郡カズキは英雄である   作:真の柿の種(偽)

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 散るのならせめて、光を放ちながら燃え逝きたい。
 そう、思っていたけれど。


この命が輝く与えられた刹那に

 マークザイン、マークニヒト。真壁一騎、皆城総士。二つの力と二人の因子で生み出された存在。

 人の形をしたファフナー。存在と虚無のザルヴァートルモデル。大きな力をより使い勝手の良い形へと作ろうとして造られた、真の救世主となる器。

 

『……『真壁一騎』を名乗った少年とずんくんは、ここにいるロボットさんたちとおんなじ』

『…………』

 

 とのことらしい。

 金属質な装甲と、若くハリのある肌。淡い紅色をした頭部の機械的なクリアパーツと、人の瞳孔と眼球に瞼など。関節部を繋ぐボルトや背部のスタビライザーなんてものは、この身体には一切存在しない。生体で出来ているこの肉体と合致する点など、どこにも見当たらない。一笑で捨て置けるような戯言にすら聞こえる誇大だ。

 

『で、でもっ! 郡くんは人だよ!?』

『……そう、人の身体』

「形だけが人。……中身は、違うんだな」

 

 だというのに、納得だけが心の内を独り占めている。

 目の前に鎮座する白い救世主の腕と、人の形を失ったカズキの右腕は、あまりに酷似して、その相違はサイズ感だけだった。人としての形を剥がせば、その実態は無機質な兵器なのだから、その腕に機械の手触りが宿るのも道理だ。

 

『――『一人でも多くの味方を生かす』、『一体でも多くの敵を倒す』』

「ザインとニヒトか」

『……そして『一秒でも長く戦い続ける』。この三つの考え方を元にして、昔の人達は戦っていた』

 

 何を聞いても、何を知っても、後を追いかけてくる納得が気持ち悪い。歯切れが悪く感じて仕方がない。致命的な違和感だけを感じて、その違う部分から目を逸らそうとしている自分が気持ち悪い。

 だって、どこかで辻褄が合わない。

 

『派閥争いみたいなことも起こってたみたい。……詳しいことは分からないけれど、その結果として一番に過激な人達の意見が通ったから……きっと』

「……」

『…………『一体でも多くの敵を倒す』。この方針を掲げてた人達は、敵を滅ぼすことのできるファフナーを、パイロットごと開発することにも元々着手していてね』

 

 前提を思い出そう。この身は紫と白の機体が並ぶその狭間で、結晶に囲まれて眠る者達から――――『真壁一騎』と『皆城総士』から生まれた命。これは、いい。自分は普通の人間と多少を越えたズレがあったことなど、初めの戦いからから知っていた。残滓のような記憶がカズキを度々動かしては、強い懐念を心に遺していくのだ。概ねの予想も諳んじることも出来るし、その予想は大きく外れてもいない。

『郡カズキ』とは記憶を喪失した器。中身だけが行方不明な、空っぽの存在。そして、前任者へと命を返すためだけに存在している、ただの繋ぎの域を出ない存在。

 そうあるべきなのだ。

 

『彼等の設計思想は、形を変えて達成したってことになるのかな』

『……それが、あそこにいる二人と……どう関係があるの……?』

『……あの二人は、英雄』

 

 自分には覚えのない記憶が時として浮かび上がろうと、それは自分よりも以前の『真壁一騎』の記憶だ。だから歓迎だってした。戸惑ったこともあったが、自分の知らない過去を取り戻せていると、喜んだりもしたものだ。

 ――――乃木の語りは、おそらく真実なのだろう。何故なら思い出していくように浮上する知識と記憶は、彼女の発する単語の一つ一つとが合致している。

 

『世界を守るために命を尽くし、未来へ希望の種を残した存在』

『…………生きてる、の?』

『魂はどこにもいない。今日までずっと目を覚ました事例も無いから、多分、あの二機の中に消えちゃってる……かな』

 

 乃木の語りは、真実だ――――――――乃木の語る()()()()()()は、カズキの保持する自分以外の記憶と合致していた。

 そういうこともあるだろう。生まれが常識から外れ、超常の手を加えられていたのだから、先祖の記憶を引き継ぐくらいのファンタジーは起こり得ると想定しようが不思議はない。――――――――――――――――どうして、三百年前の記憶以外を思い出せない?

