カイドウ♀になった話 作:ぼほの
書いたけどコレジャナイ→書いたけどコレジャナイ→動画オモシロイ→書いたけどコレジャナイ
を繰り返していたら一週間以上経っていた。
彼女から修行のお願いが来て数日。
私達は現在、新世界の海に人知れず浮かんでいる自然豊かな無人島にいた。
この島は私が夜間散歩をしている時に偶然見つけたもので、他の勢力の領地では無かったので、ここを私達の修行場として選んだのである。
最初は鬼ヶ島やワノ国の何処か適当な場所でやろうかと考えたが、ヤマトの修行も私の修行もやりたかったので、手の内は出来る限り見せたくないし誰も居ないこの島のほうが遠慮無く出来て都合がいいと思ったのだ。
それにヤマトは外の世界に行ってみたいと漏らしていたのを耳にしていたのでそれも兼ねている。ただ、目的は冒険では無く修行のため、きっと彼女の思い描いた外の世界を体験させる事は出来ないだろう。
そのことについて予め謝っておいたが、上陸当初の目をキラキラ光らせて辺りを見渡す彼女の姿を見る限り、杞憂だったと思う。
「では、簡単な六式から覚えましょう」
私は胸元で手を合わせ、まるで幼児に指示を出す保育士のようなトーンで言う。
私の言葉にヤマトは気を引き締めた様子で頷き、拳を軽く握った。
何故六式を教えるのかいうと、お手軽で便利な上に一部の技は覇気習得にも繋がるため身体や技術を同時に鍛えるのにもってこいだからである。流石政府や海軍が使うだけあって、中々合理的な体術だ。
しかし、それは身体能力が極めて高い人のみの話であり、一般人は六式を覚えるどころか練習すら出来ないだろう。
だが問題無い。見たところ、ヤマトにその才能がある。きっと彼女なら数年もしないうちに習得するだろう。私だってそれくらいで習得したのだ。ならその娘が出来ない道理は無いはず。
「まずは『指銃』。対象を指で刺突する技です」
そう言って私は見本として近くにあった岩に指を刺突させて見せた。指を抜いてみるとヒビ一つ無い綺麗な穴が空いており、その貫通力を強く示していた。
それを見たヤマトは
「……………まず?」
と不思議な表情を見せていた。
私はそれを一旦無視し、次の技を教えるべく口を開く。
「2つ目は『嵐脚』。足を振り抜き斬撃を放つ技です」
私は足を振り抜いて斬撃を放つ。それは岩を真っ二つに斬り、その後も消えずに後ろの木々を斬り倒していった。
「えぇ……」
少し引いた様子のヤマトを置いて、次の技に進む。
「3つ目は『剃』。一瞬で地面を10回以上蹴って高速移動する技です」
言葉を終えると同時に剃を使って彼女の後ろに立ち、肩を叩いて驚かせる。つもりだったが、彼女は既に驚ききっていたようであまり良い反応を見せなかった。
それとも早く次の技を見せろと思っているのか。恐らく後者だろう。
「4つ目は『月歩』。思いっきり空気を蹴って宙に浮く技です」
何回か飛んで見せ着地し、少し崩れた着物を直す。
「………」
ヤマトはもう何も言わない。
「大体こんな感じですかね。あと『鉄塊』や『紙絵』といった技もありますが、これらは身体を硬くしたり攻撃を避けたりするだけなので一旦置いておきます」
「…………僕が出来るとは思えないのだけど」
「貴女なら絶対に出来ますよ。私が保証します」
「…分かった。頑張る」
あらやだ素直。
一度信じられないような表情をしていたというのに、私が君なら出来ると一押しするだけでやる気を出してくれるなんて。
チョロ………なんと愛らしい事か。
こっちもより一層やる気が出てきた。本気で鍛えるとしようか。
「では、試しに私に“指銃”してみてください」
「え」
そう言って差し出された手のひらを見ながら、一歩下がるヤマト。彼女の顔には何言ってんだコイツという文字が貼り付いていた。
私は彼女の素朴な疑問に真摯に答える。
「私の手に風穴が開く事を心配しているのなら、それは無用です。私の手のひらは非常に頑丈に出来ていて、巨岩が砕けるような衝撃にも耐えられるのですよ。子供が幾ら指を突き立てたところで傷一つ付きっこありません」
「それは分かってるけど…………まぁ、良いや」
彼女は諦めたような顔をして、指を立てて腕を引いた。
そして私の生命線目掛けて刺突し、ピチッと音を立てて静止した。
それにいまいちパッとしない表情を浮かべるヤマトを尻目に、私はその感覚を解析しその威力を導き出す。
「ふむ、スイカに穴を開けられるぐらいですね」
「それって凄いの?」
「十分凄いと思いますよ。突き指もしてないみたいですし優秀です」
始めは良好、将来性を感じる結果となった。きっとそう遠くない未来、彼女は岩を貫くなど朝飯前だと思うようになるだろう。
この流れのまま他の技も使わせようとしたが、それは叶わなかった。
というのも、『嵐脚』はただの回し蹴りになり、『剃』はその場で地団駄を踏み、『月歩』はただ空中でスタンプを繰り出しただけになったのだ。
まぁ、こうなってしまったのは仕方ない。ただ指を立てて突くだけの指銃はたとえ力が無くても“それっぽい事”が出来てしまうのに対して、嵐脚等の技は超人的身体能力が無ければ“それっぽい事”すら出来ない。
しかし、そんなものは鍛えて身につければ良い話なので深刻な問題では無い。
さっさと次の修行に移ろう。六式よりこっちが本命だ。
