カイドウ♀になった話 作:ぼほの
夏休みだから時間があるやろと思っていたら2週間経っていた。
本当に申し訳ない。
穏やかな気候。牧歌的な村。争いの“あ”の字も感じさせない平和な空気。
ここは
のどかという言葉を極限まで体現したのかと思わんばかりののどかさを誇る、とてつもなく平和な村である。
あまりに平和過ぎて、村の警備らしき人がパッと見では見当たらないくらいである。
新世界の島は基本、いつ海賊が襲ってくるか分からないので海岸に厳重な警備があるものだ。
しかしこの村は来るはずが無いとでも思っているのか、それらしい人が非常に少ない。これでは、襲って下さいと言っているようなものである。
まぁ、こんな小さい村を襲っても大した宝は手に入らないので、海賊としてあまり襲う意味が無いのだが。
もしやこの村はそれを知ってこの体制なのだろうか?
しかし、お宝目当ての海賊ならまだしも、殺戮目当ての海賊にあったらどうするつもりなのだろうか。
もしそうなっても、簡単に返り討ち出来てしまうほどの切り札がこの村にあるのか。
謎は深まるばかりである。
そんなRPGで言う“はじまりのむら”に来訪した者――つい最近懸賞金が“37億5640万ベリー”に上がった私“百獣のカイドウ”。
現在、私は村にある酒場の中…ではなく外で早速確保出来た飲み仲間と酒を楽しんでいる。
「ねーちゃんよく飲むじゃねぇか!」
「当たり前です。貴方達とは身体が違いますからね!」
「ギャハハハ!!違いねぇ!!!」
そんな汚くも気持ちの良い笑い声を聞きながら、私は酒を体に流し込む。するとそれに続くように彼らも酒を流し込んだ。
彼らは何処から来たかも分からない私と飲んで顔を真っ赤にして笑って、今この瞬間を心底楽しそうにしている。
そんな彼らを私は見下ろして少し滑稽に思いつつ、酒をもう一杯注文した。
こうして見下ろしているが、決して私が立っているというわけではない。むしろ私は座っており、全員では無いが彼らは立っている。
だというのに何故こうなるのかといえば、それは彼らと私の間に凄まじいほどの身長差が生まれているからである。
彼らは3mどころか2mにすら届いておらず、対して私は6m。私が座ったところで埋められる差では無いのだ。
何故酒場の外で飲んでいるのかというのもこれが理由である。私の大きさだと入口が脚の一本で埋まってしまいそうになる。バリアフリーがまるでなっていない。
何故こうも小さいのか聞いて見ると、私のような人が存在するとは思っていなかったかららしい。
にわかには信じ難いが、どうやらここらでは居ても2m強で、3m以上の人間が存在しないらしい。
いくら小さな村とはいえそれぐらい一人は居ても良いと思うのだが、本当に居ないらしい。
おかしいな。私の知る人類は3〜6m級なんてうじゃうじゃいるのだが。巨人族を知る者もあまり居ないし、どうやら彼らはファンタジーに生きているようだ。
そんな中、私がこうも受け入れられているのは、簡単に言えばお酒のおかげである。
それはつまりどういうことかというと、酒を飲んでいる彼らは酔っているおかげか「そんな奴もいるんだなぁ」と気にしなかったが、酔っていない人達は皆私を警戒しているのだ。
遠目で監視していたり、少しずつ近づいていたり、その者を止めようとしていたり、驚きで思考停止していたりと、反応は様々。
このままでは、私は良くとも、折角連れてきたヤマトが可哀想だ。こんな空気で友達を作れなんて無理ゲーにも程がある。
彼女を手伝う為に私が居るのに、そのせいで不可能に近くなってしまっている。
かといってワノ国の方で作らせようにも、ヤマトが私の娘だと敵に知られているのなら、そいつらに攫われる可能性がある。
そうならないように私も同伴すれば……て無限ループだなこれ。非常に良くない。
それにさっきから酒を飲みながら思う台詞ではない気がする。これもまた良くない。
頭を一度振ってループしそうな考えを吹き飛ばす。
突然頭を振り出した私を周りは怪奇な目で見るが、そういった視線は慣れているので無視する。
いいや、分かってる。
実は私が、出来ればヤマトには友達を作ってほしくないと心の中では願っている事は分かっている。
