カイドウ♀になった話 作:ぼほの
新世界の大海原を、数百m級の青龍がその巨体に似合わない速度で突き進んでいた。
その巨体とその速度の影響か、それが通ると海がせり上がって大波を作り出しており、もしそこに船があれば転覆は免れないだろう。
この動くだけ災害を齎す青龍の正体は何か。
私だ。
現在、私はビッグマムの住処であるホールケーキアイランドに向かっている。
向かう理由は、お茶会に誘われたとか、勝負を仕掛けられたとかではなく、彼女に子育てのノウハウを教えてほしいだけだ。
確か今の彼女の子供の数は…………駄目だ分からない。会うたび会うたびに子供が増えているもんだから、前に数えた人数は当てにならないだろう。
まぁ、それだけ産んでいるのだから子供に関して彼女の右に出る者はいないと踏み、こうして彼女のもとに私は向かっている。
しかし、向かおうとしたところ少々予定が狂ってしまった。
本来彼女の所には私1人で行くつもりだったのだが、このビッグマムへのアポ無し突撃に参加した者がいる。
私はその者の方をチラッと見る。
そこには、私の隣を大きな翼で飛ぶ全身黒スーツで覆われたプテラノドンが居た。
彼の背後は燃えているが、これは自前である。その姿は部分的な火の鳥、彼を知らぬ者が見ればゾオン系幻獣種だと勘違いするだろう。
彼の名はキング。
私との付き合いが長く、百獣海賊団No.2の実力を持つ非常に優秀な配下である。
ゾオン系の剛力と、彼の種族としての耐久力と炎を操る能力を兼ね備え、剣術も一流。特に炎を操るというのは殲滅力が高く、一定以上の実力が無ければ焼き殺されるのでかなり強い。
彼と私がいれば、ホールケーキアイランドに大損害を与える事が可能だろう。
しかし今回は別に戦争をふっかけにきたわけでは無いので、正直言って、彼はいらない。
そもそも何故彼がついてきたのかというと、ざっくり言えば私が目立ちすぎたせいである。
私はあの時、ビッグマムのもとに向かうおうとしたのだが、酒を何Lも飲んでベロベロになっており、思うように身体が動かせずワノ国中を飛び回っていた。
その結果、私を探していたらしいキングに会い、鬼ヶ島に戻るよう言われる。
しかし酔っていた私はそんなこと知るかと言わんばかりに、キングにホールケーキアイランドに行くことを伝え、またワノ国中を酔いが醒めるまで飛び回った。
そして少し経って酔いが覚めると、私は頭を数回振ったあとに、ビッグマムの住む方へ正確に向かった。
キングはそれに追従する形で来たのだ。
何か言いたそうなキングを尻目に、私は空を翔けていく。
鬼ヶ島に戻るように伝えてきたということは、そこで何かあったのだろう。しかし、私にとってそれよりもヤマトと仲良くなる方法を知る方が重要なのだ。
目的地が見えてきた。
ビッグマムがいる島『ホールケーキアイランド』
それは建造物の殆どがお菓子で出来ているという可笑しな場所で、お菓子好きには堪らない島となっている。その逆に、お菓子嫌いからすれば発狂ものの島でもある。
ちなみに私はほんのりぐらいの程よい甘さのお菓子が好きだ。あと酒に合うものも好き。
突然の来訪な上に夜なので、きっと今頃ビッグマム海賊団はパニック状態だろう。皆仲良くぐっすり寝ていたら、四皇の一角が飛んでくるのだ。そうならない方が不自然というもの。
なんといっても水平線の彼方から数百mはあろう龍が迫ってきてるのだ。もしこれで警戒しないのならそれは最早平和ボケ、いや、森羅万象全てが仲良しな世界の住人と化している。
まるでたちの悪いドッキリのようだ、なんて思いながら近づいていくと、目先にある海岸の異変に気付く。
誰も居ない。誰も待ち構えていない。
それすなわち、誰も私を警戒していないのだ。
あまりの衝撃に動きが止まる。
横に居るキングは何処か失望したかのような雰囲気を漂わせている。
いやいや、おかしい。
罠か何かだろうか。いや、他の新参海賊ならまだしも、私が来たというのなら罠にかけようなど思う筈が無い。
自分で言うのも何だが、たとえどんな罠を仕掛けられたとしても、私なら何事も無かったかのように打ち破る事が可能であると彼女らは知っているはず。
罠なんて仕掛けるだけ無駄だ。
となると、もしや彼女らは私の来訪に気付いて居ないのか?
