カイドウ♀になった話   作:ぼほの

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12話

 どうしてこうなった。

 

 見渡す限りジャングルな場所で、僕は頭を抱えた。

 

 事の始まりは数時間前、ルフィと言う名の少年に彼の村の案内をしてもらった時のこと。

 僕は目前の上機嫌な少年に手を引かれながら、彼の言うとおり村の案内をしてもらった。

 あそこにはあれがあって、あっちにはあれがあって。そんな風に指差し目差しで建物や本人曰くの絶景スポットを紹介され続けていた。

 そして村の大半を周り終わると、彼はまだ見せたい場所があると言ってきた。

 それは何なのか聞いて見ると、そこは自分だけが知っている所でありそこに秘密基地を建てているらしい。ただ、フーシャ村から少し離れた場所になるので少し時間がかかるそう。

 

 それを聞いて僕は少し悩んだが、ちょっと時間がかかるぐらいなら大丈夫だろうと思い承諾。

 ルフィにまたしても手を引かれながら、その秘密の場所とやらに僅かに期待した気持ちを持ってついて行った。

 

 それが間違いだった。

 

 どうやらこの少年は方向感覚がよろしくないらしい。彼自身幼いのも相まって、あっちこっち右往左往している内に迷ってしまった。

 僕は方向音痴というわけでは無いが、ここは僕にとって未知の場所。当然、土地勘などあるはずもなく、道案内を彼に任せたのも相まって、右も左も向かった先に何があるのか分からない。

 

 そんな状態で辺りを彷徨いている内に、気がつけば僕達はジャングルのど真ん中立っていた、というわけだ。

 

 「どうしよう…」

 

 そんな言葉がつい漏れ出る。

 僕の脳内は焦る気持ちでいっぱいだ。これは別に遭難した事自体に危機を感じているわけではない。

 お母さんが僕が居なくなっている事に気付くのが不味いのだ。

 

 何故なら、お母さんは僕を探す為に何を仕出かすか分からないからだ。

 見聞色で探して僕のもとに直行してくれるなら良いのだが、今お母さんはお酒に酔っている。もしかしたら、斬撃を使ってこの森を丸裸にするかもしれないし、想像したくないが、熱息(ボロブレス)で焼き払うかもしれない。

 そんなことされれば、僕は無事でもルフィが危ない。そうなる前にここを抜け出さなくては。

 

 そんな使命感を持って、僕はルフィの手を引きながら前へ足を進めていく。

 どれだけジャングルが深くとも真っ直ぐ進んでいけば、ここが島であるかぎりいずれ海に突き当たる。

 そうなれば後は海岸に沿って進むだけ。地道だが、そうすればフーシャ村に辿り着くだろう。

 後はそれまでにお母さんが気付かない事を祈るだけだが……。

 

 

 「はぁ、こんなことなら断っておけば良かった」

 「ええ〜〜!?あそこめっちゃ良い場所なのに〜!!もったいねぇーっ!!」

 

 

 僕の後悔を聞いて心底残念そうに反応するルフィに僕はムッとする。

 元はと言えばそっちが道に迷ったのが悪いだろうと言いたくなるが、踏みとどまる。

 相手は9歳も年下だ。ムキになっては大人気ない。

 そんな思いから僕は彼を優しく咎めた。

 

 

 「君も悪いからね?」

 「ごめん!!」

 

 

 すると意外なほど素直に謝ってきた。

 案外、心の中では自分に非が有ると思っていたのかもしれない。

 

 そんな会話をしながら木々を分け入って順調に進んでいると、僕の見聞色に反応が。それも、ゆっくりとこちらに近づいてきている。

 その正体を見極める為に一旦足を止める。

 急に足を止めた僕にルフィは疑問の眼差しを向けてきたので、僕はそれに小さな声で答えた。

 

 

 「この先に何かいる」

 「え?なんでそんなこと分かんだ?」

 「見聞色だよ」

 「けんぶんしょく?なんだそれ」

 「知らないの?」

 「しらねぇ」

 

 

 ルフィの全くもって聞いたことがないような顔に、僕は少し疑問に思ったが、直ぐに彼の年齢的に知らないかと思い直した。僕も7歳で知ったしね。

 そうこうしている内に反応がすぐそこまで来たので、僕は彼を一歩下がらせて庇うように前へ出る。

 一体何が出てくるのか、集中して木々の彼方を見据えていると、1つの黒く大きい物体が飛び出てきた。

 

 「!…危ない!!」

 

 僕はすぐ後ろのルフィを抱えて突っ込んできた黒い何かを避け、距離を取る。

 

 「グルルルル…!」

 