 

『さっきも言ったでしょ? 二人の英雄を模して生み出されたって』

『なら……本当に、一騎くん――……郡くんは』

「クローンだ」

 

 思えばずっと不思議だった。島の人達や、戦うための知識。敵へ対する警戒の知識と記憶に、それへ付随する敵愾の感情。ファフナーの存在を直接肌で感じた際に溢れる懐古。そのほとんどが三百年前の戦いに起因する記憶だ。

 仲の良かったハズであろう結城との思い出は一つも思い出さなかったことに、何故疑問を覚えなかったのか。

 

「俺は、量産品だったんだな」

『――――違うよ』

 

 結城だけならまだ偶然だと、そう言って切って捨てられるかもしれない。だが乃木は此処へ訪れる前に、勇者部が戦う以前の戦いを少し語った。二年前の渦中に居たであろう東郷もそれを否定せず、その反応の数々は事実だと物語っていた。『真壁一騎』もその戦いに参じて、その果てに記憶を失ったものだと。

 だったら、東郷達との思い出も浮かび上がらなかったのは、何故。

 

『それだけは絶対に違う。…………二度と、そんな言い方しないで』

「……」

『……なあカズキ、確かにお前は普通の生まれじゃないかもしれない』

 

 まるで切り離されていたような不自然さに気が付いて、目を背けて。

 嚙み合わせの悪い認識が反魂を繰り返して、不健康な動悸が胸中で激しくがなり立てる。

 

『けど、ちゃんと心があるだろ』

「……心」

『誰かを守ろうとする優しさ。誰かの痛みを知る共感性。誰かのための義憤。……お前の持つ感情の数々は、いわゆる心ってものからしか生まれないんだ』

 

 目に光が薄らと戻ってきている。耳にも周囲の環境音が届き始める。三ノ輪に施された薬は本当によく効いている。停止していた感覚の数々が、染み込むように活動を思い出していくのがよく分かる。

 それが怖い。何も認識したくない。何も読み取れないままでいい。

 感覚も自意識も全部塞がってしまえば、その齟齬に疑問だって感じなかっただろうに。

 

『ずんくんには、優しくてあったかい心があるんだよ』

「――――、……」

『それを決して忘れないでね』

 

 嘘だ。

 嘘なんだって。

 

「…………ッ……」

『……カズキ君?』

「…………」

 

 嘘でしかないのだと、誰かからの保証が欲しい。

 そんなことはない、そんなものはありえない、全部がカズキの気のせいで無意味な杞憂の域を出ないと、心から信じられる裏付けを寄越してはくれないか。

 

「……乃木」

『なあに?』

「…………きっと俺には、三百年前の――――『真壁一騎』と『皆城総士』の記憶がある」

 

 ――聞くな。

 

『……多かれ少なかれ、ずんくんへの影響は確かにあると思う』

「既視感がダブることも何度かあった。知らない記憶が湧き出ると、それに伴った言葉も漏れて…………その瞬間は、自分以外の誰かが乗り移ってたみたいだった」

 

 ――聞いては、ならない。

 

「島での記憶。仲間達。敵への知識。力の扱い方。……強い、とても強い、島への求心。……俺もその島を結構探したんだ。けど……その島が四国のどこにもないのは、昔の話だったから」

『うん……ずんくんの記憶に在る島――竜宮島は眠りについて、三百年前を境に行方をくらませたんよ』

「…………」

 

 ――聞いてしまえば、決定づける核心を見つけてしまう予感がする。

 

「乃木」

『……なあに?』

 

 ――疑心の当てが外れていないなら、決裂は避けられないという確信がある。

 

「……………………俺と、乃木と、三ノ輪と、東郷は……」

『……』

「一緒に戦ってたんだよな……?」

『…………』

 

 乃木の答えは、沈黙だった。

 

「……そうなんだよな、三ノ輪……?」

『…………っ』

 

 三ノ輪は、目を逸らした。

 

「……お前も、覚えてるんだよな……東郷…………?」

『ええ、そしてその戦いの後遺症で、私と一騎君は記憶を失って……』

『――――っ』

 

 乃木が唇を噛み切って、三ノ輪が苦虫を噛み潰した、そんな顔色。二人の様子は、自身の記憶を澱みなく諳んじる東郷とはあまりに対照的で、オマケにクロッシングからも伝わる二人の焦燥。喪失にも近いやるせなさも、隠したい存在へ――カズキへ隠せずに流れてくる。

 開かれ始めた感覚は、不自然な点を逐一逃さず認識させ、揃い始める材料を吟味した並列思考は冷徹に、その答えを導き出す。それが心から恐ろしかった。

 

「乃木、三ノ輪」

『……』

『……』

 

 意を決するのが、イコールそのまま正しさへ直結するわけではない。致命的な気づきを獲得して、後戻りもできない事だってあるかもしれない。

 何より、痛ましい表情がカズキには毒だ。二人は恩人だ。記憶が始まって間も無い頃に支えてくれた、掛け替えのない存在。そんな二人の表情をこうまで歪めるのは、カズキの本意とはほとほと遠い。

 ああ、でも、自分への抑えが効かなくなり始めていく――――カズキは、知りたいのだ。

 

「……………………俺は、誰なんだ?」

「その問いなら私が答えましょう」

 

 後ろから、声がした。

 

「乃木園子と三ノ輪銀には荷が重いでしょうから」

「…………なん、で、貴女がここに……!」

「可笑しな事を。人形の管理は我々の管轄だと知っているでしょうに」

「……にん、ぎょう?」

 

