カイドウ♀になった話 作:ぼほの
Q.どうしてちょっと遅れたの?
A.ゲームたのちぃ!
父親が母親になり、その性格も違うため、ヤマトくんのキャラがちょっと変わっています。
苦手な方は、お覚悟を。
鬼ヶ島。
そこは、かの大海賊『カイドウ』率いる百獣海賊団が本拠地とする場所。
その島には、元々なのか人工的なのか分からないが、その名に恥じぬ一対の角を持つ鬼の顔があった。
その異形の地形は、何も知らぬ者が見たら角の生えた超巨大な巨人が海面から顔を出しているように見えるだろう。
さて、そんな鬼ヶ島だがいつもと変わらず非常に賑やかであった。ここに住まう彼らは頻繁に飲み会をするので、時間になると酔っ払いの笑い声が絶えず漏れ出るのだ。
しかし、今回はそうではなかった。
相変わらず迷惑なほどの声量が飛び交うが、それは笑いから来るものではなく、困惑と焦りから来るものだった。それに幾つか悲鳴も混ざっていた。
そんな声を聞けば、まともな感性をしているのならお世辞にも楽しそうとは思えないだろう。
四皇の根城である鬼ヶ島に一体何が起こったのか。
「うぎゃああああああああああ!!!」
そんな悲鳴を出しながら人が吹っ飛んでいく。
その者は血を流しており、空を飛んでは撒き散らしていた。
彼の少し凹んだ顔を見てみれば、出血の原因は鈍器による打撲であることが分かる。
「落ち着いてください!鬼姫さばぶッ!!」
鈍器を振り回す幼子を抑えようと近づいた者が居たが、頭を金棒で強打され数mほどふっとばされた。
鬼姫と呼ばれた者はそんな彼を気にも留めず、ただただ母親がくれた金棒を彼らに牽制するように振り回していた。
「違うッ!!僕は鬼姫なんかじゃない!!僕は『おでん』だッ!!!」
額に赤い角を生やした幼子はそう叫ぶ。
その瞬間、“覇気”が発せられ、その周りに居た人々は突如として泡を吹いて気絶した。
一瞬の間に十数名あまりの人が倒れ伏し、彼女を取り囲むように人の絨毯が出来上がったのだ。
その光景を見て、間一髪で覇気に晒されなかった者は恐れ慄く。それはこの光景を作り出した彼女とて例外では無かった。
気絶した彼らを見る彼女の目は震えており、動揺が隠せない様子であった。
大声を出したら大勢の人が倒れたのだ。そんなこと、彼女は体験した事は無いし、聞いたことも無い。
彼女は自身の力に対して未知なる恐怖を覚えた。
しかし、それも数秒程度の話。それくらい経った後には、これは好都合だと受け入れ、先程の静寂が嘘だったかのように暴れだした。
その姿はまさに鬼の子。彼女の親を知る者は面影を感じずにはいられないだろう。
しかし、それも長くは続かなかった。
「おー、おー、好き勝手にやりますね」
突如としてそんな若い女性の声が響く。
それはまるでこの状況を楽しんでいるかのようにも、娘の成長を喜んでいるようにも聞こえた。
しかし何故だろうか。その声を、いや、台詞を聞いた者はもれなく筋肉質な天使を思い浮かべてしまうのは。
声と想像のギャップが大きいあまりに、その場の者達はその正体を確かめるべく一斉に視線を集中させる。
その声の正体を見て、彼女の部下達は驚愕、次にガッツポーズをして喜んだ。
「おお!カイドウさんが帰ってきたぞ!」
「やった!これで勝つる!!」
「さ、やっちゃってくださいよ!」
そんな三下地味た―――実際三下なのだが―――歓声を無視して、彼女は自身の愛娘に挨拶をする。
「おはようございます。ヤマト」
少女―――ヤマトはその挨拶を返す事が出来なかった。
別に彼女が恥ずかしがり屋というわけでは無い。彼女は挨拶をされたら返すよう教えられており、実際に今までそうしてきていたので今更恥ずかしがる理由など無いのだ。
彼女が返事をする事が出来ないのは、彼女の震えた手を見れば分かるだろう。その姿はまるで、親に悪戯がバレた子供のようである。
