郡カズキは英雄である   作:真の柿の種(偽)

19 / 38
 漫画版ファフナーで描かれる翔子と甲洋の解像度がエグい。全九冊のアレを読んでからアニメの続きを見ても違和感が無いくらい、『蒼穹のファフナー』という世界をこれでもかと書き込んでいる。
 読んでるだけでヒシヒシと伝わる熱意が半端ではなく、コミカライズであの熱を吹き込めるのは相当だなと。
 特に翔子の心情を深掘りした部分は、アニメ派からすればとてつもなく嬉しいのでは? ネタバレ防止で語れないけどなぁ!!


隠せない絶望

 これでよかった。この結末に救いはないけれど、それでも誰しもが絶望は受け取らない。苦しいことは起こらない。本当の意味で、この世界から痛みは消えた。そして最後に残った咎人も、島から生まれた存在が消してくれた。

 これでよかった。()()()よかった、ではない。()()()よかった。誰も怖い思いはしない。戦う恐怖も無い。何もかもがなくなって、どこにも何もなくなれば、何かを失う辛さも生まれない。

 これでよかった。これこそが   の選んだ答えだ。

 自分の信じたかった答えではなかったけれど、この道が正しいと信じられたからこそ成し遂げることができた。

 

「――ごめん」

 

 せめてと謝ったところで、誰にも声は届かない。

 何が悪かったのだろう。誰が悪かったのだろう。みんな必死だった。生きるために、未来を繋ぐために、努力を続けて積み重ねていただけだったのだ。

 嘘を――――とても酷い嘘を吐かれてたのはショックだった。でも、それが仕方のないことだったことぐらいは   でも分かる。千景が意味もなく、人を傷つける嘘を使うことなどあり得ない。もしかしたらそう信じたいだけなのかもしれないが。

 もう、怒る事にも疲れた。憎しみを振り回し続けるのも疲れた――――憎しみを千景へ向け続けることも、耐え切れなかった。

 でももう、いい。

 

「ごめん、みんな」

 

 誰に告げるのかさえ疲れ果てて。

 

「ごめん、なさい、千景さん」

 

 後悔などしているわけがない。

 振り返る戻り道などどこにもない。

 選び直すことなど、できやしない。

 その選択を、無かったことに出来たらなどと考えるのは無意味なことだ。

 

「でもこれしか……っ、ない、からっっ……!!」

 

 だから望まない。

 刹那に意識が溶けていく間際にも、諦めだけを言い聞かせて消えていく。

 

「だから、ごめん――――ごめんな、みんな……!」

 

 そうして世界は、本当の意味で終わりを告げて――――――――

 

 

 ――――――――耳障りを黙らせたくなって、その意志に従い人からは更に外れ――――人以外の要素が、ファフナーの右腕が増えた。歪な巨腕、その紫を基調とした凶悪なカタチを、郡千景は知っていた。頼りになる力だった。でも今、その力の指向は自分へと向かっている。

 起点は、   の胸の中心から始まった。

 虚無の証である暗黒のドームが広がっていく。紫紺の両手に込めた力場が、物質の悉くを吞み込んでは無へ返していく。

 

「え………………?」

「カズキ!!!!」

 

 さながらブラックホールのように、膨張は止まらず。

 

「――――――――きえてくれ」

 

 聞きたくないし聞こえない声を、虚無に消した。

 根も、大地も、壁も、結界も、神樹も、当然勇者たちも。

 全部、全部、全部が無に帰る。

 樹海はもう溶けた。そして解けてもいる。そのフィールドを保つ大本が消えているのだから、それによる力も勿論消え去る。そして、四国があった場所は大きく抉られて、尚もワームスフィアは広がり続け――――――――四国だった全てを吞み込み、破裂した。

 全部を無に帰す、終焉と諦観の祝福。

 

 ――――――――人以外の要素が、ファフナーの右腕が増えた。歪な巨腕、その紫を基調とした凶悪なカタチを、郡千景は知っていた。頼りになる力だった。でも今、その力の指向は自分へと向かっている。

 起点は、   の胸の中心から始まった。

 虚無の証である暗黒のドームが広がっていく。紫紺の両手に込めた力場が、物質の悉くを吞み込んでは無へ返していく。

 

「…………」

「カズキ!!!!」

 

 さながらブラックホールのように、膨張は止まらず。

 