「それでは次に覇気を覚える修行をしましょう」
「………はき?」
そう言ってヤマトは首を傾げる。それを見た私はあっと声を上げた。
そういえば覇気についての説明をしてなかった。新世界では覇気を知ってるのは普通だから、ついヤマトも知っているものかと。
「…そうですね。覇気というのは簡単に言えば“意志の力”です。武装色、見聞色、覇王色の3種類が存在し、意思が強ければ強いほどそれらは強力なものになります。まぁ、詳しい事は追々説明しましょう」
「意志の…力?」
「ええ。ヤマトで言うなら“おでんになる”という意思ですかね」
覇気において、というより“力”において、強い意思ほど直結する物は無いと思っている。
ぶっちゃけ見聞色や武装色ならメンタルがクソ雑魚でも理論上高レベルまで鍛えることは出来る。しかし、それだといざその覇気が少しでも押し負けた時、敗れる事を恐れて「負けるかもしれない」という考えが過ぎってしまうのだ。
もしそうなれば一巻の終わり。次第に覇気は弱まっていき、
しかし強い意思さえ持っていればそれに抗う事が出来る。実際、私は人生の中で何度も敗北しているが、無駄に意思が強固なおかげで今日まで力を持ち続ける事が出来ている。
力の有無は勝利や敗北の数ではなく意思の強さであると、私はそこそこな長さの人生で学んだ。
「しかしこれら覇気は才能有っても十数年、無ければ一生かけても習得することが出来ません」
「え、そうなの?」
「大丈夫。ヤマトには才能がありますよ。それも天才と呼べるほどのものが。貴女ならきっと十年もかかりません」
そう言うと私は一泊置き、懐に手を入れて「あ、そうだ」と話を続ける。
「覇気を習得するためには修行が必要ですが、実は、もっと手っ取り早い方法があるんですよ」
そう言うと私は金棒を取り出し、ヤマトの方へ向ける。
傍から見ればホームラン宣言に見えなくもないだろう。しかし打つボールは人間である。
「それは命の危険に晒されること。生きたい、生きねばならないと思うこと」
「…………お母さん?」
金棒を強く握りしめ、嫌な予感への心配と恐怖が混じった声で私を呼ぶヤマトを断腸の思いで無視する。
許せヤマト。今まで覇気の修行なんて受けたことなかったからこれしか方法を知らないんだ。
「ヤマト。これから私は貴女をボコります。貴女はそれに全力で抵抗し、生き足掻いてください」
「……お、お母さん!?僕何か悪い事した!?」
「いいえ、何も。むしろ良い事をしていますよ。だからこそ、私は貴女の夢に協力したいのです」
慌てふためく彼女の姿を見据えて息を吐く。
彼女の反応を見るにあの時の雷鳴八卦がトラウマ化しているようだ。しかしトラウマに屈していては強くなれないのだ。
彼女は本当に嫌そうな顔をするが、私だってやりたくない。望んでDVするほど私はゲスでは無い。しかし、彼女の夢を叶えるためには仕方ないことなのだ。
……何だか弁明すればするほどあれこれ理由を付けて娘を虐げようとする母親になってしまう。手遅れにならないためにも、これ以上は止めておこう。
「では、10秒後に始めます。その間に逃げ隠れしても良いですよ。その危機感と焦燥感が覇気を開花させますので。ではどうぞ。10……9……」
「っ!!」
その言葉に、私が本気である事を察知したヤマトはすぐさま後ろ向きBダッシュをして、あっという間に後方の叢に消えた。
判断が速い!
それにしてもあの動き……海賊見習い時代に白ひげを怒らせた時の私に似ている。まぁその後普通に追いつかれて頭を思いっきり叩かれたが。
「8……7……6……5……」
今思い返すと見習い時代は酷かった。
味方に斬られたり撃たれたりビッグマムに威国を当てられたりシキに岩石ぶつけられたり白ひげの衝撃波を喰らったりして、その度に傷を負って死にかけたものだ。
あれ、何で私はこんなにも味方の攻撃を喰らってるんだろう?
「4……3……2……1……」
ああ、思い出した。
あの時の私は戦闘狂で、敵を見つける度に誰よりも早く突撃していたんだった。そのせいで味方の流れ弾に被弾しまくってたし、大幹部の彼らが攻撃しようとする敵にも突っ込んでいって巻き添えを何時も喰らってた。
人生に於いて何度も敗北しているが、その原因の殆どがこれな気がする。まぁ、そのおかげで身体は頑丈になり、覇気も覚醒出来たのだが。
だからこそ私はヤマトを鍛えるために彼女をボコす。
「……0。さて、右斜め方向にいますね」
私は見聞色で彼女の居場所を突き止め、そこ目掛けて疾走する。
叢を抜け、木を掻い潜り、彼女と目が合う。その目は驚愕に満ちており、同時に恐怖が映っていた。
私は金棒を握り直し、代名詞とも言える技の名を叫ぶ。
「え、ちょ、ま―――
―――知ってる天井だ」
医療室で目を覚ましたヤマトがそう呟く。またか、とでも言いたいような顔だ。
私はそんな彼女の頭部に巻かれた包帯を取り替えて
「この傷が治ったら言ってください。またやるので」
と伝えた。
それを聞いたヤマトは一瞬嫌そうな顔をしたかと思えば悩むような顔を見せた。しかしそれは長く続かず、数秒後には意を決したような面立ちをして
「分かった」
と言い放った。
やべぇよやべぇよ………もうネタがねぇよ…。
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