本当は、ヤマトに友人が出来ることで、また彼女が変わってしまうのでは無いかと、心配で、恐ろしくてたまらない。おでんの例がある以上、常識的な変化は期待出来ない。
前回のは“記憶”があったからそれなりに対処出来たが、その次は分からない。
覚えてないだけかもしれない。その時が来たら、またあの時と同じように“思い出す”かもしれない。
でも、そんな不確かな状態で彼女を変えていいのだろうか。もし、“記憶”にも無く、それでいて取り返しもつかないような変化が彼女に起きたとしたら。
「………」
「ん?どしたねーちゃん。急に黙っちまってよ」
私は直ぐ側に居るヤマトを見る。
そこには私から背を向けてしゃがみ込んだ彼女の姿があった。
こんなところでこんな状況に放り込まれて不安でいっぱいなのだろう。
そう思ったのだが、しかし、よく見るとそういうわけではなかった。
彼女の赤い角に、幼児のように小さな手が握られて居たのだ。
それはまるで、その角が本当に生えているのか確かめるように、微動だにしない角をこれでもかと弄ろうと手を動かしている。
そんな様子をしばらく見ていると、その視線に気が付いたのか、ヤマトが私の方に顔を向けた。
その顔は彼女の心情を綺麗に表しており、困っていると一目見て分かるものだった。
それと同時に、私は彼女で隠れていた謎の手の正体を視認した。
それは歳が2桁もいかないような男の子だった。
その子の目は輝いていて、私達の角という未知への探究心を映し出していた。
少年はヤマトの角を指先でツンツンして
「かっけー!!!」
とキラキラした目で叫んだ。
突然目前で叫ばれたヤマトは少し驚いたような仕草を見せ、何かと初めて角を褒められたのせいなのか
「そ、そうか」
と少し照れていた。
そしてそれを誤魔化すように彼女も、仕返しなのか咄嗟に出た言葉なのか分からないが
「き、君もカッコいいよ」
と慣れていないのを全面に出しながら相手を褒めた。
すると少年はニカッと笑って「ありがとな!!」とお礼を言って喜んだ。
そしてヤマトの手を握ったと思えば
「にしし!おまえ良いやつだな!そうだ、おまえにおれの村を案内してやるよ!!」
「えっ、あ、ああ…」
彼女は突然引っ張られた事にどう対処していいか分からず、一歩二歩とつられつつ、振り返って表情で私に意見を求めて来た。
「………ふふ」
そんなやり取りを見て、私はさっきまでの悩みがバカらしくなってしまった。
そうだ。別にヤマトが変わってもいいじゃないか。
彼女を変えないということは、私の理想を押し付けているのと同じ。
彼女は彼女であって、私ではない。だからこそ、彼女がどうなろうと、私はその背中を押すだけ。
海賊はもちろん海軍でも、ただの農民でも漁師でも浮浪者でも、彼女が望むのなら私はその道を支持しよう。肩を持ちすぎない範囲で。
私は困り顔のヤマトに和んだ顔で手を振って
「行っていいですよ」
と伝えた。
するとヤマトは驚いたような顔をしたかと思えば視線を少年に戻し、その後振り返る事無く彼と共に小走りで離れていった。
その様子を眺めていると横下から酒場の店主の声がかかる。
「すみません、ご迷惑をおかけして」
「いえいえ、マキノさん。迷惑だなんてとんでもない。むしろ喜ばしい事ですよ」
「え?」
「ああやって同じ子供と遊んでくれて安心しました。あの子は何て名前ですか?」
「えと、ルフィです!」
「……ルフィ」
何だろう、物凄く聞き覚えのある名前だ。それも何千回も聞いたことがある気がする。
今までに引っ掛かりを覚える事は幾らかあったが、今回は異常だ。思い出せない事が異様にもどかしい。
私は彼が重要人物な気がしてならない。それも、私達に大きな影響を与える、無視してはならない者の気配が。
「あの、どうしました?」
店主が心配そうに聞いてくる。
私は無意識に細めていた目を戻し、彼女と目を合わせる。
「いいえ、何でもありません。少しお酒が効いてきただけです」
そう言って、私はまだ少し中身が残っている酒樽を草の上に置いた。
次回はヤマト視点です。
カイドウ♀の大体のイメージ。画力とか気にしないで
↓
※あくまでイメージです。なんか違うと感じたら、前から想像していた貴方のカイドウ♀のままで大丈夫です。
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