カイドウ♀になった話   作:ぼほの

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1話

 新世界に位置するワノ国の城『オロチ城』の瓦上に、1人月を眺める女がいた。

 

 彼女は黒を基調として所々に紫の模様が入った和服を着ており、彼女の長く伸びた黒髪と恐ろしくも美しい一対の角も相まって、本来瓦上に人が居ては不自然に感じるはずなのに、その姿は非常に様になっていた。

 

 彼女の片手には酒壺が握られており、もう片手には満月のように丸い盃が添えられていた。

 彼女はその盃いっぱいに入った酒を一口で飲み干し、ふぅと一息。彼女の顔は酔っているのか少し赤くなっていた。

 

 彼女は一体何者なのか。

 彼女について語るならば、海賊として海軍及び四皇に挑み捕まること十数回。千を超える拷問を受け、数十回の死刑宣告。

 時にギロチン、時に串刺し、時に釜茹で。考えうる全ての処刑を体験し、五体満足で生き残り続けた。

 つまり、彼女の人知を超えた耐久力故に、誰一人として彼女を殺すことが出来なかった。

 

 しかしその逆は全くの別。

 市民はもちろん海兵も、海賊も、賞金稼ぎも。どれほど力自慢で名が轟いていようと、どれほど実力者だと囁かれていようと、彼女が相手となれば皆同じ。

 金棒で叩き潰され、刀で切り裂かれ、矢で弾け飛ばされ、槍で風穴が空けられる。

 ありとあらゆる武器で、方法で、迫る敵も逃げ惑う弱者も、彼女によって皆平等に死を迎える。

 つまり、彼女の果てのない武力故に、誰も彼女によって齎される死から抗う事は出来なかった。

 

 まさに最強の『矛』と『盾』。

 

 存在そのものが畏怖され、武力の化身と評される彼女の名は

 

―――『カイドウ』 

 

 新世界の頂点とも言える四皇の内の1人であり、陸、海、空、全てにおいて最強と名高い伝説の海賊。

 

 

 そんな人物が何故城の上で酒を飲んでいるのか。

 その答えは実に単純で、身近なもの。

 

 

 

 彼女は、娘の反抗期が原因でやけ酒をしていた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 私は酒壺の蓋を開け、盃に酒を注ぐ。

 盃いっぱいに溜まった酒を覗いてみると、私の顔が写っており、その顔は浮かない表情をしていた。

 

 「はぁ……」

 

 私はその表情を見て、自身の心情とやらかしを認識して溜め息を出す。

 

 そうだ。娘は――ヤマトは、私のせいでグレてしまったんだ。

 立場的にも状況的にも殺らなければならなかった場面だったとはいえ、ヤマトの憧れの人をこの手で殺したのだ。

 嫌われるのも仕方ないだろう。

 そう、仕方ないのだ。

 仕方ない………の…だろうけど…。

 

 ショックだ。

 

 結構なショックだ。

 つい最近までは母親として慕ってくれていたのに、今では親の仇と言わんばかりだ。親は私なのに。

 

 なんとかして仲直り出来ないものか。

 おお、ヤマトよ、お母さんは悲しいよ。憧れの人を殺しちゃってゴメンよ、どうか許してくれないか。

 なんて言って許してくれるのならそれは仲違いとは言わないだろう。

 

 「…………」

 

 酷く落ち込んだような顔が水面に映る。

 私はそれと数秒見つめ合った後、その表情ごと酒を飲み込んだ。

 ふぅと息を吐き、直ぐに次の酒を入れる。そしてその酒を一口で飲み干し、間をとらず次の酒の盃に注ぐ。

 それを数回繰り返すと段々と注ぐのが面倒くさくなり、最終的にはラッパ飲みの形になった。

 

 幾らか酒を溢しながらもゴクゴクと飲む。

 これだけ飲めばベロベロに酔っ払う事を分かっていても、むしろそれを好都合だと思いながら、酒壺が空になるまで胃に流し込み続けた。

 

 「うぅ〜…ヒック」

 

 全く、どうしてこうなってしまったのか。

 空になった酒壺を投げ捨て、2本目の蓋を開ける。

 

 私は出来る限りヤマトに嫌われないようにした。

 いや憧れの人を殺しといて何を言っているんだと思われるだろうが、これでも私なりに努力したのだ。

 

 具体的に言うと、ヤマトの憧れの人――おでんを褒めまくった。

 自己犠牲の精神が素晴らしいだの、剣の扱いが上手いだの、実力が高いだの、顔がいいだのなんだの。

 頭のてっぺんからつま先の先まで、たとえ内容が似通っていようと、可能な限りおでんを褒めまくり、彼が何処か照れくさそうな顔を見せるまで二十分近く褒めちぎった。

 あの時あの場所に居たヤマトにも聞こえるように。

 