 結城が車椅子をその方へ向けてくれて、その全貌を目にした。

 クロッシングとは無関係な存在が発した声に、カズキは呆然と単語を繰り返す。その様子で乃木は、カズキの五感が戻りつつあるのに気がついたのだろう。

 

「噂はかねがね……。初めまして郡カズキ、私の名はマリア・H・ギャロップ」

「……どうも」

 

 ワインレッドのスーツはギラギラと目に痛そうで、歳老いた老婆にはそぐわない。しかし見た目以上のバイタリティを感じさせる強い――強すぎる眼差しが、その派手な服装も痛々しさを起こさない。

 老婆と言い切れる歳の頃。でも彼女と似た人相が、英雄達の薄ぼやけた記憶に覚えがあった。

 棘が食い込む。無視のできない予感が、コイツの話を聞いてはならないと警鐘を響かせ――――その煩わしさしか生まない口内に風穴を作ってやれ――――と、ニヒトとの共鳴がザワつき始める。

 コレが――――否、コレの先の祖こそ、カズキの内で眠る怨念達の元凶だって叫んで、軋む。

 納得感のある憎しみが、心から湧き上がりそうだった。

 

「少年、貴方は自分が何者であるのか、その答えを知らなくてはなりません」

『……っ! ずんくん聞いちゃダメ!!」

「そうして貴方は、真に世界を救うための存在となるのです」

「違う……! ずんくんは貴方達の為にいるんじゃない!! ずんくんはずんくんが自分で選んで、いまここに立っているの!!」

 

 甘い誘惑だ。それも滅茶苦茶に破滅して、未来が真っ暗闇に支配されるやつ。

 だが残念なことに、そんなのどうでもいい。救世がどうのではない。世界だの、平和だな、事ここに至ってはそんなものどうだっていい。

 自分が何者であるかの答えを、この老婆は持っている。

 特定個人に対する誘蛾灯として、十二分を超える導きを。

 

「出て行って! 軍の人がここに来るのは禁じられていたでしょ!?」

「貴方に託された本当の役割を知りたくはないですか?」

 

 乃木の声をいない者かのように、その声はカズキだけに向けられていた。

 真摯な態度のように見える。見える、けど。

 どこまでも張り付いた警戒心は拭えず――――でも、そんなのどうでもいい。

 

「…………知りたい」

「……郡くん」

「俺は知りたい。……俺が、何者なのか……! 俺はどうして生まれたのかを……!!」

「そうでしょう。貴方の信じていた者は隠し事ばかりをして、挙句に命を削って戦う貴方に嘘までと、散々な様子……。私とて貴方に守られていた命。であればささやかな報酬くらいは差し上げなくては、大人として落第点です」

「……本当に、教えてくれるんですか?」

「ええ、もちろん。――――約束を平気で違え、少女達を戦場へ送り出すような白状者達とは違います」

「――――なんだと?」

 

 三ノ輪が訝しみ、怒りを込めた視線を老婆へぶつけているらしい。老婆と言葉を交わすのを妨害しようと、乃木が必死な形相で横槍を入れようとしてくる。

 全部どうでもいい。知りたいだけだ。納得したいだけだ。命を削って、擦り減らして、摩耗して、そうまで頑張っていたのだから、知りたい事を教えてくれるくらいの褒美が欲しかった。何も人並みの寿命が欲しいだなんて()()()()を求めてなんかいない。ただ、単純にかずきは知りたいだけだ。

 そうして心を新たにして、また戦うための動機を補強して、勇者部のみんなのために命を使って。それでよかった。

 例えばその真実がどれほど残酷で、カズキの心を踏み躙っても――――――――カズキを裏切った千景よりはマシなんじゃないかと、そう思った。

 

「お願いやめて言わないで!! お願いだから!!!! やめてやめっ、やめて、お願い!!!!!」

「郡カズキ――「やめてぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 身体が前のめりに出るのは、心がそれを求めているからだ。

 自分の正体。自分の本当。自分の役割。自分の居場所。

 自分が存在することを、他ならぬ自分自身が赦せるに足る、理由(レゾン)が欲しい。

 

「貴方は「そこまでだ婆ちゃん!!」

 

 背から飛び出す強い気配。赤い軌跡を残し、乃木の意志の通りに老婆の口を止めようと、実力行使に文字通り走った。

 一直線に疾く届く。二度の満開を終えた勇者は、力が上がる。踏み出した脚の迷いのなさから、一線を退いても鍛錬は怠らなかったのも窺える。

 結城に引けを取らない爆発力が、三好にも劣らぬ最高速度を叩き出したのと同時、老婆の背後に出現する暗黒の球体。

 そして、その腕が老婆を捉える寸前――――三ノ輪の進路を侵す、紫の鋭利なアンカー。

 

「――んなっ!?」

「俺は、知りたいだけなんだ……」

 

 ()()()()()()()()、無意識に勇者バリアが起動した。

 三ノ輪の眼前で、アンカーと火花を散らす赤色の障壁。刹那の拮抗の瞬間に、ワームスフィアの中より矢継ぎ早とアンカーはさらに殺到。

 計四本の刺突が、三ノ輪を元いた位置へと押し除けた。

 

