濡れた制服透ける肌っていうのも学生ものによくあるやつですね。
貴方は辟易していた。
定期的な精神面のケアという名前の進路指導についてもそうであったし、折角の義妹の進学祝いをなぁなぁで済ませた義父の態度にしてもそうであった。気を配れないという事は罪なのではないかと真剣に考えてしまうくらい、貴方の周囲は重症であった。
季節は春、4月の初めのことである。
貴方という爆弾とひとつ屋根の下であってもコツコツと努力を積み重ねる事の出来た義妹は、なんの問題もなく貴方と同じ高校に進学を果たした。さほど大変ではない難度とはいえ落ちている人間がいる以上貴方は義妹の合格を褒め殺したし、謙遜をしてはいたが義妹も喜んでいた。
それは仲の良い兄妹としてのワンシーンであった。
貴方は、貴方の進級に関してはともかくとして義妹の進学という大きなイベントの際には家族で祝うものだと母が生きていた頃の話を持ち出して義父の説得を試みたのだが、説得も虚しく結果的に貴方と義妹の2人で祝い事を済ませることになった。
貴方としては家族で祝うのだから貴方と2人よりも親子で祝いの場を作るべきだと言いたかったが、そこまでの関与は出来なかった。義父が精神的な回復ができておらず色々なものから逃げようとしていることは理解していたため、どうにも追い討ちをかけることが出来なかったのである。
ただ後で貴方の居ない食事の場で軽く褒められたと義妹から聞いたのでそれ以上は気にしないことにしたが、それでももやっとした気持ちは解消しなかった。
また三年生となり大学受験や就職が意識されるようになった事もあり、貴方は新たなクラスメイトからの質問や話題逸らしに気を使う日々を送ることになった。言葉だけでは逃げられないと判断した時には三島をスケープゴートにすることもしばしばであった。
三島は今年も貴方とセットにされていたがそれが運なのか教師の思惑なのかは分からなかった。ただ彼女が不幸であることは言うまでもない。
そんな中々にストレスフルな最後の高校生活の滑り出しであったが貴方はあまり疲弊していなかった。
その理由の一つに義妹の存在があったことは間違いないだろう。貴方と一緒に登校出来る事が嬉しいのか朝の時間を楽しげに過ごす彼女を見て、貴方は少なからず癒されていたし、行き帰りが同じなことで夕飯の買い出しなども楽になったりと義妹の存在が確実に貴方のストレスを軽減してくれていた。
貴方の居ない生活に慣れねばならないという事実は棚に上げての行動であったが、貴方は特に何も言わず義妹の天真爛漫さに甘えさせてもらう事にした。そのせいで近くにいることが増えて見たくない兄の姿を見る機会が増えた義妹の脳は犠牲になった。
そして義妹で解消できないストレスは三島に話し相手になってもらうことで消化させた。突発的に出来た貴方の事情を知る人間であったが、やはり気を張らずに接することが出来る相手がいることは貴方の精神的な安定に繋がった。
金銭事情を知らされた三島の顔からごっそり表情が抜け落ちた事もあったが、貴方は特に気にしなかった。
学内に身内がいることで目立ち易くなってしまったので貴方はより一層の被る猫の厚みを増す必要ができた。
残り一年。貴方はその間に様々な物を片付けなければならない。
手懐けた変態達との関係もそうであるし、私物の処分、新天地の模索、書類手続きなど諸々の準備、就職活動。ざっと挙げただけでも問題は山積みである。これにストーカー対策も混ぜるとなると一人でやるにはかなり厳しい状態である。
貴方は誰に頼るでもない生活を目指している。そのために学生のうちは誰かに借りを作ることになる可能性も理解している。義妹や三島、バイト先のミヤさんには協力を仰ぐことも吝かではない。
とはいえ条例違反上等のパワープレイにより金銭的な心配はあまりしなくても良くなり、予定の金額は達成出来る目処が着いている。仮にいくらか追加で出費が必要となっても問題ないだろう。
処遇に悩むのは地味な仕事用の携帯に連なるもの達である。最後を見越して面倒な人達は少しずつ減らして来たが、それでも未だに貴方の携帯には20件近くの『貴方目当て』の客が登録されている。
逃げ切るのであれば今の段階から行動を起こす必要があるだろう。不測の事態というものはいつも突然やってくるものである。
貴方の将来設計は未だ朧げであるが、確実に形をなしていた。
次回、三島始動――。
(予定は未定です。)