「うーん……調整はこんなもんでいいかな」
デュエルアカデミア入学のための実技試験会場の観客席に座っている俺は、未だにデッキ調整をしていた。
周りの受験生達にはそのような素振りはなく、こんな土壇場で調整をしているのは自分くらいのものだろう。だが、時間ギリギリまでデッキを見直すことは悪いことではないはずだ。
「というかこのデッキ、シンクロモンスターを出さないと火力不足すぎるだろ……」
"シンクロ"の特性故か、メインデッキに入っているモンスターはどれも火力があるとは言えない。それはつまり……
「……盛大にシンクロモンスターを使うしかないってわけか」
ダメだ、絶対目立つ……あまり目立つのは好きではないんだけどなー。
「なんだ、何を唸っているのだ?」
と、頭を抱える俺の後ろから誰かが話しかけてきた。まあ声を聞けば分かる。コイツは……
「凛か……別に唸ってはいなかったけどな」
振り向くとやはり見知った少女―火斑 凛―が立っていた。
「そうか? 頭を抱えていたからてっきり唸っているのかと思った」
そのまま凛は俺の隣に座る。凛も俺と同じ受験生である。
「それで、凛はもう終わったの?」
「ああ。余裕で勝ったぞ」
自慢するでもなく言い切る凛。まあコイツは自ら自慢をするような奴じゃないしな。
「そうか。まあ凛が負けるとは思ってなかったけどね」
「っ!……そ、そうか」
なんてったって凛のデッキは強いからなあ。それに試験っていうからには試験官のデッキもそんなに強くはないものだろうしなあ。
「そ、そうだ恭介。恭介はどのデッキを持ってきた?」
「あー……」
そういえば凛は俺がデッキ新調したの知らないんだったな……
「どうした? ひょっとして新しく組んだのか?」
「そ、そうなんだよね、新しいデッキなんだよ」
ヤバい、自分でも分かるくらい動揺している……ああ、凛が疑いの眼差しを向けている……
「デッキ新調しただけでなぜそんなに動揺する?」
「え、えっと、ですね……これ、夜依姉の贈り物なんだよねー」
夜依姉の名前を出した途端、凛が不機嫌になったのが分かる。何故か凛は夜依姉を毛嫌いしている節がある。だからあまり話題にしたくなかったのだが……
「夜依……あの悪趣味なデッキを更に改造したのか?」
「いや、あれは蘭にあげた……まあ、見てれば分かるよ」
若干不満そうだがなんとか誤魔化せたようだ……
『受験番号47番、決闘場へ』
っと、そうこうしている間に呼ばれたようだ。さて、いっちょやってくるか。
「俺の番らしいな。凛、また後でな」
「あ、恭介……!」
何か言いたげな凛を置いて俺はさっさと決闘場に向かうのであった。
「受験番号47番、柊 恭介です。よろしくお願いします」
「うむ。全力でかかってきなさい」
「「デュエル!!」」
恭介 LP8000
試験官 LP8000
「先行は君だ。かかってきなさい」
「じゃあ遠慮なく……」
とは言っても先行はドローが出来ない。手札は……まあまあってとこかな。
「モンスターとリバースカード一枚をセット。ターンエンドです」
【ガスタ】は墓地を肥やさないと活きないからな……どうしても初手は受動的になっちまう。
「私のターン、ドロー。《デーモン・ソルジャー》を召喚。バトル!」
伏せ警戒は無しか……まあその方が都合いいけど。
「セットされていたモンスターは《ガスタ・ガルド》。守備力は500なので破壊されます」
ガルドが破壊される……と、観客席のほうから笑い声が聞こえる。よく聞こえないがどうせ守備力500の雑魚モンスターとか言ってるんだろう。そういうのは聞き飽きたな。
「破壊された《ガスタ・ガルド》の効果。ガルドが破壊された場合、デッキからレベル2以下の[ガスタ]モンスター一体を特殊召喚できる。俺はレベル1の《ガスタ・イグル》を特殊召喚」
ガルドはいわゆるリクルーターだ。戦闘破壊をトリガーに後続を呼ぶモンスター……まあガルドは効果破壊にも対応しているし、表示形式の指定もなく扱いやすいんだけどね。
「なるほど、リクルーターか。私はこのままターンエンド」
「では俺のターン、ドロー。《地割れ》発動。相手の場にいる一番攻撃力の低いモンスターを破壊します。まあ一体だけなんで攻撃力は関係ないですね。《デーモン・ソルジャー》を破壊してターンエンドです」
「くっ……私のターン、ドロー。《闇魔界の戦士ダークソード》を召喚。バトル! 《ガスタ・イグル》に攻撃!」
「イグルの守備は200。当然破壊されます……そして戦闘破壊されたイグルの効果。イグルが戦闘破壊された場合、デッキからレベル4以下のチューナーではない[ガスタ]を特殊召喚できる」
「またリクルーターか。しかしチューナー? 聞いたことがないな。ガスタというカテゴリーも初めて見るのだが」
あー、確かにそうだよな……これってまだ発売されてないカードなんだよな……
「そ、その内分かるんじゃないですか? …・・・と、とりあえずイグルの効果! その効果によりレベル2《ガスタの巫女ウィンダ》を特殊召喚!」
俺の場に可愛らしい女の子が出てくる。ガルドやイグルは小さな鳥って感じだけど、ウィンダは普通に女の子だよなぁ。デッキを確認した時も思ったけど、[ガスタ]モンスターって鳥や女の子が多いのかな? 一応それ以外もいるんだけど……
「新しいガスタ……それもリクルーターなのかな?」
「ええ。ウィンダが相手の攻撃で破壊された場合、[ガスタ]チューナーをデッキから呼べます」
「チューナーというのがよく分からないが、君のデッキには入っているのかな?」
試験官ですらチューナーを知らないのか……やっぱ別のデッキにしとけばよかったかな……
「入ってますよ。ガルドとイグルはチューナーです」
「なるほど……ん? ということはその二体を呼べるということか。つまり……」
「ええ、その二体とウィンダでカードが尽きるまでリクルートしあうことが出来ます」
そう、それこそが[ガスタ]最大の特徴。一般的なリクルーターと違い、非常に長く場に留まることができる。相手からすると鬱陶しいんだろうなあ。
「私はカードを伏せてターンエンド……中々に厄介なモンスター達だが、尽きるまで攻撃し続けるだけだ」
尽きるまでねえ……そう簡単に尽かすことができるかな?
