終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
& END ROLL……
「ね、フリス」
告げる。
幾度とない呼びかけ。告げられる。
「好きだよ」
「そっか」
だから、返す言葉もいつも通り。
「……ね、チャル」
「ならないよ」
でも、今日は違った。
僕から、問い返して。即座に否定を貰う。
「そっか」
この返事が先ほど天と地ほどに違う意味を持つと、だれがわかるだろうか。
「あはは……うん。そう言うと思ってた」
知っていた。
だから驚きはない。
「……楽しかった」
「うん、僕もだよ」
退屈な日々だった。凡庸すぎて語るべきところが何もない。目新しいことのない、あまりにも平凡な
あの日から時が飛んだのではないかと錯覚するほど、毎日毎日似たような日々。
でも、一度たりとも、僕が経験してこなかった日々。
「……なんで人間って、こんなに短いのかな」
「特別だからだよ」
「特別?」
こんな話を今更するなんて、僕もどうかしているとしか思えない。
「人間は魂を保有して生まれる唯一の存在だ。それは影響力……魂を持たない他者に強い強い"入力"を刻み込む」
たとえば、機奇械怪を方舟から知恵の実に変えたり、とかね。
なんて。苦くでも、笑えればよかったんだけど。
「だからこそ、同じ魂を保有する人間はそう長く在ってはならない。……少なくともメガリアはそう考えている」
強い影響力を持つ存在であればあるほど、長く居てほしくないのだ。
星がその色に染まってしまうから。
「……あはは、よくわかんないや」
「うん、いいんだよ、裏事情なんて知らなくて」
それを担うのは次代の人間だ。
君はもう、良い。
「特別じゃなくても、特別じゃなくなっているとしても、君は君だ。……僕が興味を持つのは確かに特別……"英雄価値"だけどね」
もう学生の頃の面影なんてほとんどない彼女を見て。
「僕が好きになったのは、そんなどうでもいいところじゃないんだよ」
ちゃんと、告げる。
「……具体的に、ドコ?」
「あはは、強欲だね」
その手を握って。
「じゃ、そこに触れてあげるから……目を瞑って欲しいかな、チャル」
「えっ、それって──、ぁ──」
空歴2600年8月31日。
この日、ようやくホワイトダナップから、人間がいなくなった。
上位者及び機奇械怪ら関係者はこの巨大な浮遊島を『墓標』にする決定を下し、皇都フレメア跡地に墜落させた。
天候は最悪。未だ塵芥の吹き荒れる地表に
ホワイトダナップ、ここに沈む。
あの島が空を飛んでいたことを記憶しているのは、上位者ら機奇械怪、そして辛くも生き残り続けたエルメシアの人々だけ──。
テレビは毎日のように
「今回はどこも頑張ってるねぇ」
「ですねぇ。まぁどっかの誰かさんがあんまり積極的に動いていない、というのもありそうですけど」
「いやぁ、やっぱり指導者がいないのが問題だよ。折角指摘してもらったのに、結局実践できてないからね」
「あれ、ミケルさんがつくってたんじゃなかったんですかぁ?」
「制作過程は全部虚偽のレポート、最終レポートの指導者の個体名のとこにはチャルの名前があったよ」
「うわぁ、フリスを騙すなんて怖ろしい恐ろしい」
昨日のことのような懐かしい話。
昨日のことのように懐かしい家で、カウンターにいるフレシシと話す。あはは、両親はいないけどね。
「そういえばフリス、今日の予定なんですけど」
「ああ、会いに行くんだろう? そうだ、ついでにコレ持って行ってくれないかな」
「……なんですかコレ」
「液体版オールドフェイス。アスカルティンがやってたのから着想を得てね。完成までに300年もかかっちゃったのは想定外……というか半ば放置してたからなんだけど、結構味もちゃんとおいしいものにできた自信があるよ」
「ちなみにコレ誰なんですか」
「誰だと思う?」
「……聞かないでおきますよぅ」
それは賢明だね。
「フリスの今日の予定は」
「午後から部活だよ。まったく、夏休み中だっていうのに人使いが荒いよね」
「それにしては楽しそうですけど、"英雄価値"でも見つけたんですか?」
「ちょっと違うけど、似た感じかな」
さぁ、時間だ。
パチッと走るは、薄い薄い赤色。赤い雷。
それが一瞬フレシシを包んで、彼女はその場から消える。
……もうちょっとだねぇ。
「アスカルティンとモモは、ちょっと手加減しすぎかなぁ。もう少し激しくしてくれてもいいんだけど……」
