アヤベさんとの日常の一コマ 短編集   作:トマリ

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出遅れってレベルじゃないぐらい遅れましたけど一応バレンタインです。




アヤベさんとバレンタイン その2【前編】

 

 私はアドマイヤベガ。トレセン学園のウマ娘。 今回は割愛するけれど、トレセン学園で出会った……変なトレーナーと共に、アイスを食べたりメイド服姿を見られたり実家に連れていったりバイウールーの世話を任されたりして、かれこれ二年となる。

 

 

 そんなある日。二月十三日。

 この日のトレセン学園は、いつにも増してウマ娘たちがソワソワとしていた。

 前の席で次の授業の予習をしているウマ娘や、窓側で雑談に興じているウマ娘二人も。皆が皆、『意識していないことを意識している』ような、所々ギクシャクしたような動きになってしまっている。

 まぁそんなことは私はもちろん、本人たちだってわかっているだろう。理由付きで。

 わかった上で、お互いに空気を読んでスルーし合っているのだが───

 

 

「おはようございますアヤベさん!明日はバレンタインデーですね!」

 

「トップロードさん、声が大きい」

 

 

 ……どうもこの委員長は、わかってはいるが空気が読めていないらしい。

 突然のNGワードの登場に、クラスにいたウマ娘のほとんどが肉食動物の足音を聞いた草食動物のように総毛立ち、こちらに視線を向ける。

 なんでもないから、と目だけで語ってから、私は目の前に立っているナリタトップロードさんへと視線を戻した。

 

「……トップロードさん、そういうのはあんまり大声で言わない方が良いと思うから。今は特に。困る人もいるだろうし」

 

「あっ……そ、それはすいませんでした!」

 

 なんだかんだでこういう素直な所は彼女の美点だ。そんなことを思っていると、「改めてですが!」とトップロードさんが鼻と鼻がぶつかりそうなほど詰め寄ってきた。

 

「明日、2月14日はバレンタインデーですよアヤベさん!」

 

「……トップロードさん、顔が近い」

 

「日頃の相手への感謝の気持ちを、なんと言葉ではなく贈り物という形で伝えて良い日なんです!」

 

「……違いないけど、そんなにテンションが上がることかしら?」

 

 私がそう問いかけると、トップロードさんは照れ臭そうに頬を掻いた。

 

「いやー……意外かもしれませんが、実は私って結構口下手で……。トレーナーさんに対する感謝の気持ちはなるべく普段から伝えようとしているんですが、中々上手く行ってなくて……」

 

 そう言いながら、モジモジと両の人差し指を合わせるトップロードさん。その時の彼女の表情は……えらく共感が湧く表情だったというか……わかりやすいものだった。

 

「ですから、こんな風な想いを伝えやすい日を逃す手はないと言いますか……」

 

 なるほど、確かにそれは二重の意味でテンションも上がるものだと考えていると……不意にウマ耳に「おやおや!やはりアヤベさんたちの所にもそんな話が出ていたか!」という声が届いた。

 クラスメイトに続き、今度は私が肉食動物の足音を聞いた草食動物のような反応をしてしまう。

 ……たぶん、振り返った私の顔には嫌悪が滲み出ていただろう。

 

 

「あ!おはようございますオペラオーちゃん、ドトウちゃん!」

 

「やぁトップロードさん!今日も絶好の併走日和だね!」

 

「お、おはようございますぅ~……こ、高等部の教室ってこうなってるんですねぇ~……」

 

 

 やはりというか、やって来たのはふざけた覇王ことテイエムオペラオーと、粘り強い怒涛ことメイショウドトウだった。

 ……連れてこられたらしきドトウはともかくとして、仮にも中等部のオペラオーにとって高等部の教室は目上の生徒たちの巣窟であるはずなのだが、彼女がそこに訪れることに怯んでいる様子はない。……今更だが、改めて彼女は良い度胸をしているなと思う。……美点とは思わないけど。

 

「……何の用よ、オペラオー」

 

