ユーリア・ワイルドスミスの開発日誌   作:かませ犬

5 / 5
4 レイブンクロー寮とパウダー

 

ユーリアが入学してすぐ直面したのは、ホグワーツの移動手段が徒歩か箒しかないという問題だった。

広大な敷地と複雑怪奇な構造を有しているにもかかわらず、城内の暖炉は封鎖され、生徒は煙突飛行を使って移動することすらかなわない。

 

おまけにユーリアの暮らすレイブンクロー寮は、ホグワーツの一番高い塔のてっぺんにある。

寮を出入りするだけで、何百という階段の()()()()()を強いられる苦痛は、きっと他の寮生には分かるまい。

階段下で忘れ物に気づいたときの絶望感といったら!

 

そこでユーリアは、寮の入り口とレイブンクロー塔の階段下を、(パウダー)でつなぐことにした。

 

 

「このあたりで良いかな」

 

塔の最上階ホールには、レイブンクロー寮につながる扉以外なにもない。

ユーリアは端に膝をつき、準備を始めた。

寮から出てきた年上の女の子たちが、ユーリアを見てくすくす笑った。

 

ユーリアはチョークを取り出し、床に直径六〇センチほどの円を描いた。

これは飛行の座標を固定するために開発した道具である。

ホグワーツ城の各所で実験を重ねた結果、城にかけられた移動阻害の魔法をうまくかいくぐる(パウダー)の作成に成功した。チョークはそれを棒状に固め、二重三重に魔法をかけたものである。

 

円の内側には古代ルーン文字を書いた。

魔法使いの建築業者が、暖炉を作るときに火室に彫りこむものを改良した文字である。ほとんどの魔法使いは気づきもしないが、このルーンは煙突飛行を円滑にする効果がある。

 

ユーリアがチョークを滑らせると、白い線は床に染みこみ、元からあった模様であるかのように馴染んだ。

それから(パウダー)のたっぷり入った袋を取り出すと、手でなだらかになるようにしながら円の中に入れていった。ルーンが隠れるほど真っ白にするためには、ゆうに四袋は必要だった。

 

ユーリアはこれを座標(port)と呼ぶことにした。

 

完成した座標を見て、ユーリアは満足げに頷く。

 

「よし。やってみよう!」

 

杖先で円をなぞるようにして呪文を唱える。

 

「『登録せよ(フィゲスターレ) レイブンクロー寮』……『登録せよ(フィゲスターレ) レイブンクロー寮』……」

 

一瞬、炎が立ちのぼったように見えた。呪文が成功した合図である。

 

ユーリアは円の中心に立ち、小さく深呼吸をした。

階段下の座標も準備万端だ。

後は成功を祈るだけ。

 

靴で地面をがっと噛み、(パウダー)に刺激を加える。

白い炎が立った。今だ。

 

「階段下!」

 

体が渦の内側に引っ張られた。

一回、二回、三回とまわる。煙突飛行の感覚に似ていた。ぼやけた螺旋階段が何重にもなって見える。

四回転目──急に回転が止まり、ユーリアはバランスを崩しながらもなんとか倒れず持ちこたえた。

 

景色が変わった。

レイブンクロー寮の扉は消え、階段の終わりと廊下が見える。

 

ユーリアは階段下に飛行したのだ。

成功だ。

 

「やったーーーー!!!!!」

 

ユーリアが拳を振りあげて喜んでいるところに、さっき寮から出てきた女の子たちが階段を降りてきた。

彼女らはユーリアを見てぎょっとした。

 

「あんた、さっき上にいなかったっけ?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

ユーリアの次に飛行を試みたのは、オルターという四年生の男子だった。

ユーリアが寮で実験参加者を募ると、オルターが真っ先に手を挙げたのである。

 

飛行実験は土曜の昼に行われ、多くの寮生が見学に訪れた。その大半が、ユーリアを小馬鹿にし、今日の夕飯の話のタネにするために集まっていた。

 

オルターが(パウダー)を円の中にまき、「階段下!」と叫ぶ。

白い炎に包まれて姿が消えた直後、上階で見学していたレイブンクロー生たちは、階段下から歓声が上がったのをはっきり耳にした。

それから何人もの寮生が試し、安全性はさておいて、ユーリアの移動手段が便利で画期的だということを全員が悟った。

 

そうなると、レイブンクローの若き鷲たちの好奇心は抑えられない。

 

彼らは列をなして座標に並び、順ぐり順ぐりに飛行を試した。

特に煙突飛行の経験のないマグル生まれの生徒は、「まるでテレポーテーションみたいだ!」と何度も楽しんだ。

 

「ワイルドスミス、案外やるじゃないか!」

「これ、図書館にもつなげられない?」

「すごいじゃん、超便利!」

 

皆が口々に言う。

昨日まで自分を馬鹿にしていた人たちに褒められても、ユーリアは大して嬉しくなかった。

 

だが、自分の作った魔法で人が移動しているのを見ていると、これまでの人生で味わったことのないような高揚を感じるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。