テレビを消して。
さて。
「──む? おや、フリス殿。どうかなさいましたか──用向きあらば、ンンッ、このスカーニアス・エルグ=アントニオめにお申し付け下されば!」
「ああうん、自分で行くからいいよ」
「承知」
アントニオも古株になったものだ。いやぁ、溶岩流片づけてたらボコッと出てきたんだよね。思わず宇宙に捨てかけたけど、マグヌノプスのとこまで自力で行っちゃいかねないな、とか思ってスルーすることにした決定は間違ってなかった。
なんと今代の人間、一時は宇宙開発事業まで行ってたので、何らかの間違いでアントニオが発見されてた可能性がある。
「あ!!」
「ん?」
「この、妖怪!! 何しに来た!! 帰れ!!」
アントニオの横を通って侵入した学園。学校ごとに休みの期間というのは違うので、僕の学校が夏休みだったとしても、こっちの学園はこうやって普通に授業がある、なんて形になっている。
入ってすぐに、甲高い声の少女が爆速でこっちに走ってきた。
「やぁ、イスカ。また足が速くなったみたいだね」
「うるさい! 帰れ!!」
せっかく褒めてあげたのに、取り付く島もない。
そのまま少女──イスカは、手に持った木刀を僕めがけて振り下ろしてくる。
当たってもどうにもならないし、なんなら避けることだってできるそれ。あるいは抓んではじき返す、なんて芸当も今の僕には可能だ。
が、そんなことをするまでもなく、彼女を窘める存在があった。
「こら、イスカ。ダメでしょう、無手の相手に刀を振り下ろすなんて」
「げっ、山姥!?」
「ふふ──いい度胸です。ではお仕置きと参りましょう」
木刀を手でいなし、文字通り目にも止まらぬ速さでイスカを抱き上げ、どこぞへ連れていく老婆。
彼女はこちらをチラっと見ると。
「わかっているとは思いますが、あの子は彼女じゃありませんよ」
「あはは、わかってるよ。そこまで狂ってないよ、僕」
「それならいいのですが。──さて、イスカ・リチュオリア。どんなお仕置きがいいですか?」
「助けて、助けて~~!! アルベーヌ婆さんに食べられる~~!」
「学園長と呼びなさい」
余計な釘を刺してきた妖怪を見送る。
いやね、イスカの感覚は正しいんだよ。「予定のない日を飛ばすことで延命を図る」なんていう悪あがきでここまで生きてきた彼女だけど、どう頑張ったってもう老婆だ。だっていうのにまだアレだけ動けるんだもんなぁ。
名前を女性らしいソレに変えて、子供を育成する場の長になんてなって。
君、最初の頃の影の薄さはどこへ行ったんだい?
とまぁそんなひと悶着を経た後で、校舎に入って、勝手知ったる顔で目的の場所まで歩いていく。
時折すれ違う生徒の中にはさっきのイスカのように帯刀していたり、銃をホルスターにいれていたりと、幼ささえ見えるこの年頃かられっきとした戦闘者であることを伺わせる。
それもそのはず、この学園は精鋭ばかりが集った超エリート校。
教員を除く在園生全員でなら、被害は出るにしてもアーチェルウィリーナ程度を殺し得るくらいの強さを持っている。
それほど
「よかった、無駄足にはなってないみたいだ」
辿り着いたのは図書室。
引き戸を引いて、その独特な香りの充満する部屋に入る。
こちらを一瞬見た司書の男性は、けれど僕であると気付くや否や、心の底から嫌だ、という顔をした。無視無視。
図書室の構造はシンプル。入り口側と奥側にテーブルが四つずつ。その間に八列の本棚。窓を除く壁一面に本棚。それだけ。
その、一番奥の、一番隅っこ。
最も風の入ってこない場所に、少女がいる。
「やぁ」
「あの読書中に話しかけないでくださ……あ、神様」
「だから違うって」
栗色の髪。茶色の目。さらにメガネ。
高いとも低いとも言えない身長と、まだ性別の定まっていないような中性的な声。
「カリナ・メルティーアート」
「……なんですかフルネームで。もしかして何かくれるんですか」
「あはは、僕が君に何かを上げるとしたら、試練とかじゃないかな」
「やっぱり神様だ……でも邪神タイプ……」
彼女とは似ても似つかない少女。
僕を神様と呼び、慕っているわけでも敵視しているわけでもなく、ただただリアクションを返すだけの子。
実技の成績は悪くない。ただ読書が好きで、日がな図書室に籠っている。そんな子だ。
「それで、今日も来たってことは」
「うん。歴史を教えてあげるよ、今日もね」
