夏バテでダレてたら8月終わってしまった。
貴方は夏を去年よりも多少なり平和に過ごすことに成功していた。
執事にホールに偶のオシゴトに。平均的な高校生に比べたら激務であったことは間違いないだろうが慣れたという事もあり、何より恙無く日々を過ごせていることが大切なのだと貴方は理解していたので大きな問題ではなかった。
あくまで現在の貴方の目標は残り半年程でオシゴトの相手と円満に別れる事であり、去年を思えば金銭にも人脈にも頭を悩まされなくても良くなった今は天国である。それでも大変な事に変わりは無いが。
いっそ必要以上のフォローをせずに一方的に辞める事だけ告げて逃げる選択肢もあるにはあるのだが、金銭含め色々とお世話になった彼女達にこれ以上不義理なことをするのは如何なものかという葛藤がそれを踏みとどまらせていた。
何より歳上ばかりとはいえ女の子達*1を使い捨てるようにして逃げ出すのは貴方の前世で培った良心が咎めるのだ。悪いことはできても悪い男にはなりきれないという中途半端な誠実さがひとつ貴方の魅力なのだとは衣紀さんの談である。
ちなみに危うい弱さと曲がらない芯の強さを兼ね備えた最高のご主人様だというマゾ達からの支持率も高いことは貴方は知らない。
しかし、そんな貴方にも苦手な事はある。
貴方も一人の人間である以上、人並み以下にしか立ち回れない事のひとつやふたつ存在するのである。
「一般的な高校生が着る男性用水着とは……?」
そのひとつがファッションセンスである。無論、自身のパーソナルカラーは把握しているし、色合わせのセンスも大きく外した事は無い程度のお洒落への関心は存在している。
しかし、ことイベント事における服装の露出加減やデザインについての感覚があまりにも身についていないのである。
この世界に生まれ変わった弊害のひとつであり、おそらく一生身につかないタイプの感覚である。
いつぞやの縁日で着ていた甚平も、妹からインナーを着るように言われていなければ痴漢*2一歩手前の扱いを受けていたかもしれない。そういった性の絡むバランス感覚が欠落しているのである。
『で?』
「水着買うから付き合って欲しくて。」
『ま゚、ん゛んっ……なんで私なんだ』
しかし、欠落しているのなら他所から持ってきて補えばいいという教訓を前世の経験から学んでいる貴方は、貸しと義理とで断れない三島を頼ることにしてほぼ義妹との連絡にしか使っていないスマホの電話帳を開いたのだった。
何より今回の海への小旅行は京さん立案のバイト先の3人を主としたものであるから、他の人に声を掛けるのは違うように思えたのだ。それに思春期の義妹に兄の水着を選ぶのを手伝わせるのは可哀想だろうという気持ちもある。
『マスターが妹も誘っていいって言ってたろ。』
「最近ちょっと唯華がギクシャクしてて可哀想かなって。」
唯華"と"、ではなく唯華"が"なところがミソである。
貴方のお仕事について話してから、義妹から貴方への接し方がぎこちなくなっている。貴方はそれもやむ無しと考えている為、空気が悪くなるような事は無いのだが、それもあって貴方から義妹への接し方が何も変わっていないせいで義妹の一人相撲である事は傍から見ると一目瞭然であったりする。
ちなみに義妹も海には行く。誘い文句の後、メンバーに三島が居ると言ったら一撃だった事は言うまでもない。
『予定確認するから待ってろ。』
そう言うと、保留音が流れるでもなく放置されたであろうスマホ越しに小さく三島の父親らしき人物との会話が聞こえてきたので、貴方はそっと息を潜めてスピーカーに耳を近づける。
程なくして帰ってきた三島と予定を擦り合わせ、明日の昼前に駅近くの休憩所付近で待ち合わせして用事が済んだら昼を一緒に食べる約束をして会話を切り上げた。
さてそうして一息ついて思い出すのは昨日、いつものように三島と一緒にバイトをしていた時のことであった。
昼の人混みから涼を求めて流れ着いた避難民と思しき客達からの注文を捌いていくお昼時。
恋愛もののドラマにでも影響されたのかいつになく人肌恋しいオーラを纏った京を厨房に押し込めて、三島と二人知らぬ存ぜぬとサーブとオーダーを捌いていたのだが、客が居なくなり、昼の賄い時になって今年は彼女が出来なかったと京が爆発した。