「グっっ!?」

「邪魔を」

 

 鬱陶しい車椅子を同化して砕いた。もうここから先はザインとニヒトの接続を切らない。この瞬間から命を早々に使い切っても構わない。その覚悟を急ピッチで決めた。

 足場をつたって、翡と翠の結晶が咲き誇る。

 

「カズキくん!?」

「郡君!!」

「ずんくん!!!!」

 

 戦う意志を示そうと、手元に置かれたスマホへ指を伸ばす乃木。床へ手を付いて、体制を立て直すと共に飛び出そうと全身へ力を込めた三ノ輪。

 状況が飲み込めずとも、皆を落ち着けるべく実力を行使しようとする結城。乃木と三ノ輪へ加勢せんと、老婆を取り押さえに掛かろうとする東郷。

 勇者四名の足首を絡め取り、美しい硬質の華は全身を包み込んで――――――――

 

「ずんく――――「するならァッッ!!!!!!!!」

 

 ――――――――全員の結晶が、砕けた。

 立っているのは、カズキと、老婆だけ。

 

「満開を終えた勇者達をこうも容易く……――――実に素晴らしい」

「……」

「彼女達に危害を加えてしまえば、彼女達の輪にはもう戻れないでしょうね」

「元々俺に……戻る、場所なんて……」

 

 勇者部は、たぶん、違う。

 病院は、当然違う。

 千景の住む家は、当たり前だが、違う。

 そして『郡カズキ』が、本当に帰る場所は、きっとどこにも――――。

 なら、何も問題など。

 

「…………教えてください、全部」

「ええ、貴方の覚悟に免じて、一つと言わず全ての疑問に答えましょう」

 

 砕け、散らばった破片が足場から転げて、泉へ落ちては波紋を生み出す。

 ぽちゃり、ぽちゃん、ちゃぽん。破片の大きさに音は左右されているようだ。

 

「嘘は……どうなるか、保証できませんから」

「偽りかどうか、今の貴方ならば簡単に読み取れる。……違いますか?」

 

 紫電をチラつかせても眉一つ顰めない。過剰にも程がある力を差し向けると、暗に命をすぐにでも奪えると伝えても、不敵に笑みを浮かべる表情は崩れない。どうやら脅しの類は通じないらしい。つまり、この老婆は虚偽を吐けば本気で命が危ぶまれると確信している。

 ならその口から紡がれる意味の数々は、少なくとも嘘偽りに塗れていることも無いのだろう。真実を弄しているか否かは、自分自身の裁量で判断するしかないのだろうが。

 ――――静謐に降り注ぐ紅の煌めきが、前髪の隙間から視界に映り込んだ。

 その美しさにようやく気がついた。雪のようにしんしんと、宝石のようにきらきらと、この空間をより神秘的に彩る役割を担っているのだろう。命が瞬くような希望すら感じられるその場所は、確かに、美しいのかもしれない。

 でも今カズキには、血の飛沫が舞っているような。

 不気味で、目を背けたくなる美しさばかりが心を占めていた。

 

 

 逸る心が何度も指を動かして、最下層のフロアを示す数字を無意識に叩き続けて。

 目的の場所への下降が待ち遠しい、なんて一言では表せない。心が汗ばみ、心臓が捻転している幻痛すら。そうさせるのは焦燥だけではない。焦りとはまた別に、時を置くほどに罪悪感も心へ募り重なっていく。

 痛い。心臓が裂傷した。とても痛い。心臓が穿通した。死んでしまいそうだ。心臓が破裂した。叫びを枯らしたい。心臓が溶解した。崩れ落ちて消えそうだ。心臓が剥離した。もうやめたい。心臓がばらばらになった。痛くて痛くてたまらなくて、生きることに苦味を感じて、この世界で息がし辛くて。

 体に不調はない。不備もない。異常などどこにも見当たらないのに痛いのは、自分も肩場を担う咎を受け取るたびに心臓が痛むのは、自分を奮い立たせる防衛本能がそうさせる。

 痛みを得れば再確認できる、自分よりも痛みを背負わされた少年の存在を。妄執と同義の希望を果たすために奔放を続け、運命に翻弄されて、それでも戦うために命を使うことを選んでくれた彼。

 一番辛いのは、直接戦う者達。一番苦しいのは、命を削る者達。痛みを一番に背負うのは、彼と、勇者部の少女達。それらに比べればほら、心臓が、胸が痛い気がするだけの自分はなんて取るに足らない存在だろうか。

 忘れてはならない事実を定着させる痛みを甘受して、自罰した気になってそこそこの満足を得て、役割を果たすためにこなせる限りの尽力を奮う。そんな生温いだけの無駄な時間は終わりを告げていた。

 

「……」

 

