「うーん……」
俺は今非常に悩んでいる。なぜならそれは……
「こんなデッキで明日の入学試験勝てるかなぁ……」
つまるところデッキ構築である。明日は念願のデュエルアカデミアの実技試験の日。だっていうのに未だにデッキが決まらないのである。外は完全に真っ暗。かれこれ数時間はこうしてカードと睨めっこしていることになる。
「やっぱただの【リクルカオス】じゃ安定性に欠けるよな……」
コンセプトは決まっているのだが、いかんせん安定性とエースに欠ける気がするのだ。俺は最強のカオス《"カオスソルジャー・開闢の使者》は持ってないってのが更に枷となっている。
「ただいまー」
と、睨めっこを続けていると"彼女"が帰ってきたようだ。しまった、もうそんな時間か……
「ただいま恭介君っと。あれ? デッキ調整してたの?」
「まあ、ね……」
いつになく上機嫌で帰ってきたこの女性―星月 夜依―は珍しいものを見たという顔になっている。まあそうだろう、明日試験だってのにまだデッキが決まってないのだから。
「珍しいわね。大体恭介君ってデッキいくつか持ってたじゃない。それはどうしたの?」
あー、そういえばそうだったな。でもそれは……
「んー、あげた」
「あげた? また?」
「うん、また」
"また"……そうなのだ。組んだデッキを他人にあげるのは何も珍しいことじゃない。だがこの大事なタイミングでってのはどうかなとは思うが。
「まあ水姫や蘭とは暫く会えなくなるかも知れないし、記念にと思って奮発しちまった」
「全く……」
夜依姉は呆れているのか、溜息をつかれてしまった。
「二人を大事に思ってるのはいい事なんだけど、それで使えるデッキがなくなっちゃ本末転倒じゃない」
「あはは……」
全くもってその通りだ……
「これは……【リクルカオス】か。懐かしいデッキね」
俺のデッキを見ながら、夜依姉はそう呟いた。懐かしいか。確かに、そのデッキは初めて夜依姉と作ったデッキだからな……
「……でも相変わらず"カオス"が少ないわね。開闢あげよっか?」
「い、いいよ、悪いし……大体、開闢一枚しか持ってないんだろ?」
「私はほら、他にも切り札的存在ならたくさん持ってるし」
「…………」
学生としては開闢ですら夢のまた夢のような存在だってのに、それを簡単に渡せる夜依姉が羨ましい。まあでも仕方ないよな。だって……
「だって私は、プロデュエリストだしね」
そう。夜依姉は誰もが憧れる存在、プロデュエリストなのだ。
「……って、俺はプロじゃないんだからそんなカードは手に入らないよ。大体俺が持ってたらおかしいだろ」
「そう? 私から貰ったって言えばいいじゃない」
「あのなぁ……」
そんなことしたら夜依姉に迷惑がかかるだろ、とは言えなかった。夜依姉は俺がそういうことを気にするのが嫌らしいのだ。
「まあとにかく。今あるデッキはこれだけだし、明日はこれで行くことにするよ」
いつまでも悩んでては仕方ないし、夜依姉をほったらかしてまでデッキ調整する気にはなれないしな……
「……ねえ恭介君」
と、デッキを片付けていると夜依姉がらしくもなく真剣な表情をして言った。
「なに? そんな真面目ぶっちゃって」
「真面目だからよ……恭介君は新しく導入される召喚システムのこと知ってる?」
と、全く予想していなかった言葉が出てきた。
「新しい召喚システム?……確か、"シンクロ"と"エクシーズ"だっけ」
テレビとかでやってるしな。"シンクロ"と"エクシーズ"……まあ詳細は全くの謎だし、もちろん俺は持ってない。
「でもそれがどうかしたの?」
「ええ……"エクシーズ"はまだ調整に時間がかかるらしいんだけど、"シンクロ"ならもう導入が決まってるの。恭介君がアカデミアに入学するのとほぼ同時期だったはずよ」
「へぇ……」
ということはしばらくしたら"シンクロ"という概念が加わるのか。それはちょっと楽しみだな。って…・・・
「……それがなんの関係があるわけ?」
そうだ、その話と今の俺の状況とは全く関係がないのだが……夜依姉はカバンの中漁ってるし……
「あの、夜依姉?」
「ちょっと待ってね……と、はいこれ」
と、カバンの中から一つのデッキを取り出した。裏面を上にしているのでなんのデッキかは分からないが。
「これは?」
「これはね、"シンクロ"のギミックが搭載されたデッキよ」
……は?
「え、"シンクロ"!? だって"シンクロ"はまだだって……」
「特別に貰ったの。それで、もし良かったら恭介君使ってくれない?」
えーと、夜依姉が特別に貰って、それを俺に使ってって……
「で、できないよ。それは夜依姉が使いなよ」
「私、他に使いたいデッキあるのよね」
「で、でもこれ夜依姉が貰ったんだろ? 俺が持ってたらおかしいじゃない?」
そうだ。その場合確実にややこしいことになる……
「いいじゃない、私があげたって言えば」
「だからそれは――」
「私と関係あると思われるのが嫌なの?」
当然上目使いで見つめてくる夜依姉。それは卑怯だと思う……
「うっ……いやそういうことじゃ……」
「じゃあいいじゃない。使い方も教えてあげる。まあ恭介君ならすぐに覚えれるだろうけど」
「……わかったよ、使えばいいんでしょ。どうなっても知らないからな」
「ふふ……」
結局俺は、この新しい概念が搭載されたデッキを使う羽目になってしまった……これからのことを思うと頭が痛くなる……
「"チューナー"とそれ以外のモンスターを場に揃えて、レベルの合計が同じになるように墓地に送ることで"エクストラデッキ"から特殊召喚、か……」
ついさっきまで夜依姉と一緒にデッキを回していた。最初は"シンクロ"のことがさっぱりでてんでダメだったけど、何度かやる内に大分覚えることができた。今ではスムーズにシンクロを行うことができる。
「【ガスタ】か…・・・リクルーターが多いし、シンクロはしやすいほう、なのかな……」
複数体場に揃えないといけない都合上、リクルーターは非常に便利だ。戦線維持と強力なモンスターへの布石の両方を兼ね揃えてるってわけか。これは確かに新しい概念だな……
「っと、明日は早いし境は寝るか……」
デッキを机に置き、ベッドに潜り込む。疲れていたのかすぐに眠気に襲われる……完全に意識を失うその直前、
『おやすみなさい、マスター』
誰かの声がした気がする……