「なんでこっちの道なんですか?」
「うん?うん。実は、そっちの道は化け物が出るんだ。」
「うん。」
「………。」
「それで?」
「…!あぁ。しゃべるのね。はいはい。化物ってのが、谷に響く変な鳴き声をさせてるんだ。ただ、正体は表さない。だから危ないってんで、誰も近づかないようにしてるんだ。」
「そうなの。」
「しかも、これから行く村の吉作って一人暮らしの男が一週間ぐらい前から行方不明だ。きっとその化け物に食べられたんだ。ってみんな噂してる。」
「ふーん。」
大きな蛇はそんな話をされている間もものすごい勢いで進んでいる。
海美はまつりの膝枕で横になっている。
なんだか落ち着いて静かにしている。
「でもまぁ、この海美をここまで弱らせるとは、ファミリーってのはそんなに強いので?」
「…全員じゃないと思うけど、強い人は強いと思う。」
まつりは海美の髪をゆっくり撫でる。
ふわふわしているが髪の毛の流れの一定方向に指が絡みつく感覚がある。
「なるほど。で、何人ぐらい倒した?」
「えっと…私が、土俵のところにいた猿みたいなのと、海美をこうした白髪だけど、大八車のアヤちゃんが倒したようなもので、私はアシストだと思ってる…あっ!目が見えないイチさんがコブ頭を真っ二つにして、海美が角のある羊みたいなのを倒して、アヤちゃんと一緒にいるスピカって人が2階にいた一人を倒してる。だけど、郵便屋さんの話だともっとたくさんの人たちで倒しているみたい。」
「そうか。なら、もっとファミリーは減ってるか。…だけど、まつりちゃん。すごいじゃん。君だけ二人倒して、しかも1人はめちゃくちゃ強かったんだろう?」
「う、うん。」
だけど、不意打ちだったし、ほぼあやちゃんが倒したし…
と言おうとしたが、それより先に、
「これならこれから行く村でも歓迎されるぞ。」
と言われてしまい、黙っていることにした。
「なにより、村には医者がいる。その人に見せれば海美さんもきっと良くなる。」
「ほんと!」
「治療はいるだろうけどね。」
それを聞いてまつりはほっとした。
なにげに、峠の海美は本当に苦しそうだった。
今は自分の膝の上で静かにしてるから安静に見えるが、出来れば海美に手を引っ張ってどこまでも行きたいと思っていた。
「他にももっとすごい人たちがいるぞ。なにせ、人間たちの自治区。すなわち、自分達で縄張りを持っているんだ。元々人間はこう生きていたんだってのがわかる。」
「そうなの。」
「ん?」
「なに?」
「大蛇、止まれ。」
大蛇が止まる。
「なに?」
「静かに…聞こえる。化物が叫ぶ声。」
「えっ?」
「………。」
「………。」
なるほど、たしかになにか叫んでいる。
うぉーとも、ぐぉーとも聞こえる。
「さぁ、無視していくぞ。あんだけ遠ければ追いつかれることもないだろう。」
そういうと、また大蛇は動き出した。
大蛇は夕暮れの綺麗な山を越えて、村に進んでいった。
かすかに聞こえていた叫び声は、その夕暮れに消えた。