沙汰は無く、別れも無く、残してくれた言葉なんて得ることも無く。
喫茶店の明かりはあの日以来何て事もなく、平凡の中での再会を約束してから、私が知りうる限りで灯されはしない。たまの休日なんかに私が無為に訪れては、意味があるかさえ分からない虚無感に浸っておしまい。
溝口さんもその日以来、楽園へと足を運ぶことはなく、それどころか顔を合わせる事も無くなってしまった。私の知らない誰かが、埃の被る事が無いように維持をしてはいるようだが、以前のような温もりに包まれる使用感とは程遠かった。
カウンター越しに覗いても、あの物憂げに柔らかい笑顔を讃えた背中はどこにも見えない。
「……お腹、減った」
そう呟けば、何も言わずにまかないを作ってくれた。
店の合鍵なんて貰っても、有意義に使えるとは到底思えない。十センチにも満たない鉄の作り物でしかないのに、このアクセサリーはどうしても結城友奈には重たかった。
彼の持っていたコレが、私の手の中に有る意味を考える。
必要が無くなったから? なら彼はもう戻ってこない? どこか遠いところへ消えていったなら、どうして伝えてはくれなかったのだろうか。
――仲良くできていたと思ってたのは、私だけ?
「……」
カウンターに突っ伏して、考えたくない思案を吐き出すように目を瞑る。
暗いこの店は見たくない。暖色の気配が漂わないなら、視界に映すのも苦しい。彼がいなくなった証を、まざまざと眺めているなど、苦痛の一つもなく行えない。
でも、此処は彼が――――『真壁一騎』がここにいた場所だから。
うつろな痛みに苛まれて、さざなみの悲しみに足を取られても、暖かい記憶はより強調されて、どうしてもこの胸中を誤魔化すことが出来ない。
「…………」
前触れもなく、唐突に訪れた別れは、ぽっかりと大きな穴を胸に開けている。
埋める相手がもうどこにもいないことも、知れる由などない。
「とまぁ、こんな感じだったかなぁ〜」
珍しく静寂に支配される勇者部の部室。
話が終わってハイ拍手、なんて騒がしくはなれない。なんせ乃木園子が東郷を除く勇者部へと語り聞かせたのは、間違いなく悲劇の部類だ。
無知のまま戦い、無知のまま戦う事を望まれて、無知が故に引き起こされた、喪失の経験談。
朗らかなんて空気になろうものなら、ちょっと神経だって疑ってしまうかもだ。
「先代勇者、それと『真壁一騎』……か。英雄、とんでもないわね」
「カズキ先輩とは違う人だけど、その人も優しくて……立派な人、だったんですね」
「聞く限り、抱え込む気質も似てたっぽいけどネ……『カズキ』ってのは皆こうなのかしら」
話題が話題なだけに、しんなりとした雰囲気になるのは自然だ。
しかしさめざめとされるだけでは、方向性の発展が無い。こうして彼の戦記を、そして自分達の記憶と記録を明かしたのは、決して同情を買いたいからではないのだ。
ただ、乃木園子と三ノ輪銀と鷲尾――東郷美森が望むのはたった一つ。
覚えていて欲しい、ただそれだけだ。
「わた、私……っ一騎くんのこと……何も知らなかった」
「ゆーゆーが知らなかったんじゃなくて、ずんくんは、きっと知られたくなかったんじゃないかな」
右を見ても左を見ても、戦いの気配はこびりついて離れない。日常をどのように過ごそうとしても、やはり己の存在は、平和を是とする者達とは違うモノなのだと何度思い知ったのだろうか。
そんな中でふと出会い、誰からの紹介や手助けもなく拵えた、非日常の匂いのしない繋がりだ。本人の自由意思によって作られた繋がりは、どれほど大切なモノになるのか計り知れない。
だからこそ、遠ざけたいと願うのは自然なことのように思える。
「戦うための存在であることを知られたくなくて……、……ゆーゆーだけには、色眼鏡で見られたくなかったんだよ」
「……」
彼にとって、結城友奈は地平線だった。
