Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来 作:あるすとろめりあ改
──G元素。
結論から言えば、それは正体不明で現代の判明している物理法則に反した未知の物質の総称だ。
1974年にカナダのアサバスカに月から飛来したBETAの落着ユニットをアメリカ軍が核攻撃をもって破壊したが、その残骸はロスアラモス国立研究所に回収され、そこで発見された物質こそがG元素。
尚、その名は発見者のウィリアム・グレイ博士に因んだものである。
例えば、グレイ・ナインと呼ばれるG元素は309ケルビン、つまり摂氏約36度で超伝導に移行する室温超伝導体である。
現在実用化されているレールガンやSMES、ハイドロゲンリアクター等に利用されている超伝導体は二ホウ化マグネシウムであり、これは39ケルビン(マイナス234.15度)で超伝導状態に移行する為に冷凍機が必要不可欠になる。
もしもこれをグレイ・ナインの様な室温超伝導体に置換できれば……冷凍機が不要になり軽量化が図れるだけでなく配線なども超伝導体に出来ればさらなる効率化も可能だ。
しかし、単純にグレイ・ナインに置換すれば解決……という話ではない。
G元素はBETA由来の希少物質であり、落着ユニット以外ではハイヴの最深部から採取するしか方法が無いからだ。
故に、現状においてG元素を保有しているのはロスアラモス国立研究所……実質的に米軍と、オルタネイティヴ計画の為に保管・研究を行っている国連のみである。
僕の今までのスタンスや成果を鑑みれば、例え入手する機会があったとしてもグレイ・ナインに頼った室温超伝導体を良しとする訳がない。
より高温で超伝導体に移行する物質が既に実用化されているにも関わらず二ホウ化マグネシウムを態々選んだのも、ホウ素は岩石や泥から、マグネシウムは海水から幾らでも生産できるからだ。
BETAによって生存圏が指数関数的に削り取られている人類と地球にとって、入手性と量産性に劣った手段は致命的にすらなる。
故に、僕が欲しているのは……グレイ・イレブン。
悪名高きG弾の原料ともなる物質だ。
米軍は、一昨年にG弾の起爆実験が成功した事もあって虎の子であるグレイ・イレブンを手放す気はさらさら無いだろう。
であれば、何とか国連に交渉した方がまだ目がある。
それで、古鍛冶サラにその交渉の橋渡し役を依頼していた訳なのだが……
まさか、アメリカの地に足を踏み入れる事になろうとは、想像もしていなかった。
○
1989年8月19日
アメリカ合衆国 ニューヨーク州 ナッソー郡
古鍛冶サラから伝えられたオルタネイティヴ計画周りの騒動の話から一ヶ月ほど経った今日このごろ。
陸軍と斯衛軍、更には情報省から選抜された護衛チームと邦畿計画の参画企業から選出されたエンジニアを伴って、我々は伊丹から15時間ほどのロングフライトでニューヨークに訪れていた。
ニューヨークのジリジリとした夏の陽射しこそは容赦なく照らしていたが……その街並みは、まあ全く見えないこと。
見渡して視界に入るのは、深緑色の軍服と、和服を象ったカラフルな軍服、そして光という光を総て飲み込まんと言わんばかりの漆黒のスーツを纏った屈強な護衛たちの背中のみ。
空港からの移動の為の車も、大統領専用車両であるビースト顔負けのマッシブで頑強そうな如何にもという形相で、最早自動車というよりも装甲車の類であった。