ヤマトは今更ながら金棒『
カイドウはただその様子を微笑んだまま見つめており、あれ以降言葉を続けようとしない。
沈黙が流れる。
それを破ったのは、この状況に耐えきれなくなったヤマトの方であった。
といっても、それは酷くか細い声で。
「お、お母…さん」
「はい。元気そうで何よりです」
そう言ってカイドウは笑う。
その笑顔は、彼女の整った顔も相まって美しいものであった。しかし、相手がカイドウとなればそんな事を意識してられないだろう。
さらに今は辺り一面気絶した部下だらけで、床も壁もボロボロな状況である。そんな中、彼女が何故笑っているのか。ヤマトはそれを考えようとするが、何だか恐ろしくなってやめてしまった。
「随分とまぁ、壊しましたね」
そう彼女は笑顔を貼り付けたまま、辺りを見渡して言う。
そんな彼女を見て、ヤマトは弁明するべく声を上げる。
「ち、違うの!お母さん!!全然違うの!!」
「…違うのですか?」
カイドウは笑顔のまま首を傾げる。
表情は穏やかなはずなのに、彼女の身長が大きいからなのか、何処か威圧的だ。
ヤマトはそれに一層汗を掻き、下手な事を言ってしまえば恐ろしい目に遭わされそうに感じた。カイドウは別にそんなつもりなど無いのだが、雰囲気だけが独りでにそう語っていた。
そのため彼女は真実を話すことを強いられ、こうしてしまった理由を
「僕は、彼に―――おでんに成りたかっただけなの!!!」
「………………………………?」
それは弁明と言うのだろうか、とカイドウの脳内でそんな疑問が暴れる。
彼女の理解不能な弁明らしきものに、カイドウの笑顔を剥がされてしまい、代わりに困惑に歪んだ。
そして、カイドウは首を肩にくっつきそうなほど傾け、彼女の角が肩に触れた。もし彼女に角が生えておらずそれが代わりに肩に触れていなかったら、きっと耳と肩がくっついていただろう。
それほどまでに、彼女にとってそれは摩訶不思議なものであった。
百聞は一見に如かず。しかしこれだけは見たくは無かったと、カイドウは落ち込んだ。
◇◇◇
キングに言われ、猛スピードで帰ってきたら、娘がわけのわからない理由で暴れていた。
何を言ってるのか分からないかも知れねぇが、私もわけがわからなかった。頭がどうにかなりそうだった。憧れだとか洗脳だとかそんなちゃちなもんじゃ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。
いや、わけはわかる。何故なら彼女がこうやって暴れる事を私は知っているからだ。
彼女は数日前に私が処刑した男“おでん”に強い憧れを抱いた。
その憧れの強さは凄まじく、自分はおでんだと思い込み、性別すら偽るほど。
自分を憧れの人だと思い込むのはまだ良い――いや良くない――が、性別すら変えてしまうのは何というか流石だと言うべきか。
一応彼女は
しかし、どうしたものか。
最初彼女を見たときは成人男性を軽々と吹き飛ばす怪力に成長を感じてしまい、つい上機嫌になってしまった。
ただ悲しいことに、機嫌良くしてる場合ではないのだ。
先程も言ったようにヤマトはおでんに憧れている。その憧れの人物を殺害した私を、彼女はどう思うか。
良くて嫌悪、悪くて殺意。どちらにせよ、私にとって愛娘に嫌われるというのは、天と地が迫って挟まれるよりも恐ろしいことなのだ。
ヤマトは私の前で黙っている。
彼女の瞳は私を真っ直ぐ見つめつつも僅か揺らいでおり、先程の弁明モドキの反応を確かめている様子。
まぁ、反応なら既に返している。この肩にくっつきそうなほど傾けた首がその答えだ。
しかし彼女には伝わっていないのか、ただ不安そうに私を見続けている。
これは、チャンスなのでは?