彼の生きる道がどれだけ戦乱に満ちていようと、どれだけ苦痛の棘に囲われていようと、命を何度削り吐き出しても。雨が降ろうと、暴風に散らされようと、嵐に飲み込まれても。
結城友奈の存在する場所は、いつだって暖かな陽射しの在る場所。争いとは無縁で、此方側など知る由もない。それでよかったし、それがよかったのだ。
「一騎、くん……は、頑張ったんだね」
「ええ。心も、戦う力も……誰よりも強い、英雄だったわ」
「アタシ達も何度助けられたことやら。……正直、頑張り過ぎてたくらいだ」
助けてあげられた覚えなんて、片手の指にも届かない。だというのに、彼はいっそ一方的に、他の人達を守って助けて救って。
平和を、勝利の報酬を、あまつさえ自らの命すらも分け与える。
自分の気儘に、自分がそうしたいからという心に従って、救世主然とした行動を止める事は終ぞなかった。止める事も、周りの者達にはできなかった。
「こうしてゆーゆーにもずんくんの話をするのは……もしかしたら、ずんくんに対する裏切りかもしれない」
「……」
「それでも私は……守り抜いた平和を譲ってくれた英雄が、確かにこの世界にはいた事を、ゆーゆーには覚えておいてほしかったから」
「うん……分かるよ、その気持ち。……絶対、忘れないよ」
酷な、願望をぶつけている。或いは、嫉妬にも似たナニカが一番含有しているのも自覚している。
彼女が彼にそうまで想われていた事実は、乃木園子へどうにも噛み砕き難い歯痒さを与える。
戦う原動力、命を摩耗する決意、殆どの真実を知りながらも偽りの箱庭を守護し続けた訳。彼の根幹、その源泉に湧いていた心が何なのかを、乃木園子はきっと知っている。
「っ……私っ、ちょっと、お手洗い行ってきまーす……!」
「……ええ、行ってきなさい」
だってそれは、乃木園子が真壁一騎へ抱いていた情と変わらない。だから悔しさの一つくらいは許してくれないだろうか。彼女の知らない顔を知っていたと、少しだけ自慢げに話しても構わないのだ。
知らずの内に失恋していた自分の滑稽さと比べれば、その程度の恥は吐いて捨てられるモノ。
「友奈ちゃん……」
「一人で泣く時間も大事よ。聞いてる夏凜?」
「私よりも追い掛けたがってる東郷には言わないの……?」
この語らいが、どんな意味を持てるのかは知らない。もしかすれば、まったく意味のない、ただの不幸話で終わる事もある。
でも、彼の軌跡を覚えてもらうこと。彼の存在を知ってもらうこと。
彼の生きた証を、一人でも多くに記憶してもらいたかった。
歴史の波に流されるかもしれない。大赦が意図して隠蔽しようとするかもしれない。ともすればこの刹那の後に、小さな四国の世界なんて崩れ去って、彼の記憶自体がどうでも良い事柄になるのかもしれない。
でも、やっぱり憶えていてほしかった。この痛みの物語を、活かそうと活かさなくてもどちらでいい。
一区切りついた空気の中、乃木園子は窓から空を見上げた。
蒼色を遮る雲は細かく散りばめられて、彼の好きな蒼穹には少し遠かった。
でもきっと、時が経てば雲は全て晴れるから。
――私達はここにいる、ここにいるよ、ずんくん。
命を輝かせて奮闘した英雄は、確かにここにいた。
綺麗なソラを見上げれば、心はいつだって思い出せる。
――空が綺麗だと言える貴方が、初めて会った時から大好きでした。
空気が、息をするための命を運んでくれる。
開けた窓から入り込む風は涼やかで、不思議と温もりを感じたりもして、砕け散った彼の命が、姿は見えなくともここに在る気がする。そんな妄想をする瞬間すら愛おしい。
――貴方の見れなかった未来を、私達は進んで生きるよ。
『それで……それで――――俺は、』
おもいでが、胸に沁み着いて離れない。
「っ――――ぁ――――――――ぅ、ぅうっ」
「そのっち……」