更には車内でも中心に押し込まれてしまった上にスモークガラスで囲まれていたから車窓から満足に外を見ることも適わなかった。
一国の首相や大統領も斯くやと言わんばかりの警備体制であったが、己の立場を鑑みれば……妥当であろうと思えてしまうのが悲しいところである。
「見えてきました。あれがグラナン社です」
前席に座る篁大尉のそんな声が聞こえたが、身を屈めてもやはりその光景は見えなかった。
やがて、徐行して間もなく停車する頃かと思った頃に、漸くモスボール処理されたF-14がまるで彫像の様に
……F-14 トムキャット。
その戦術機は、第二世代戦術機の祖として確かな成果を示し、そして評に違わぬ性能を発揮した機体であったが、既に米海軍では当初の調達予定よりも下方修正されその配備数はほぼ打ち止めと成りつつある。
その理由としては、当時の技術の粋を結集させたが故の高コスト化と米軍におけるドクトリンの変移に依るところだろう。
かつては強力な火力を誇るAIM-54 フェニックスミサイルを前線まで送り込む為のミサイルキャリヤーとしての役割が大きかったF-14だが、現在では戦術機の肩部に担架できる中距離対応のミサイルシステムが開発され、また火力においてもハープーン等のSBM(対BETA誘導弾)を搭載できる車両がある為、フェニックスミサイルの存在は中途半端に陥ってしまった。
更に、ユーラシア大陸における前線でのBETA戦のデータを大きく反映した為に近接戦闘においても高い適性を見せているが、米軍では80年代初頭から既に損耗率の高い近接戦闘には見切りをつけており、産まれ落ちたアメリカにおいてはその性能や特長が十全に活かされる事は終ぞ無かった訳だ。
だから新天地を求めてその設計図や技術が横流しされた事でSu-27等のソ連機が造られる事になる訳なのだが……それはまた別の話。
「お待ちしておりました、ドクター・スワ」
護衛の山が漸く崩れて見えた先から現れた老齢の紳士は、このグラナン社のCEOロイ・グラナン氏であった。
航空技術者兼テストパイロットでもあった彼が興したこの会社は、航空機や戦術機だけに留まらずかのアポロ計画において月面着陸船を手掛ける等、宇宙開発の分野においても多大なる貢献を齎したと言えるだろう。
まあ……最近はF-14の調達量削減などもあって業績は芳しく無い様子であったが。
「お会いできて光栄ですロイ社長」
「いえ、それはこちらこそ……どうぞ、お座りください」
広めの会議室に通され、一番奥の席に座ると脇を篁大尉と菊丸さんが固め、背後にも護衛が起立して部屋全体を睨みつける格好となる。
グラナン社の面々とは距離があり、その為に席の前にはマイクが備え付けられており、声はスピーカー越しに聞こえる様になっていた。
ざっと見渡したところ、経営陣と思われるメンツの他に少し異質な人物が目に入る。
F-14の開発者としても著名なフランク・ハイネマン氏。
その姿もあるということは、この場で直接戦術機についても具体的に議題として挙げたいと言う事か……?
心なしか、彼は篁大尉へ特に視線を向けている様に見えた。
「ドクター・スワ、まず前提として我々は貴方達と国連の取引には一切関与しておりませんので、飽くまでこの場はグラナン社としての立場でのみ臨ませて頂きます。その事はご承知ください」
G元素を得るためにアメリカに訪れたにも関わらず、何故我々はグラナン社にいるのか?