「いいですか、あくまで史実に起こったことを、ですからね? あなたの主観視点、その時何を思ったか、とかいらないです。神様目線ならなんだって些事に決まってますから」
「だから僕は神様じゃないんだって。神様はもういないよ、倒されちゃったからね」
「──また先走って気になることを!!」
「あはは、図書室では静かに、ね?」
僕と彼女は、そういう関係だった。
前にぽろっと僕が語られていない歴史について零しちゃったら、それはもうすごい食いつきでね。
いつもの僕なら笑って流すんだけど──何か、響くものがあって。
それからこうして、開いている時間に歴史の先生をやっている。
「どこまで話したっけ?」
「記憶力しか取り柄のない神様のくせに何言ってるんですか」
「ひどいなぁ。神様じゃないけど、世界を滅ぼすくらいのことはできるんだよ僕」
「それは短所であって取り柄じゃないのでカウントしません」
「昔は無計画にいくつもの国を滅ぼしていたんだ」
「やっぱり邪神!」
語り口調は変わらない。
だけど、ほんのり、ちょっぴり、脚色を混ぜる。
それは──僕の行動全部に、意味があった、みたいな嘘を一つまみ。
「
「そうか。そうだったね。じゃあ、そこから──そこから」
そこから始まった、ある、一人の男の子のお話。
人間風情に恋をして、それに気付かず英雄を求め続けた──仲間を欲した寄生生物のお話だ。
少女は興味津々に聞く。手元のノートに書き連ねる。
僕の語る真実を、一片たりとも逃さぬように。
それはむかーし、むかーし。もっと昔の昔のお話。
人間ではない少年と、人間でしかない少女が幸せを遂げた──陳腐で凡庸な、とりとめのない物語。
「IT'S TIME TO……GET IT OUT……」
TIPS
ヒトガタの機械。
名前はCradoleom。揺り籠(Cradle)と終末(Doom)を合わせた造語。誰が名付けたのかは不明。
とある目的のために、純白の墓標から日々溢れてきている。
登場人物紹介
アルベーヌ婆さん
御年71の老婆でありながら、未だ学園最強として君臨し続ける女性。通称山姥。
特に衰えていない時止めのサイキックと未来へ行くサイキックを駆使し、とても長い時間を生きている。
イスカ・リチュオリア
今はまだ足が速いだけの少女。
少なくともアレキは誰とも子を成さずに死んだため、誰の子孫かは不明。ケルビマとモモは結婚したが果たして……。
直感でフリスを化け物と見抜き、不意打ちで人が死ぬレベルの打撃を与え、しかし木刀の方が折れたことをきっかけに彼を妖怪呼ばわりするようになる。もっとも、彼女にとって自分より強い相手は全員妖怪なので、この学園は妖怪で溢れている。割合頭が悪い。
カリナ・メルティーアート
読書と勉強が好きな少女。
体を動かすことは得意だが、好きなのは引きこもって読書をすること。知識をため込むのが気持ちいいらしい。
何の因果かフリスに目を付けられ、どこの大賢者でも知らないような丸秘知識を植え付けられ続ける思春期少女。
特にランパーロという名は聞いたことがない。
フレシシ
アルベーヌ婆さんと一緒に300年後に跳んだ直後、目の前にフリスがいて絶望したりはしたけれど、また気丈にもいろいろ画策している系メイド。
目下の悩みは
アスカルティンとモモ
純白の墓標で日夜いろいろ試してみてる系機奇械怪。
友達との大切な居場所を守らんとするがために段々過剰戦力を作りつつある気がするけれどオーダー通りのような気もする。"
ケルビマとエクセンクリン
モモが純白の墓標にいるということで、夫として父として居座ることを決心した二人。過剰戦力オブ過剰戦力。
スファニア・ドルミル
ぶらり一人旅。ヘイズにもついてきてほしかったけど、ヘイズはまたどっかで居酒屋やるらしい。従業員にリンゴバーユがいるらしい。スファニアは文句たらたらのまま旅に出た。
旅の途中でフェイメイの墓守をするロンラウに出会ったり、なんでもなくフツーに生きてる古井戸とピオに出会ったり、ブルーメタリックな球体を見つけたり。それなりに驚きのある楽しい旅らしい。
フリス
引きずったりはしないけど、ちゃんと覚えてる。
でも"入力"は続けていくから、変わらずこの星の人間は終末の危機に晒され続けることになるだろう。
ガチ上位者だけど、やっぱり一般人に紛れて。
あはは、なんて笑って。
モルガヌス
まだ出られない。