これも悲しい話です。
「………。」
耳を澄ませる。
バクン!バクン!
木の塊がぶつかり合う音がする。
「まさか…」
まつりは隠れていた木の上に立つ。
蛇が歩きやすいのか、道を下っていく。
テンテンテンテン
太鼓の音がする。
もしかしたら自分の心臓の音かもしれない。
「ナポレオン!いるの?」
蛇が止まった。
蛇が止まった。
こっちに首を向けたのが分かる。
まつりも刀に手をかける。
蛇に睨まれた蛙という言葉があるが、蛙になった気分だ。
だけど、まつりは蛇に向かって叫ぶ。
「ナポレオン!?私に力を貸して!海美が大変なことになってるの!」
…はて、ここまで読んできて分かったであろうが、まつりは初めて大声を出している。
前作もなかったが、まつりは本当に大声で叫んでいる。
カッカッカカカカ!
と太鼓のフチを叩く音がする。
蛇が止まる。
バクン!バクン!
木がぶつかる音がする。
蛇が首を下げる。
まつりの目の前に蛇の頭がくる。
「誰が俺のことを呼ぶんかと思ったら、まつりちゃんか。」
蛇の頭の上になにか立っている。
フェイスカバーハットのように獅子頭を付けている。
布で身体を隠しているが、腰に太鼓をつけている。
右手に太鼓を叩くバチ、左手に六月を過ぎたというのに鯉のぼりと竿を持っている。
閉じていた獅子頭の口が開くと、中の人間の顔が見える。
「初めて会った時は殺されそうになり、今回は助けを求められるとは…さぁ、なにかな?」
蛇の頭をトントンと渡り、まつりの登っている木に飛び移った。
「そりゃ大変だな。」
まつりと獅子頭の男、ナポレオンは海美を大蛇に乗せると、大蛇を操り、大急ぎで峠を越えていく。
蛇は障害物などなんのその、まるで水面を泳いでいるようにすごいスピードで進む。
「…で、ナポレオンさん。この蛇は?」
海美はまつりに膝枕をしてもらっている。
「あぁ。最近仲間にした蛇でな。この峠に住んで旅人を襲うもんだから、話を聞いてやって、人間は人間でも盗人や山賊などを襲うよう教えているんだ。」
ナポレオンは蛇の首元に立ち、進行方向を操っている。
「さっき、最後の人を飲み込んだとき、ファミリーって言ってたけど。」
「あぁ、人間だか獣だか分からないやつな。まぁどんなやつかは知らないし興味もないけど、俺たちの仲間を殺しただけじゃなく、いただきますも言わずに食べていたもんだから、逆にいただきますを言わずに食べてやったんだ。」
「…この蛇、お腹が。」
「あぁ、あれな。あれは、」
ナポレオンが服の中を探す。
さっき蛇が食べていた草を出す。
「これほ、ジャガンソウと言って、蛇の腹の消化を助けると言われている。しかし、これは胃薬の一種じゃない。どっちかというと毒だ。扱いを失敗すると人間が溶ける。昔、これを食べた人間が溶けたという記録もある。正座をしてしゃべる人から聞いた。」
「人を溶かす草。」
まつりがおののく。
「まぁ、胃液と作用して、溶かすものだから、人間は口に含まなければ大丈夫と言われてる。蛇の胃袋は耐えられるらしいが…あっ!蛇よ。ストップ!」
右と左に行く道に分かれていたところを右に進んだら、ナポレオンが止めた。
ザザーッと蛇が止まる。
「蛇よ。この道は危ない。もう一つの方の大回りする道を行ってくれ。」
蛇は少し戻ると、左側の道をまた走り始めた。