「っ、園子っ、だっ、大丈夫!? 散華の後遺症!?」
「大丈夫だよ夏凜……泣きたくなるよな、そりゃ」
溢れ出すのは、吐き出したがっているから。胸で抱き続けるには、心を罅割らせる毒にしかならないから、だから人は、辛い感情を涙へと変える。
笑って未来を見据えられるように。
『俺は、乃木の友達だ』
――ずっと、友達だよ。
健やかな風が、ソラヘ向かって軽やかに吹く。
木々の枝一つ、拾い上げる小石一つ、瑞々しい土を一握り。
浜辺の石一つ、拾い上げる貝殻一つ、青透明な海を一掬い。
広がる住宅街を一望し、学校の校庭からは牧歌を感じ、見上げる空はどこまでも綺麗で。
「はふぅ〜……」
此処に在る命の息吹、その一つ一つが丁寧なほど暖かくて、活力を清々しいくらい感じられる。どこにでも、この島にいるだけで、頬は勝手に緩んでしまう。
自分の知らない世界。見えるもの、触れるもの、全ては既知だというのに、新鮮な彩りを感じて心は快く弾んでいく。
「いい島だねぇ〜」
差し込む太陽を一身に浴びながら、
「ずっといたくなっちゃうくらい……こう、なんていうのかな〜……」
――――。
「そっか〜……ここに
微笑ましく喧嘩して、微笑ましく絆されあって、微笑ましく育っていく。
悲劇の気配を忌んで、しかし喜劇とばかりまでは望まない。慎ましくていい。静かでもいい。健やかな微笑みを讃えられる未来を望んだ結果が、心休まるこの場所なのだ。
穏やかな希望の息づくこの島は、まるで――――まるで、楽園のようだった。
あの『楽園』にも、この島と良く似た時間が流れていた。それも
「人がいないのは……どうして?」
――――……。
「……辛い世界なのは、どこも変わらないんだね」
言語を超えた何かしらが飛び交う事すら疑問を持たず、ただ
「……ぁ」
空を見上げていれば、曇天が近づいてくる。
蒼穹の天井、一定で刻む波の曲想、緩く揺れる木陰。安寧の詰め込まれた悉くを、この島を揺るがす災禍の予兆。
積乱雲のように、嫌な紫電が雲を巻き取る。緩やかそのものだった空気は一気に張り付いて、安らかな世界を無情にも軋ませて。
「空が、剥が、れ……っ……!?」
偽装鏡面と呼ばれる島の技術は、戦いに向けて解かれていく。隠れおおせるための技術は何者へ向けていたのかは、空を見上げていれば誰の目にも明らかだった。
島にとって、ひいては世界にとっての、最大の敵。
「……――――なに、あれ」
紅。赤。朱。緋。赫。赭。そんな色。
――――ぬめったようなあかいろが、世界を見下ろす。
重たい空虚な憎しみが、その視線が、島へ注ぎ込むように向けられている。
「……ああ、そっか……今の私なら、なんとなーくだけど、分かるよ」
――――。
「人が、憎いんだよね」
真実は後出しで示されて、符合していく過去は耐え難い納得を生み出す。
満開、散華、一新された勇者システム。隠されたモノを暴いてみれば、残るのは吐き出す場の見つからない無機質な怒りだ。善か悪かなんて単純な二択では語れない世界を背景にされてしまえば、なまじ聡明な乃木園子だったからこそ、一握りの激情すらも空虚へと成り果てる。だってしょうがなかったから。しかたのないことだから。こんな、子供の言い訳にも劣る愚言が、どうしようもなくその通りなのだと分かってしまう。
だからといって、人の命を、人の心を、人の存在する理由を、大人達の事情一つで徒に使い潰すなど、許されて良いのだろうか。
ましてやその者が、最愛に位置する存在だったとすれば――――そんな大切な存在を、道具同然に擦り減らし続けるなど、真っ当な心を持つ人間ならどうすれば許せるのか。
憎しみを抱いたって不思議ではないと、乃木園子はまさしく今、それを実感している。
「憎くて憎くて、たまらないよね」
――――……。
「自分の――――私の……大切なモノはどんどん零れ落ちていくのに、どうして安全な場所から