「――――――――きえてくれ……!」

 

 聞きたくないし聞こえない声を、虚無に消した。

 根も、大地も、壁も、結界も、神樹も、当然勇者たちも。

 全部、全部、全部が無に帰る。

 樹海はもう溶けた。そして解けてもいる。そのフィールドを保つ大本が消えているのだから、それによる力も勿論消え去る。そして、四国があった場所は大きく抉られて、尚もワームスフィアは広がり続け――――――――四国だった全てを吞み込み、破裂した。

 全部を無に帰す、終焉と諦観の祝福。

 

 ――――――――歪な巨腕、その紫を基調とした凶悪なカタチを、郡千景は知っていた。頼りになる力だった。でも今、その力の指向は自分へと向かっている。

 起点は、   の胸の中心から始まった。

 虚無の証である暗黒のドームが広がっていく。紫紺の両手に込めた力場が、物質の悉くを吞み込んでは無へ返していく。

 

「なんだ、これ……!?」

「カズキ!!!!」

 

 さながらブラックホールのように、膨張は止まらず。

 

「――――――――っ! きえろって……!!!!」

 

 聞きたくないし聞こえない声を、虚無に消した。

 根も、大地も、壁も、結界も、神樹も、当然勇者たちも。

 全部、全部、全部が無に帰る。

 樹海はもう溶けた。そして解けてもいる。そのフィールドを保つ大本が消えているのだから、それによる力も勿論消え去る。そして、四国があった場所は大きく抉られて、尚もワームスフィアは広がり続け――――――――四国だった全てを吞み込み、破裂した。

 全部を無に帰す、終焉と諦観の祝福。

 

 ――――――――起点は、   の胸の中心から始まった。

 虚無の証である暗黒のドームが広がっていく。紫紺の両手に込めた力場が、物質の悉くを吞み込んでは無へ返していく。

 

「ッ、なんなんだよ、これはっっ!!??」

「カズキ!!!!」

 

 さながらブラックホールのように、膨張は止まらず。

 

「もうきえろよ!!!!」

 

 聞きたくないし聞こえない声を、虚無に消した。

 根も、大地も、壁も、結界も、神樹も、当然勇者たちも。

 全部、全部、全部が無に帰る。

 樹海はもう溶けた。そして解けてもいる。そのフィールドを保つ大本が消えているのだから、それによる力も勿論消え去る。そして、四国があった場所は大きく抉られて、尚もワームスフィアは広がり続け――――――――四国だった全てを吞み込み、破裂した。

 全部を無に帰す、終焉と諦観の祝福。

 

 ――――――――虚無の証である暗黒のドームが広がっていく。紫紺の両手に込めた力場が、物質の悉くを吞み込んでは無へ返していく。

 

「もうやめろ!! いい加減にしてくれ!!!!」

「カズキ!?」

 

 さながらブラックホールのように、膨張は止まらず。

 

「ぜんぶ、なにもかも――――ッッッ!!!!!!!!」

 

 聞きたくないし聞こえない声を、虚無に消した。

 根も、大地も、壁も、結界も、神樹も、当然勇者たちも。

 全部、全部、全部が無に帰る。

 樹海はもう溶けた。そして解けてもいる。そのフィールドを保つ大本が消えているのだから、それによる力も勿論消え去る。そして、四国があった場所は大きく抉られて、尚もワームスフィアは広がり続け――――――――四国だった全てを吞み込み、破裂した。

 全部を無に帰す、終焉と諦観の祝福。

 

 全部を無に帰す、終焉と諦観の祝福。

 ――無に帰す、終焉と諦観の祝福。

 ――――、終焉と諦観の祝福。

 ――――――と諦観の祝福。

 ――――――――の祝福。

 ――――――――――。

 

 四国をこの手で無に帰した。大切な人の命を奪った。百に届きそうな回数を重ねて、この身体にはその実感と記憶が降り積もって。月並みな表現かもしれないが、ようは気が狂いそうだった。

 人の命を何度奪えばいいのだろう。何度奪っても終わりには辿り着かない。出口の塞がれた迷路で行き詰まって、どこにも行けずに絶望だけを彷徨って――――唐突に始まった繰り返しは、いつ終わりを告げるのだろうか。本当に、終わるのだろうか。

