教わったという丁寧に仕上げるコーヒーの味と相まってリピーターは多く稀にだが店には家族連れもやってくる程であるため、経済的には安定している。

 

「ミヤさん俺今からお皿洗うけど、洗い終わる前に食べれる?」

 

夏の前まで居たという彼女の話を例に恋愛のアレコレについて語る彼女を無視してそう告げると、彼女は慌てたように無言になり手元の冷めたパスタを口に運び始めた。こうした光景はもはや日曜日の締めのお約束であった。

貴方は魚の小骨が面倒だったことを思い出して、いつも通り間に合わないだろうと皿洗いを途中で止めて調味料の残りを確認したりして時間を潰す事にした。

 

貴方は全ての事情を理解した上で雇ってくれている彼女に対して、多大なる恩義を感じている。

 

「人間何かと大変だものね!」

と持ち前の明るさで言ってのけてくれた彼女に全幅の信頼を寄せていると言ってもいいだろう。彼女は女性遍歴の変遷が著しく早い事にだけ目を瞑れば貴方にとっては誰よりも信頼出来る大人であった。

 

就業中に客からのセクハラから庇ってくれる辺りもポイントが高かった。

 

貴方は自分の仕事に確かなやる気を秘めている。




日曜日にMIB見たせいか昨日書いた下書きがアメリカンな言い回し多くなってて今回はめっちゃ修正してました。
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