 私はいつもの二割増しぐらい低い声で言う。まぁ、大体わかってるつもりだけど。

 

「ふふん、大体わかってるくせにまどろっこしいなぁアヤベさん!」

 

 ……思考を読まれた。鬱陶しい。

 

「2月13日に僕たちがやることなんてただ一つ……そう!チョコレートの準備さ!」

 

「おおー!オペラオーちゃんもですか!」

 

「もちろんさ!この美しきボクの才能を最初に見出だし、そして今に至るまでボクを担当しているトレーナー君は、謂わばボクの最初のファン!そして2月14日は身近の人物に贈り物という形で感謝を伝える日!ならばチョコというファンサービスをしない理由は無いさ!」

 

「わ、私もトレーナーさんにはいつも助けてもらっていますし~……こんなダメな私にも歩幅を合わせて歩いてくれていますから……」

 

 はーはっはっと笑うオペラオーと、えへへと笑うドトウ。方向性は違うが、どちらも自らのトレーナーに感謝しているのは変わりないようだ。

 

「事前に家庭科室の一角はボクが貸しきっておいた!さっそく今から作りにいくよっ!」

 

「おおー!」

 

「お、お~!」

 

 私の分析を他所に盛り上がっていくオペラオーたち。

 すると、不意にトップロードさんがこちらを向いた。

 

 

「もちろん、アヤベさんも作りますよね?」

 

「え?」

 

「アヤベTさんに、チョコを!」

 

「それは……」

 

 

 なんとなく、即答するのは躊躇われてしまう。

 ……というかさっきも注意したばかりだが、あまり大きな声でチョコチョコ言うのはやめてほしい。そろそろ無視できないレベルでクラスメイトの視線が注がれているのだ。

 だがトップロードさんは気にしていないように私に詰め寄ってくる。

 

 

「え、アヤベさん、もしかして作らないつもりだったんですか?」

 

「……そういうつもりは、ないけど」

 

「……?もしかして、トレーナーさんとケンカでもしたんですか?あんまり感謝してないとか?」

 

「…………」

 

 

 黙りこくってしまう。

 感謝していない、わけではない。

 けれど……感謝100%でチョコを渡すのは、なんとなく違うような気がした。

 

 

 ……だってあの人、変な人だし。

 

 

 そもそも出会いからしてそうだった。私がいつでも降りて良いと言ったのに、勝手についてきて。

 ある意味、オペラオーやトップロードさんと一緒。あの人が私にしてくれたことは……半分ぐらいは余計なお世話だ。

 

 ……本当に、変な人なのだもの。

 

 

 だからなんというか……トップロードさんのように『バレンタインデーだ!!よし感謝の気持ちを形にしよう!!』みたいな気持ちにはあまりなれなかった。

 元々バレンタインデー自体にさして興味がなかったというのもあるし。

 

 あげるとしても、義理チョコだろう。

 

 

 ならば───

 

 

「もう!とにかく一緒に行きましょうアヤベさん!」

 

「ちょっと」

 

「作ってみれば自分の気持ちなんて案外わかりますよ!さぁ、行きましょう!」

 

 私が反論する暇もなくトップロードさんに引っ張られてしまう。

 そして私たちの一番前で、オペラオーが『さぁいざ行かん!家庭科室で最高のチョコを作りに!』と私たちを扇動しながら先導する。

 

 

 ……こうなってしまったからには、もう抵抗しても無駄だろう。それはこの二年あまりで散々わかった。

 

 仕方ない。義理だろうが本命だろうが、大人しくチョコを作るしかない。

 

 ……どんな物を作れば良いのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、二月十四日。

 

 この日のトレセン学園は、朝からいつもに増して甘ったるい匂いがしていた。

 それもそのはずで、今日は非モテの宿敵であるあの日。二十歳を過ぎたあたりで触れる機会そのものが無くなり始めるバレンタインデーだからである。

 

「あーー……そういえば今日ってバレンタインデーだったんだな」

 