数百mもの龍が迫ってきたとしても気付かない何かが、たとえ気付いていたとしても対応する暇の無いほどの出来事が、この島で起こっているのだろうか?
私はそれを確かめるべくより高度へ、そして島の中心に向かっていく。
そしてすぐにその原因は見つかった。
私はそれを見て、なるほど、と思った。
そこには、街を破壊し闊歩するビッグマムの姿がいた。
どうやら、彼女は食いわずらい発症中らしい。
彼女が腕を振るうたびに、お菓子で出来た町が粉々になっていく。
市民たちは逃げ惑い、彼女の部下らしき人達が避難指示を出していた。
何てタイミングの悪い、と心の中で悪態をつく。
彼女の癖というか性というか何というか、全く“食いわずらい”とは迷惑で面倒なものだ。
「行きましょうか、キング」
私はそうキングに呼びかけると、遅くない速度で我儘怪物おばさんへ直行した。
ちなみに敬語なのは、まだ男の意識があった昔、女言葉を使うのに抵抗があったからだ。
今や女言葉を使う事に何ら抵抗は無いのだが、昨日まで敬語だった奴が急にタメ口を使うのはどうかと思うし、私は“敬語を使うキャラ”だと定着しているので変える気が起こらない。
あと敬語ってだけでなんとなく大物感が出るのでそうしているのもある。
まぁ、こんなフワフワとした理由で丁寧な言葉遣いをする奴に大物感もクソも無いのだが。
◇◇◇
巨人族と見違うほど大きな純人間の女が、渇望を込めた足取りで街を破壊し回っていた。
「セェムラァァァアアアアアアアアアア!!!!!!」
人生の全てでもかけているのではないかと疑えなくもない執着心を糧に、ビッグマムは腹の底から轟くように今望むお菓子の名を叫ぶ。
彼女の手には顔の付いた太陽が握られており、今まさに目前の建物に振りかぶらんとしていた。
「ママ!止めようぜそんなこと!!」
「無理無理聞いてないって」
太陽は彼女に破壊行為を止めるよう叫ぶが、それに横槍を入れるように、これまた顔の付いた雲が諦めた様子で言う。
実際、太陽の言葉は彼女に届いておらず、無情にも腕は振り下ろされた。
目にも留まらぬ速さで飛んでいく太陽がお菓子で出来た建造物に衝突したかと思えば、次の瞬間、その建物だけでなくその周りすらも飲み込む程の大爆発が起きた。
あまりの爆風に近くにいた人々は吹き飛び、少し離れた位置にいる者も一時的に動きを止めなければならないほどだった。
爆炎が収まると、爆発に巻き込まれた建物はバラバラに吹き飛びその破片はドロドロ。
巻き込まれずに済んだ物も熱の影響を受けて、そこら一帯が汗を掻いているかのように溶けていた。
その光景を見て、彼女の子供達は冷や汗を掻く。
「……まずいな。ここでこれ以上暴れられるのは非常にまずい…!」
「で、でもどうしたら!?セムラの行方は分からないし、今から作るにしても時間がかかる!!」
「しかもさっき入った情報によると、カイドウがこの島に来てるらしい!!!正直、にわかには信じがたいが…」
そう彼が呟くと同時に、空が暗くなる。
「呼びましたか?」
突如響く女性の声。
それは美しい音色をしていたが、その声を知る彼らにとっては心臓が止まる思いをするほどの恐怖を齎すものだった。
彼らは目の前の惨状を忘れて、分かりきってはいるが分かりたくないの一心で、ゆっくりとその声の正体を見る。
嗚呼、噂をすればなんとやら。
街を覆うような青龍が空を独占していた。
◇◇◇
私を見た市民たちは阿鼻叫喚で、一部のシャーロットキッズも生まれたての子鹿のように足を震わせていた。
しかし流石と言うべきか、ある程度歳を重ねたシャーロットキッズ達は僅かに怯えつつも私と向き合っている。
