「この間よりもっと大きな地図が見つかったけど、今日はどこにいる?」
「見返り柳の真下です。」
「毎週毎週、どこへ何しに行ってるんだ?」
というのがあった。
(「今日は浅草の三社祭りですよ。」で、納得してもらった。)
鯨船が地上に降りて、尊正も地上に降りたら歓声が上がった。
それはもちろんだが、しずかにも注目が集まった。
数多くの人から祝福の言葉が送られた。
尊正は一人一人丁寧に対応していった。
しずかにも人が集まり、尊正の後ろに隠れたかったが、引き離されてしまっていた。
さて、困った。
見たことない人に囲まれるのは緊張してしまう。
そんな時、
「大丈夫?緊張してるの?」
アヤじゃない。
大荷物を背負い、探検家が被るアドベンチャーハットとバンダナを首に巻いた女の人に声をかけられた。
「…あれ?」
なんか見覚えが、
帽子から見える青い髪
綺麗な優しい青い目
そして、細いのに強く握られる手。
「…どうかしたの?」
「私は、あなたに…」
「えっ?私はたしかにあなたと同じ大学だけど、話したことは…」
「あなたのお名前を教えて。」
はやく。
なにかいやな予感がする。
身体が多くの人に揺さぶられる。
まずい、このままだと目が覚める。
「私は、」
「まつりちゃん!…まつりちゃん!」
紘我さんの声。まただ。
早く言って!
「うみ…宮中海美」
「うみ…うみ!」
「まつりちゃん!」
ふわぁ!?
と起きる。
目玉がしゃべってる。
「まつりちゃん。なにか入って来たぞ。」
「…うみ。」
なんか忘れそうだ。
石碑の表を見る。
この小屋の入り口から土足で誰か入ったみたいで、入っただけならまだしも、石碑に向かって土下座している。
「オサンヤ様!助けてください!オサンヤ様!」
となにかしゃべっている。
そしてなにより、上だ。
屋根の上からなにか音がする。
なにかが移動するから、屋根がきしむ音。
それだけでなく、猫がニャーゴ、ニャーゴと鳴いているが、その音がでかい。
耳元で鳴かれているようだ。
「うみ。」
まつりは壊れたのか?
いや、忘れちゃいけないと、つぶやいて覚えているのだ。
「まつりちゃん、このままだと小屋が潰れるぞ。」
目玉の紘我さんは言う。
「うみ。」
「…さっきからとうした?うみとつぶやいて。」
この小屋、古いもんだから、天井が歪んでくる。
埃が落ちて、月の光があちらこちらから刺すように降り注ぐ。
ニャーゴ。
猫の大きな目が満月のように覗いている。
「私は、うみという人を探していたんです。」
「うみか…俺の娘と同じ名前だ。」
「………。」
「オサンヤ様!」
まつりは、表へ回り込む。
石碑に向かって土下座している大人を踏みつけ、抜刀。石碑の上に飛び乗る。
そのまま、見下ろす目玉に飛び込む。
深く突き刺さる手応え。
猫はニャーともギャーとも聞こえる耳に残る気持ち悪い声をあげた。
猫は後ろに反り返りおののく。
まつりはまた石碑の裏に飛び降りる。
まつりはしばらく天井を睨みつけていたが、猫はいなくなったようで、小屋がきしむこともなかった。
「ふぅー…」
まつりは天井を見ながら刀を納めた。
「ありがとうございました。オサンヤ様。」
またあの男の人が拝んでいるようだ。
「大丈夫ですか?」
まつりは石碑の表に出た。
「ひっ!…おやっ?あなたは?」
まつりはなんでこの人は私の姿を見ても驚かないのか?
と思ったが、なるほど、赤いマントがないから、ただ、長い刀を差した女の人だと思っているらしい。
まさか赤鬼には見えない。
「私は、まつり。ここに泊まっていたらあなたが入ってきたの。」
「えっ?…ということは、あの化け猫を退治したのはあなた?」
「そう。」
「失礼をいたしました。本当にありがとうございました。」
「気にしないで。だけど、こんな夜遅くになんでここに?」
「はい。実は、私は行商をしていて、久しぶりに子どもたちに会おうと帰っていた途中だったのですが、峠の途中で子供に買った風車を壊してしまいまして、夢中で直していたらとっぷり暮れてしまい、あの化物に追いかけられたのです。」
「…そう。そうなの」
まつりはこの人も誰かの父親なのかと思った。
今はなんだか、誰でもいいから父親を守れたのは良かったと思っていた。
「なにかお礼をしたいのですが…」