目にうつるものは歪んで。耳にきこえるものには砂嵐が混ざって。肌でかんじるものは何もなくて。鼻には何もとどかなくて。舌につたわる意味すら最早ない。
空気がなにもかもをはこんできても、命は、なにもかもをかんじとれない。
「人ってどうして、あんな、怖いことを思いつくのかなぁ」
友達を一人、失った。
遠足をした、夢を語り合った、お泊まりした、合宿をした、イネスに行った、楽園に行った、共に戦った、共に過ごした、共に同じ時を生きた――――
気がつけば見知らぬ場所に居て、どうしてか足も動かなくて、自分が何者なのかすらあやふやで怖かっただろう。これからはその空洞を埋めるために、不安と隣り合わせに生きていく。
血を流して、痛みに耐えて、喪失の苦しみが突き刺さって、挙句にこれが報酬か。
それでおしまいと言わんばかりに、一般の列へと放り込んで終わりか。
「……私達、まだ子供なのにね」
――――…………。
「もっと、遊んでいたかった。いっぱいお話したかった。覚えきれないくらい、たくさんの思い出をいっぱいつくって、いっぱい笑っていたかった。もっと……みんなの事を大好きになりたかった」
何をどうすれば、あんな悲劇の歯車を回し続けられる。
世界の維持、最終生存圏の防衛、そんな輝かしい功績の為に、あの優しい彼は道具として使われたのか。
「…………好きな男の子に、想いを伝える暇も無かった」
日常を過ごさせても大人にはなれない。将来なんて、思い浮かぶ事もなくコト切れる。夢なんてそれこそ、夢のまた夢でしかない。わたあめみたいに甘くて、触れようとすれば溶けて消えて、残されるのは虚無だけだ。
どの道戦わせるのなら、何もしない前提での限界時間なんて必要ない。いかに優しい言葉を掛けようと、周りの状況がそうさせるように飾られているなら、結局彼は――彼等は高校生にもなれずに尽き果てていく。
なんて無駄で、惨い優しさなのだろうか。
「どうして守ってる人たちに奪われる仕組みの中で、生きなくちゃならないのかなぁ」
だったら心なんか要らないように思う。生まれなければ幸せかは分からない。けれど、生まれるよりは不幸にはならない。頭の先に希望をぶら下げられて、大人達の良いように操り人形となる一生なら、心なんかなければよかった。
――でもきっと彼は、この考えを否定するのだろう。
「ね〜、どうして? ……なんで、ずんくんは……人の怖さも、自分のことも、世界のことも、全部を知っても……それでも……どうして、ずんくんは…………戦うことをやめなかったの?」
空から、遙か上空から飛来する、機械仕掛けの悪竜。その機体に掛かる重力を利用して、指向性を持ったエネルギー弾として、島の中心へと墜落していく。
その悪竜の名称をまだ乃木園子は知らない。
その悪竜は、巨大さを利用して隕石となり、着弾すれば島が原型を留めるのは困難だろう。少なくとも、巨大なクレーターが出来上がるのは想像に難くない。
――――。
「――――ほらね。未来を目指しても……結局は、こんなふうに、戦い続ける未来が待ってるだけなのに」
島の中心地から、一息に飛び立つ二色一条の流星があった。
地より昇り上がる、双極の色彩。
白を基調に水が混ざる、美しく朧げな光が尾を引いた。見覚えのある、頼もしい色だった。
紫を中心に橙が揺れる、畏れを抱いた光が尾を引いた。見覚えのない、頼もしい色だった。
白槍を右手に持ち、紫槍を左手に持ち、そして手元を翡翠の結晶色が武装を繋ぎ止める。
彼我の大きさは一目瞭然どころではない。ここは夢のような領域だから違和感なく認識出来ているだけで、実際の大きさ比率はとんでもない。片や人間なら指先で摘み上げられるほどの巨体、片や摘み上げられるだけで潰されそうな人間のカタチ。挑む前に諦めてもいいくらいだ。