 何故、自分なのか。何故、今になってこんな意味の分からない現象が。何故、何の意思が、何のためにこんな光景を見せつけ続けるのだろう。

 結城を、千景を、みんなを、その命を、何度この手で奪えばいい。

 ひょっとしたら一生、このままどこにも進まないままだとしたら。そんなことを考えてしまって。

 

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 

 ブツリと音が鳴った。

 決定的で大切な何かが、千切れる音を契機に崩れ去っていく。

 

「カズ、キ……?」

 

 全部を終わらせる決意が、音を立ててほどけていく。まるで絡まり尽くした糸を、鋏で無理に切り落としたような。

 

「で…………なん……どう……して」

「カズキ貴方、どうした――――()()()のね……!?」

「…………、……なんで、まだ、いる」

『バカズキ!! アンタいい加減にしときなさいよ!!』

「お願いもうやめて! これ以上力を使ったら……!!」

 

 消したはずの声が、どうしてまだ聞こえる。

 触れる小さな手のひらが、どうしてまだここに感じられる。

 消えろと願って、周辺の空間を見境なく抉る。

 

「なんで、まだ、みんながそこにいる」

「……カズキっ」

「なんで、だれも、きえないんだよ――――!!!!」

 

 網の如き紫電を『壁』が塞ぐ。無の虚穴が回避する先へ先回りしようと、空間の隙間へ『消失』の力が千景を送り込む。

 飛翔と跳躍を繰り返す背へ負けて、ただ愚直に、戦略も何も考えずに、紫紺のアンカーが追い立てる。

 ――何のための、覚悟だった。

 ――何のために、   は憎しみのままに暴れたのか。

 

「――――いのちをつらぬけば、きえるのか」

「っ! カズキお願い! 戻ってきて!!」

 

 ワームスフィアを変化させ、暗闇色の輪が音を立てて、その回転数の激しさを表し。

 放たれた円環は同一を複製し――何十と増加した斬撃が、少女を引き裂くために殺到する。

 

「それとも――――きざめばきえるのか」

「っ! こんなに、力が強くなって――――!??」

 

 何十と分かれた虚無の円環が、更に増え、尚更に増え――――その数は千をいとも簡単に越して、ついには壁とも称せる密度へ変貌を遂げる。

 千景なら回避は出来るだろうが、その選択を   は既に奪っていた。

 彼女の背には、この箱庭を保っている結界の大元が。

 一射や二射程度なら影響は少ないだろうが、それが万へ届きかねない数だとすれば、千景には無視することができない。その状況に気が付いたのも偶然だったが、   にとっては至極好都合だった。

 

「……水鏡さん、貴方の勇気を――――」

 

 断裂の壁が、進行上に存在する根を断ち飛ばし。

 迫る断裂を、翡翠の『壁』が迎え撃つ。

 

 ――ギャ、リリリリリリリリリリリリリィィィィ!!!!!

「――――私にも!!!!」

 ――ギャリギャリギャリギャリギャリリリリリッッッッ!!!!!

 

 耳を塞ぎたくなる音が背筋を引き攣らせて、それでも発する力は微塵も緩ませない。

 その渾身を揺るがせようと、   は小規模のワームスフィアを発生させては、その『壁』を小刻みに揺らしていく。

 

『千景!!』

「もんっ、題ない、わ……!! それよりっ、貴女たちは、呼びかけてあげて……――――きゃっ?!!」

 

 業を煮やした   が衝突し、その両腕で直接壁を叩き割らんと暴威を吐き出した。

 

「おしえてくれ、ちか―さん」

「っ、カズ」

「ぜんぶ()()()すれば――――――――きえるのか」

 

 殴る。尖った爪先を突き立てる。殴る。手の平で爆発させた紫電が『壁』を削る。殴り、引き裂く。殴る、殴るれば、反発する力が空間を乱暴に焼いていく、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る。その命を否定するため、肉を薄紙のように破り裂ける凶腕で、骨をスポンジみたく握り締められる死の手で、生を笑えるくらい易く終わらせられる両腕で。

 透き通る『壁』の向こうで苦しむ、その尊い命を引き裂こうと殴りつけて、漏れる余波が周囲を絶対零度へ近づける。吹き荒れる余波が空気を焼いていく。

 ふと、胸元に違和感を覚えて――でも気にせず殴れば、首元から、尖った石のような感触を無視した。

 

