貴方は最近疲れている。
子育てで衣服を汚されたかの如き最近の洗濯物の多さにげんなりとしつつも、若干の優越感を覚えるあなたのメンタルは鋼である。
しかしそれでも若干かぴかぴとしているスラックスをクリーニングに出すことを決意して、洗濯で痛みにくそうだからという理由だけで最近履いているジーンズを洗いに出すような生活に疲れを感じてしまうのは仕方ないことだろう。
家事については義妹も覚えつつあるのか、最近は日曜日の家事を義妹が基本担当している。学生なのだから遊びに行った方がいいと言ったところ、それは兄さんも同じだからと譲ることなく言い返されたので貴方は喜んで日曜日を好きに使わせて貰うことにした。
小さかった義妹の成長に感極まって抱きしめてしまった事は貴方の記憶からは既に消去されている。
それはさておくとしよう。
そんな訳で貴方は家事の負担が減り、比較的楽をさせてもらっている。では何に疲れているのかと言えば本職の方である。
学生の本分は学業という言葉は貴方のメンタルを揺るがすことは無い。資本こそ全て。
先も少し触れたが貴方は客が消耗品のように衣装を用意し、それを好き勝手に汚して来ることに若干の嫌気がさしていた。
その場で捨ててきても良いのだが、貧乏性の貴方にはそれが出来ず貰えるものは貰っておこうと持って帰ってきては手入れの面倒臭さに辟易する日々を過ごしていた。
思えば燕尾服なる物を着てお嬢様プレイをして欲しいという要望を了承した辺りからおかしくなった気がする。
貴方は客の性癖は暴露しないと守秘義務の如く口を固くしていたにも関わらず、違う客に私もして欲しいとリクエストされたのだ。
問い質してみれば、意外なことに客同士でバラバラながらも横の繋がりがあるらしい。あなたとは知り合いじゃないけどあなたの友達と友達みたいな謎の繋がりが存在するというのだ。
蛇の道は蛇。変態の友達は変態。変態ネットワークなる物の存在に頭痛を覚えた貴方は日向子に無性に会いたくなった。
なお、変態界隈に現れた1人の天使というおぞましい噂が変態達の間でまことしやかに囁かれている事を貴方は知らない。
また貴方の顧客は貴方を盗られないようにと情報を規制しているのだが、貴方が気まぐれに声をかける相手の多くが変態なのだから救いはない。
この世には知らないままの方が幸せなことが多い。
そろそろ接客時の対応がデフォルトで執事然としそうな貴方だが、日曜にしている接客バイトでの評価は良好なので文句を言いづらい状態になっている。
貰った燕尾服が4着を超えた辺りで変態には燕尾服は貴方が持っていく事を周知するように厳命した。3日で全員に共有された。
お客の中には貴方の童貞が手に入らないなら服をくれという謎の理論を振りかざし私服を求める輩も存在する。何に使われるかと戦々恐々としつつも守銭奴の貴方はガチの私服を数点売っぱらった。
ブルセラってあるし、まぁええやろという精神だった。頭が痛い話である。
そうは言っても客たちも淑女である。変態という名の淑女ではあるが、キモがられて客として切られるのが怖いという事もありあまり問題は起こさなかった。
とはいえどこまですればキモがられるのかと謎のチキンレースに興奮している者たちや貴方は全てを受け入れてくれると盲信している輩もいるので、貴方の大きめの服を着て貴方に包まれている気分ですと写真を添付したメールを送ってくる猛者もいた。
微妙な気持ちではあったが言わば元の世界で言うところの彼シャツのようなものである。ある程度好みの女性を選り好みしていた貴方は大変捗ったという裏話もある。なおその女性はその後のストーカー診断に落ちて切られている。
他にはキワモノのブーメランパンツを渡されたので、行為の後目の前でゴミ箱に捨てた事もある。流れるように目の前で回収しようとされた時には頭を抱えたくなったが、
「俺よりも布切れの方がいいんですね…。」
と若干死んだ目で言ってやれば縋りついてきたので彼女のこれからと性癖の修正のためにでろでろに甘やかしてやった。そんな彼女は制服でのラブラブプレイが最近のお気に入りである。
頭痛がするのはどちらの方であるのかは分からない。
閑話休題。
何の話か分からなくなる前に軌道を修正しなければならない。
貴方は売春行為を仕事だと認識しているし、最近は謎のプロ意識も芽生え始めている。それでも貴方は高校生で、精神年齢はどうか知らないが身体はそれはそれは繊細な時期である。
心が身体に引っぱられるという言葉があるように、貴方は最近この状況にストレスを感じてきている。ストレスを打ち消せるだけの何かがなければそれはいつか破綻する。お金だけだと少し嫌になってきてしまったのだ。
有り体に言ってしまえば、どうせなら貴方だって楽しみたいのである。
この世界の女性は肉食系とはまた違うのだが、自己主張が強い。
独身女性のみにターゲットを絞っていることもあり、処女率9割を超える顧客リストのメンツは、優しくすると付け上がったり調子に乗ったりしやすいのだ。
それに貴方は目を光らせなければならない。
増長してきた辺りでその鼻っ柱をぽきん。気が大きくなってきた辺りでその膨らんだ風船をぱちり。
貴方は処女(童貞)の躾方に一家言あるほどに扱いが上手であった。
そうやって気を張っている間、貴方は警戒をしていることもあってやはり心からは楽しめない。顧客を増やしすぎたツケでもあるのでしょうがないが楽しみたいという気持ちはある。
しかしだからと言って自分から日向子の様なマトモっぽい女性にアプローチをかけるのは少し違う気もするし、何より本気で落としてしまいそうで自分から退路を絶つようなマネはできない。
最初のお誘い以外は飽くまでも女性からの連絡に乗っかる形を取ると貴方は決めているのだ。貴方の前世で培われたリスクマネジメント能力はこんなところで役に立っている。
もやもやとしつつも夜のメールチェックを行っていると舞子からのメールが届いた。
道具を使ったマゾプレイを強請る舞子は、使用する道具とプレイ内容の了承伺いにメールを送ってくる事がある。
貴方にだって受け入れ難い性癖はあるので彼女のそういう配慮にはありがたいと思っていた。何より太客ということもあり優先して確認していく。
中身は露出調教のお誘いだった。誰かの視線に晒される経験をしてみたいとの事である。その内容に対してリスク高いからダメだけど割と普通のプレイを要求されたなと思ってしまう貴方は確実に疲れている。
しかし貴方は天啓を得た。
貴方は舞子に内容のプレイはダメだが、こういうのはどうかと返信をし、それと同時に電話帳の日向子を筆頭とするマトモ女子フォルダから何人か当たりをつけてメールを作成する。
『3Pのお誘い』
その件名のメールを先ずは日向子に送った貴方は、返信が来るまで資格試験のテキストに向き合う事にした。
その件名を見て日向子の心がどれ程乱されてしまうかを知らず。
貴方はガチ恋勢という存在の厄介さを知らない。
流石に今週の更新はこれで終わり。だと思います!