 授業とか仕事とかトレーニングが一段落した放課後のこと。

 砂糖三つを放り込んだコーヒーを飲みながら、アドマイヤベガのトレーナーである僕は独り言を装ってそう呟いた。あくまで独り言として言ったつもりであり、それは静かに空気に消えるハズだった。しかし、今の室内にはその発言を律儀に拾ってくれる人物がいる。

 

「あー、ほんとっスね、今日って二月十四日かぁ。最近仕事続きだったんで、日にちの感覚とか無くなってたっスよぉ」

 

 その人物、僕の後輩であるナリタトップロードTは対面に座って僕の用意したコーヒーカップを両手で持って飲んでいた。

 

「道理で今日の学園は皆騒がしかったわけっスよね。気づきませんでしたわー」

 

「確かに。ウマ娘の育成に夢中になってると、意外とこういうイベントって見落としちまうんだよなぁ」

 

 なはは、と二人で笑い合う。

 ……嘘である。ウマ娘の育成をしていると、否応無しにこういったイベントには付き合わされるため、むしろ行事ごとには敏感になる。

 なんと無駄なやり取りか。例えるなら、テスト当日での『お前昨日どんだけ勉強した?』というやり取りぐらい無意味である。

 

「で、どうよ? トプロTはなんか貰えるアテはあんの?」

 

「いやー無いっスよぉ。ジブン、学生時代からあんまモテませんでしたし。そういうアヤベT先輩は?」

 

「まさか。大体、今日がバレンタインデーだって忘れてたぐらいだしなぁ」

 

「ですよねー」

 

 またHAHAHA、と笑い合う

 なんと無意味な腹の探り合いか。我ながら、社会人にもなって何をしているのだろう。

 ───て。

 

「……あれ、おかしいな。このやり取り、なんか前もしたような気がするんだけど」

 

「あれ、アヤベTもっスか?奇遇っスね、ジブンもです」

 

「しかもなんか……今年二回目な気がする」

 

「そこも同じっスか?変ですよね、バレンタインて基本一年に一回だけのはずなんスけど」

 

 僕の疑念と同じものをトプロTも感じていたようで、彼は真っ黒な髪を神経質にいじっている。

 動くものに注意を引かれる故か、ついその様を見つめてしまう。

 ちなみに、現在のトプロTの頭頂部には染められた黒髪の根本から、地毛である芦毛(母からの遺伝)がうっすらと生えてきていた。

 黒髪の上に銀髪が被さっているのはさながら……さながら……えっと……ナニ頭と言えば良いのだろうか?

 

「ガトーショコラ頭か……?」

 

「は?急にどうしたんスかアヤベT。甘味足りてないんスか?」

 

「なーにバカなこと言ってんだお前ら」

 

 そこまで話したとき。

 さっきから状況を俯瞰していた、発言を律儀に拾ってくれる三人目の人物であるオペラオーTが声をあげた。

「ちょ、お前『ら』って、ジブンは特になにも言ってないんスけど!?」というトプロTの言葉も聞かず、オペラオーTはコーヒーを飲んで一言。

 

「だいたい、甘味なら今日は全員持ってるだろ。俺がなんでここにお前らを呼び寄せたと思ってんだ」

 

 前半の言葉に僕とトプロTの体がギクリと反応する。

 ……それを誤魔化すために一先ず後半の言葉を拾うことにした。

 

「呼び寄せたって、ここ僕のトレーナー室なんですけどね……。行きつけのカフェみたいに僕の部屋を使わないでよ……」

 

「くひひっ、いいじゃねぇか減るもんじゃなし。それに今日は二月十四日バレンタインデー。バレンタインデーといえば、やることがあんだろ?」

 

 せっかく誤魔化したのに強制的に前半の言葉を拾わされた。

 

「……なんスか?オカンにチョコをせびりに行くんスか?」

 

「それも違わないが違う」

 

「違わないんスか……」

 

「ええいうるさい。やることといったら、戦利品(チョコ)のお披露目だろうが。どうせお前ら担当からもらってるんだろ?見せ合おうぜ」

 

