「見つけた」
後ろからそう声をかけられたときは、なんのことだか全く見当がつかなかった。
だが、細い指が肩に控えめに乗せられて、子供の頃の思い出が電光のように、瞬く間に蘇った。
私は小学校の校内で、よく彼女とかくれんぼをしていた。体育館の階段下に身を潜めて、日が傾くまで隠れて遊んだことをよく覚えている。
階段下にはあまり日が差し込まなかったため、時間がたつとあたりは暗闇に包まれた。
階段の下に子供が隠れられるほどの空間があることを知ったのは、ほとんど僥倖だった。かくれんぼで遊んでいたほかの子供たちはまだ知らない、私だけが知る事実だった。
私は、ここならば決して見つからないと思った。ここに隠れると決めた。
そうしてしばらく時間がたった。
もう絶対に見つからないと思っていた。かくれんぼの終了を知らせる五時の鐘が、階段下にも響いていたから。
彼女は時間ぎりぎりまで、一生懸命に私を探していた。
その顔を階段下の隙間から覗き見たとき、妙に真剣な顔をしているなと思った。だからもう少しだけ隠れよう。そうしてしばらくしたら出よう。どうせ見つかるまい。
私の予想に反して、彼女は私を見つけ出した。もう時間を超過していたのにも関わらず、彼女は私の勝利を認めなかった。
やはりその時も、妙に真剣な顔をしていた。
その顔はかなり長い間、私の心に残っていた。が、月日の流れるのにつれ、いつかすっかり消えてしまった。
それからもう何年もたっていた。私は帰宅途中の電車で再び偶然、こうして彼女に巡り合った。湿った靴がじわじわと身に染みる時分だった。
「ひさしぶりだね」
彼女はあの頃とはずいぶん容姿が変わっているように見えた。私も、すっかり変わり果てたはずだった。
私はあまり彼女と話したがらなかったが、逆に彼女は私と話したがった。
私はそれに、違和感を覚える押しの強さを感じた。
私は、ポケットから携帯電話をとりだして、まるで話に興味がないといった風に、それを眺め回した。
彼女は私の冷めた態度に気が付いていない様子だった。
私は携帯電話を片手に、ふと彼女の顔に視線を注いだ。
近頃このあたりに越してきたこと、それから彼女の親や兄弟のことを目ぶり手ぶりを交えて話していた。
私は、妙に真剣な顔をしているなと思った。
いつの間にか、あの日の、十歳の子供の頃の心になっていた。
それから彼女とはもうかなり長く深い付き合いになるわけだった。
が、私はその時以来、妙に真剣な彼女の顔を一度も目の当たりにしたことはことはなかった。