やがて少年のカタチをした双極の竜は、堕ちる悪竜と衝突した。
――――これは、希望に一番近い未来。
「希望…………これが?」
――――
ぶつかり合う竜達は、空間に悲鳴を上げさせた。
穏やかな波を引き裂いて、緩やかな木陰を震えさせて、優しい空気を軋ませて。
対話よりも先に、大いなる竜達はその力を、奪う為に奮った。
そんな光景こそ、希望に繋がる惨劇なのだと
――――それに、この未来を見たがっていたのは貴女。
「……なにを、言っているの?」
悪竜は紅の咆哮を吐き出して、双極の竜は白と紫の咆哮で迎え撃つ。
弾ける光は拡散して、端から漏れる余波は島の街並みを抉っていく。それを見て島への被害を嫌ったのか、双極の竜は右槍を翳し、緑の円形フィールドを前方へと展開した。
悪竜の紅を吸収するように、緑が敵の力を無へと帰していく。
互いを遮るモノが何も無くなった瞬間、双極の竜は悪竜へと吶喊した。
それを遮るのは悪竜の展開した、紅幾何学の壁。鼓膜が破れかねない破裂音と共に衝突して、尚も双極の竜は勢いを増していく。
散る火花が互いを焼いても、即座に修復されて。
散る紫電が互いを傷つけても、もはやその程度の傷では目もくれず。
ふと、悪竜の背後に暗黒色の球体が虚空から出現し、中から飛び出した紫紺の翼爪は、悪竜の背へと突き刺さる。致命には遠い一刺、次いで飛び出たニ、三、四本目すら、悪竜を揺るがすには足らず。
されど双極の竜は命など狙ってはいない。元より突き刺し固定したのは、引っ張り上げる為であり。
背後から急速に吊り上げられるベクトルが、悪竜の姿勢を途端に崩し、その機を双極の竜は見逃しはしない。
悪竜の壁が解けた隙間を縫って、その巨躯へ目掛けて渾身の突撃をぶち当てた。双極の竜は力いっぱいに押し込み、大きさのあまりに違う両雄は、共に島から離れていき――ここから先は、乃木園子では見えそうにない。単にこの領域に身を置いておける時間が切れるのか、それとも島の外は見えないようになっているのか。
――――貴女が未来を選んだから、貴女の中に在る力は、貴女の進むべき未来を指し示した。
「…………え?」
乃木園子は、平和を望んだ。仮初でなく、メッキに包まれたものでもなく、本当の意味での平和を。炎に包まれる世界なんて無くなって、戦う必要も無くて、自分の身体も銀の身体も須美の身体も記憶も戻って。
願わくば喪ったモノすら戻って、笑顔を携えて、のんびり昼寝できるような、そんな贅沢な時間が欲しくてたまらなくて。
――――けど選び直して、終わりの時までを静かに過ごす未来も悪い事じゃない。何回でもいい、選び直すのは、誰にでも在る当然の権利だから。
「………………」
――――選んで、園子。
そんなどこにでもあるような、誰しもが当たり前と考えるような些細な望みだ。
なのにそれが、この神話を凌駕するような、今まで以上の戦いを望む事と同じ意味合いだとでも言うのだろうか。
「私に…………――――私、が……?」
戦って勝ち取るだけが平和への道などではない。そんなことは誰しもが知っていた。知っていながら、それ以外を選べなかった。
それを――――勇者達は知るのだろう。
一度始まってしまった戦いは、世代を超えて続いていくことを。
どこまでも、なんどでも、繰り返すたび追われるように戦う未来以外を狭めていって、一度でも追い付かれれば、終わりを告げるのは平和を求めて過ごす世界そのもの。
――――貴女が進みたいと願う、貴女の未来を。
自分達の番が回ってきた頃には、とうに選ぶ余地など、無かった。
ちょくちょく出てくる謎な少女の思念体()は、「まだ引き返せるよ〜、他を選んでも良いんだよ〜」って教えてあげる役目。そして確固たる意思で選んだなら、「君ならできるよ頑張れ〜!!」って背中を押す役目でもある。前任者達と比べればスパルタ度合いは減ってるなぁ。