まつりはどうなる?どうする?
落ちる。
私は落ちる。
尊正の娘の私は落ちる。
人間の反逆者である尊正の娘の私は落ちる。
人間を脅かすモノに崇められ、人間の反逆者である尊正の娘の私は落ちる。
「そのぐらいで辞めておけ!マイナスに考えるのは。」
紘我さんの声がする。
落ちる身体が急にゆっくりになる。
目を開ける。
すると目と合った。
ものすごく大きな目だ。
「えっ?」
目みたいな風呂敷が落下傘のように広がっている。
そしたら、目がなにか言った。
「まつりさん。君の父上はこの世界にはいないんだろう。あなたは駅で育ったんだから。」
「………。私はどうしたら?」
「尊正公が亡くなられて、奥方は京都へ去ったと聞く。その時、子どもは行方不明になったんだろう。そうだとすると、この世界には君のお母さんと、あの芭蕉扇はあるはずだ。少なくとも芭蕉扇は破壊できるような柔なものじゃない。芭蕉扇を持ち歩くことが、全ての世界で君のお父さんとお母さんが望んでいることだろうから、それを目指しなさい。」
目玉の落下傘はゆっくり地上に降りた。
目玉の落下傘もフワフワ。へニャン…と地面にシオシオに広がった。
すると、だんだん落下傘が小さくなり、最後には目玉と、玉が円になっている数珠が残った。
「紘我さん…」
「大丈夫だ。これはお呪いで動けるだけだ。またくっつくことは出来る。悪いが持って移動してくれないか?自分で動けないんだ。」
「はい。」
まつりは、そっと持ち上げる。
普通は気持ち悪いはずだが、もっと気持ち悪いところは見てきたし、なにより知ってる人なのでそんなに怖くはない。
というか、どこか懐かしさのある目玉だと思った。
「でも、今日は…」
「俺と、宇宙はモノどもを倒さないとだから君を見つけるのは明日になる。だから、なんとか明日まで目立つところに移動しないとだ。」
と言っても、ここがどこなのか分からない。
峠道のようだが、もっと高い山が囲み、盆地の中にぽつんと山があるような峠だった。
日が落ちるのも早く、月が上がるのも遅そうだ。
しかし、ここは小説。
都合よく木でできた祠があった。
しかも板張りで、人が中に入れるようになっている。
「ここの情報を紘我の本体に送るから、明日には迎えが来るぞ。」
やれやれと思ったら、あれだけ寝ていたのに急に眠くなってきた。
眠って、脳が疲れたのでまた寝たいらしいが、そんなことはまつりには分からない。
「まつりさん、数珠を手にはめなさい。」
紘我は、いや、紘我の目玉はしゃべった。
「なぜ?」
「その数珠はあの水子地蔵を少し削ってこつこつつくったものだ。
あれだけ強力な呪いの温床だったから、このくらいなら、安眠グッズぐらいにはなると思っていたんだが、これでも結構精神的に影響を与える。すなわち、これだけ呪いから離れていても多少の影響を与えるということは、またまつりさんじゃなく、しずかさんの世界に行けるんじゃないかと思っててね。」
「……けど、あの世界は?」
「大丈夫だ。君はその世界で生きるし、宇宙もその世界で生きる。
こっちでもあっちでも人の生きる道は変わらない。その人の生きる道が早くなったり遅くなったり、脇道にそれたり、穴に落ちたりするだけだ。
…尊正氏の人生は長く続き、世界が平和のままになった世界。
しずかさんが親の愛情を受けて、立派な御令嬢になった世界。
宇宙がグレて、世界を終わらせようとしている世界。
私も救世主などにならず、普通に生活したであろう世界。
その世界を覗いただけだ。
その世界の秩序を自分が壊してしまったとしても、その世界では本当に起こる予定だったかもしれない。
非常に良く似た、まつりさんが行かないとどうなったのかという世界もあったかもしれない。
そうであれば、ここで夢を見るのをやめてしまっても全然大丈夫だ。
ここから先は自分で…」
まつりはすぐ数珠をつけた。
「…いいじゃないか。さすがまつりさんだ。俺は起きてるから安心して寝なよ。良い夢を。」