今のところ彼女は私に嫌悪や殺意といった感情を向けている様子は無い。内側に隠しているのか、それともおでんをべた褒めしたのが響いてくれたのか。
どちらにせよ、今の彼女ならば私の話を聞いてくれそうだ。
私はリンリンの言葉を思い出す。
『子の願いを叶えてやれ。しかし補助する程度にとどめておけ』
これを守っていればいける。そのはずだ。
よし、まずは理解を示そう。
「…そうですか。ヤマトはおでんになりたいのですね」
それを聞くとヤマトは目を輝かせて
「うん!!」
と元気よく頷いた。
あらかわいい……ではなく、ワンステップ目は成功だ。
次はヤマトの夢の補助。
といってもこれは私の出番が無い気がしている。というのも、そもそもヤマトの夢は“おでんになること”であり、それすなわち“おでんの意思を継ぐ”という事でもある。
そしておでんの意思とは、ワノ国の『開国』であり、そのためにはオロチや私の排除が必要である。
もしこれを補助するというのなら、私が私の百獣海賊団の壊滅を手伝わなければならない事になる。
流石の私も自分で自分の首を絞めるような事はしない。いくら娘の為とはいえ、自分の命を投げ打ちたいと思わない……わけでは無いかも知れないし有るかもしれない。
…まぁ、なんにせよ、私の出る幕ではない。
ならばどうするか。
どうしようも無いんだな、これが。
………やっぱり、手伝おうかな。
ワノ国の開国なんてヤマト一人では厳しいだろう。それに今の彼女は成人男性を吹っ飛ばせるだけで弱いし、これから強くなったとしても敵勢力を全員を相手取っては負けてしまうだろう。
それにラスボスとして待ち構えるのは私だ。
いっそのこと自分を滅ぼす存在をこの手で育ててみるのも良いかもしれない。なんて、負けを知らないラスボスっぽいことを考えてみる。
しかし半ば冗談で考えた案だが、これは結構良いかもしれない。「実の娘に殺される、これも四皇の定めか」なんて言いながら押しつぶされるのも悪くない。
「ヤマト」
「なに?」
私はヤマトと目線を合わせる。
彼女と身長差がありすぎるせいで私がほぼ這いつくばるようになってしまっているが、構わず続ける。
「おでんになりたい、とのことですが……承諾しかねます」
「……え!?どうして!?」
私の言葉に彼女は驚愕した。さっきは肯定的だったのに、いきなり否定してくるのだ。
私の事を高性能ハンドドリラーだと勘違いしてもおかしくはない。
なんて事を考えながら、認めない理由を話す。
「それはですね―――」
そう言って私はヤマトを触る。
その体はまだ8歳だからか非常に細く、ちょっと力を入れてしまえばポッキリ折れてしまいそうだった。
「―――ヤマトが弱いからですよ」
「僕が……弱い…から?」
「はい」
実際弱い。
おでんは私の体に傷を付けた。ならばおでんを名乗るくらいなら、それと同じことくらい出来るようになってもらわなければ困る。
すなわち、覇気で言うところの内部破壊、流桜を習得してもらいたい。それに覇王色を持っているのならそれも纏えるようになって欲しい。
「おでんになるというのなら、私の体に傷を付けてください」
今の私はまるで、娘に自分を傷付けるよう頼むやべー親のようだ。いや、傍から見れば“よう”ではなくそれそのものだろう。
「き、傷を?」
恐る恐るといった様子で聞き返すヤマトに、私は「はい」と答えて
「そうすれば、私はヤマトをおでんだと認めます」
私の言葉にヤマトは目を見開いた。その目には迷いの感情が映っており、直ぐに返事が出来ない様子だ。
正直、私には何故彼女が迷っているのか分からない。
彼女にとって私は仇、それに傷を与えておでんに近づけるなんて一石二鳥のはずだ。
なのにどうしてだろうか。
希望を持って言うならば、ヤマトは私を嫌っていないからだろう。
おでんに憧れてまだ数日。それまでに私は彼女に愛情を注ぎ続けたし、これからも注ぐつもりだ。彼女も鈍感では無い、自分は愛されている事を気付いてくれているはず。てか気付いてくれてなかったら泣く。