 喋る者在らずは独りなのだから当然の話。そして独白を言ちることも無いのなら、狭い鉄の箱の中を支配する反響は、カチカチと何度も打たれては色を点滅させるフロアボタンだけに限定される。

 地上からの入り口から泉のブルグまで、途中のフロアに止まる事なく進めば十分も掛からない。けれど一秒一秒が厭な時ほど長く感じてしまうのは、往々にして都合の悪い時に起こる特有の現象なのだ。思考の回転を繰り返し、思案の時間を高めることでこれからへの準備に勤める時間でもある。

 

「……、……っ」

 

 備えが済んでいようとなかろうとお構いなしに、エレベーターはやがて揺れを止める。降りている最中と比べればそれなりに大きい一度の振動を機として、目の前の扉は焦らすように重たく開かれ始めた。

 こうして竜達の眠る美しい泉へ訪れるのは、二年前以来となる。地上から持ち込んだ感情の色は、奇しくも二年前と同じ色の苦渋が濃い。このままで本当にいいのかと、自分の進まざるを得なかった道行に疑いを覚える。なのに今更引き戻るにも足を止めるにも、培ってきた犠牲の数を思えばそれもままならない。『それしかない』と言い聞かせて見送る日々は、一体いつまで続くのだろう。

 

「…………」

 

 斃れていく者達の残滓が積み重なったこの場に来れば、鬱屈した憂いを抱かずにはいられない。

 綺麗と、手放しには賛美しづらい結晶群は、輝きとサイズに比例するかのように力を増している。

 

 ――前よりも体積が増えて、色も紅く…………当たり前だけど。

「……っ! ……貴女は」

「来るのが遅かったようね、郡千景」

 

 三百年前と同じ顔つきで、その理想と信念もよく似た老婆。歳月も近づいたことで、その面影を尚更に近づけていた。

 

「…………カズキは、」

「立ち去ったのはつい先ほどでしょうか」

「……――――っ!」

 

 この場所へ来るため、もしくはここから出るための経路は私の乗ってきたエレベーター一本のみに限定されている。すれ違うなどは起こり得ない。起こり得ないのだが、こと()()には物理的な距離を必要とない超次元現象がある。カズキがその力を自身の身で行使したことはないが、同化アンカーを使用した時にはその応用――――ワームによる転移を用いていた。

 類を見ないほどに力を使いこなす彼ならば、その力を用いて地上の何処かへ転移することも容易いだろう。

 

「…………どこに……」

「――さて。何しろ彼には拠り所となる居場所が無い様子」

「……」

()()()()()()()()()()彼が何処へ向かったなど、私には到底検討が及びません」

 

 沸点を通り越した苛立ち。怒りが、静かに言葉を紡がせた。

 

「……何を、話したの」

「彼の知りたがっていた真実を」

「そう。…………彼女たちは?」

 

 冷たい床に倒れ込む結城さん、東郷さん、三ノ輪さん。車椅子の上で首を俯かせる乃木さん。四人の安否はともあれ、意識を失ってしまっているのは確かなよう。

 

「息はあるようです。しかし目を覚ますまで、しばらくかかるでしょうね」

「――――……貴女が……?」

「誰の手に依るモノか、信じたくないのでしょう?」

「…………」

 

 勇者部への執心は蚊帳から見ても良く分かる。誰よりも前線を譲らず、戦火を一身に受け止め、命を際限なく費やすのは、それほどに勇者部で過ごした日々を大切に思っていたからこそだ。自分の居場所はそこには無いと考えても、それでも守りたいと望み、その場所の平和を求めていた。

 特に結城さんへの想いは限りない。彼の戦っていた理由を占める三つ――『過去を取り戻すこと』、『勇者部を戦わせないこと』、そしてもう一つに『彼女との約束』が含まれていることから、読み取れる彼の覚悟もある。

 

「相変わらず甘いこと」

「……うるさい」

「マークニヒトを宿した時点で、その凶暴性は決定づけられているようなもの。どこまで取り繕おうと結局は怪物にしか過ぎない」

 

 云わば彼にとって結城友奈は、ある種の崇拝対象ですらあった。

 約束を守るために過去を追いかけて、過去を追いかけるために戦い続ける。そして戦い続けるための希望に、結城さんとの約束を胸で木霊させる。

『郡カズキ』が『真壁一騎』を取り戻すための、道しるべ()()()

 そんな存在を、その手で害する。殺してはおらず、意識を奪っただけ。きっと彼はそんな風に考えない。

 その刹那に、いったいどれほどの葛藤と苦悩があったのか。

 

「それにしても――良い力に育った」

「――……」

「あれで心が無ければ言うこと無しの人形になることでしょう」

「――――黙りなさい」

 

 鎌が、しわがれた首筋へと添えられる。

 肌を一枚裂く手前で、最後の抑制が働いた。

 

「『パペット』」

「黙れっ……!」

「耳を塞ぐのはおやめなさい。貴女とてその手で、数多の人形を壊してきたのでしょう」

「黙れって、言ってる……っ!!」

 