「同化、現象……!? ――――やってくれたわねへスター……!!」

 

 驚愕の声と瞳を無視した。

 

『婆ちゃんから拮抗薬を貰ってたんだろ!? まさかっ、効いてないのか!??』

『やっぱりず――――彼はもう限界だよちーちゃん!!』

『止まってください先輩っ! これ以上戦ったら先輩が……!!』

 

 身体の重さを誤魔化すように、この器の扱える出力を更に引き上げていく。

 鉄と鉄を打ち鳴らしたような轟音は、淀みなく聞く者の腹に響いていく。

 

『頑固者め! 聞く耳くらいあんでしょうが!?』

『実力行使で早いところ止めないと不味いわよ千景!!』

「分かっってる、けど……!!!!」

 

 二重の『増幅』を注いだ『壁』だとしても、両方とも同じ島から生まれた力だとしても、エインヘリアル(量産された兵士)ではザルヴァートル(救世主)には敵わない。

    の牙を、■景の力では防ぎ切れない事を示すように、シールドへ刻まれた揺らぎが大きくなっていく。

 

「たのむ  おねがいだ 、 きえてくれ」

「っ――!!」

 

 本心からの願いだったのに、泣きそうな顔で彼女は拒んだ。

 手で触れて『薬』の癒しを齎そうとしていたのに、今度は   が手を伸ばせば彼女は拒んでしまう。

    から千■へ手を伸ばしたのに、やっぱり彼女は受け入れてはくれなかった。だからなのかどうかはしらない。そもそも今になって期待なんてしていなかった。自分は彼女にとってそういう存在だと、知っていたのだから何も思わない。

 でも、   は、とても息をしづらくなって。心臓があるハズの場所に、おおきなあなが、あいたようないたみにおそわれて。

 ならなんだというのか。くるしいと、つらいとでも言えばよかったのか。たすけてと、彼女へ言えば、言えたなら――――――――口に出せば、楽になれるのだろうか。

 もう、その手が本心かどうかも分からない。でも、もう一度だけ、その灯りを求めて良いのだろうか。

 

『先輩っ!!』

『カズキ!!』

『郡!!』

 

 呼ばれている。呼んでくれている。

 ――ほんとうに?

 

『カズキ君!!』

『カズキ!!』

『――――カズくん!!

 

 冷たく暗い海の底へ沈んでいく自分を、呼び起こそうと必死になった声がする。灯りから差し伸べられた手が、その温もりが、寒気のする闇を明るく色づけていく。

 だから自分はその手をとっていいのだと――……

 ――ほんとうに……………………?

 

「…………ち■げ、さん」

「! カズキ!!」

 

 ――ほんとうに、

 

「たす、 け」

『――――郡くん!!』

 

 ――――――――――――――――声が、聞こえた。

 ――――その声は、かつては帰る場所への指針だった。

 ――――その声は、いつか自分をあるべき存在へ戻してくれるはずだった。

 その声は、その声は――――今ではもう、『自分には帰る場所が無い』ことを示す、何よりの証だった。

 

「■■き、ゆう■」

 

 いつも、こうだ。

 求めたから、裏切られる。欲しくなれば、手元から消えていく。

 楽になれると希望を抱くから、こうして現実に苛まれる。

 この世界は、どこへ向いても絶望の色をしていて、なのにどこへ行っても絡みついて、   が存在している事実そのものを責め立てる。何故そこにいる。何のためにそこにいる。何を望んでそこにいる。何を成すためにそこにいる。

 どうして、人形が、心という高尚を宿している。取り付けた約束も、埋め込まれた役割も果たせない欠陥品が、どうすれば救いを求められよう。

 

「――――そう、だよな」

 

 自分が救いを求めることは不相応だと、その優しい声は教えてくれた。

 自分の役割を自覚して、心だったものが寒く冷たく遠退いていく。自分には心など必要が無い。人と同じ振る舞いなど贅沢だ。替わりの用意できる、ただの人形だということを強く自覚した。

 この苦しみも、叫びも、悲しみも、見せかけの物。どこも存在していない、空虚な心――ですらない。

 

「違う! カズキ、そっち側には何も無いのよ!!」

「おれはどこにもいない」

 

 灯りから目を逸らしたい。

 手に入れてはならないとどこまでも思い知らされた風景を、どうして視界へ入れ続けなければならない。

 