その理由が、このグラナン社を隠れ蓑とした三角交渉を行う為であった。
構図としては、アヘン戦争のキッカケともなった19世紀頃のイギリス・インド・中国における三角貿易が近い。
銀貨の流出量を抑えつつ茶葉を得たいイギリスは、綿製品をインドに売るというワンクッションを挟むことで銀貨を獲得し、そしてインドも中国にアヘンを売ることで利益を出し、中国もイギリスに茶葉を売れるので銀貨が循環した事で三方良しのwin-winの関係が構築された…………まあ、ご存知の通り売り物がアヘンであったが故に戦争にまで発展してしまったのだが。
今回のケースでは、まず我々がグラナン社に彩雲などで培った戦術機関連技術を提供し、その見返りとして須和恭太郎がアメリカへ渡った上でピンポイントでニューヨーク州へ訪れているアリバイを構築できる。
恐らくはグラナン社も国連や国連軍と何かしらの取引が交わされているのだろうが、その内容までは関知していない。
そして、また国連ともG元素を得るための交渉を行い、目的通りにG元素を入手できるという訳だ。
尚、この迂遠な絵を描いてくれたのは古鍛冶サラである為、綺麗なトライアングルという訳ではないのだが……まあ、そこまで詳細な構図にまで思考を延ばす必要は無いだろう。
「まずはこちらをご覧ください……ミスター・ハイネマン、例の資料を」
「はい、畏まりました」
「すみません、暫し部屋を暗くします」
人の良さそうな笑顔を湛えながら、ハイネマン氏はラップトップを操作してスクリーンにプロジェクターが投影される。
チラと視界に、ラップトップはJEC*1の、プロジェクターにはEPSOP*2ロゴがそれぞれ映り、邦畿計画の影響はここまで及んでいるのか……等と感心しながらスクリーンに目を移す。
「これが現在、我が社で検討しているF-14の改修案です」
資料にある改修案は3つ、まず1つ目のST-21。
Super-Tomcat-21(21世紀のスーパートムキャット)と称されたその機体は、まずエンジンを推力不足が指摘されていたT30-PW-410エンジンからF-15Eにも搭載予定であるFE110-GE-129エンジンに換装し、更にAIM-54 フェニックスミサイルの搭載能力をオミットし肩部に補助スラスターを設ける事で機動力と運動性を大幅に向上させている。
また、エンジンの換装に伴い跳躍ユニットの形状にも手が加えられており、可変翼を納めるグローブを大型化することで燃料搭載量を増加させ、空力的により優れた形状へ変更することで巡航速度を650km/h以上に、更に推力偏向ノズルを設ける事で肩部の補助スラスターと併せて大きく運動性能に寄与する設計にすることで本来の未来における第3世代機相当の性能に達しており、言うなれば2.5世代というところか。
次いで、AST-21。
こちらはAttack-Super-Tomcat-21という名が表す通り攻撃的な仕様で、アビオニクスに大幅な手が入っている。
まずメタルケーブルから光ファイバに変更し、オペレーション・バイ・ライト方式を採用。
更にセンサーやレーダーも一新し、フェーズドアレイレーダーの採用等に伴い、中近距離における火器管制能力に特化した仕様となっている。
更に装甲の一部には複合材を採用し、上腕と下腿の外側にスーパーカーボン製のブレードベーンが装備され、近接密集戦闘にも対応している事から、最前線やハイヴ攻略戦をも見越している事が伺える。
反面、跳躍ユニットに関しては燃料タンクの増設と翼型形状の変更に伴う空力向上に留まり、機動力という点に関しては前述のST-21に大きく劣っていると言わざるを得ない。
そして最後が上記の2つを統合したASF-14。
Advanced-Strike-Fighter-14(先進型攻撃戦術機)、F-14の名が計画名にも記されている事から、この改修案がグラナン社の本命であることを如実に表していた。
これは米国防総省高等計画庁(DARPA)、米国陸軍、NASA、そしてグラナン社による共同研究計画であるATDP(先導技術実験機計画)において製造されたX-29のデータが色濃く反映されており、本来の未来における基準では第3世代戦術機の試案とも言うべき存在である。
更にはYF-22やYF-23には劣るが、ステルス技術の投入が図られており、未だ勝敗すらつかない状況から実戦配備も遅れるであろうとの予想から間に合わせの為の提案も兼ねている様子。
