ユーリア・ワイルドスミスの開発日誌 作:かませ犬
ユーリアが入学してすぐ直面したのは、ホグワーツの移動手段が徒歩か箒しかないという問題だった。
広大な敷地と複雑怪奇な構造を有しているにもかかわらず、城内の暖炉は封鎖され、生徒は煙突飛行を使って移動することすらかなわない。
おまけにユーリアの暮らすレイブンクロー寮は、ホグワーツの一番高い塔のてっぺんにある。
寮を出入りするだけで、何百という階段の
階段下で忘れ物に気づいたときの絶望感といったら!
そこでユーリアは、寮の入り口とレイブンクロー塔の階段下を、
「このあたりで良いかな」
塔の最上階ホールには、レイブンクロー寮につながる扉以外なにもない。
ユーリアは端に膝をつき、準備を始めた。
寮から出てきた年上の女の子たちが、ユーリアを見てくすくす笑った。
ユーリアはチョークを取り出し、床に直径六〇センチほどの円を描いた。
これは飛行の座標を固定するために開発した道具である。
ホグワーツ城の各所で実験を重ねた結果、城にかけられた移動阻害の魔法をうまくかいくぐる
円の内側には古代ルーン文字を書いた。
魔法使いの建築業者が、暖炉を作るときに火室に彫りこむものを改良した文字である。ほとんどの魔法使いは気づきもしないが、このルーンは煙突飛行を円滑にする効果がある。
ユーリアがチョークを滑らせると、白い線は床に染みこみ、元からあった模様であるかのように馴染んだ。
それから
ユーリアはこれを
完成した座標を見て、ユーリアは満足げに頷く。
「よし。やってみよう!」
杖先で円をなぞるようにして呪文を唱える。
「『
一瞬、炎が立ちのぼったように見えた。呪文が成功した合図である。
ユーリアは円の中心に立ち、小さく深呼吸をした。
階段下の座標も準備万端だ。
後は成功を祈るだけ。
靴で地面をがっと噛み、
白い炎が立った。今だ。
「階段下!」
体が渦の内側に引っ張られた。
一回、二回、三回とまわる。煙突飛行の感覚に似ていた。ぼやけた螺旋階段が何重にもなって見える。
四回転目──急に回転が止まり、ユーリアはバランスを崩しながらもなんとか倒れず持ちこたえた。
景色が変わった。
レイブンクロー寮の扉は消え、階段の終わりと廊下が見える。
ユーリアは階段下に飛行したのだ。
成功だ。
「やったーーーー!!!!!」
ユーリアが拳を振りあげて喜んでいるところに、さっき寮から出てきた女の子たちが階段を降りてきた。
彼女らはユーリアを見てぎょっとした。
「あんた、さっき上にいなかったっけ?」
◇◇◇◇◇◇
ユーリアの次に飛行を試みたのは、オルターという四年生の男子だった。
ユーリアが寮で実験参加者を募ると、オルターが真っ先に手を挙げたのである。
飛行実験は土曜の昼に行われ、多くの寮生が見学に訪れた。その大半が、ユーリアを小馬鹿にし、今日の夕飯の話のタネにするために集まっていた。
オルターが
白い炎に包まれて姿が消えた直後、上階で見学していたレイブンクロー生たちは、階段下から歓声が上がったのをはっきり耳にした。
それから何人もの寮生が試し、安全性はさておいて、ユーリアの移動手段が便利で画期的だということを全員が悟った。
そうなると、レイブンクローの若き鷲たちの好奇心は抑えられない。
彼らは列をなして座標に並び、順ぐり順ぐりに飛行を試した。
特に煙突飛行の経験のないマグル生まれの生徒は、「まるでテレポーテーションみたいだ!」と何度も楽しんだ。
「ワイルドスミス、案外やるじゃないか!」
「これ、図書館にもつなげられない?」
「すごいじゃん、超便利!」
皆が口々に言う。
昨日まで自分を馬鹿にしていた人たちに褒められても、ユーリアは大して嬉しくなかった。
だが、自分の作った魔法で人が移動しているのを見ていると、これまでの人生で味わったことのないような高揚を感じるのだった。