そんな私の事を敵対視しようにも、これまでを思い出して踏ん張りがきかないのではないだろうか。
だからこうして私と戦うか否かを迷ってくれているのでは、と私は考えている。
もし本当にそうであれば、ちょっと泣きそう。
「……った」
「……ん、今なんと?」
私は耳を傾け、もう一度言うように頼む。
「分かった!!」
「…………」
選ばれたのは敵対でした。
希望なんて無かった、あるいは今打ち砕かれた。
ま、まぁ、でもこれは私が言い出した事だし、ヤマトは何も悪くない。そうさ、自分が言い出しっぺだってのに、なんでちょっと傷付いてんのさ。
逆に考えるんだ。自分で判断出来るように成長したんだと。
私はそう自分を鼓舞し
「……………そうですか。ヤマトなら出来ますよ」
と言って、出来る限り平然を装った。
そして私は立ち上がり、今日もやけ酒しようと心に決めて、その場から去ろうとする。
しかし、娘はそうさせるつもりは無いらしい。
重い足取りで貯酒庫に向かう私に、背後から声がかかる。
「ねぇ。今からでも良い?」
振り返って見てみると、ヤマトは金棒を握りしめていた。
それを見て、彼女が何に対して良いか聞いてきたのか、私には分かった。
彼女は今から私と戦いたいのだろう。一秒でも早く自身をおでんだと証明するために。
おでんと私、どっちが大切なの!?と、叫びたい気持ちになるなんて思いもしなかった。
私はそれに溜息をつく。
これはもう、私も覚悟を決めなければならない。
彼女の今の発言が、母親とおでんを天秤にかけた結果であるのなら、私もそれ相応の対応を取らなければ無作法というもの。
「ヤマト。貴女が望むのなら、今からでも問題ありません」
「ほんと!?やっ「しかし注意事項があります」――なに?」
私の割り込むような台詞に、小さく眉を顰めながら首を傾げるヤマト。
その姿は非常に可愛らし―――ではなく愛らしい。そんな彼女に手を下さなければならないなんて、この世とは何と残酷か。
私は出来る限り威圧しながら、その注意事項を教える。
「戦闘の最中、私は貴女を敵と見なします。故に手加減をするつもりはありません。
それでも、私に挑みますか?」
普通なら腰が抜けるであろう強い威圧感と、お前を敵と見なすという注意という名の脅し。
これに屈するようであれば、それは意思が弱いということ。意志が弱ければ覇気を習得する事が出来ない。つまり、たとえヤマトがどれだけ鍛えたとしても、意志が弱い限りおでんには成れないということだ。
これは試練の前の試練だ。ステージに立つことが許されるか否かという一次試験だ。
ヤマトはこの脅しに顔を青くしたかとおもえば、目を閉じ始め、そのまま少しの時間を置くと
「…うん!!」
と、力強く返事をした。
やはりというべきか、私の子なのだから当然だというべきか、彼女はこんな安っぽい脅しに屈するような人間では無かった。
今やさっきまでの子供っぽさは無く、そこにいるのは自分の選んだ道を突き進む覚悟を持った戦士だ。
………ここで手を抜いては母親として、カイドウとしての名が廃る。
私は腰に下げた金棒を取り出す。
「いつでもどうぞ」
その言葉を聞いたヤマトは金棒を握り直し、一回深呼吸する。
「それじゃあ……行くよ!!」
そういって走り出した彼女に私は―――
「雷鳴八卦!!!!」
と、容赦のない一撃を叩き込んだ。
少し経って。
頭から血を流して気絶したヤマトが医療班によって担架に乗せられ運ばれていく姿を、私は眺めていた。
そんな私を見て、たまたま一連の流れを見ていたクイーンはその丸い体を震わせ
「ひ、ひでぇ……」
と言葉を漏らすのであった。
即落ち2コマ。
次回ヤマト視点。
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