 それは全長4mはあろうかという巨熊であり、腹が減っているのか涎を垂らして僕達を睨んでいた。

 お前を殺す。そんな心意気が感じられるような眼差しだ。

 そのせいで腕の中のルフィは僕の服をギュッと掴んでガクブル震えている。その目は涙が溢れんばかりであり、怖えと言葉を漏らしていた。

 

 そんな彼を見て僕は決意した。必ずや、この大熊を撃退してやると。

 僕は熊を睨みつけながらルフィをゆっくりと下ろす。地に尻餅をついた彼は「え?」と短い声を出した。

 不安そうな彼を安心させるべく、僕はにっこり笑って声をかけた。

 

 「安心して。僕があいつを倒すから」

 

 そう言って僕は金棒を取り出し、全力で握りしめる。

 全身に力を込め、腕を引き、覇気を目一杯纏わせる。

 見聞色で相手の動きを監視、武装色で威力を底上げ、覇王色で威圧。

 狙うは泡を吹いた大熊の頭部。

 放つは尊敬すべき母親から受け継がれし必殺技。

 その名も―――

 

 

 「雷鳴八卦!!!」

 

 

 雷が如き速度で接近し、全身全霊の力を以って大熊の頭を強打する。

 すると次の瞬間には赤いものが弾け飛び、大熊の巨体が地に伏せた。

 

 「つええ…」

 

 そんな声が背後から聞こえてきた。

 

 手応えあり。

 そう思い「ふぅ」と息を吐いて金棒を肩に乗せる。そして振り返って見てみると、そこには頭が悲惨な事になっている大熊の姿があった。

 その結果に僕は安堵。これぐらいの敵なら倒せる事が分かった。いや、むしろやりすぎなぐらいだろう。

 

 僕は倒れたクマには目もくれず、奥で呆然としているルフィに歩み寄って行く。

 そして目の前まで来たところでしゃがみ込み

 

 「さぁ、行こうか」

 

 と言って手を差し伸べる。

 すると、まるで時が止まっていたかのように固まっていたルフィは動き出し、僕の手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 所変わってフーシャ村。

 

 カイドウは1人酒を飲んでいた。

 周りには酔いつぶれた男達が散らばっており、パッと見れば死屍累々だ。

 

 何故こうなっているのか、答えは簡単で飲み比べをしたからである。ちなみに結果は彼女の圧勝。一人が酔いつぶれると次は俺と、次は俺と、と次々に立ちはだかり、それは最終的に最後の一人が酔いつぶれるまで続いた。男達の完敗(乾杯)である。

 しかし十数人と飲み比べしたため、いくら彼女が酒に強いからといってもベロベロに酔ってしまったようだ。

 それでも彼女は酒を飲むのを止めない。店の酒はとうに尽き、持参した酒を飲んでいる。

 

 

 「うぃ〜…ヒック……」

 「ちょっとカイドウさん!!飲みすぎですよ!!」

 

 

 横で女店主のマキノが静止にかかるが、そんなこと知るかとばかりに彼女の喉は止まる気配が無い。

 そんな時、カイドウはあることに気付く。

 

 「はれ?」

 

 見聞色で探知している人の数が、少し前と変わっている。

 1、2、3……明らかに多くなっている。しかも、現在進行系で。

 村の人数の異変に疑問に思っていると、村の誰かが叫ぶ。

 

 「海賊だあああああああああああーっ!!!」

 

 叫び声の方を見てみると、幾つかの人影がこちらに向かってきており、その奥には海賊船が停泊しているのが見えた。

 彼らに敵意は無いが自分を警戒している。そう感じ取るとカイドウは酒飲みを再開した。

 

 なんか来てるけど敵意が無いなら別に良いや。

 彼女は酒で頭が回らなかった。

 

 そんな彼女を置いて、接近してきた海賊団の船長らしき人物が落ち着いた口調で言う。

 

 「驚いた。まさか先客がいたとはな」

 

 その男は麦わら帽子を被っていた。

 その帽子の下には赤色の髪が揺れており、左目に引っ掻いたような傷痕があった。

 

 彼女は彼の名を知っている。

 『赤髪のシャンクス』――卓越した覇気で段々と名を上げてきている大物海賊である。

 彼の目は彼女を見据えており、どんな些細な仕草も逃さないようだった。

 そして、彼女の目も彼を見据えており、どうやって飲み仲間に誘うか、頭が良く回らないなりに熟考しているようだった。

 

 

 ここに、未来の皇帝と現役の皇帝が邂逅した。

 前者は警戒からか固い表情を浮かべ、後者は酔いからか崩れた表情をしている。

 片や身長1m後半、片や身長6m前半。

 実力は彼女の方が上。酒癖の悪さも上。

 

 血を流して倒れるか酔い潰れて倒れるか、最終的にこの地に立っているのはどちらなのか、二人の頭が衝突しようとしていた。

 

 

 

 




無駄に壮大。

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