 そしてその後におでんを苦しませないように処刑した。

 

 こうすれば、ヤマトに“私は好きでおでんを殺したわけじゃない”ということを分かってもらえるんじゃないかと思っていた。

 実際、私は彼を褒めすぎたせいかちょっと情が移ってしまい、銃の引き金を引くのを躊躇った。それに、彼を褒めたいのは割と本心だったし。

 その様見ていれば、ちょっとは許してくれると思っていた。

 

 だが違った。

 

 私の考えが甘かったせいなのか、ヤマトは私を許すどころか、自分の事をおでんだと思い込むようになってしまった。

 これは原作と同じなのだから私のせいでは無いかも知れないが、それでも少なからず影響があると思うと過去の自分を殴りたくなる。

 

 まぁ娘に嫌われたくないのならそもそもワノ国を支配しなければ良い話なのだが。そうすればおでんと敵対することが無いので彼を殺さずに済んだのに。

 

 このことについて言い訳をするなら、原作の展開を忘れてるから仕方ない、だろう。

 この世に生まれて三十年近く、その間の生活が波乱万丈だったのも相まって主人公の顔も能力も覚えていない。もちろん、その他諸々もど忘れしている。

 

 しかしそんな私でも思い出す時がある。

 それは、その展開に直面した時だ。数秒前まで脳みその何処にあるかも分からなかった記憶が、いざその場面に出くわすと、急にGPS機能が働いたかのようにはっきりと映し出される。

 あれは漢字テストの分からなかった漢字の答えを見た時の感覚に似ている。試験中は部首すら思い出せなかったのに、答えを見た瞬間練習した記憶が鮮明に蘇るあの感覚。

 

 しかしこの“思い出し”は厄介な事に、些細なことでは反応してくれないのだ。

 必ず大きな出来事でなければ思い出す事が出来ない。そして、大きな出来事とは、大抵取り返しが付かない頃に起きるものだ。

 

 おでんの件はそれだ。

 ワノ国の住人にとって、海賊によるワノ国の支配は十分大事なのだが、私にとって些細な出来事だったらしく、思い出しのきっかけにならなかった。

 そして時間が経ち、おでんが現れて、彼との戦いの中私の身体に傷を付けられた時に思い出した。

 「ああ、そういえばこんな人いたな」と。

 ただその時にはおでんという男を思い出しただけで、彼が私達にどんな影響を及ぼすかは思い出せていなかった。

 結果、彼との戦いの最中に彼を罠にはめようとした老婆を真っ二つにするというハプニングがあったが、無事私の勝利。

 

 その後ワノ国の将軍であるオロチの指示で、彼とその仲間達である赤鞘を釜茹でで処刑することに。しかしおでんは仲間達を背負う事で負担を自分だけにかけるという、彼の性格を映したかのような方法で仲間達を救う。

 私はそれを見てカッコいいと思いつつ、人のおでんも食べ物のおでんも熱そうだなと下らないことを考えている内に“思い出す”。

 彼の死が、私達カイドウ家に多大な影響を及ぼすことに。ヤマトと仲違いする原因になることに。

 

 それに気付いた私は内心大慌てになり、なんとかして今からでもヤマトと仲睦まじいままに出来る方法を考えて、その結果おでんを褒めちぎることになり、現在に至る。

 

 

 何本目か分からない酒壺を投げ捨てる。

 やけ酒をする為に持てるだけ持ってきたが、酒壺のあるほうを見ると、どうやらあと一つしかないらしい。

 最後の酒壺を開け、その中身の3割ほど溢しながら、一気に飲み干す。溢れた酒で和服がビチョビチョだが、それを気にするほど正気ではない。

 

 「あ〜………」

 

 フワフワとした意識の中、上手く働かない頭を使って考える。

 何とかして今からでもヤマトと仲良くなれる方法を…。

 

 そして思いつく。

 

 

 そうだ、ビッグマムを訪ねよう。

 

 

 彼女なら子供と仲良くなる方法をしっているだろう。

 実際、彼女は子供達から恐怖混じりではあるが慕われているように見える。

 育児上級者の彼女の助言は、きっと役に立つ事だろう。

 よし、行こう。

 

 私は行き先を決めると獣型になり、目的の場所があるであろう方向へ飛ぶ。

 

 

 

 その晩、花の都上空にて数百mはあろう酔っ払った青龍が飛び回り、住人達は恐怖に身を震わせ、オロチは頭を抱えたそうな。

 

 

 

 





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