 また僕の体がギクリとする。なんとかそれを悟られないように僕は口を開いた。

 

「中学生かよ……」

 

「だいたい、それじゃ担当が多いオペラオーTが有利じゃないっスか」

 

「くひひ安心しろ。お前らに合わせて、俺はオペラオーのチョコしか披露しねぇから」

 

「……披露しないっていうか」

 

 そこでトプロTは黒目を横に動かした。

 僕もつられるように視線を向ける。

 

 その先……テーブルの一角に、まるで最初からあったかのような自然さで置かれていたのは……

 

 

「オペラオーT先輩のはもう披露してるっていうか……」

 

「……一応尋ねるけど、アレ誰からのチョコ?」

 

「そりゃお前……オペラオーしかいないだろ」

 

 

 机の上にあったのは、オペラオーをそのままかたどって作られたらしきチョコだった。普段着てる勝負服はもちろん、髪の毛のクセまで忠実に再現されている。

 どうやって作ったのだろうか……。

 

「マジですげぇ精巧なデキっスね……某144分の1プラモデルみたいっス」

 

「くひひっ、いやーさすがの俺もちょっと引いた。昨年の等身大オペラオーチョコも中々だったが……フィギュアサイズになってもそれはそれで引くな」

 

「だってビビりましたもん、オペラオーT先輩が部屋に入ってきたと思ったら、夏休みの図画工作みたいなノリでこのチョコを抱えてるんですもん。魔人ブ◯でも出てきたのかと思ったっス」

 

「懐かしい例えだなおい」

 

 舐めるように(いや舐めないが)オペラオーチョコを眺める僕とトプロT。

 ちなみに事前にカチカチに固めておいたのか、長時間置いてる割には一向に溶ける気配がない。……この見た目のチョコが溶け始めたら中々の惨事だろうが……。

 と、そこでオペラオーTは彼にしては珍しく腕を組んで困ったような顔をする。

 

「しっかし……完成度が高いのはいいけどさぁ……ここまで上手いと逆に食いにくいんだが」

 

「……まぁ、そうだろうね」

 

「この感覚どっかで覚えあるなと思ったらアレなんだよ。完全にお母さんが息子への動物弁当に気合い入れすぎて、子供が食べづらくなるあの感じなんだよ」

 

「しかも今回の場合、形が完全にヒトガタっスからねぇ」

 

「生々しくてちょっとね……」

 

「……なぁこのオペラオーチョコ、どっから食べるのが良いと思う?頭からか腕からか足からか」

 

「そんなたい焼きどこから食うかみたいなノリで聞かないでほしいっス……」

 

「打ち上げ花火みたいなノリでもあるね」

 

「いっそオペラオー本人に聞けばいいんじゃないっスか?」

 

 そんな会話をしていると、唐突にオペラオーTが「っつーか俺ばっかの話してんじゃねーよ!」と机を叩いた。そして叩いた拍子にオペラオーチョコが倒れそうになり慌てて支えた。

 

「あぶねっ、これ倒したら悲惨の一言だぞ……。まぁともかくっ、お前らはどうなんだよお前らは!」

 

 オペラオーTの言葉に、僕とトプロTは同時に顔を見合わせた。……この部分、お互いに言いたくなかったからこそお互いに詮索していなかったのだが……。

 

「えぇ……結局これ、ジブンらも言わなくちゃいけないんスか?」

 

「当たり前だろ!俺言ったんだから」

 

「自分から言ったんじゃないスか……」

 

「いいから言え。はいまずトプロTからな」

 

「横暴っスよこんなの……」

 

「さもないと明日から併走トレーニングするときにトプロだけ毎回外枠にするぞ」

 

「なんてみみっちい罰を……」

 

「もしくはお前の部屋のタンスの上から二つ目の引き出しの二重底に隠してる物トプロにバラすぞ」

 

「わかったよわかりましたよっ!」

 

