頭文字Dー歌姫の最速録ー   作:三坂

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第五十四話 誤算

 

 

 

 ドギャァァァ

「ここで仕掛けた!?うわ一歩も譲らないブレーキング勝負!!」

「やべぇどっちも譲らねぇ…!!マジなドリフト勝負だ!!」

 

 

 まさかこのタイミングで来るとは思っても見なかったギャラリー達はいきなり仕掛けやがった…!?と驚きの声を次々と上げていく。

 当然友奈もそれは分かっており、前にここで明日香に仕掛けられた二の舞になってたまるか…と言わんばかりに負けじとブレーキングを奥目に調整、ブレーキング勝負に挑む。

 

 

「…!?」

ーここで来るなんて…!でも譲らないからね…!!何度もやられるほど馬鹿馬ないから!ー

ウォンウォン!!

 

 

 しかしラインの制約がある友奈に対してさらに踏み込んでいける涼介のほうがより攻め込めるというもの、それにドッグファイトも1枚上手となればより主導権は掴みやすい。

 ほぼ並んだように見えたブレーキング勝負もドリフトでコーナーを流して出口に向かえば向かうほど、FCがジリジリと前へと躍り出る。

 

 

ギャァァ

ー流石のブレーキングだ…だが君はラインの制約があるだろう?それ以上踏み込めるかな?ー

「ちっ……!」

ーくそっ…これ以上は流石に……それに、ドッグファイトはあっちのほうが強い…!ー

 

 

 もちろんその光景はギャラリーたちも目撃しており、あの歌姫がこんなにも呆気なく…と驚きを露にしていた。

 しかし宗一は冷静に分析しており、このコーナリング勝負で歌姫が弱点を露見することを知っていて仕掛けたな…と目の前を通過していく2台を横目にそんなことを呟く。

 

 

「高橋涼介がジリジリ前に出てる…!こりゃ一本取られたか!?」

「マジかよ…あの歌姫がこんなにも呆気なく……、しかも同じ場所で……」

ーあの歌姫の走りは金縛りみたいなもんや、恐らくそこを知っていてついたな…ー

ドギャァァァ

 

 

 またしても完全にやられた…内心思いながら前へ躍り出たFCのテールランプを見つめてきた友奈だったが、ふと脳裏に春香から告げられた終盤まではいつも通りの自分でいけというアドバイスか脳裏を過る。

 

ゴアアアアア

ーあーもう!またやられた…!明日香ちゃんと同じ手は喰らわないって思ってたのに…!こうなったら再度アタックして…ー

『いい?終盤までは普段通りの貴方を演じなさい?絶対、相手が油断するまで』

「っ…!」

 

 

 それを思い出すとさらにアクセルを踏み込みかけていた右足を戻すと、落ち着け…と心の中で深呼吸をしながら自分を落ち着かせていく。

 こうなるのだって普段通りの自分を演じる以上分かりきっていた展開、なのに感情的になってしまってはそれこそ相手の思う壺だ。

 

 

ー危な…感情的になりかけてた…落ち着け自分……こんなところでムキになったらそれこそ相手の思う壺……深呼吸…深呼吸…ーふぅ

 

 

 深呼吸をしつつ落ち着きを取り戻した友奈は、真っ直ぐ涼介のFCのテールランプを見つめると、勝負は終盤…そこまでは何が何でもついていくと覚悟を決めながらハチロクを走らせる。

 

 

ー…よしっ…!勝負は終盤の最終セクション…!そこまでは…何が何でもついていく…!!ー

ゴクッ

ゴアアアアア

 

 

 そんな一部始終を目撃していた真子と沙雪は流石高橋涼介だと褒めるような口調で話しながら、走り去る2台の後ろ姿を見つめていた。

 とはいえこれで勝負があったとは思っていないらしく、相変わらず鋭い走りをする歌姫を観ながら沙雪は本当の勝負はこれからだと口にしていく。

 

 

「流石高橋涼介、呆気なく行ったわね。流石ってところかしら」

「ええっ、でもあのハチロクもあきらめてなさそうよ?走りの鋭さは衰えていない。…むしろ本当の勝負はこれからってところかしら」

 

 

 もちろんそれは宗一もわかっていることであり、抜かれたここからが本当の勝負になるやろうな…そんなことを呟きながら、同時に歌姫が隠し玉を持っていることをなんとなく察していくのであった。

 

 

ーけどあの歌姫も諦めちゃおらんな、まだ走りの鋭さは健在や…それに…まだ隠し玉を持ってはるな…ー

「こっからがこのバトルの本番…ってことか…」

ギャァァ

 

 

 

 

 

「何!?本当か、(ピッ)43コーナーから連絡だ。涼介が歌姫を抜いたそうだ」

「よっしゃ!流石涼介さん…!歌姫なんて大したことないぜ!!」ガッツポーズ

 

 

 涼介が歌姫を抜いたのと同時刻、スタート地点では報告を受けた史浩がレッドサンズメンバーに報告しており、それを聞いた賢太は嬉しそうな表情を浮かべながらガッツポーズを浮かべていた。

