カイドウ♀になった話   作:ぼほの

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お気に入り2000超え。圧倒的感謝。

 


7話

 「……知らない天井だ」

 

 目を覚ました僕はまずそう呟いた。

 何故そんな言葉が出てきたのは分からない。ただ、何となくそう言わなければならない気がした。

 

 ここは一体何処だろう。

 

 気になって周りを見渡してみると、傷を負った大人達がベッドに寝かされており、何人かがその痛みに悶えていた。

 見た感じ、どうやらここは医療室らしい。

 

 あれ…。

 

 どうして自分はこんなところにいるのか思い出せない。

 ここ最近の記憶が飛んでいる。僕に何があったのだろうか。

 

 よくわからないが、取り敢えずここを出るために体を起こさなければ。

 すると次の瞬間、頭がズキッと強く痛んだ。

 

 「ッ!!」

 

 痛みに悶え、頭を抑えてみるとそこには何かが巻かれているようだった。

 触ってみたところ、どうやらそれは包帯のようだ。一部少し湿気っていて、何かが滲み出ていた。

 

 どうやら僕は頭を強く打ったらしい。そのせいでその時の記憶が無くなっているのだろう。

 でも、一体何で頭を打ったのだろう、階段?いや、違う。もっと、別のなにかだ。

 何故かは分からないが、なんとなく誰かの仕業でこうなっている気がする。それも身近にいる、誰かによって。

 

 そんな予想をしているとやたら大きい医療室の入口から声がかかる。

 

 

 「ヤマト?起きてますか?差し入れに来ましたよ」

 「!…お母さん!!」

 

 

 そこから出てきたのは母親で、彼女の手には差し入れらしいフルーツの入った籠が乗せられていた。

 彼女の大きさのせいでその籠は小さく見えるが、子供一人満足させるには十分すぎる量だった。

 

 お母さんは元気そうな僕を見て安心したような笑みを浮かべ、()()()()()()()()()僕に歩み寄って来た。

 さっきまで気にしていなかったが、この部屋は縦にも横にも広い。その証拠に、彼女は身長6m以上あるのに身を屈める事なく移動出来ている。

 そういえばこの前、“ばりあふりー”がなんたらとか言っていた気がする。やたら入口が大きかったのもそれだろうか。

 

 何てことを思い出している間に、お母さんは近くに籠を置いて座っていた。

 そして籠に入っていたリンゴを手に取ると目にも留まらぬ速さで八等分にし、その一片一片は無駄に可愛いウサギの形をしていた。

 何その無駄な技術。

 

 

 「では、どうぞ」

 「あ、うん、ありがとう。ねぇ、何その技?」

 

 

 僕の質問に、お母さんは一瞬何を聞かれているのか分からないとでも言うように首を傾げ、「ああ」と思い出したかのように言葉を始める。

 

 

 「これはとある体術の『指銃』という技を応用したものです。本来指銃は刺突するものですが、それを斬撃に変えてリンゴを切りました」

 「何その無駄な技術」

 「無駄ではありません。有効活用です」

 

 

 そういってまるで僕を黙らせるかのようにウサギ型リンゴを口に詰めてきた。

 僕はそれに微妙な気持ちになりつつもそれを咀嚼してシャクシャクとした感触と程良い甘さを楽しむ。そして飲み込むと、それに合わせて次のリンゴが差し出される。

 4、5片ほど食べたあたりで一旦止めてもらい、さっきから気になっていた事を彼女に話す。

 

 

 「ねぇ、僕ってどうして頭を怪我してるの?」

 「え?あ、記憶飛んでましたか。それはですね、私に挑んだからですよ」

 「…………え?」

 

 

 僕が、お母さんに、挑んだ?

 何で?意味がないじゃん。あれ?じゃあ、おでんはどうしてお母さんに挑んだの?いやでもあれは聞いた話によるとオロチが悪さしたせいで…………ん?おでん?あっ

 思い………………出した!!

 僕はおでんになるんだった!!!そのためにお母さんと戦わなくちゃいけないんだ!

 確かおでんになるためには彼と同じようにお母さんに傷を付けなくちゃいけなくって……!!