 観念したように叫び、トプロTは持っていたカバンから大事そうにラッピングされた箱を、これまた大事そうに取り出した。

 咳払いしてから一言。

 

 

「朝一番に……トプロからもらえたっス。『恥ずかしいので私のいないところで食べてください』って」

 

「おおーっ!くひひっ、いいじゃんいいじゃん!」

 

 

 テンション高めにはしゃぐオペラオーT。本当に中学生のようである。

 トプロTがもらったというボックスは綺麗な赤色をしており、青色のリボンがつけられていた。

 なんというか、シンプル・イズ・ベストな外観である。もう箱の段階から青春が迸っている気がする。僕はオッサンだけど。

 

「これ、もう開けたのか?」

 

「えぇ?あ、いや、えっと……あ、開けてないっスよ。ほんと、はい」

 

「なーんだ開けてないのかよ。くひひっ、つまんねーの」

 

 なんの気なしに聞いてみたのだが、何故かトプロTはやたらとドモっていた。目が泳ぎまくっている。

 気になってふと箱を観察してみると、リボンの結び目……ちょうちょ結びの部分が、少し雑になっているように感じられた。

 ……几帳面な性格のトップロードにしては妙である。

 

「……もしかしてトプロT、これ一回開けてから結び直した?」

 

「あ?そうなの?」

 

 僕の言葉に、つまらなさそうな顔をしていたオペラオーTの目に一気に光が戻り、トプロTへ顔を向ける。

 

「あ、いや、えっと……」

 

 壊れた天秤のように黒目を泳がせまくるトプロT。まだ彼の中では葛藤があったようだが……先輩トレーナー二人に睨まれる状況が十秒ほど続くと、どうやら諦めたらしい。

 

「はい……。開けたっス……。その、トレーナー寮に帰ってからゆっくり開けようと思ったんスけど……どうしても、好奇心に負けて……」

 

「んん?」

 

 その言葉にウマ耳並の精度で反応したのはオペラオーTだった。

 

「なんだよなんだよ、まだ開けてないんだったら遠慮するつもりだったが、もう開けてんだったら中身俺らにも見せろよっ!」

 

「あっちょ!箱取らないでくださいっスよオペラオーT!」

 

「いいじゃん俺見せたんだしっ!まったく勿体ぶってよぉ!」

 

「だからオペラオーTは自分から見せたんじゃ……ちょ、待ってくださいって!!」

 

 トプロTは必死に止めようとしたが……。その制止も虚しく、オペラオーTはリボンをほどき直し、疾風怒濤の早さながらも箱自体は丁寧に開けた。

 そこにあったのは……。

 

 

『……うわー』

 

 

 声を上げたのは僕とオペラオーT同時である。

 なにせ箱の中にあったのは……。

 

 

「……これはまた豪快というか……ストレートど真ん中っつーか……」

 

 

 箱の中にあったのは……大きなハート型のチョコレートだった。

 おそらくチョコレートと言われて万人が思い浮かべるであろう、余計な装飾もないシンプルな造形である。

 だがシンプル故に、その破壊力は凄まじいモノがあった。

 少なくともさっきまでキラキラした目をしていたオペラオーTが、まるで両親のイチャつく様を見てしまったときのような顔になるぐらいには。

 

「くひひ……おおう、これはなんというか……」

 

 力無く笑ったあと、反射的に胸元を押さえる。

 

「うぷっ。やべ、なんも食ってないのになんか胸焼けしてきたんだが……」

 

 同意を求めるように僕の方を向いてくる。その感想は……ほとんど僕も同様だった。箱の外装の比じゃないぐらい、そこには甘酸っぱい青春が走っていた。

 

 

「ナリタトップロードさんって、こんな大胆だったんだ……」

 

「……なんつーか、その、すまんかった。トプロT」

 

「あーあーあー……もう、ジブンが一番恥ずかしいんスよ……だから見せたくなかったんスよ……!どうりで、もらう時もトプロがやたら挙動不審で目も合わせてくれないなって思ってたんスよ……!」

 

 