 プツリと、最後の抑制を少しだけ踏み越えれば血管の切れる音がした。瑞々しい赤い水分が、よく砥がれた刃に付着して濡らす。

 老婆は少しもおくびにならず、堂々とした態度を改めず、淡々とした態度を崩すことは無かった。

 

「その声で励まし、これまでの人形たちも死地へと追いやったのでしょう」

「――――」

「貴女は彼へ家族のような態度で接しているようですが、彼からすれば貴女も私も変わらない。どちらも『郡カズキ』の命を(いたずら)に使い潰す、同じ穴の狢でしかない」

「――――――――」

 

 違うと言いたくて、そんなことはないと否定したくて、どこにもその材料が見つからない。

 やがて力なく鎌は降ろされる。煮え滾ろうとしていた怒りも静まる。

 指摘された事実が、どうしようもなく根幹を穿った。

 

「入れ込むのはやめなさい。アレは人ではないのだから」

「…………」

「過程がどうあれ、あの個体の末路は決まっていた」

 

 聞きたくない。目を逸らしたい。

 でも脳裏には、血のように張り付いた表情の数々。

 伐採のように摘んだ命達。雑草を払うように刈った存在達。

 目を点にして、呆気に取られた顔が今際の際に――――哀しみと憎しみに染まる少年達を、何度この両目に焼き付けたことか。

 

「あの様子では……真実に耐え切れるかも定かではなく、暴走も充分あり得る。そうなればアレの廃棄が決定されることでしょう」

「……はい、き」

「その時はまたお願いしますね」

 

 にこやかに笑った。穏やかに、『無垢な命を引き裂け』と笑っていた。

 ――また、なのか。

 

「もっとも、貴女がこれまで三百年間も積み重ねてきた犠牲を無視しても良いと考えるのなら――島の意志さえも捨て去れるのなら」

「…………、……………………――――」

「過去からの希望も成すべき役目も捨て去って、もうすぐ壊れる人形へ無意味な感情移入を与え続ければいい」

 

 ――また、この手で。

 

「大層大事にしている大切な島を、『郡千景』が本当に裏切れるのならの話ですが」

 

 ――命を、絶たなければならないのか。

 

 

 

 夕焼けの景色からは明るい色が遠ざかって、青空は徐々に星空へと敷き替わる。

 住宅街や商店街などの建造物に邪魔されないここは、広がり続ける風景が綺麗に見える。広大な景色は、いつだって人の心に沁みわたる感動を齎すのだろう。

 だがそれは、帰る者だけが抱く所感であり、余裕だ。

 帰る場所が何処にもない者は、何処かに帰れる場所がないかと必死になって目を凝らす。縦横無尽に目線は動いて、暫くすればそれを思い知る。

 そして大空を見上げて終わるのだ。

 

「……」

 

 てっぺんに座り込んだ大橋を上から見下ろして、その下の地を見て、その先にある空間を睨んで、そこに在る泉を見通すように目は細まった。

 本当に、何もなかった。

 驚きどころの話ではなかった。放心だけが表情を支配し続ける。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 知れてよかった。

 

『――――乃木園子が語った内容は概ねが正しい。ですが』

 

 鉄のような態度で、老婆は語った。

 

『貴方という存在を作り出すにあたってのコンセプトは、『人の形をしたファフナー』』

『……それは、乃木から』

『つまり、人の形をした兵器を作り出すことに帰結する』

 

 それは、そうだろう。

 乃木も三ノ輪も言葉を変えて、優しく言い換えてくれていただけだが、要するに新たな決戦兵器となるファフナーを作り出そうということだ。事実だけを述べるなら、『郡カズキ』は――

 

『――――思考制御及び体感操縦式、有人兵器ファフナー。貴方はその新造されたモデル』

『……』

『全ての敵を倒すまで永遠に戦い続け、存在と無を越えた英雄を創り上げる。これを我々は、第四ザルヴァートル計画と呼称しています』

『存在と無を、超えた……?』

 

 ザルヴァートル――――Salvatorとは、救世主の意だったか。

 老婆の語る最終目標が本当に叶うのなら、確かにそれは救世と呼ぶに相応しい存在だ。英雄とも十分に呼べる。

 

『この技術はかつて『人類軍』と呼ばれた組織と、『竜宮島』の技術が合わさって生まれた希望』

『島。……たつみや、……『竜宮島』……』

『貴方の大本である、『真壁一騎』や『皆城総士』の故郷でしたね』

 

『竜宮島』、その単語の口馴染みが良い。胸の内が暖かくなる。

 

『ミツヒロ・バートランド、日野洋治、遠見千鶴……その他にも優秀なメカニックや研究者たちの頭脳。数々に渡る島の技術こそが、貴方の生まれの根源にはあるのです』

『……そっか。……島が、俺を……生んでくれた』

 

 心が本当に暖かった。夢で垣間見た島の暖かさでこの命は作られた。この身体の節々に、島の意志が流れている。そんな風に思えたら、辛いことも忘れられる気がした。

 浮足立つ気分も、拭い去られるのは一瞬だった。

 