 それで僕はお母さんに挑んで……………………雷鳴八卦。

 

 

 「お母さん」

 「はい」

 「………あれは、ずるいよ…」

 

 

 そう嘆くように言って僕は顔を手で覆う。しかし、指の隙間から見る限り彼女はまるでピンと来ていない様子。

 彼女の戦闘の辞書には卑怯の二文字は無いのだろう。それか、あの行為は卑怯では無いと思っているのか。

 どちらにせよ、ひどい。

 

 

 「ずるいって言われましても……彼ならば避けるか防ぐかしてましたよ。まぁ、ちょっと強くやってしまった事は反省しますが」

 「………………ちょっと?」

 「ええ、もし本気でやっていれば、掃除班の仕事が増えていたでしょうね。そんなの、私も含めて誰も幸せになりませんし」

 

 

 直接的な表現を避けているが、その言葉の意味が分かった気がした。

 

 それはさておき、彼女の言った事は一見すると言い訳のようだが、別に間違ってはない。

 僕はおでんの戦いを見たことがないので詳しい事は分からないが、お母さんがそう言うのだからきっと本当に雷鳴八卦に対処出来ていたのだろう。

 そうであれば、あれを避けられなかった僕は目標から大分遠い位置に立っている事が分かる。

 おでんを目指すのならば、彼女の攻撃の一つや二つ、いや、全てに対処出来るくらい強くならなければならないだろう。

 その壁はどうしようもなく高いように思えるが、そんなの関係無い。

 

 お母さんがおでんを撃ち殺したあの日、僕は彼の生き様と死に様に感激した。

 民を救うために馬鹿殿を演じ続けたこと、自分の身を犠牲にして家臣達を救ったこと、笑って辞世の句を詠みその生涯を終えたこと。

 そのどれもが筆舌に尽くしがたいほど素晴らしく、偶々見学しに来ていた僕の魂が震えるようだった。

 

 だからこそ、僕は彼を撃たんとするお母さんを()()()()()()()()

 もし彼女が何も言わず作業でもするかのように彼を撃っていれば、僕は親の仇の如く恨んでいただろう。この場合親が仇だが。

 しかし実際は違った。

 

 お母さんがおでんに向けて銃の引き金に指を置いた時。

 彼女は引き金を引かず口を開いた。

 

 

 「光月おでん、貴方は素晴らしい」

 「出来ることなら、この銃を握り潰して貴方を逃したい。ですが、貴方は既に死に体。ここで逃がそうにもその場から動けず、数十分以内に死んでしまうでしょう。本当に、惜しいです」

 

 

 僕が聞く限り、その声に偽りは感じられなかった。顔を見てみれば、何処か悲しそうで本当に彼の命を惜しんでいるようだった。

 本当に惜しい、その言葉を最後に彼女は引き金を引くかと思われたが、そうでは無かった。

 

 

 「貴方の功績は凄まじいものです。私のこの傷を見てください。広く、深く、未だにズキズキと痛んでいます。私にこれほどの傷を負わす者などそうそういませんよ。本当に素晴らしい剣術だと思います。これが我流なのだから、貴方はきっと天才なのでしょう。それだけではなく、武装色を高いレベルで扱い、覇王色を持っていることからもその卓越した才能を感じざるを得ません。それに貴方はただ武力を持っているのではなく、仲間思いなのも素晴らしいです。どれだけ力を持ったとしても、我が身可愛さで仲間を見捨てる輩がいるのです。そんな人達がいる中、貴方は仲間の為、民の為ならば身を捨てる自己犠牲の精神を持ち合わせている。その貴重な精神、称賛に値します。それに貴方のその髪型。何事にも囚われない独創性を感じます。正直言って真似したいとは思いませんが、その孤高の精神は見習いたいものです。それと体付きが素晴らしいです。上限の無い力と何事も解決してくれそうな絶対的な安心を感じます。一体どのような鍛錬を行えばそのような超人的肉体を手に入れるのか想像も出来ません。もし生まれつきのものであれば、貴方は天に選ばれし奇跡の人物。本当に、ここで散るのが惜しくて堪りません」

 

 「お、おう。ありがとな」

 

 

 おでんはほんのり顔を赤くし、突然べた褒めされた事に素直に礼を言った。

 何百度の高熱に耐えながら自身を褒める言葉を長く聞くことになっていた彼は、一体どんな気持ちで返事をしているのだろうか。

 僕はというと、そのあまりの出来事に絶句していた。

 突然お母さんが敵であるおでんを褒めちぎったこと、その全てが本音に聞こえたこと、引き金を引くのを惜しんでいたこと、彼が結構素直に称賛を受け止めたこと、そんな彼を羨ましいと思ったこと等など、沢山のことが一度に起きて言葉が出なくなっていた。

 ただ一つ言える事があるとすれば、その称賛が突然な上に長く、そして若干早口だった為か、その内容の殆どが聞けず何を言っていたのか覚えていない事だ。

 