私はそれを見てマムの子育ての優秀さを改めて実感する。
確かに彼らとは何度も獣型で会った事があるが、初めて会った時も足を震わせながらも対峙していた記憶がある。
うちの子でも同じ事が出来そうだが、マムはこれを何人もの子供に成功させているのだ。
一人教育するだけで手一杯な私と、複数人を教育しても余裕がありそうなマム。
実力では負けてないと自負しているが、こればっかりは天と地ほどの差を感じる。
そう勝手に教育力の差に驚いていると、シャーロットキッズの中の一人――確か名前はカタクリが切羽詰まった様子で私に問いかける。
「……何をしに来たッ!」
「リンリンとちょっと相談事をしに来ただけですよ。そう警戒しないでください」
彼らを安心させる為に、出来る限り穏やかなトーンで話す。
これで何人か落ち着かせられたようだが、逆に警戒心を強める人もいた。
しかしこれは仕方がない。猛獣が聖母のように接してきても罠かと怪しむだけだ。
だからといってその者を安心させるような事はしないが。やろうと思えば出来るだろうが時間が無い。
さっさと話を進める事にする。
私は目でマムを指し、問いかける。
「ところで、今回のお題はセムラのようですが、準備の方はどうなのですか?」
「…お前には関係ない」
状況を聞いてみるも突っぱねられる。
私は所詮部外者、こういった対応をされるのは分かっていた。
しかしここで引き下がっては来た意味がない。
「いいえ、大有りです」
私はそう言うと、彼らに顔を近付ける。
私の顔は下手な家よりも大きいため、それが迫ってくるというのは普通ならば耐え難い恐怖を感じるだろう。
さっきまで安心させようと接していたのに、今度は威圧してくる。数秒前までとは一転した態度に、彼らの表情が強張るのが見えた。
「もう一度聞きましょう。準備の方はどうなのですか?」
「……………………………今料理人に作らせている」
「どれくらいかかりますか?」
「3時間だ」
「分かりました。では、その間私がリンリンを足止めしておきましょう」
え、と意表を突かれたような声が耳に入る。
私の言葉を聞いた全員が同じ顔をして驚いていて面白いなと思いつつ、私は追い打ちをかけるように「ただ」と言葉を続ける。
「少々手荒な方法を取りますので、セムラが出来上がる頃には、ひょっとしたらリンリンの死体が出来上がっているのかも知れませんよ?」
そう言って私は「はははっ」と一人で笑う。
これは私なりのジョークなのだが、キングを含め誰一人として笑ってくれなかった。
まさかのド滑り。これには酒を飲んでいないのに顔が赤くなりそうだ。
私はコホンと一咳し、先程の醜態を誤魔化すように、マムに向かって高速で突撃。理性を失ったマムは当然それを避けられず、ヤバいと叫ぶ太陽と雲ごと空高くふっ飛ばされた。
彼女の丸い体型と水玉模様の服が相まって、天高く舞い上がるマムはまるで巨大な風船。
しかし彼女は風船では無いためある程度の高さまで行くと、打って変わって急降下していく。
それに雲――ゼウスは「危ない!」と叫び、無抵抗で落ちていくマムを優しく受け止めた。
そこに私は容赦なく
その正体は太陽――プロメテウスで、熱息を吸い込んだ後、ぷはーっと牛乳でも飲んだかのように息を吐いた。
やはり一筋縄ではいかない。
明らかな敵意を示すマムと目を合わせながら、私はそう思うのであった。
ビックマム(セムラが食べたいだけ)
VS
カイドウ(子育て相談がしたいだけ)
海の皇帝達の戦いが―――
―――今、始まる。
予想以上に伸びててビックリした(小並感)
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