海美は、とりあえずまつりを置いて賭博場に戻った。
あそこは子供たちのトリカゴであった。
自由を束縛する場所か、はたまた、自由を保障する場所か。
とにかく、猪の親分やまつりが説得しても、夜の間は絶対にあそこから動きたくないと言われたのだった。
まぁ、あんだけの騒ぎだったからもう東の空が明るくなりそうだった。
明るくなれば、猪の親分の部下が朝の光と共に天人を連れてくるはずだ。
そうすれば、ここもモノの支配から解放される。
「いや、海美さんのおかげで助かりました。」
屋敷の大黒柱の真下に座り、親分がしゃべる。
親分の前には大きな火鉢があり、なにか鉄瓶が湯気を出している。
その湯気が、大黒柱の上にある神棚に直撃してもやもやしている。
その神棚にはいつ載せたのか、鏡餅が上がっていて、カビが生えて変な色になっている。
海美はそれを見上げて、凝視してしまった。
「あぁ。そういえば、もう正月も終わってしばらく経ちますよね。あれを鏡割りにして食べますか。おーい!」
と、猪の親分が呼んだ。
すると、小さい子分が出てきた。
訳を話して、鏡餅を神棚から下ろすと、小刀で、ガリガリ削り始めた。
ただ、手つきがおかしい。
刃の前に手を置いているから、手元が狂ったら自分を突いてしまう。
猪の親分が海美にこれからのビジョンを話そうとするのだが、子分が気になって、話どころではないし、海美が話している時は完全に子分を見ている。
だから、海美もそのうちしゃべらなくなり、小刀でゴリゴリ削る音が響くようになった。
「………。」
ゴリゴリ
ゴリゴリ
「………。」
ゴリゴリ
ゴリゴリ
「………。」
黙っているとなにかしゃべりたくなるもので、子分がこう言った。
「親分、もうすぐ終わりそうです。ところで、なんで餅はカビるんですかね?」
「それは、空気中にカビの菌があるから、それが付着して、表面だけカビるからだよ。」
と、海美は答えようと息を吸い込んだ。
しかし、それより早く猪の親分がこう答えた。
「そりゃ、はやく食わないからよ。」
もう、この早さったらない。
しかも集中して見てるのだから、この猪の親分は本当にそう思っているらしい。
子分と海美が大きく目を見開いて、驚いている間にもカビ取りが終わり、子分が台所に餅を持って行った。
さぁ、餅が食べられると思った時、2人は、周りが明るくなっていることに気がついた。
2人が慌てて外に出ると、寺の方から子供たちとまつりが歩いてくるのが見えた。
あの不思議な骸骨の男もいた。
子供たちは自分達の得意な遊びをしているから、パレードのような騒ぎである。
「みんな、夜が明けたから出てきたようだな。」
「…夜になれば帰っちゃうわ。」
「安心しろ。あの地下室は封鎖して、土俵もぶっ壊す。土俵がなければあいつらは戦う理由がなくなる。戦うことでしか自分が保てないのであれば、治す。あの男と一緒にな。」
「あの男って、半分骸骨の?」