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ヒヨリミコロシアム投稿作品
ヒヨリミコロシアム 投稿作品
享年21歳。
私は海の底で眠っています。
魚と泳ぎ、波に揺れながら、青い空を眺めています。
どうせ誰も探しに来ないから。一人は気楽でいいね。
一番逢いたかった人には会えなかった人生だけど、まあ、それも苦くて酸っぱくていいね。
そういえばあの人今頃何してんのかな。
まあいいや。
どうせだからこのまま暫く眠っていましょう。
母なる海に抱かれ、このまま眠ってしまおう。
追憶。
21の夏だった。
ある日あるとき気がついてしまった。
私はこれまで、この世に何を残せてきたのだろうか。
目立つことが好きだった。
何かを作ることが好きだった。絵、小説、映像、詩……
この世で数回、人に褒められる絵を描けた。
たったそれだけ。
なので遺書を作りました。あなたの読んでいるこれは、
私が何もかもを捨てて作り上げた、最高の作品。
きっとこうする間に季節は巡って、あなたは忘れるでしょう。
私と過ごした短い時間を。
それでもいい。でも、ただ、読んでほしい。
私は私の喪に服して、こうして筆を執りました。
爪痕の一つ残せればそれでいいんだ。だからあなたがこれを読んで
何か心に思うことが、引っかかることがあれば、
やっと作家人生が報われたんだなって。
私は安心してあなたと過ごした電子板の中に生き続けられるのです。
だからこれはある種の恋文かもしれません。
人間への恐怖心が、今なら懐かしく思えます。
人間は嫌いだったけど、皆は大好きだったと気付けたから。
さようなら、愛しい人たち。
さよなら、さようなら────。
⚜
6月5日は終戦記念日でした。
21年間続いた戦いが終わったのです。
私の乾いた心に、やっと幸せが芽吹くのです。
幸せとはどこにあるのでしょう。
学習机の中ですか?本当でしょうか。
『ソォシャル・ゲームズ』にはどうでしょう。
否、これも違う。
海の底にあるのでしょうか?
もし海底に沈む未知のロマンが幸せというものなのであれば、私は死んでから幸せになれるのでしょうか。
世界の秘密を知ること。
人類が追い求め、彷徨い、命を落とし、とうとう誰も見つけられることが出来なかった最高の幸せ。
それは幸せと呼べるのでしょうか。
子供の、あのキラキラした瞳。
図鑑を眺めていた、あの時間。
思うがまま心を輝かせた、あの一瞬。
知らなかったほうが良いことでさえ、人は知ろうとしてしまう。
人間に満ち満ちた浅はかな探究心。
人よ、人はなぜ過ちを繰り返すのでしょう。
もう少しで神様の元へ行くことになるので、訊いてみたいと思います。
神よ、神はなぜ私達をこの世に産み落としたのでしょう。
あまりに酷ではありませんか。
傷つけ合うために生まれたのでしょうか。
それはきっと違いますよね。
神を信ずる私が、神を疑うことは可笑しいでしょうね。
ただ、これは小説ですから。
遺書でもあり恋文であり、人生最後に書いてる小説。
フィクションの中でならあなたも怒ったりはしないですよね。
ねぇ、神様。
今日だけ十字架切り刻んでも、怒ったりはしないよね。
私きっと天国に行けるよね。
⚜
心理学を独学で勉強していたので、日々、こころについて考えることが多かった。
生きていた頃は一匹狼だとよく言われた。
今思えば「協調性が無さ過ぎる」の遠回しな表現だったのかも。
私には、人のこころがわからない。
今まで何人の人を傷つけただろう。
この遺書も、誰かに深く爪跡を残すために書いてある。
胸に鋭く刺さった銀色のナイフ。
銀色のペン先。滴り落ちる血のインク。
やはり傷つけることでしか、この世に何かを遺せない。
ヒトのこころが知りたかった。お友達が欲しくて。
いっぱい本を読んだ。
でも、心理学の本ほど役に立たないものは無かった。
かつて『友達と呼んでいた人』は、みんな私から離れていった。
跡形もなく消え去った。短くて楽しい夢。
静寂。
寂しくて、大人になって顔すら知らない文字だけのお友達を作るようになった。
この遺書を見つけた君は、私のお友達だろうか。
私のお友達は、一人でも寂しくないのだろうか。
この手元にある小さな液晶の中にだけ存在する君。
大好きだった。
君と喋るたび、『こころ』が何かわかっていくような気がした。
私の寂しさを埋めていくのは、誰かの温かいこころだった。
そして、傍にはいつも家族が居た。
一体気付くのに何年掛かったのだろう。
こんな単純なことに。
⚜
24時の鐘と共に、私は瑠璃色の海に溶けます。
海を割ってあなたのもとに行くのも面白いかなと思ったけど、生憎私はモーセじゃなかった。
ああ、サンタマリア。お許し下さい。
こうして文字を重ねれば重ねる程、書きたいものが増えていくのを。
あなたの元へ行くまでもう時間が無いというのに。
もしかして後悔?これは後悔というもの?
いま必死になって色々と書いているけど、私ひょっとして後悔している?今更?
お友達を悲ませるのを嫌がっている?
私が?
そんな馬鹿な。
* * *
紙の本が好きだった。
指に馴染む滑らかな手触り、インクのにおい。
薄く滲んだ文字。
ページをめくる音。
残念なことに、人生最後に書いた小説は
紙の本ではないのだけれど。
こうして書けたこと、読んでくれたこと本当に嬉しく思う。
そして、誰かがこれを読んでくれたとき、私は天国へ行ける。
なんちゃって。