金剛杖物語~雄鬼のまつりの章~   作:仲村大輝

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


第10章 第一部 謎の牛

高篠からナンバー4を追い出した直後、まつりはオート村に身を寄せた。

観音様からいただいた地図は、まつりに読むのは難解で、紘我が読んで、まつりがそこに向かうというやり方でその場所を目指すことになった。

しかし、それに伴い、あることをオート村から頼まれた。

ある少年を日光東照宮建設中の左甚五郎に届けてほしいとのことだ。

因果かなにか、この少年は甚五と言われ、彫刻が上手く、オート村に来た日に、コンクリート柱を掘り込み、見事な七福神を掘ったことがあった。

オート村で、評判になったが、ここは戦うための村。

彼はもっと安全で伸び伸びと、彫刻において正しいことを言える師匠のもとで励んだ方が良い。となったので、モノが入れない神社を工事している名工左甚五郎に話を取り付けることが出来ていた。

 

少年は後回しでも良いということで、紘我が納得して、その日のうちにオート村の歓声を背にまつりは出発した。

そして、急ぐ道中、変わった街についた。

昼間が忙しく、人やモノがぎっしりいるのは分かる。

ただ、夜。

ぴたっ!

と、人もモノも動かなくなるのだ。

家の中に人やモノはいるのだが、誰もこれも仕切りに念仏を唱えて、震えている。

モノまでもである。

訳を聞くと、

「ここ最近、龍が現れ、池の水を飲み干したら、街の灯りめがけて飛んできたかと思うと、雨や雷で暴れ回り、どこかへ飛んでいってしまうのだ。」

そんな話を聞き、甚五がどうしてもここで一泊して、その龍を見たい。

と、言い出した。

まつりは一刻も早く海美に会いたいと思っていた。

そしたら、ここに泊まるから行ってきてと、言う。

たしかに、オート村からもらったお金はあるから、泊まれないことはないが、どうしてそこまで執着するのかは気になった。

なので、宿の女将さんに話をして、子どもを置いていくことにして、まつりはそのまま歩き始めた。

 

甚五は、彫刻を始めた頃、ふらっと現れた、ある右手のない変わったお爺さんからこんな話を聞いた。

そのお爺さんが、福井というところにいた時、福井でも人々が夜、外に出られず、遊びにも行けず困っていた。

すると、どうやらそこは、毎晩毎晩、なにやらケダモノが暴れているから、危なくて外に出れないし、商品が破壊されるので店も出せない状況であった。

お爺さんは、そのケダモノを見たくなり、見張りに一緒についた。

するとすぐ見ることが出来た。

そのケダモノは八百屋を襲撃した。

美味そうな野菜をガツガツ、ガブガブ食べた。

八百屋に向かって、懐中電灯を向けた。

この八百屋は囮になってくれていたのだ。

ケダモノ。それは大きな牛であった。

見事に大きく、ツヤツヤと整った角

地面をしっかり蹴り上げる爪

そして、黒々と、そして筋肉がモリモリと付いている身体。

品評会に出したら、一位間違いなし。

という感じだった。

しかし、お爺さんは冷静だった。

襲撃が終わり、辺りが静かになったころ、若者たちが八百屋に集まり、片付けとお爺さんからの言葉を待った。

お爺さんは言った。

「あれは、牛だったが、生物としての牛ではない。いくら丁寧に育ててもあんなに毛並みが綺麗になることはないし、どんなに荒々しく育ててもあんなに筋肉がつくわけがない。」

「では、あれはモノですか?」

「そうとも言えそうだし、そうじゃないかもしれない。」

「「………。」」

みんな押し黙った。

お爺さんはすぐ言う。

「一つ、考えられるとすれば、あれは生きていない。」

「「えっ?」」

「このあたりに、牛の看板や彫刻はあるか?」

「そういえば、はずれの薬屋の看板は牛の彫刻だぞ。」

「なぜ、薬で?」

「なんでも、牛の内臓を乾燥させた薬を取り扱っているから、牛の看板をわざわざ買い付けたと聞いている。」

「もしそうなら早く行こう。」

若者達とお爺さんは急いで薬屋に行き、薬屋の主人に話を聞いた。

すると、

「これは、父の代からあるもので、左甚五郎作であると伝わっています。」

「………。」

お爺さんは黙って聞いた。

「爺様。」

若者がお爺さんに話しかけたら、小さい声で答えた。

「…みなさん。今度、牛が暴れたら半鐘を打ち鳴らし、八百屋ではなく、この薬屋の牛を見にきてください。いなくなっていて、帰ってきたらこの看板に飛び乗るはずです。

そうしたら、みなさんで対策を考えてください。目をくり抜けば、八百屋には行けなくなりますが、ところ構わず暴れるでしょう。

足を切ったら走れないですが、見栄えは良くないでしょう。」

そう言うと、お爺さんはそこを離れた。

 

その牛がどうなったのかはお爺さんは知らないらしい。

そんな話を右手のないお爺さんから聞いていた。

甚五はそんなこともあり、不思議なものや動物は是非見たいと

左甚五郎の作品は命を吹き込むことが出来るほど精巧に出来ているらしいから、ぜひ見たいと思っていた。


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