「だめ――――っっカズキ!! そっちには行かないで!!!!」

「いなく なりたい」

 

 望んだ瞬間、度を越した倦怠感が全身を突き刺してその場で硬直させる。

 それを見た■■は、   へ震える手を伸ばして、『壁』を取り払って。朦朧と混濁の意識を無我夢中を押し退けて、必死に伸ばされた手を   は取って、   の中にいる怨念達は理解してしまった――――――ああ、これは、明確な隙だ。

 ニヒトの因子が繋ぎ合う手を通して流し込まれて、■■の動きを蝕み止めて、その差し出されたも同然な身体を、憎しみと悲哀の凶腕が、あっけないくらい簡単に。

 ぞぷりと、柔らかいお腹を()()()

 

「――――」

「?    ……、 …………?」

「か、、き……か、ずき」

 

 噴水のようには噴き出さなかった。けど栓を開き切った蛇口のように、止まることはなく滴り落ちて。

 ほとばしる重くて赤い液体に流されて、中に納まっていた柔らかい固形がこぼれていく。鉄の匂いのする水分が、似た色の装束を一気に濡らして黒く染め上げていく。

 ――――貫いた当の本人は、惚けた顔でその色を眺めていた。

 ――――貫かれた当の本人は、受け入れたように泣いていて、後悔を雫として落としていき。

 ――――   が、■■を泣かせた。

 バーテックスやフェストゥムとも違う柔らかな感触が、赤黒く濡らした腕に伝わり、脳までじっくりと鮮明に情報を伝える。装束を焼いて、肌を裂いて、肉に穴をあけて、骨を素通りするように砕いて。

 右腕は■■の身体の向こうで、空気を涼し気に浴びている。

 なのに少女は、慈しむように人ではない紫紺の腕を、自分の腹から伸びる異物を、白い両手で包み込んだ。

 

「ごめ、ん……なさい」

「、……だれ 、だっけ」

「――――っ、ぶふっ、、……ごめん、なさい。ごめっん、なさいっ、カズキぃ……」

 

 逆流した液が、口から赤色の絵の具をコポコポと湧かせている。喋り辛そうだなと、まるで他人事のように俯瞰していた。

 薄れていく命の暖かさを伝えようと、エメラルドの装甲部分を力なく握ろうと振り絞って。

 ■■の手が、   の頬へと力無く触れた。

 

「 どうして あやまるんだ」

「ずっと、あやまりたかった、の……!」

 

 ――――背を向けた灯りが、目を背けた命が、急速に揺らいでいく。

 

「もっと、はやく、いえればよかったのに…………どう、して、わたしはいつも、こんなにおそいの……っ……」

「……………………」

「ごめん、ね……ごめん、なさいっっ……たたかわ、せて……っ……ごめん、なさい…………カズ、……き――――――」

 

 ずるりと音を立てて、人肌の温度が失せていく身体から引き抜かれる凶腕。

 その湿った光景を、モザイクだらけの視界が何となしに眺めて。

    は、意識が暗く沈んでいく。冷たく暗いその海へ、逃げ込むように飛び込んだ。

 

『カズキ君、なんてことを!?』

『千景ェ!!!!』

『ちーちゃん!!!!』

 

 互いに滞空すらもままならなくなって、二人同時に、けれど離れていくように墜ちていく。

 ■■は赤く染まる意識の中でも、それでも   へ手を伸ばしてくれて。でも、

 

「……■■、っさん――――って、……だれ だっけ」

 

 その手を掴むのは、とても怖かった。

 誰の手かも分からないのに、その恐ろしさだけが、強く残っていた。

 

 

『カズキは……人としては、生まれてこなかった』

 

 全てを、話した。

 

『戦うために、人ではない機能を備えて、人の形を模して生まれてきた』

 

 全てを、話された。

 

『以前に結城さんと知り合っていた存在は…………もういない。東郷さん達と共に戦ったあの子は…………どこにもっ、いない……のよ』

 

 勇者の力の裏にある真実――すなわち、満開と散華のメカニズム。

 払うべき代償を、誰がどのようにして帳尻を無理に合わせたのかすら知らされた。

 

『カズキは、その、記憶喪失なんかじゃなくて……新しく、生まれて』

 