 もちろんそれは他のレッドサンズメンバーも同様であったが、そのなかで一人…啓介だけは何とも言えないような表情を浮かべていく。

 

 

「ここまま千切ってくれたら涼介さんの勝ちは確実だ…!!」

「啓介さんや賢太の敵を討ってくださいよ涼介さん!!」

「………」

 

 

 当然史浩もそれには気づいておりどうしたのかと騒いでいるレッドサンズメンバーを横目に尋ねると、啓介は歌姫がこんなにあっさりやられるものなのか?と尋ねるように一人呟いた。

 

 

「…どうした啓介、浮かない顔をしているが…」

「なあ史浩、歌姫がこうも簡単にやられると思うか?」

 

 

 確かに涼介はこの日のために対歌姫戦として様々なバトルのデータを分析し、様々なシュミレーションを構築して万全の体制を整えてきたため、あっさりと抜き去るのは容易いかもしれない。

 

 だが啓介にとってあまりにもあっさりしすぎたオーバーテイクだと感じていたらしく、歌姫が何か隠し玉を持っているのでは…と疑いの目を見せる。

 

 

「確かにこの日のために色々と分析してきてシュミレーションしてきた…だから抜くのは容易い…けど」

「けど…?」

「だとしてもあっさりし過ぎてるんだ、まだ歌姫が何か隠し玉を持ってるんじゃないか…、俺はそんな気がする…」

 

 

 恐らく涼介もそれはわかっているだろうから何かしら対策を講じてるはず…、だがバトルが終わるまではどうなるかは分からない…そう啓介は口にしつつ、夜空を見上げていく。

 

 

「もちろんアニキだって対策はしてる…けど恐らくバトルが終わるまでは結果は分からないと思うぜ…」

「…啓介…」 

 

 

 2人がそんはやり取りをしている中、レッドサンズの会話を聞いていた由紀達は、友奈が抜かれたことに驚きを隠せずにいた。

 とはいえ明日香はここで仕掛けると分かっていたのか、そこまで驚いていないどころかむしろ自分がやったことをそのまま利用したな…と呟く。

 

 

「嘘でしょ…友奈が呆気なく…」

「しっしかもあれだろ?抜かした場所って明日香ちゃんが仕掛けた場所…」

「やられた…多分…いえ絶対私が仕掛けたのをそのまま利用したわね…、あそこでやられると友奈ちゃんはブロックが出来ない」

 

 

 もちろん友奈だってこのまま負けるつもりはないだろうから何かしら策は練っているとは思うが、相手も相手だ。

 これは厳しい戦いになるぞ…そんなことを口にしてきた祐也に対して、拓海は案外そうでもないんじゃないかと否定していく。

 

 

「もちろんアイツもすんなり負けるつもりはないだろうけど…相手が相手だ…、こりゃ厳しい戦いに…」

「…いや多分それはないと思う」

 

 

 そりゃどういうことだ?と尋ねる祐也に対して、確かに現状なら涼介が有利なのは間違いもない事実、しかし拓海的には上手くいき過ぎて返って油断してるんじゃないか…と思っているらしい。

 由紀がいうように流石にあのレッドサンズリーダーが油断なんて想像できないか、拓海曰くそこが本当の意味でのターニングポイントになるとのこと。

 

 

「へ?そりゃどういう…」

「確かにいまのままだと友奈ちゃんは不利、だけど涼介さんも上手くいき過ぎて逆に油断してるんじゃないかって気がするんだよ」

「いやいやー、流石にあのレッドサンズリーダーが油断なんて…」

「いや…あり得るかも…、ってか俺的にはそこが本当の意味でターニングポイントになると思う」

 

 

 するとそれを聞いた羽南がそういえば…という表情を浮かべながら、バトル前の会話で友奈も本当の勝負は最終セクションに入ってからだと言っていたことを思い出し、そのことを共有していく。

 

 

「あっそういえば…、友奈もそんなこと言ってたような気がする。最終セクションに入ってからがこのバトルの本番だって」

「…ほへ?友奈ちゃんが?そりゃまたなんで…」

 

 

 どうも母親からのアドバイスが主な理由らしく、最終セクションまで通常通り…つまり高橋涼介がデータ上で調べ尽くした歌姫として走り、相手が油断しきったタイミングでデータにない走り方で抜き返すというもの。

 それまでは今までどおりの歌姫として演じるというもので、それを聞いた明日香はなかなかの大博打ね…とそんなことを口にする。

 

 

「えっと……(経緯を説明中)こんな感じ何だけど…」

「ふーむ…、そりゃなかなかの大博打ね…」

 

 

 あの涼介が油断するとは到底思えないが、それだけなら拓海が言っていたことと確かにマッチするかもしれない。

 本当にそれで上手くいくのか…そんなことを話し合っているメンバーをよそに、拓海はもしかすればお母さんの言った通りになるかもしれない…そんなことを内心思っていくのであった。

 

 

ー確かにあの高橋涼介さんが油断するとはオレも思えない…けど…、友奈ちゃんのお母さんが思った通りの展開に…案外なるかもしれないな…ー

 