それに対して貴方は仕方なく京の隣に座り、宥めすかして褒めそやして何とかあやしていたのだが、その時にポロリと口から出た言葉が何かまずかったらしい。
「ナンパ行く!海よ海!お店はお休みにしてかっこいい彼女を捕まえに行く!」
貴女は素敵だたまたま一人の時間ができただけだと言ってしまった貴方は、まさか慰めていた相手が急に自己肯定感MAXまで高まったうえアクティブに海まで行こうと言い出すとは思っておらず少しの間ぽかんと大口を開けて京の顔を凝視することになった。
「海かぁ。今年どこにも行ってないし私もどっか行こうかな。」
京が海と新たな恋に熱をあげている中、いつも通りに言葉を発したのは嘆く京と冷めていくパスタを天秤にかけてパスタを取った三島であった。この喫茶店で働くようになってから色々と図太くなったものである。
「最低限片道は車出すからみんなで海行かない?社員旅行!なんなら少しはお給料出すから!」
ひぃん、という情けない鳴き声と合わせてあまりにも不憫な京に対し、NOと言えるだけの胆力は貴方にはなく、しかし最後の抵抗と家事を義妹に任せきりになるのは良くないという心残りを吐露したものの、
京の「一緒に連れていけばいい」の一言で呆気なく流されてしまった。
なお、三島は何も言っていないのに行くことになっていた。貴方はそれに特に言及することなく、当然のことのように流しておいた。道連れは多い方が良いので。
「お前はもうちょっと恥じらいを持ってくれ。位置的に見にくくても他の女性客とか居るかもしれないし……。」
ぶつくさと文句を言う三島の手には先程奢らされたジュースが握られている。話の合間に喉を潤している為結構なスピードで無くなっているが、今日は暑いので身体を冷やしすぎることは無いだろうと指摘はせず、貴方は気のない相槌を返した。
デパートのフードコートは夏休みということもあって子供連れや学生が多く、その喧騒もあって少々不機嫌そうな三島の声が周囲に聞こえることも無い。
貴方にとって三島はクール系の可愛らしい少女だが、この世界の人にとってはヤンチャそうなヤンキーであるので、三島の声を聞いて近くにいる家族連れが気まずい思いをする事ははばかられた。
「悪かったよ。反省してる。」
試着室のカーテンを開ける以上多少は仕方ないことだろうという考えは一旦飲み込んで、貴方は全面降伏の姿勢を三島に見せトレーに乗ったポテトを摘んでいた手を頭の位置まで挙げてみせる。
ついでに左手も挙げて降参の意思を示せば、三島もそれ以上は小言を言わずトレーの方に視線を向けて漸く食事を開始した。
「そういやこないだメイド喫茶にクラスメイトが来たよ。」
「ふーん。」
「加藤って女の子なんだけど、知ってる?エロに人生賭けてそうな子。」
「あ?たぶんあいつだと思うけど、何?指名されたの?」
その後はクラスメイトを出汁にして他愛のない会話と昼食を楽しんだ貴方はフードコートに水着を忘れかけるというハプニングを挟みつつも、無事買い物を終え帰宅を果たした。
別れる際
「水着、似合ってたから。」
という一言があったが、貴方が返事も何もする間もなく三島はさっさと帰っていった。
悪戯心が芽生えた貴方は家の姿見を使って水着を着た写真を三島に送ろうとして、結局1度洗濯する必要があると思い出して諦めることとなった。
夏はすぐそこに近づいていた。
もうちょっと文章量増やしたいなぁ
完結後の話になりますが没案や流れ的に書けない話や設定とかって需要ありますか?
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何でも読むよ!
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読むか分からない
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活動報告で書けば?
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要らない
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お話系だけ欲しい