 それだけではない。火に包まれた外界のことも、勇者部の者達は知った。

 千景は三百年前より生き続ける存在であることも、千景は知らせた。

 

『でも私は……あの子を人として、生きさせたかった』

 

 そして、郡   の真実も、皆に話した。

 

『…………ここにある機体の総称は、ファフナー。思考制御・体感操縦式、有人兵器ファフナー。これらの機体は全て島で生まれた力。本質的にはカズキと同じ存在を埋め込んで、フェストゥム達へ対抗する力を備えている』

 

 願わくば、   の居場所になってはくれないかと、泣きそうな顔で願いもした。

 

『あの子は――――人の形をしたファフナーとして、生まれたの』

 

 話す単語の一つ一つを言葉にするたび、嫌悪と罪悪に塗れた顔色を濃くしていく。

 驚きの連続。衝撃も何度か受けただろう。けれど彼女らは厭わない。否まない。勇者部の日常には、誰一人の欠けも許されてはならないと、彼女達は伝えようとしていた。

 結城友奈も、その一人だった。

 

 

 赤をより濃密にした、ワインレッドの塗装色。

 

「ぐっっぅ、ぅっっ……」

『千景! 無事!? 生きてる!?!?』

「……私、より……っ、カズキをっ……!」

 

 所々が木炭のように黒く灼けた大地を気にした風もなく、滑るようにソレは現れた。前触れなどどこにも見当たらず、突如としてその巨人は樹海の内へと姿を現したのだ。

 勇者達のアプリへ報せはない。その瞬間は誰の一人も気が付いていなかったが、その存在を示す名称は、確かにアプリの樹海マップへと記されていた。

 記された機体コードは――――Mk.XII。

 アラートが出ない理由は、その存在を神樹は敵ではないと判じたから。勇者達がその瞬間を目撃できなかったのは、結界の穴から入り込む星屑の対処に追われていたから。

 

『!? ……あれって……えっと、ふぁ、ふぁー……』

『……ファフナー、でしょ』

 

 濃厚な赤色をしたファフナーが、荒れた根の大地を通り抜けていく。

 

『そうそれ! 橋の地下で見たものとおんなじやつ!!』

『で、でもっ、乗れる人はもういないって、千景先輩は……っ!』

『……島の機体なら敵じゃないことは確かだ。今はそれよりも、二人の元に急ぐぞ……っ!!』

 

 故に、少女達がその機体の存在を認めた頃には、十二番目(ツヴォルフ)と冠された機体と同じ気配を醸す存在は、彼女達の傍を通り過ぎて。

 疑問に答えを出す間もなく、殺到する星屑を散らしながら、状況は刻々と進み続ける。

 

『――――知らない』

『そのっち……?』

『あんな色の機体は、泉には無かった……!!』

 

 その機体が向かう先は、地へと墜落した英雄の器へと目掛けて。

 迎えに来た。

 

『牛鬼?』

 ――!!!! っっっ!!!!!!

『どうかしたの……?』

 

 島で生まれた力が、英雄を迎えに来た。

 

「どう、して……ツヴォルフ、が、ここに…………!? ……っくっっ…………――――()()()()……?」

『――――』

「本当に……? ほんとうっに……!? 島がっ、来てっくれた……の……!??」

 

 その機体は、物を喋らなかった。クロッシングを繋げようにも、能動的に遮られて通じなかった。意思の疎通は断線したように、その存在の魂を図ることが出来なかった。

 けれどもその機体は――――マークツヴォルフの姿をしたその存在は、不乱に   の元へと駆けて行く。それが、それだけを達するために、その存在はこの場所へ送り込まれたのだ。

 全ては、英雄の器となる郡   を、連れて行くべくして、そのファフナーはここにいた。

 島ならきっと、少年を救える。千景はそう考えた。

 勇者部は、事情を深く飲み込めないためか、千景の反応を見て、その存在が悪い物では無いと考えた。ある程度の事情を知る側の三ノ輪銀は、最優先とする行動を間違えようとはせず、二人の元へと急いだ。

 事情を知る側であり、竜宮島の影響を一番に受けた乃木園子は、その機体を知らず、だからこそ訝しんだ。

    は、末期症状の負荷へ抗いながら、間近で朧げに大雑把に島の力を感じて、その方へと無意識に手を伸ばした。

 

