金剛杖物語~雄鬼のまつりの章~   作:仲村大輝

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大炊御門尊正は実在した人物です。
ただ、戊辰戦争に巻き込まれて亡くなられた上に、ほぼ暗殺に近い形だったために資料ほぼ残っていない人物です。
けれどこれは小説なので、書かせていただきました。
もちろん、尊正にまつりやしずかという子どもはいませんでした。


第7章 第七部 大炊御門尊正

「………。」

「………。」

尊正は2人とも無事に受け止められると思っていなかった。

思わず、声を失ったが、

「…いってくると言ったから、おかえり。」

「た、ただいま戻りました。」

「とはいえ、まだ安心は出来ない。ソラの言ったことは本当だ。この屋敷には化物がいる。」

「けど、地下じゃ…」

「惜しいな…地下じゃない。みんなで逃げるぞ!」

尊正はしずかの手を引いて走り出した。

アヤも警察も消防も走り出して、みんな逃げた方向へ走っている。

「なに?」

「家の怪物が動き出す。平和への使者か、破壊の使者が…」

屋敷が動き始める。

壊れ出したのではない。

下に崩れるというより、形を整えながら、上へ。上へ向かって伸び始めた。

最後に、ソラが放った一撃は屋敷の手前に着弾した訳だが、それに反応したらしい。

屋敷だと思っていたそれは、屋敷ではなかった。

自己意志で動かない時ものだったのだ。

その屋敷は、船にも、鯨にも見える形をしていた。

甲板が屋敷で、大半が地中に埋まっていたのだ。

だから、「地下になにかある訳ではない。」

と言ったのだ。

地上と地下の中間に体を休めていたのだ。

「お父さん。あれ…」

「あれは、18年前に現れた怪物の使者だ。」

「どういうこと?」

 

 

「こういうことだ。

 

しずかの生まれるちょっと前。

尊正は屋敷の場所に、日本家屋の屋敷を持っていた。

明治になったとはいえ、元々日本家屋が好きだったのか、洋風の屋敷ではなく、曳屋で移築したものだった。

屋敷を構えたら、周辺の土地を格安で提供し、屋敷を中心とした街づくりをしてしまった。

そして、倒幕を共に達成した藤乃と結婚して、同行したメンバーたちと政治に一生懸命となっていた。

そんなとき、吸血鬼が現れた。

吸血鬼は真夜中に尊正の寝室で天井からぶら下がり、尊正を眺めていた。

「そんなところに、逆さまにぶら下がってなにをしている。」

尊正は人の気配を感じて冷静に起きるとともに、その、ぶら下がっている吸血鬼に質問した。

「私は攘夷派のように気に入らないやつをいきなり斬りつけて排除する野蛮なことはしない。交渉に参った。」

「この、現代日本においては、太陽が出ている間に、玄関から入り、出てきたものに要件を言って、その用事のある者が空いていれば、応接間で会えるものだ。このように用事のあるものに断りもなく、しかも寝室に来るとは、攘夷派と違いがないように思われる。」

「これはこれは失礼した。では、今回は夢の中で出会った客として話は出来ないか?もちろんそのまま寝ている体制でいい。」

「……いいだろう。なんだ?」

もちろん、尊正は布団の中に日本刀を隠し持っている。

「実は、今回、私は交渉人としてこの裏世界へやってきた。」

「交渉?裏世界?」

「そうだ。我々表世界にいたモノたちは、天上から地の果て、天道から地獄道まで治めていた。それなのに、人間道のモノたちが自由勝手に過ごすうちに、人間道も六道の一つだということを忘れているモノが多くなってきた。だから、もう一度裏世界である人間道のモノたちにもっと謙虚になれと言いに来たのだ。」

「それはわかった。だが、どうする?法律でもつくれというのか?」

「法律で守ってほしくて来たのではない。それは建前だ。本音はこっちだ。君たち人間諸君の技術革新は素晴らしい。ただその技術を支えているのは科学。全ては説明できるものだから造られているものばかりだ。他の六道のモノたちも興味津々だから、我々表世界のモノが紛れ込むこともある。それを人間たちは興味本位で追い回す。たとえ、理解ある人間と巡り会えたと思っても、人間同士でその理解ある人間をペテン師、嘘つき呼ばわりして、表世界のモノたちを認めようとしない。