 

 

 

 

 

 43コーナーで鮮やかなオーバーテイクを披露した涼介は、ステアリングを握りながらとことんシュミレーションした結果が役にたったとそんなことを思っていた。

 

 

ドギャァァァ

ーオレながら綺麗なオーバーテイクができたな、とことんまでシュミレーションした結果が活かされたってことか…。やはり前回のバトルが大きいなー

 

 

 あとはこのまま前をキープするだけで…なのだが1つ引っかかることが…

 

 というのも先ほどのコーナーで仕掛けた際、弱点なはずなのに相手が対策を一切してこなかった。

 いくらブロックできないからといっても仕掛けられるのはわかっていることなので、対策のしようはいくらでもあったはずだ。

 

 

ーあとはこのままゴールまで走り切るだけ…だが…、1つだけ引っかかることが…何故歌姫は対策をしてこなかった…?あそこで仕掛けるのはわかってるはず…、なら対策のしようは…ー

 

 

 何より気になるのは抜かれたはずなのに追い抜こうという気配を一切感じないことであり、まるで背後霊かのように張り付いてくる歌姫に彼は不気味さを感じていたらしい。

 

 

ー何より気になるのは…抜かれてるはずなのに一切追い抜こうという気配を感じないことだ…いや一瞬こそ感じたが…、かえってそれが不気味だぜー

 

 

 とはいえやることに変わりはなく、仮に隠し玉があったとしてもそれを想定したシュミレーションは組んでいるためいつでも来い…と言わんばかりの雰囲気を醸し出しながらアクセルを踏み込んでFCを加速させる。

 もちろんその後を追いすがる友奈も離されまいとアクセルを踏み込んでハチロクを加速させ、ピッタリとリアに張り付きながらダウンヒルを疾走していく。

 

 

ーだがもし仕掛けてきたとしてもそのシュミレーションも想定済み…、どこからでも来い…真正面から受けて立とう…!ーゴクッ

ゴアアアアア

ー加速した…向こうはいつでもカモンってことか…、けどいまついていくことだけに集中!ー

 

 

 その後コーナーに差し掛かると2台はワンテンポずれる形でフルブレーキングの減速をしつつ、ヒールアンドトゥでギアを2速に叩き込んでいき、ステアリングを切り込む。

 ブレーキランプを点灯しつつリアを滑らせた2台は鋭いブレーキングドリフトでギャラリー達の目の前を勢いよく通過、コーナーをガードレールギリギリに立ち上がっていく。

 

 

ウォンウォン!!

ゴクッ

ドギャァァァ!!

ーっ!!ー

「っと…!!」

「うおすげぇ!?見たかよあのドリフト…!!」

「鳥肌もんだぜ!!やっぱうめー奴はうめーぜ!!」

 

 

 とまあそんな感じでドリフトを繰り広げながらダウンヒルを疾走していた2台だったが、とあるコーナーに侵入した瞬間、一瞬だがFCのタイヤの食いつきが悪くなったことを涼介は見逃さなかった。

 

 

ウォンウォン!!

ギャン!!

ー……!?ー

 

 

 考える間もなくタイヤの熱ダレだと見抜いた涼介は、歌姫についていく際に思ってたよりも無意識にペースを上げすぎたのが原因だということに気づいており、思わず舌打ちを露にする。

 

 

ータイヤの熱ダレか…!ちっ…特段無理にペースをあげたつもりはなかったが…!ー

 

 

 まあそうなるのも無理はない、いくは歌姫の走り方を徹底的に分析した涼介とはいえど、その走りを何年も通して続け、いかにタイヤに負担をかけないかの走りを知り尽くしている相手には分が悪い。

 想定外の誤算だ…そんなことを思いながらも、そんなことを言い訳にはしたくない涼介は、多少シュミレーションを変更しつつも勝つのは自分だとそう決心した表情を浮かべていく。

 

 

ー想定外の誤算だぜ…!だがそれを言い訳にはしない…!多少シュミレーションを変更する必要はあるが…オレの勝利に揺るぎはない!!ーゴクッ

ゴアアアアア

 

 

 それと同時刻、後ろを走っていた友奈も当然ながら異変には気づいており、考える間もなくタイヤが熱ダレを起こして消耗していることを察知していた。

 

 

ーっ!今ブレーキングが一瞬甘く……っまさかタイヤの熱ダレ起こしてる…?ー

 

 

 どうやら走りを完ぺきにコピー出来たとしても、そこまでは完ぺきに出来なかったようだ。

 涼介にとっては大きな誤算、しかし友奈にとってはより最終セクションで有利に戦える材料であることには変わりない。

 

 

ーもしかして思ってたよりもコピーされてない…?…なるほど…なら最終セクションでより有利に戦えるかも…!ー

 

 

 そんなことを思いながら友奈は最終セクションまで何が何でもつて行く…!と言わんばかり表情を見せながらも、涼介に悟られないようにハチロクを操りながら追いすがっていくのであった。

 

 

 

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