「俺のターン、ドロー。尽きるまで攻撃されるのは嫌ですから補充させてもらいますね。魔法カード《ガスタの交信》。墓地の[ガスタ]二体をデッキに戻すことで発動。相手フィールド上のカード一枚を破壊します」
「なにっ、デッキに戻す手段もあるのか……」
「ええ、そう簡単にモンスターを尽かせたりしませんよ。ガルドとイグルを戻し、その伏せカードを破壊」
これで相手の場にはモンスターが一体だけ。今が攻め時だな。
「手札からガルドを召喚」
「またそのモンスターか……しかし君のモンスターでは私のモンスターには勝てないぞ」
それはそうだ。ウィンダでようやく1000しかないのだ。1800のダークソードに勝つのはこのままでは無理だ。このままならな……
「勝てないのなら勝てるモンスターを出せばいいんですよ……先生はチューナーがどのようなものか知りたいんですよね?」
「ん? それはまあ……そういえばガルドはチューナーだったな」
「ええ、では教えますね……自分の場にチューナーとそれ以外のモンスターがいるとき、そのモンスターを墓地に送ることでレベル合計が同じ"シンクロモンスター"をシンクロ召喚できるんです」
「シンクロ召喚だと!? シンクロ召喚はまだ実装されてないんじゃないのか?」
「ええ、まだ……けどカードは既にあるみたいです。決闘盤にも反応しますしね……行きますよ。レベル2《ガスタの巫女ウィンダ》にレベル3《ガスタ・ガルド》をチューニング!
大いなる風が今、新たな力を呼び起こす!
シンクロ召喚《ダイガスタ・ガルドス》!!」
《ダイガスタ・ガルドス》……ガスタの切り札とでも言える存在。大きく成長した《ガスタ・ガルド》に《ガスタの巫女ウィンダ》が跨っているようだ。最もウィンダはまだ慣れていないのか落ちないように必死にガルドを操っているが……
「ガルドスの攻撃力は2200。大して高くはないが、まあ十分です。ガルドスで《闇魔界の戦士ダークソード》に攻撃!」
「俺の勝ちか……ありがとうございました」
その後は豊富な除去カードと《ダイガスタ・ガルドス》で押し切ることができた。
まあ試験用のデッキ相手だったし、本気で叩きのめされることはないだろうな。
決闘場をあとにし凛の元に向かう……先のシンクロのせいか、やけに見られてるな。それでも詰め寄ってこないところを見るに、シンクロも気になるが自分のデュエルの方で手一杯というところかな……
「ただいま、凛。とりあえず勝ったぞ」
戻ってみると、凛はさっきよりも不機嫌になっていた。なぜだ?
「勝ったぞ、ではない。なんだあれは? シンクロ召喚……夜依め、やることがいちいち派手なのはどうにかならんのか」
「無理だろ、夜依姉だし……それより騒ぎになる前に帰らないか?」
「全く……まあ私も騒ぎは好きじゃないしな。帰るのなら早く帰ろう」
そう言うと、凛はさっさと会場の出口に向かう。凛ももう少し愛想が良ければな。素材はいいんだし……
「何をしてる、さっさとこい」
「あ、ああ。待てって……」
急いで凛の後を追う。あいつはホントに置いていく奴だからな。ホント愛想のない奴……
「それより合格していたら大変だな?」
「ん? なんでだ?」
合格すると何か問題でもあるのか? アカデミアは孤島らしいし、むしろゆっくりできると思うのだが。
「自覚がないのか? まだ実装されてもいない"シンクロ召喚"の使い手。入学前から大層な有名人になったな」
「あー……」
それは確かに、面倒そうだ。けどまあ
「ま、アカデミアに受かってるんならそれでいいけどな」