それをやめてほしい。」

「…すなわち、六道のモノたちが地球上を自由に出歩けるようにしてほしいと?」

「そういうことだ。」

「…もし、これが現実だとしたら、本来、そんな大掛かりなことなら使者を立てて、要件を先に伝えるべきだな。」

これなら引っ込む…

「そうだな。なら、一週間後のこの場所に使者を送ろう。」

そういうと逆さまのまま、懐からなにか投げて、尊正の枕元になにか落ちた。

尊正は布団になにか落ちたのを感じただけで目も開けずに応える。

「…これは?」

「使者の使者だ。慎重なあなたならそのくらいしないと信用しないだろう?ただ、今は夢だから、朝起きたら正夢とでも思ってくれ。」

「…正夢ということならそれで処理する。ただ、もっと証拠がほしい。」

「そうか…それなら、明日の朝起きたら、町中に赤い着色で塗り固めよう。ちょうどそこに使者が落ちてくる。」

「落ちてくる?」

「そうだ。まさに夢のような話だろう。だが本当だ。五日前から大風が吹き始め、三日前からは石が降り、二日前から大雨と雷が鳴り、当日の朝晴れる。石は使者の体から剥がれ落ちたもの。晴れるのは、使者が雨雲を吹き飛ばすからだ。そして、その赤い着色の上に見事に降りてみせる。」

「…雨と石が降るというのはそんなに広範囲なのか?」

「恐れることはない。お前さんのこの屋敷がすっぽり埋まるぐらいだ。ただ、あなたの配偶者…藤乃さんだったっけか?あの方は早く逃げさせたほうがいい。しかもお腹を冷やさないようにな。」

「なぜだ…なぜ藤乃さんが妊娠してると分かる?」

「落ち着いて。藤乃さんには手を出していませんよ。けど、こんなことか容易に出来るのが表世界のモノです。分かりましたか?まぁ、目を合わせて言ってるんだから分かってるか。」

「………。」

尊正は思わず、その逆立ち、いや逆さまのままぶら下がっているモノを睨んでしまっていた。

「まぁ、今日のことは覚えておいて、朝起きたら、赤い着色の確認と、藤乃さんを遠くへ逃すことを忘れないでくださいね。では。」

そう言うと、逆さまの男は消えた。まるでコウモリのように羽ばたいて消えた。

尊正はいなくなった梁を見ていた。

寝たのだか、寝てないのか分からないまま明るくなった。

そしたら、朝から近所中が大騒ぎになっていた。

なんと、屋敷を中心に500mぐらい、なにで着色されたのか分からない赤い色で、塗りつぶされていた。

家だろうが、道だろうが、畑だろうが関係ない。

とにかく赤い色で塗りつぶされていた。

周辺の人々は急いで尊正のところへ駆けつけて事態を報告した。

それに伴い、尊正は昨日の出来事は本当だと信じざるを得なくなってしまった。

これから起こるであろう非科学的な現象を、500m圏内の全ての住民に説明した。

ありがたいことに新時代になったとはいえ、信じて待避を始める人が多かった。

尊正自身も、自分の妻をはじめ、使用人たちや私財をどんどん別荘へ移し始めた。

妊婦さんであったため、屋根付きの輿を探して、それで移動させることにしたが、その輿を見て尊正は思いついた。

やたら行列を長くして、その日に合わせて藤乃と使用人たちを引っ越させた。

それを見て、「本当に大変なことになった!」と慌てる者も多かった。

とにかく、街には移動が面倒という人しかほぼ残らなかった。

避難先も、尊正は大慌てで整備してやった。

使用人たちにも小屋やテントを張る指揮を取らせた。

五日前。

やはり大風が吹きはじめた。

移動が大変だと言っていた一部の人たちも本当に風が吹きはじめて驚き、つくった小屋やテントに移動を始める者もで始めた。

三日前。

石が降りはじめた。

赤い着色が分からなくなるほどの石だ。

赤い着色がされた家や畑、道路は落ちてきた石でボコボコになり、とても住める状態にならなくなってしまった。

とても住めないということで、赤い着色のあった地域の人たちは全員退避に成功した。

そして、一週間後、

晴れた。

尊正は屋敷が見える小高い崖に来ていた。

穏やかな海に面した港町。

三方向を山に囲まれた現代には住みやすいところだと思っていた。

しかし、いまは自分の家を中心に石だらけになっている。

日が晴れて、穏やかな日差しと共に、使者は落ちてきた。

降りたその使者はものすごく巨大な鯨に見えた。

体は白く、そして苔生して、傷だらけになっていた。

そして音だ。

降臨したというより、ただ落下して地面に叩きつけられた感じだったものだから、地面が揺れ、海が揺れ、山の木々が一瞬空に飛び上がったようにも見えるほどの衝撃だった。

衝撃波で港町が吹き飛んだ。

ただ、その鯨は見事に、赤い着色の真上だけ押しつぶしたのだった。

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