当然、より高いコストが要求されるが、それでも試算ではF-18E/F スーパーホーネットよりも安価に製造できる事が資料でも示されていた。
しかし……つまり、前述の2案と異なりこちらは殆ど新造に近く、これはホーネットからスーパーホーネットへ改修する際にも同様であるが、機体サイズや燃費消費量、そして運用コストの面ではF-18に劣る事は避けられない。
「ドクター・スワよりは事前に新型フレーム技術の提供についてお話を頂いておりますが……それを踏まえた上で、我々の改修プランについてのご意見を頂きたいと思っております」
「ふむ……」
ST-21とAST-21は既存の配備されているF-14の設計から大きく逸脱しない程度の改修に留められ、短い期間とより低いコストで性能向上を目指し、顧客である米軍や国防長官そして上下院議員に気に入られやすいプランと言える。
しかし、それは採用されたとしてもF-14を数年間延命させる事しか出来ない。
その点ではASF-14が最も未来のある仕様と言えたが……米軍における次期主力機という土俵においては、余りにも敵が多すぎた。
米海軍と海兵隊においてはより低コストで運用できるF-18が続々と採用されており、また米陸軍ではF-4からF-15への機種転換が絶賛実施されており、更に先の将来においてはATSF計画の勝者……恐らくはF-22が採用されることは確実。
つまり、米軍という枠組みにおいてはF-14の居場所は無いと言っても過言では無かった。
であれば、F-14の生き場とは……アメリカの外、海外に活路を見出すしか無いだろう。
「そうですね……私見を述べさせて頂くとすれば、ここは思い切ってASF-14案を採用し海外輸出を主眼に置く他に無いかと」
「しかし……こう言っては何ですがね、コストパフォーマンスの点においては貴国のType-86 彩雲に、また価格ではマクダエル・ドグラムのF-15に劣るのは明白。正直、輸出も難しいと言わざるを得ませんがね」
ハイネマン氏からの苦言も当然であった。
彩雲は言わずもがな、その彩雲に模擬戦で大敗を喫したF-15C イーグルはセールスで大きく躓き、赤字覚悟の大幅値下げが敢行された。
当初は海外向けに5000万ドル程度とされていた機体価格は3000万ドルにまで落ち込み、これは米軍の調達価格とほぼ同額である。
これで割を食ったのが当然としてグラナン社とF-16を有するゼネラルダイナミクス社であった。
特にF-16 ファイティングファルコンは高額なF-15の穴を埋めるためのHigh-Low-mixのLowとしてその安い調達価格が最大の魅力であったが、F-15の値下げに伴い諸外国向けの調達価格の割合はおよそ1:1.5まで縮まってしまい、多少無理をしてもより性能の高いF-15や彩雲を……という事になってしまい、かなり苦境に立たされている。
とは言え、F-16に関してはLowとして米軍に需要があるのでまだマシと言えたが……F-14に至ってはそこにも活路はほぼなかった。
「ですが……ASF-14案はA-6やA-10といった攻撃機の後継機としても想定されており、その役割を兼任できる様に6銃身ガトリングガンや120mm砲門、ミサイル発射管を備えたウエポン・ユニットを装備した状態で射撃を行ったとしても失速しないという特長を持っていますよね?」
「ええ、まあ……」
「であれば、そこもセールス・ポイントとして訴え、かつコストもできるだけ抑えれば勝機はあります」
そして、僕が新生F-14案として幾つかの設計見直し案と自律稼動フレームの他にも技術提供の提案を行った。
まず、自律稼動フレームの仕様をそのまま採用すること。
これは既に彩雲と嚮烏で実績があり、かつOFRPという素材さえあれば比較的技術的難易度は低く生産できるというメリットがある。
「しかし、米国ではミノムシの生育が困難と聞きます。輸入で調達するとなればやはりコストが……」
「その点に関しましては、代替案があります」
「代替案……?」
「はい、ミノムシではなく蜘蛛の糸を用いるという手段です」
そもそも、OFRPにミノムシの糸を採用したのは未来における基礎研究によって蜘蛛の糸よりもミノムシの糸の方が幾つか優れた特性がある事が発見されたからである。
もしもオオミノガが絶滅していたり、大量に糸を調達できる採集技術が確立していなければ諦めて蜘蛛の糸に切り替えることも想定をしていたぐらいには、数値的にも蜘蛛の糸が優れていることは認知していた。