 顔の半分を覆うトプロT。その顔は耳まで真っ赤になっていた。

 トップロードとトプロTが、担当とトレーナーという関係を差し置いても仲が良いのは有名な話だが……まさかここまで進展していたとは……。

 

 いや、それにしてもこれはなんというか……ウマ娘だけど男らしすぎる。完全なる直球勝負故に却って防御不可のタイプのヤツだ。

 傍観者のはずの僕まで胸焼けを覚えそうになっていると、ふと、チョコの隣……箱の隅のあたりに小さく折り畳まれた紙が入っているのが見えた。

 

「……トプロT、なんか紙入ってるけど───」

 

 僕が問いかけようとした瞬間。

 トプロTが目を見開いたと思うと、過去最速のスピードで箱を自分の手元に持っていった。

 

 

「っ!?絶対ダメですからね!?いくらアヤベTでも本当にダメですよ!?ボクの命に代えてもこれだけは死守しますからね!?」

 

「わかったごめんごめん僕が悪かった!!」

 

 

 ダメだこれマジな奴だ。

 トプロTの子猫を守る母猫のごとき形相に僕は直感して素早く引っ込む。

 

 ……男には誰しも、本当に触れちゃいけない部分がある。担当との関係なら尚更だ。

 人の恋路に首を突っ込むヤツは、ナントカに蹴られてなんとやらと言うし……この辺にしとこう。

 あれ?一体何に蹴られるべきなんだったっけ?

 

「……まぁ、こっちはまた違う意味で食べにくいチョコだな」

 

 ともかく、オペラオーTの言葉にウンウンと頷いていると、半泣きになりそうな顔でまた大事そうにプレゼントをしまったトプロTが、

 

「そういうアヤベTはどうなんスか!?」

 

 と詰め寄ってきた。

 

「アヤベTのとこも結構アドマイヤベガと仲良いじゃないっスか!どんなチョコもらえたんスか!?」

 

「あー、俺も気になってた」

 

 今度はこっちの番だと言わんばかりに、トプロTが詰め寄ってくる。そしてオペラオーTはこっちでも目を興味で輝かせていた。

 

「なんせあのアドマイヤベガだろ?何気にこの中で一番予測がつかないからな……どんな形で、どんなチョコを用意してるのか」

 

「さぁさぁアヤベTも出すっスよ!ジブンも出しましたし!」

 

 そう言いながら、まるで自分がチョコをもらうときのように手を僕の方に向けてくる。

 

 ……ついにこのときが来てしまったか。

 

 

「くひひっ、まぁもう放課後だしな。時間は充分あったし、アドマイヤベガからはとっくにもらってるだろ?」

 

 

 オペラオーTの言葉と目から顔をそらす。

 頬を汗が伝った。

 

 どんどんとプレッシャーがうなじのあたりに乗しかかってくる……。

 

 

 ……だが、言わないわけにはいかなかった。

 

 

 

 僕はボソリと告げた。

 

 

 

「……ない」

 

 

「え?」

 

 

 

「……まだもらえてない」

 

 

 

 

 

 





当初、バレンタイン編はもう過去に書いちゃったし、自分がわざわざ書かなくてもどうせ他の方々がより良質なイラストなりSSなり書くだろうと若干ヘラっていたので書かないつもりでいましたが、ウマ娘アプリの方でのアヤベさんの特別チョコに脳を破壊されたので書くことにしました。

なにあれ……渡す直前に「本当に変な人……」みたいに一瞬視線外すのズルくないですか……。

一応文字数が多くなる可能性があるから分けました。とはいっても、最近忙しさがマッハですのですぐ続きが出せるかはわかりませんし最後も少し雑ですが……。
忙しさ&ヘラりVS興奮で、ギリギリ興奮が勝ったから書いてる状態ですので……。

それでもよろしければ、よろしくお願いします。


https://syosetu.org/novel/289595/9.html
ちなみにもう一つバレンタインの話は書いておりますので、よければどうぞ。こちらは一話で終わりますので。
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