 

 僕は鬼ヶ島に帰ったあとあの一時間を思い返していた。

 憧れの人が出来たこと、母も彼に憧れていたこと、そして母が彼を殺したこと。

 

 彼は僕の人生で初めて心の底から尊敬した人物だった。彼のようになりたいと、強く仲間思いな彼になりたいと熱望した。

 だからこそ、彼女が彼を撃ったとき、僕はお母さんを憎むはずだった。

 でも、どうしてか僕は彼女を憎めなかった。彼を殺したことに対しては怒っているし、許せない事だと思っている。だけどお母さんという存在を許せないわけでは無かった。

 むしろ同情すらした。

 彼女だって彼に憧れていた。あれだけ褒めたのだから、きっとそうなのだろう。

 だとすれば、彼を()()()()僕は悲しいけれど、彼を()()()お母さんはきっと酷く苦しいに違いない。

 その証拠に、彼女は彼を撃ったあと銃を握り潰していた。

 

 だからこそ、僕はおでんになることを決意した。

 きっとお母さんは彼を自分自身の手で殺めた事を気に病んでいるはず。ならば僕がおでんになって、彼女の気を少しでも紛らわせればいい。

 それに彼女の気が云々の前に、僕のおでんになりたいという欲望は健在だ。彼はカッコいいし、お母さんに褒められていた。

 お母さんを慰められて、僕はおでんになれる。これは僕にとってもお母さんにとっても一石二鳥なのだ。

 

 だからこそ、僕は直ぐに勝負を仕掛けた。

 自分の為、母の為に少しでも早く“僕はおでんだ”と認めてほしかった。

 なのに………。

 

 ………あれはきっと、お母さんなりの警告なのだろう。

 理不尽を叩きつけられて音を上げるのならば、この道は通らない方が良いですよ、と。

 私はどんな強固な決意であってもそれを砕くつもりでいる。数多の挫折と絶望を繰り返されると分かっていても、貴女は続けられる覚悟はありますか、と。

 

 そんなもの、あるに決まってる。

 一回即落ちされたぐらいで折れるほど、軟な精神は持ち合わせていない。むしろ目標の高さを見せてくれて感謝したいぐらいだ。

 もちろん、そのことに対する怒りだってある。せめて一発貰ってくれればと思う気持ちもある。

 でもそんな感情は“おでんになる”という目標の前では障害にもならない。

 お母さんが言っていた。「彼ならば避けるか防ぐかしていた」と。

 ならばそうしてみせよう。彼女の攻撃を避けて、防いで、反撃してやる。そしてお母さんにおでんと認めてもらい、強くなったねと褒めてもらうんだ。

 

 と、言いつつもそれが出来るかどうかの自信が持てない自分もいるのも確かだ。

 挑んだ時、あの一瞬の出来事で、僕はその壁の高さを知った。その壁の打開策がまるで浮かばないのだ。

 飛び越えても破壊してもいい。何か、この壁を突破する方法は無いものか…。

 

 

 「まだリンゴ食べます?」

 「え?」

 

 

 突然お母さんからそんな声がかかる。

 彼女の手には傷一つない綺麗なリンゴが添えられており、いつでも切れるよう準備されていた。

 僕は少し考えたあと、リンゴはもう食べたし良いかなと思い断った。

 

 「そうですか。では」

 

 そう言ってお母さんはさっきと同じようにリンゴを指で切った。それはさっきとは違い無駄に可愛いウサギの形はしていなかった。

 それを彼女はひょいと口に入れて、美味しそうに顔を緩める。

 

 そんな彼女を尻目に、僕は綺麗に分けられたリンゴを見ていた。

 何気なく見ていたが、よく考えれば恐ろしい技である。対象がリンゴだったからこそ平和に終わっているが、もしあれが人間だったらリンゴのように真っ赤に染まっていただろう。

 そこまで考えて、僕に電流が走った。

 そうだ、独学でおでんになれないのならば、教えてもらえばいいじゃないか。

 

 

 「ねぇ、お母さん」

 「? 何ですか?」

 「僕に技とか戦いとか……色々教えてくれる?」

 

 

 その言葉にお母さんは目を見開いたかと思えば、ふっと笑って

 

 「いいですよ」

 

 と快く頷いた。

 僕も快く頷いてくれた事につい嬉しくなって

 

 「ありがとう!」

 

 と言って笑った。

 

 

 

 




なんか普通に微笑ましい家族が出来てしまった。

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