──山の上には大抵だれかの墓がある。それは自分が知っている、一つの事実だ。

第三回ヒヨリミコロシアム参加作品です。テーマは『こころ』……こころ?

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"今"を生き続けた者達の終着点で

 ()()()()()()()()()()()()()()。そんなことを思いながら、雨に濡れて滑りやすくなっている落ち葉のカーペットの上を一歩一歩踏みしめて、前に進んでいく。

 コンクリートの地面なんてない。石の階段なんてあれば良い方で、大抵は何も整備されていない獣道とも思えるような道だ。クモの巣を潜り抜け、木が横に生えて来て邪魔をしている所は更に横を通って回り道をする。

 夏が近づいている季節だからなのか、長袖長ズボンだからなのかやけに蒸し暑い。扇風機もエアコンもない外だからそれを解決する術もなく、我慢してそのまま歩き続ける。そうすること数十分、ようやく自分は開けた場所へとたどり着いた。

 

「あるとは言ったけど、こんな所にもあるのか」

 

 目の前に広がっているのはいくつかの墓。土地の買い手が居なかったのか、それとも墓を建てる必要がある人が居なかったのか所々空いている。だが、それも見慣れた光景だった。

 適当に辺りを歩きながらそれぞれの墓を観察する。今のこの墓地に人は自分以外誰もいない。墓にお供えされている花はなくて、枯れ木がある所はまだましだ。大抵の墓は何もない。だけど、空き缶や包装紙のゴミはある程度ある。そんなゴミを持ってきた袋に適当に入れていった。

 

「はぁ、なんだかなぁ……」

 

 ハッキリ言ってしまえば見慣れた光景だ。山の上には大抵誰かの墓がある。それにはこういう誰も来ていないような暮地も当然含まれていて、自分としてはそちらの方が多いんじゃないかとすら思っている。

 アクセスは悪くないとはとは思う。ただ、整備されていない道を歩くというのは面倒だし、今日だって何度か滑りかけた。自分のような若い連中ならともかく、爺さん婆さんには堪えるだろう。

 だが、だがそれでも誰も来ていないような暮地を見つけるのは何か心にくるようなものがある。自分がこの暮地の管理人でなくとも、この墓地に親族の墓がなくともだ。

 

「……あんたらにも人生があったんだよな」

 

 自分以外の人も当然今を生きているし、自分が産まれていなかった過去でも人はその時の"今"を生きていた。そういうのは感覚じゃなくて、知識として理解している。

 そんな"今"を生きてきた人たちの終着点がここだ。正確には死んだ時点で終わりなのかも知れないが、今を生きている自分から見れば、ここが彼らの終着点なのだ。

 忘れ去られたのか、それとも放置されているのか。それは分からない。ただ、死を哀しまれて墓まで建てられた彼らの終着点は誰にも全てに忘れ去られて、たまに自分のような人しか来ないこの墓地なのだ。

 もしかしたら、この墓地の人達も実家の仏壇ではお参りされているのかもしれない。もしかすれば、この人達のことを懐かしむように語っている人がいるのかもしれない。けれど、それを確認する術はなくて、自分が分かることはこの墓の現状から推測できることのみ。そうなれば、思いつくのは一つだけだ。

 

「最悪、自分もこうなるのかもな」

 

 それは認めたくない考えだ。だが、否定もできない。現に目の前にそういう墓がある以上、自分も墓を建てられて終わりなんてことがあり得るかもしれない。

 結局の所、自分が忘れ去られた墓を見て哀しい気持ちになるのはそれだ。自分の死後、自分の知らない未来の"今"を生きている人全員に忘れ去られてしまうんじゃないかという想像が異様に怖いのだ。

 こんなことを誰かに話せば、死んだ後の話なんてどうでも良いだろと言われて終わりだ。だけど、怖いものは怖いのだからどうしようもない。

 死ぬのは怖い。全員に忘れ去られるのも怖い。その二つが合わさっているのだからスーパーハイパーウルトラアルティメットプラスに怖いのは確かな筈だ。そんな恐怖の感情を常に抱えてしまうのはおかしくないことなのだ。

 

「そろそろ、帰るか」

 

 だから自分はこうやって知らない山を登っては知らない墓地にくる。ついでにゴミを拾って、誰からも忘れ去られてしまったような知らない墓地を綺麗に保とうとする。

 なんてことはない、認めたくないだけなのだ。誰からも忘れ去られた墓地があるのを認めたくない。自分という部外者であれどその墓地があることを知っている、顔や声を知らなくともその墓地に人が眠っていることを知っている人がいると証明したいだけなのだ。

 そうすれば、そうすればきっと──いつか自分が死んでも忘れ去られないと納得できる筈だから。

 

 だから今日も自分は知らない山を登る。それは趣味であり、使命であり、そして自分のためでもあるのだ。


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