「…………しま、……たつみ、や…………じま」

『――――』

「あ、あぁ……ぁぁぁっ……! …………おれの、ほんとうの、かえるっ…………ば、しょ」

 

 その機体に残された意思へ語り掛けようと、クロッシングの要請を試みても繋がらない。繋がることを拒むように、いっそ徹底的なまで遮断されて、何一つの情報も共有できなかった。

 ()()()にクロッシングすら通じないという事実。

 

「ぇ――――違う……! カズキ!!!!」

 

 千景は先程までの思慮を覆した。

 

「かえり、たいよ…………かえる、ばしょが……ほしい」

「その手を取ってもっっ…………っつぅ……っ!!」

 

 SDP――超次元現象を行使しようと手を翳した千景へと――――ツヴォルフは、手に持っていたレヴィンソードを投げ飛ばした。

 

「ぐぅっッッ!!?」

 

 用いる力を咄嗟に『消失』から『壁』へと切り替えさせられて、身の丈を遥かに越え過ぎたその一刀は、『壁』越しにも空気が震える重たさを響かせた。

 腹部の傷が、少し開いた。

 

『はっ!? 味方なんじゃないの!?!』

『千景さん!!』

「カズッ、キっっ……!!!!」

『――――』

 

 止まることなく進み続ける機体の首裏から、一本の角が頭上に展開する。と同時に嵐のようなワームスフィアー現象が、千景を覆い尽くした。

『壁』の力で猛攻を凌ぐも、その()()は身動きは取らせないだけの危険性に満ちている。

 視界も塞がれた最中で、滑るような移動音が止んだことに、千景は気がついた。

 

「……ッ、カズキ!!!!!!」

「…………そこに、いて……くれてるの、か……?」

『――――』

 

    はもう耳が見えない。目の前も見えない。

 ただ、自分のルーツとよく似た気配を、ファフナーに存在しているコアの存在を、感じ取っていた。

 だから、伸ばした手は引っ込めず、更に伸ばした。

 

「かえりたい」

「カズキッッ、だめぇっっ!!!!」

「しまに、かえりたい」

「ソレはっっ、島のファフナーじゃない!!!!」

 

    の指先が、その何十倍以上に大きな機械の指先に触れて。

 

「敵なのよ――――!!!!」

 

    の全身は、誰しもがもはや見慣れた美しい色に包まれた。

 ――翡翠の結晶、それが意味するのは。

 

「ぁ」

『――――』

「ぁ、、、っ、、あぁぁっあ」

 

 千景の視界を塞いでいたワームの嵐は、もう止んでいた。

 そして千景は、   の命を急速に吸い尽くす結晶を、その目で直接見た。

 

「ずき……っ! カズキぃィィィっっっっっっ!!!!!!!!!!!!」

 

 端から徐々にではない。全身に生えた結晶が、軒並み一斉に砕け散ろうとしている。   の残り僅かだった命を、容赦なく喰らい尽くそうとした証。

 マークツヴォルフの力――SDPは、『再生』。読んで字の如く、自機の損傷を修復し、死の淵からすらも蘇る力。それだけでなく、頭部に備えられたショットガンホーンと呼ばれる武装から、ワームスフィアー現象を発生させもする。そして、そして。

 他の命を同化して喰らう。それが、マークツヴォルフの持つ力。

 命を喰らう際には、例外なくその対象は結晶に包まれる。

 今の   のように。

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!??? いやぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!」

 

 叫ぶ。叫んで、がむしゃらに髪を振り乱して、乱暴な力を使い尽くして、その瞬間だけは止めようと、渾身の力を注ぎ込もうとして。

 その手を伸ばした眼前で、呆気なく散る。

 

「あ゛あ゛ぁ゛ぁぁぁ゛ぁぁっっっ、カズッッッっっっ、っっっあぁァァァッッあああああっぁぁあぁ――――――――――――!!!!??!!???!!」

 

 食べカスのように、   ()()()結晶が舞い落ちる。

 皮肉にもその光景を、千景は綺麗だと、茫然とした感想を無感動に抱いて。その瞬間の有り様を、千景に宿る島の力はまざまざと、千景の目へと鮮明に見せつけた。

 慟哭を叫び――――郡千景の希望は消え去った。




〜例の二番歌詞イントロ〜あたし行かなくちゃ 時は止まるはずも(rya
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。