タフネスという面においてはミノムシの糸が抜きん出ており、衝撃吸収性能は絶対的に前者が優れているのだが、その他の耐久性等の面においてはそもそもスターライト樹脂や炭素繊維、アラミド繊維との複合材であるからある程度補う事が可能だ。
「アメリカ国内でも蜘蛛の糸の工業製品化や利用に関する研究は行われていたみたいですし、それを可能にする道筋についてはこちらから改めて提案させて頂きます」
「まさか……本当にアメリカ国内でOFRPとフレームの製造ができると……?!」
「ええ、とはいえこれらの技術を無制限にバラ撒かれても困るので包括ライセンスとして保護させて頂きます」
まあ、とは言え、だ。
これで自律稼動フレームのシェアが伸びるのは長期的な視野において、日本の産業面でも人類全体の戦略面でもプラスになるのは間違いない。
特に互換性に関しては徹底させるつもりなので、自律稼動フレームをアピールする時に嘯いていた他機種のパーツとの緊急措置的なニコイチ……という運用法がより現実味を帯びてくる。
まあ、オリジナルの自律稼動フレームとこの蜘蛛の糸を用いた物やCFRPを用いたものとで混交しない様に更なる規格の区別等を改めて策定する必要はあるが。
「更に装甲材としてカグツチの技術提供も併せて行わせて頂きます。軽量化という点においてはスターライト樹脂のみを使用した場合よりも劣りますが、防御性能はそれに見合うだけの向上を見込めます」
「あのAPFSDS弾を無効化したという……?」
「はい、こちらも彩雲に採用された物と同様のものを提供させて頂きます」
カグツチに関しても、正直さっさと世界中に普及してくれ、という想いが心の内の何処かにあった。
何せOFRPと併せて、これらの材質が世界中の戦術機や戦車、航空機に採用されればそれだけで生存者が増えるのだから。
BETAの最もたる脅威はその物量であり、既にその半数以上をBETAとの戦いで喪なっている人類にとって、一人でも多く生き残るというのはそれだけで値千金以上の価値があるのだ。
更に言えば、カグツチ以上の防御力を持った装甲材にも、逆にカグツチを容易く破る攻撃手段に関しても既に目処が立っている。
後者に至っては
「さて…………ここまでは企業間取引の範疇ですが」
「?」
「外交の領域まで踏み込む勇気と意気込みがあるのであれば、我々はレールガン、そしてその発射を可能とする電装品等の輸出も我々は想定しております」
「は────え、レールガン……?」
「流石にこちらは技術のお渡しはできません。飽くまでもF-14専用装備としてレールガンとその蓄電装置のセットをお売りする事が可能である、というだけです」
「いや、しかしそれは……あの、最初にもお伝えしましたが、我々は貴方達と国連の取引には干渉できないのですよ……?」
「勿論、それは重々承知した上でのご提案です」
ここまでの提案で、グラナン社の者達は重苦しい空気に包まれていた。
これが逆の立場であれば、警戒するのは当然であろうと理解できたが、こちらが幾ら言葉を取り繕ったところでその緊張を解すことは不可能だろう。
そんな中、微笑を浮かべたままではあるが、明らかにこちらを探る様にした目をしているハイネマン氏が問いかけてくる。
「何故、ここまで尽くされ様とするのか、その理由をお尋ねしても?」
「そうですね……この提案自体が我々にとってメリットを見出だせるというのと……あとは、中途半端にしたくないからですね」
「中途半端に、したくない?」
「ええ、まあ。これは戦術機に限った話では無いのですが……自分が手掛けたり開発に関わった物が、資金や技術的な障害を除いて自分に余力があるにも関わらず中途半端に手を抜くというのは……正直、私の性根やポリシーが許さないのです」
これは、何も手を下さなければ、人類は確実にBETAに敗れて滅びるという未来を知っているから、とも言えたが…………
それだけでなく、ある種の一つの作品として、やはりその一つ一つに全霊を込めてあたりたいという
技術者というか芸術家じみた話だが、これが本音。
勿論、冗長性や将来性等を鑑みて敢えてオミットしたりもするが、それも長期的に見た上でそれが最良であると判断した上での選択である。
「ふむ、なるほど……どうやらボクの期待通り、貴方のことは信頼出来そうだ」
この時初めて、ハイネマン氏はそれまでの貼り付けた仮面の様な笑顔から一転、無垢な子供の如く純粋な笑顔を覗かせていた。