『そう、竜宮島と人類軍による最高傑作』

『……』

『『パペット:モデルSal』それこそが貴方の本当の役割』

 

 寒気が途端に襲ってくる。悍ましさが魂から反響してくる。ついさっきまで全身を駆けていた喜びも、即座に凍り付いてその単語の意味を深堀りしようとしていた。

 

『パペット――貴方は人形。世界を救うために作り出され、使われるための道具』

『…………』

 

 察しは、ついていた。

 だからその事実も咀嚼して、しっかりと受け止められると。

 その程度には耐えられるだけの心があると、勘違いしていたのだ。

 

『貴方という個体が生まれたのも、貴方が過去の自分と勘違いしている個体も』

『――、?』

『世界の維持のためだけに使われる、複製体――模造品とも言えます』

 

 今よく分からない事を言った。

 

『『郡カズキ』が求めた過去も、帰るべき場所も存在しない』

『…………?』

『ああ、そこの結城友奈とも約束を交わしていた、『真壁一騎』の記憶を取り戻すなどという無理難題も諦めるのが無難でしょうね』

『…………――っ? ちょ……ちょっと、まっ』

 

 静止も聞かず、語りは続く。

 

『乃木園子、三ノ輪銀、鷲――東郷美森、真壁一騎の四名が参加した二年前の戦いにおいて記憶を失ったのは、東郷美森の一名のみ。そして戦死者は一名』

『……――――?』

『貴方の求めた『真壁一騎』は、もう既に死んでいるのです』

『――、――――は?』

 

 これが、求めていた答え。

 大切な存在を害してまで、欲した答えが今提示されている。致命となる刃を友人に突き立ててまで、必死になって探していた答えだ。人以上に発達させられた感応が、目の前の答えには虚偽が無いと応えて――――奈落のような空白が、思考に宿った。

 

『二年前に記憶が無かったのは喪ったのではない。その日が丁度、貴方の命が生まれた日。『郡カズキ』と今呼ばれている個体が製造された瞬間だった』

『……………………』

『理解出来ましたか?』

『…………―――――――――――――――――全然分からない』

 

 おかしな話だ。だっておかしいではないか。

 その理屈ではカズキの取り戻したかった『真壁一騎』は、もうこの世界のどこにもいない。カズキの記憶を取り戻そうにも、そもそもが忘れている訳でも無く、単にカズキと『真壁一騎』は、起源を同じとするだけの全くの別人で。その肝心な『真壁一騎』は、もう既に死んでいて。

 完結しそうな思考の渦を、強制的に回し続ける。結論付けるに足る材料はもうあるのに、それを無視してカズキの頭は回り続ける。その理由は――――。

 

『だ、だって、千景さんは、言って――』

 

 乃木も、言っていた。

 探せば、求め続けたのならきっと見つかる。その導きを信じたから――信じるしかなかったからこそ、今までずっと。

 以前の自分。過去を取り戻せたら、いてもいい場所が見つかるって信じていた。そうすれば約束も違わないと、本気で縋っていた。命が削れる恐怖に蝕まれても、それでも立ち上がっては戦うことを選び続けたのは、戦い抜いた先には、本当の自分が待っているって。

 

『千景、さんは――!』

『貴方に嘘を吐き、結果として勇者部の面々は戦場へ再び参じた』

『ぇ――――………………………………』

『貴方が戦う限り勇者部が戦うことはないと、彼女は貴方にそう告げていたと聞き及んでいましたが、違いましたか?』

 

 ――俺が全部戦えば、その分みんなは戦わずに済むんですよね。

 ――……約束する、もう勇者部の彼女達には戦わせないわ。

 

『それ――――は』

 

 違わない。

 少なくとも彼女らが満開をした大攻勢の日から、これからも続く戦火はカズキだけに背負わせることとなっていたハズだ。

 

『ずっと騙していたのでしょう』

『……ぅ……だ』

『貴方のような道具に対しては頷ける話。何しろ彼女の役割の一つとして、貴方を戦いへと駆り立てることもありましたから』

 

 言葉が出ない。呼吸だけが連続している。それ以外は、全部真っ白になってしまった。

 だって、思い当たる節が多かった。

 

『…………うそ、……うそ。………だ』

『本当に人を思い遣るのなら、『戦わなくてもいい』等の言葉を投げる掛けるものですが、心当たりは?』

 

 ――けど貴方が、貴方だけが……っ! ……私たちの希望なの。

 

『………………………………うそだ』

『……その反応を見るに貴方の信じていた郡千景からすれば、貴方はただの人形でしかなかったのでは?』

 

 否定の言葉が見つからない。否定できない。否定しなくてはならないのに、一つとて否定できない。

 突き付けられる答えのどれが正しいかも分からないままに、混乱だけを混入させて来る。それとも、そのどれもが正しい答えなのだとしたら。

 

『……うそだ………………そんな、こと…………!』

『共に肩を並べて戦おうとしないのは何故?』

『――――――――』

『貴方の戦う頻度が減れば、その分命の保てる時間も増すというのに』

 

 ――……けど私は、あまり力を使うことができない事情があるから。

 その事情を、カズキは聞いたことが無い。話にはカズキがニヒトに呑まれて暴れた際も、その暴虐をものともせずに鎮静化させたと聞く。それほどの力を――低く見積もってもニヒトを抑え込めるほどの力だ、戦力にならないなんてのは笑える冗談。

 だったらそんな力を持て余す理由は?

 

『郡千景が貴方に毎日打っていたアクティビオン。あれの本来の名を何と呼ぶか……』

『……』

 

 思考はどんどん考えたくも無い最悪を予測し続ける。

 そんな無防備なカズキは、ただ無抵抗に老婆の言葉を脳へ運んでいく。

 

『あの薬の名は同化促進剤。貴方の力を身体に馴染ませる効果を持ちますが、同時に同化現象も加速させる悪魔の薬。貴方はそれを知っていましたか?』

『………………。――――……………………』

『貴方に残された時間があと僅かなのも、これが関係していないとは私には思えない』

 

 嘘は言ってない。つまりそれは、カズキの命をより狭める薬を、千景は毎日欠かさず打っていたという――――――――もう、何も考えたくない。

 

『その上に拮抗薬も古い型ばかりを貴方に打っていたと聞きます。しかし彼女の権限なら最新の拮抗薬を手に入れることもできた筈。それこそ力づくを行使されたなら、我々に成す術はありませんから』

 

 まるでそんな手間をかける相手でも無かったと、言いたげだった。

 それが真実なのか、全くのお門違いなのか。数時間前までならともかく、今のカズキには迷わず断言できない。

 

『貴方を本当に人と認識しているのなら、そのような数々の事実は生まれない方が自然。なら今がとても不自然とは思えませんか?』『郡千景は、『郡カズキ』を代わりの用意できる人形として見ているのでは?』『そんな彼女をどうして信用できるのか、私には分かりかねます』

 

「…………だってさ、牛鬼」

 ――!! 、!!!!

 

 何故かカズキの頭上で羽を休めていた精霊は、憤慨しているような態度で暴れていた。落ち込んでいるカズキに向けて腑抜けと言いたいのか。もしくはそれ以外の何者かへ怒っているような、そんな雰囲気をひしひしと感じた。

 

「あの人は、嘘は言ってなかった。……それぐらいなら分かるんだ、俺」

 ――……。――?

「ああ、断言していたことは全部本当だと思う」

 

 黒か白かの二択で判ずることはできる。しかし意図的に伏せられた裏側を覗くには、カズキの力はまだ弱い。超能力者のように心の声を全て読み取るなんて芸当は出来ない。

 

「だから確かめる」

 ――?

「夜になったら乃木の所に行って、確かめる」

 ――……?

 

 何を? と言われた気がした。

 

「……別に」

 

 こめかみが疼くように、脳内で超感覚が働く。

 樹海化の前兆――よりも先に、敵の襲来を感じ取った。

 

「事実の擦り合わせをするだけだ」

 

 樹海化の景色に呑まれて、カズキは茫然とそう言った。

 

「――――……スフィンクスだけか」

 

 景色が変わり、神樹に場所も移動させられたのだろう。目の前にはA型種が、たったの一体のみ。

 戦いの初期なら大慌てだったろうその存在も、今では滓よりも脆い。

 冗談でなく腕を一振りすれば、無に帰る。これでは鬱屈の幾らかだって晴らせない。

 

『あなたは』

「……」

 

 ああ、そういえばそんな特性があった。

 フェストゥムとはその問いかけを欠かさない。悪意で嘲けりつつだろうが、単なる反復でも、その問いかけだけはどれほど世代を経ても、どれだけ多様な存在群へと広がっても変わらない。世界で初めて確認されたスフィンクス型のスフィンクスとは、問いかける者という意味なのだから。

 

『そこにいますか  ?』

「……」

 

 今の心境で問われたものだから、いたく、どうしようもない。

 

「……どう、だっけ」

 

 笑い飛ばせる話だ。何だか不思議だけど、とっても面白くなってしまう。

 何が琴線に触れたのかも知らないが、何故だか腹を抱えて笑い出したい。本当だ。笑い飛ばして全部を笑って、それで済ませたい気分だった。

 

「今は…………前も、だったか」

 

 以前なんて、どこにもなかった。

 それが、本当に、心の底から、面白かった。

 

「俺は、どこにもいないよ」

 

 顔には出ていないが本当だ。

 涙がこぼれるほど、カズキはその事実に感情が揺らされていたのだから。

 本当に笑えるくらいに狂えたなら、どれほど楽だったのだろうか。




Proofはガチの名曲。しかしこの曲の真髄は、ファフナーみたいな世界観の主要人物には概ねマッチする点。命削って苦悩するタイプなら尚更である。
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